BYDは世界最大のEV用電池工場で、トップのCATLを出し抜く構え

目下、世界最大のEV用電池メーカーと言えばCATL。6月11日に深圳証券取引所への上場が伝えられたのも記憶に新しいところです。それを「BYDが出し抜こう」としていることが伝えられました。工場の場所は、沿海部「深圳」の企業にしては意外な、内陸奥部です。

BYDは世界最大のEV用電池工場で、トップのCATLを出し抜く構え

2018年7月初めの時点で、世界最大のEV用電池メーカーと言えば中国のCATL(「寧徳時代新能源科技」: Contemporary Amperex Technology)です。それをBYD(「比亜迪股份有限公司」: BYD Company Limited)が追い越そうと動き出した、と6月27日にBloombergが伝えています。

中国内陸最奥部の「チベット(西蔵)」に隣接する「青海省(Qinghai Province)」にBYDが建設するEV用電池工場は、サッカー場を140個も作れる敷地面積があります。2年後(2020年)にこの工場がフル稼働すれば、BYD全体の年間の電池生産能力を「60GWh」に押し上げます。

BYDのPHV版CUV「Tang(唐)」。唐はもちろん中国の過去の王朝の名称。BYDの公式サイトより転載。
BYDのPHV版CUV「Tang(唐)」。唐はもちろん中国の過去の王朝の名称。BYDの公式サイトより転載。

まずは2019年に世界最大となる工場を青海省に建設し、自社の電動車輌への供給力を上げるとともに、収益増加を図ります。青海省工場が生産を最大化する2019年には、この工場の生産能力は「年産24GWh」に達しますが、これはBYDの販売する「プラグイン・ハイブリッドのコンパクトSUV『Tang(唐)』」を120万台製造するために十分な数だとBYDは言っています。あのWarren Buffet氏も出資していることでも知られていますが、今回BYDは青海省工場に100億元(15億USドル)を投資して、目標である「2020年までに電池生産能力をほぼ4倍に跳ね上げる」を実現しようとしています。(なお、コンパクトSUVは「CUV」と略されることが多いです。また、BYDは自社の車輌に「秦」、「唐」や「宋」といった王朝名を付けています。)

BYDの会長「王伝福(Wang Chuanfu)氏と、BYDに出資する Warren Buffet氏。BYDの公式サイトより転載。
BYDの会長「王伝福(Wang Chuanfu)氏と、BYDに出資する Warren Buffet氏。BYDの公式サイトより転載。

BYDの創業者であり科学者、現会長の王伝福(Wang Chaufu)氏は、「『NEV(新エネルギー車)』産業の未来には、まだまだ爆発的発展の可能性があります。私たちがそう信じるに足る理由があるのです。リチウム関連の産業には、まだまだ大きく発展する潜在的能力が眠っているのです。」と青海省の同社施設で述べています。(”NEV(New Energy Vehicle)”は中国語で「新能源車」、日本語では「新エネルギー車」と訳されることが多いようです。またBloombergこの記事の中で、青海省をその遠さから”outpost(辺境地)”と表現しています。)

中国最大のNEVメーカーであるBYDは、携帯電話用の電池の製造から始まった歴史もあり、NEV用電池の「自給率を上げる」ことで他のNEVメーカーとの差別化を図りたいと考えています。また、過去10年間のうち5年間で収益が落ち込んだ経緯があるため、収入源を広げるためにも電池製造をさらに拡張し、他の自動車メーカーに電池を売り込むことも考えています。こうした目的を達成するため、BYDは別会社を設立することも視野に入れています。

BYDのEV用電池モジュール。BYDのサイトより転載。
BYDのEV用電池モジュール。BYDのサイトより転載。

王会長が「世界最大の動力用電池工場」と呼ぶ今回の青海省工場は、100万平方メートルの規模(サッカー場およそ140個分)です。工場は自動化され、およそ100台のロボットが製造と工場内での運搬・輸送を担うとしています。

しかし、BYDにとってトップ争いはなかなか厳しいのも事実です。Elon Musk氏の率いるテスラは、アメリカ・ネヴァダ州の「ギガ・ファクトリー(大規模電池工場、『ギガファクトリー1』と呼ばれる)」を、今後「35GWhの規模まで拡張する」と同社Websiteで公表していますし、2016年には株主総会で「今後(もしデマンドがあれば)年産『セル製造で105GWh、バッテリーパックで150GWh』まで拡張する可能性もある」とも述べています。これは前の発言の「35GWh」から比べると製造能力を「3倍」に跳ね上げることになりますが、2018年には「35GWh」まで拡張するが、この先105GWhまで持っていく可能性があるよ、と言う意味でしょう。そしてさらに重要なのが、テスラには中国国内にもギガ・ファクトリーを建設する計画を持っている点です。

中国では政府の後押しもあり、電動車輌の所有が大きく広がってきました。これに伴いBYDやCATLといった「電池メーカー」が、「電動車輌用の電池製造企業」として中国でトップの座を占めるまで急成長してきています。

大規模電池工場はBYDだけではありません。CATLも「24GWh」の電池工場を建設する計画を発表しており、2020年前後に完成するとCATLの電池製造能力は全体で「88GWh」に達します。CATLの副会長であり、電池部門を率いるHe Long氏は、「2018年に『48GWh』、2019年には『60GWh』と段階的に能力をあげ、2020年に『88GWh』まで持っていく」と述べています。(6月28日にBMWはCATLに電池の大量発注をすると発表しました。これでCATLの施設拡大の理由が一つはっきりしました。)

BYDのPHV版CUV「唐(Tang)」のフロント。BYDの公式サイトより転載。
BYDのPHV版CUV「唐(Tang)」のフロント。BYDの公式サイトより転載。

BYDのマーケティングとブランディングを統括するSherry Li(李巍)氏によると、BYDはヨーロッパとアメリカの自動車メーカー数社と提携関係などについて話し合いを続けています。この中には、中国以外に電池工場を建設する可能性についても話し合われています。

中国政府は、現在国内にある数多くの自動車産業を将来的にはまとめて、世界をリードする数社の「自動車メーカー」と「コンポーネント・サプライヤー(部品製造企業)」を作りたいと考えています。政府は「よりエネルギー密度の高い」、そして「より長い距離を走れる」電池を電動車輌に搭載するよう促す政策をとっています。これに呼応してBYDは、2019年からは、より高性能の「NMC811」電池を大量生産するとしています。

このところ急速に発展してきたCATLに対して、BYDは「対抗馬」としての魅力を発揮すると思われます。というのも、自動車メーカーはたいてい、「値引き」を有利に進めるため複数の部品供給会社と取り引きをしています。

いずれにせよ、世界各地で走る電動車輌の多くに、BYDやCATLの電池が積まれる日が近い将来やって来そうです。著者としては、電動車輌だけでなく、テスラの「パワーウォール」のような「家庭用蓄電池」や、南オーストラリアの大規模蓄電池のようなグリッド接続の蓄電池も、両社には是非開発してもらいたいと思います。電気はとても使いやすく多用途性があり、再生可能エネルギー源とも相性の良いエネルギーなので。今後に注目してゆきましょう。

(文・箱守知己)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

執筆した記事