【元記事】BYD says BYE to ICE: what it means for BYD and the industry
BYDにとっては自然な流れ
各メーカーが議論をしている間に、BYDは行動を起こしました。
中国で新エネルギー車両(NEV)とバッテリー生産をリードするBYDは、内燃機関のみで動く車両(ICE)の生産を終了した世界初の自動車メーカーになったと4月3日に発表しました。深圳市に拠点を置く同社は、トラックとバスを含めて純電気自動車(BEV)かプラグインハイブリッド車(PHEV)のみを生産しています。既存のガソリン車ユーザー向けに、ICE車両部品の生産と供給は続けます。
この発表はBYDの別のニュースと共に届けられました。社は3月に10万4,338台のNEVを売り、一か月で10万台以上のNEVを売り上げた初の中国自動車メーカーとなったのです。ちなみに3月に売れたICE乗用車の数はゼロです。
2つの節目となるニュースは、世界の自動車業界にとって重大な出来事です。BYDはガソリンのみを使うICE車両を徹底的に排除して完全なるNEVブランドになり、中国・世界の他自動車メーカーの数年先を行っています(表1を参照)。
表1: 自動車メーカーのICE生産中止計画
OEM/Brand | Target Year |
---|---|
BYD | March 2022 |
BAIC Group | 2025 |
Chang'an | 2025 |
Haima Auto | 2025 |
Jaguar | 2025 |
Alfa Romeo | 2027 |
Chrysler | 2028 |
Opel | 2028 |
Lotus | 2028 |
Toyota | 2030 (China, Europe, North America) |
BMW Group | 2030 (EU) |
Ford | 2030 (Europe) |
Mercedes-Benz | 2030 (where market conditions allow) |
Volvo | 2030 |
Bentley | 2030 |
Cadillac | 2030 |
MINI | 2030 |
Rolls Royce | 2030 |
Fiat | 2030 |
Audi | 2033 (excluding China) |
Hyundai Kia | 2035 (EU) |
VW | 2035 (Europe) |
Lexus | 2035 |
GM (Chevrolet, GMC, Buick) | 2035 |
Honda | 2040 |
※ Source: open information
また世界の気候変動に対する戦いの重要な分岐点と同じタイミングでもありました。BYDが発表を行った翌日に、世界のトップ気象科学者で構成されるIPCC(国際連合の気候変動に関する政府間パネル)が、地球温暖化を1.5℃以下に留める戦いは今すぐに解決しないと手遅れになると示唆したのです。BYDはこの前の週にも2022年版TIME誌「最も影響力のある企業100社」に選ばれています。発表のタイミングはこれ以上に無いくらい完璧でした。
2021年2月とごく最近まで、BYDの乗用車セールスの半分以上をICE車が占めていたため、BYDの動きは多くの人を驚かせたかもしれません。それからたった13ヶ月で、その数はゼロになりました。ICE車両からBYDが脱却したスピードは驚異的です。
2021年から今年始めにかけて乗用車部門のNEVシェアが急激に膨らんで95%を越えるまでになった(グラフ1を参照)ため、年内のどこかでBYDがICE車生産中止の発表をすると私も予測していました。しかしここまで早い時期にアナウンスされるとは!
グラフ1: BYDの2021年度NEV ICEセールス
ただし1つ確実に言えるのは2008年12月に世界初のPHEVとしてF3DMをローンチしてから14年間生産をし続けたのを考えると、この決断は簡単ではなかったという事です。14年の間、BYDには浮き沈みがありましたが、PHEVへの賭けをよく検証し直していました。PHEV販売を促進する現在のDM-iプラットフォームに進化したテクノロジー計画通りに進み続け、最終的にDolphinなどの人気BEVを支えるe-プラットフォーム3.0に繋がりました。
BYDが独自開発のLFPバッテリーで動くF3eを開発した2006年からはなんと16年も経っていますが、この電池セルは現在市場で最もポピュラーなものです。Xi’an Qinchuan Automobile Co を買収してBYDが正式に車両生産に乗り出した2003年から19年、ノキアやモトローラのためにニッケルカドミウム電池を作る会社を王伝福が設立した1995年からも27年経っています。
ここで私が強調したいのは、BYDがたまたま電気自動車を作っているバッテリー会社であり、最近他の自動車メーカーが挑戦しているような、逆の道ではないということです。BYDはセルまで作っており、高度な垂直統合がなされているのが見過ごされがちですが、この違いは重要です。私が書いた「BYDは2022年に電気自動車150万台を達成できるのか?」でも指摘しましたが、BYDは自らの運命を自分でコントロールできるという事なのです。業界が現在直面しているサプライチェーン、COVID、地政学的な問題があるにも関わらず、今のところ目標(ICE生産中止)は不可能ではありません。
事実、BYDは3月後半に開いた決算報告後の株主向け質疑応答で、いまだに40万台に上るNEVがバックオーダーになっており、保守的な2022年の販売台数予測を120万台から150万台に上方修正したばかりか、サプライチェーンの状態が改善すれば200万台も可能だと明らかにしたのです。
BYDがバッテリーメーカーであることの優位性
では、BYDと業界にとってこれは何を意味するのでしょう。
まずPRの観点からは大勝利です。今までも以下のような大々的なニュースに満ちた年になっているのですが;TIME誌の100社選出、Shell、NVIDIA、Nuroとの協業、新しいロゴ、新しいキャッチコピーの「テクノロジー、グリーン、フューチャー」、2022年ブランドバリューランキングのブランドファイナンス部門において中国自動車ブランドのトップに選出、Destroyer 05など大量の新型モデルをローンチし、さらに新しいDM-iモデルが出てくることなど。しかしICE車両の生産を終了する世界初の自動車メーカーになるとは?上記のニュースに増して世界から大きな反響がありました。
2つ目に、今ある注文分でも大きな量を占め、すでに需要で見るとICEに置き換わってきていたDM-iモデル用の生産能力を増加できます。また低価格帯のICEモデルを排除することにより、ブランドの価値も上げられます。
3つ目、BYDは他中国メーカーやライバルにとって良いケーススタディとなっています。正しくやれば、NEV市場でもPHEVは重要な役をこなせるのです。ただしそれは、今日のDM-iテクノロジーに繋がる揺るぎない開発の結果でした。不屈の努力が報われたのです。
しかし今後は垂直統合がなされていても他社と同じようにバッテリー原料の価格上昇から来るプレッシャーに向き合う必要があり、収益性の面でも競争が激しくなるでしょう。最新の年間報告書によると、収益が38.02%増加して2,160億1,000万元(約4兆2,726億円)だったにも関わらず、粗利益は13.25%ダウンして230億6,000万元(約4,666億円)、利益率も前年の17.75%から11.18%に下がりました。純利益は28.08%減の30億元(約592億8,000万円)でした。自動車関連商品の売上総利益率は2021年に17.39%まで落ち、2014年以降で最低レベルでした。
ここで問題なのが、BYDは補助金に大きく依存していることです。BYDの2021年度年間報告書を見ると、政府からの補助金22億6,000万元(約446億5,600万円)に加えて約59億元(約1,166億円)のNEV補助金を受け取っており、それを考慮に入れると純利益は実質7億8,200万元(約154億5,000万円)しかありません。将来に向けて全NEV路線を続けるのに、補助金なしで収益性を改善できるのか疑問は残ります。
1つ確かなのは、今の業界と外部環境の中、特にNEVへの転換点が過ぎ需要が非常に高い中国では、高度に垂直統合されたビジネスモデルから十二分の利益を得ているということです。BYDがICE車両の生産終了で競合を叩きのめすことのできた大きな理由は、多くの自動車メーカーが模倣しようとしている垂直統合とバッテリーにおける優位性なのです。
(翻訳/杉田 明子)