バッテリーセルの供給網を拡充
BMWグループは2019年11月21日に、中国のCATL(Contemporary Amperex Technology Co. Limited)および韓国サムソンSDIとの関係強化につながるバッテリー供給契約の拡大を発表しました。
まずCATLについては、2018年までに40億ユーロの契約をしていましたが、2020年から31年までの間に73億ユーロに増加します。1ユーロを約122円とすると総額8906億円の契約になります。
またサムソンSDIとは、第5世代の電動ドライブトレインへのバッテリーの長期供給契約を締結しました。契約額は29億ユーロ(約3538億円)で、契約期間は2031年まで延長されています。CATLとサムソンSDIの契約額を合わせると、日本円で1兆2444億円にものぼります。
サムソンSDIとの契約に関してBMW AG取締役メンバーのアンドレアス・ヴェント博士は次のように述べています。
「私たちはこのように、長期的なバッテリーセルの需要を確保しています。(中略)これにより、私たちは常に最高のセル技術に確実にアクセスできるようになります」
BMWグループは、バッテリーセルの調達量については明言していませんが、このバッテリー供給契約の発表に前後して、BMWグループはいくつか興味深い事案を発表しています。いずれもBMWグループが電動モビリティへの傾斜を強めていることを示していると言えそうです。
バッテリーセル開発センターを新設し、素材は直接調達
まずひとつは、「バッテリーセル開発センター(the BMW Group Battery Cell Competence Centre)」の新設です。BMWグループは11月14日に、ミュンヘンにバッテリーの技術開発センターを設置することを発表しました。BMW AGのオリバー・ジプセ取締役会会長は、「2030年までに、現在のBMW i3に搭載されているバッテリーセルのエネルギー密度を2倍にすることができます」と期待を表明しています。
開発センターへの投資額は2億ユーロで、200人が研究開発にあたります。このセンターでは、バッテリーセルの素材選びから、試作品の生産までを手がけます。その後、バッテリーセルを自社内で生産するかどうかについて、ヴェント博士は「サプライヤー市場がどのように発展するかどうかによる」と、見通しを述べています。
二つ目は、12月11日に発表された、リチウムの直接調達です。BMWグループは中国江西省に拠点を置くガンフォンリチウム社と、リチウムの供給に関する契約を提携しました。契約期間は2020年から24年の5年間。ガンフォンリチウム社は、オーストラリアのリチウム鉱床で原材料を採掘します。
原材料の直接調達について、ヴェント博士は次のように述べています。
「予測される発注額は合計5億4000万ユーロです。これによりBMWグループは、高電圧バッテリーの第5世代バッテリーセルに必要な水酸化リチウムを100パーセント確保できます。私たちは2023年までに25の電動モデルをラインナップすることを目指しています。このうち半分以上は、完全に電動化されます。これに応じて、私たちの原材料のニーズは増え続け、2025年までにリチウムだけでも現在の7倍が必要になると予想しています」
つまり今回の契約締結で、7倍に増える需要を満たすだけの原材料を確保する計画のようです。またBMWグループはコバルトの直接調達も計画しており、2020年以降は直接調達した原材料をCATLとサムソンSDIに供給する予定です。
リチウムやコバルトなどの原材料については、ときおり持続可能性や採掘現場での労働環境が問題になりますが、BMWグループでは直接調達することによって流通経路を透明化し、トレーサビリティーを確保することができるとしています。
確かに調達先が明らかになればメディアやNGOなどの監視が可能になるかもしれません。今後、電池生産が増えるほど流通経路の透明性が注目を集める可能性があります。BMWグループの取り組みは、その試金石になるかもしれません。
電動化に傾斜するドイツメーカーとドイツ
2019年はBMWグループだけでなく、ドイツの自動車メーカーが電動化に本腰を入れて取り組むことが見えた年だったと言えそうです。
フォルクスワーゲンは1月に蓄電型の急速充電ステーションの量産を開始したのを皮切りに、3月には2028年までに2200万台のEV生産目標を発表しました。この変更でフォルクスワーゲンのEVは70車種まで増えることになります。
またフォルクスワーゲンはEV用のプラットフォーム、MEBをフォードと共有することに合意。当面は内燃機関の車に比べて生産台数が少なく、量産効果によるコストダウンが難しい面があるEVについて、少しでも生産コストを下げることを目指しています。
その後、9月のフランクフルトショーでは市販モデルの「ID.3 1st」を発表。10月には中国に生産拠点を増やす可能性があることが報じられました。
バッテリーセルについては、フォルクスワーゲンやBMWグループ、ゴールドマンサックスなどを含む大手企業が、リチウムイオン電池を生産するスウェーデンのスタートアップ企業「NORTHVOLT」に合計10億ドル(約1080億円)を投資することも明らかになっています。フォルクスワーゲンは9億ユーロを投資してNORTHVOLTと16GWhのバッテリー工場を南ドイツに建設する計画もあります。
そういえばダイムラーは「EQC」や、商用バンの「eVito」などを販売していますが、2019年12月18日にドイツで、デリバリーバンの「eSprinter」を発表しました。バッテリー容量は47kWhと35kWhの2種類で、スペック上の航続距離は168kmと115kmです。急速充電は80kW出力なら30分で10ー80%になるようです。
商用バンの電動化は都市部の大気汚染対策にもなります。とくに欧州はディーゼル車の排ガスによる汚染がひどいため、行政としてはこうした商用バンを増やしたいと考えています。
動きは自動車メーカーだけはありません。CATLは10月に、ドイツで海外発のバッテリー工場を建設することを発表しました。従業員は2000人にのぼる予定で、計2022年までに14GWhを生産するとしています。つい先日には、ドイツ化学大手のBASFが5億ユーロを投じてリチウムイオン電池の正極材を生産する工場を計画していることがわかりました。
欧州では2017年に欧州委員会が「欧州バッテリー同盟(EBA)」を立ち上げてバッテリー産業を支援していますが、2019年12月には新たに、17のプロジェクト参画企業に対して数年間で約32億ユーロの国家補助をする計画を承認しています。欧州では企業単独ではなく、国家ぐるみでの取り組みになっていることがわかります。
興味深いのは、欧州委員会承認のプロジェクト参画企業の中に、大手自動車メーカーとしては唯一、BMWが入っていることです。BMWは前述したように電池開発専門の研究所を立ち上げていて、参加要件を満たしたのかもしれません。
ところで12月27日にBMWグループは、IHSマークイットの調査によるEVとPHEVの同社の市場シェアに関するデータを公表しました。BMWグループのプレスサイトでPDFで公開された中から、興味深いいくつかのシートをご紹介しておきます。
なかなか動かない日本メーカーはどこへ行くのか
日本でも、トヨタとパナソニックの合弁会社が2020年4月から稼働する予定であることや、トヨタがCATLやBYDとの包括提携をするなどの動きは散見されますが、どこまで具体的なのかが見えません。発表される内容は詳細に踏み込んでおらず、生産計画や金額も明らかにならないことが多いため、どこまで本気で取り組んでいるのかがわかりにくくなっています。
不透明性の大きな理由には、日本市場に日本メーカーのEVがほとんど導入されていないことがあるように感じます。欧米や中国では購入することができるのに、日本では売っていないというのは、どうもしっくりきません。
以前から日本メーカーは、国産産業の空洞化、国内での技術の空洞化を避けるために日本市場を確保してきました。自動車産業に限らず、家電メーカーなども同じような考え方をしていました。
そうした中、これだけ欧州勢や中国、韓国が動いている状況で日本市場だけが横に置かれているのが気になって仕方ありません。
来年は2020年。年初にラスベガスで開催されるコンシューマー・エレクトロニクス・ショーが話題ですが、自動車メーカーの出展としてはやっぱり、3月のジュネーブショーに注目したいところです。欧州の小さなコンストラクターも出展するジュネーブは、子細に見ていくと興味深いものが出てきます。
1月から6月に時期が変更されて初めて開催されるデトロイトオートショーも楽しみです。EVの計画を具体化させてきたGMはなにをするのか。フォードやフィアット・クライスラー・オートモービルズからトラックは出てくるのか。
トヨタ=パナソニックの合弁事業も4月スタートということは、もう少し具体的な事業計画が出てくるはずです。数字の区切りがいい年に、日本の自動車メーカーがどこまで本腰を入れてくるのか。次の展開に期待しつつ見守りたいと思います。
今年もEVsmartブログをご愛読いただきましてありがとうございました。来年もまた、日本国内の大手メディアにあまり出ない国内外の情報を集めて、ご紹介していきたいと思います。引き続き、ご愛読いただけると幸甚です。
それではみなさま、よいお年をお迎えください!
(取材・文/木野 龍逸)
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