ダイムラーとボッシュがレベル4自動運転駐車システムの承認を発表

ダイムラーとボッシュは7月23日、世界で初めて、レベル4の自動運転システムを使った無人のバレットパーキングの運用が行政当局の承認を得られたことを発表しました。これにより、日常的に無人バレットパーキングを稼働できるようになります。

ダイムラーとボッシュがレベル4自動運転駐車システムの承認を発表

無人で駐車して迎えに来てくれる!

スマホのアプリで指示をすると自走して駐車スペースに駐車。さらに自走でピックアップ場所まで走ってきます。© Daimler AG

Internet of Things: Bosch & Daimler Realised Automated Valet Parking in the Mercedes-Benz Museum
メルセデスベンツがYouTubeで動画を公開しています。

ご存知のように普通のバレットパーキングは、レストランのエントランスなどで係員に車を渡すと駐車スペースに止めてくれて、帰る時にはまた車を持ってきてくれるサービスです。ダイムラー/ボッシュのシステムでは、人の代わりにスマホを使って車に指示を出すと、無人のままで駐車スペースに駐車し、帰りも指定場所まで無人で走行してくるのです。使用するメルセデスベンツEクラスは、無人走行の時はフロントライト、およびサイドミラーのウインカーランプなどがターコイズブルーに光り、歩行者や他の車の運転手に自動走行していることを知らせます。

こうやって書くと、一昔前に(二昔かもですが)若者の心を捉えたテレビドラマ「ナイトライダー」に出てきたナイト2000を思い出す人も多いのではないでしょうか。ダイムラー/ボッシュのビデオを見ると、「キット、すぐきてくれ!」なんていうデビッド・ハッセルホフの世界にちょっと近づいた感じもします。

ターコイズブルーに光るライトで、自動走行をしていることを周囲に知らせます。© Daimler AG

もちろん、まだ車と会話はできないのでキットのしゃれっ気は期待できませんが、ダイムラーの自動運転技術の責任者であるMichael Hafner博士はプロジェクトの意義について「バーデン=ヴュルテンベルク州当局による認可は、世界の駐車場でこうした駐車サービスが承認を得るための先例となります」と述べ、将来、広い市場で無人バレットパーキングを提供できる道を開いたとしています。今後は、このプロジェクトから生まれたガイドラインが、無人バレットパーキングの基準になっていくと考えられます。

当局の承認が得られた世界初のレベル4駐車システム

自動走行している車が走っていることを知らせる、メルセデスベンツ博物館の標識。© Daimler AG

レベル4の自動運転を使った無人バレットパーキングが承認されたのは、シュツットガルトのメルセデス・ベンツ博物館の駐車場です。カール・ベンツやゴットリープ・ダイムラーが世界に先駆けて発明した自動車が展示されている博物館で自動駐車サービスが始まるのは、次世代のモビリティにとって象徴的な出来事と言えそうです。

ダイムラー/ボッシュは2015年からプロジェクトをスタートし、2017年にメルセデス・ベンツ博物館で先行試験を実施しました。両社のリリースによれば、無人での自動運転の技術基準、安全基準に関する行政当局による正式な認可手続きがないため、シュツットガルト行政当局とバーデン・ヴュルテンベルク州運輸省はドイツの技術認証機関のテュフ ラインラントと共同で、プロジェクトの開始当初から監督をしてきたそうです。これら3機関の目的は、自動運転や駐車機能の安全性評価でした。

無人での自動走行システムを実現するための技術は、ボッシュによるインフラ技術と、ダイムラーによる車両技術の組み合わせで成り立っています。駐車場には走行経路やその周辺の状況を監視するセンサーが取り付けられ車両誘導に必要な情報を提供し、自動車側でこのデータを解析して走行します。

ダイムラーの自動運転技術とボッシュのインフラ技術を路車間通信で統合することで、自動バレットパーキングを実現します。© Daimler AG

自動車側と駐車場側の技術を融合させるというのは新しい開発アプローチでもあり、「いくつかの規制を組み合わせ、ひとつのシステムとして機能させる必要があった」ことは、開発上のハードルのひとつだったと、メルセデスベンツ・カーズのスポークスパーソン、ベルンハルト・ヴァイデマン氏はメールでの取材に回答しました。

とはいっても、今すぐ、誰もが無人バレットパーキングを利用できるわけではありません。今回承認されたのはテスト車両で、無人駐車に必要な機能を持った車はまだ市場には出ていません。市場投入のための第一歩という位置づけです。それでもヴァイデマン氏は、時期は明言できないものの「このシステムを市場に投入するつもりです」とメールで回答しています。

インフラ側はボッシュのセンサーが人や車両の動きを監視し、路車間通信で車にデータを送ります。 © Daimler AG

各地でテストや法整備が進む

シュツットガルトでの技術承認にとどまらず、ダイムラー/ボッシュは2019年後半に、米カリフォルニア州サンノゼでは異なる地点間をレベル4/5で走行する自動運転システムのテストを実施する予定です。両社のニュースリリースによれば、テストはシリコンバレーの中心地、サンカルロスとスティーブンクリーク間の特定のコミュニティーで実施される予定で、ダイムラー/ボッシュに加えてサンノゼ当局がプロジェクトに参加しています。

サンノゼではSクラスベースのテスト車両で実験予定。© Daimler AG

テストで使用するのはダイムラー/ボッシュで開発したメルセデスベンツSクラスをベースにしたレベル4/5のテスト車両です。ユーザーが指定した場所に車を呼ぶと自走してくる自動配車と、次の目的地まで自動運転で移動する実験をする予定です。

自動運転、自動配車のテストを実施する地域は今後20年で40%の人口増加が予想されていることから、プロジェクトに参加するサンノゼ市のSam Liccardo市長は「パイロットプロジェクトは、自動運転車が将来の交通ニーズを満たすためにどのように役立つかを探る機会になります」と述べています。またボッシュの自動運転ビジネスユニットの上級副社長、Stephan Hönle博士は、「都市交通を再考する必要があります。自動運転は、将来の都市交通の姿を把握するのに役立ちます」と述べています。

自動運転が実用化されるためには、車単体での安全性が確保されるのはもちろんですが、技術認証やそれを包括する法整備、社会環境整備などが必要になります。海外では、EVsmartブログの『フロリダ州で無人自動運転車の合法化が決まる』の記事で紹介したように、米フロリダ州が今年7月に、人間が乗車しない完全自動運転の車が一般道を走るための枠組みを定めた法律が施行された事例もあります。

【関連記事】
『フロリダ州で無人自動運転車の合法化が決まる』

日本でも自動運転に関する法整備の必要性は認識されていますが、具体的な枠組みづくりはこれからです。人口の都市部への集中や過疎地での高齢化が進む中、できるだけ早く、まったく新しいモビリティが生まれることを期待したいところです。

(木野龍逸)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 無人運転なのにレベル5でなく4となるのは何故なんでしょう?

    テスラのFSDも機能的には搭載されてるようなので早く日本でも認可られるといいですね。
    もうちょっと進んで、最寄り駅まで迎えに来てくれるようになる日を心待ちにしてます。笑

    1. Ito様、自動運転レベルはSAE J3016に規定され、以下に良くまとまっています。
      https://en.wikipedia.org/wiki/Self-driving_car#Definitions
      これによればレベル4が通常の無人運転ですが、極端な状況下では無人なら車両停止、有人・または遠隔運転なら人間のドライバーに交代が発生します。例えば駐車場で人が車に飛び込んできたり、サルや蛇など通常いないような動物が進路を塞いだり、地下の駐車場などで走行可能なレベルの浸水があったりしたなどの場合、適切な対処ができるのがレベル5となります。

    2. なるほど。ありがとうございます。
      ドライバー不要がレベル5、自動運転だがいざというときに人に制御を返せるのがレベル4、と単純に理解しておりました。
      たしかに駐車場内でなら停止すればいいので無人運転としての難しさは減りますね。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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