日本EVフェスティバル2021 レポート〜図らずもクルマへの「欲望」を分析

電気自動車『Honda e』を衝動買いしたフリーライター、篠原さんが『第27回日本EVフェスティバル』に初参加。展示やフォーラムを見た率直な感想をレポートします。EVシフトは「クルマへの欲望」を見直す絶好の機会なのかも知れません。

日本EVフェスティバル2021 レポート〜図らずもクルマへの「欲望」を分析

最新EV&PHEVやコンバートEVがずらりと並ぶ

東京・台場で11月20日に行われた『第27回 日本EVフェスティバル2021』は、一人の参加者として楽しませてもらった。フリーライターとして一応プレスの腕章をお借りしていたものの、半分は勉強のつもりだったが、編集長から「初めて参加した感想を率直に書いて」とありがたいリクエストをいただいたので、しばしおつきあいください。

イベントの主催は『ジャパンEVラリー白馬』と同じ日本EVクラブ。2泊3日ではるばる参加した「ラリー」とは違って「都市型イベント」なので、愛車(Honda e)ではなく自転車で会場へ。自宅から20分ぐらいで到着。会場の東京国際交流館には内外の最新EVや、手作りのコンバートEVがずらりと並んでいる。目に止まったのは、HW ELECTROという聞き慣れないメーカーの『ELEMO(エレモ)』という商用車。じつはこの車こそイベントの「隠れボスキャラ」だったのだが、初見では「こんなのあるんだなぁ」と眺めていただけだった。

電気自動車は「ロスト欲望社会」に似合いのツール?

さて、抜群に面白かったのが、北海道大学教授、橋本努さんの基調講演「ロスト欲望社会」だ。社会経済学の視点で、戦後の消費社会がどのように変わってきて、いま、どういう状況にあるのかをレクチャーしてくれた。

北海道大学の橋本努教授が講演。

1970年までを「近代」、70~95年までを「ポスト近代」、それ以降を「ロスト近代」と区分して、それぞれの時代の特徴的な消費行動と、その受容と批判によってどんな思想や哲学が生まれたかをたどる。「豊かさ」や「センスの良さ」は時代によって定義が違うし、「自己充足感」のありようも「欲望」の対象も変化しているんだな、ということが具体例から明確に伝わってくる。私もバブルの頃にはみんなと同じく肩パッド入りDCブランドを着ていましたっけ。

その上で2015年にターニングポイントが訪れた、と橋本さんは指摘する。「ミニマリスト」が流行語に選ばれた。ものが売れなくなった。「ロスト欲望社会」の到来だ。だからといって、この際「みんなでミニマリストになるしかない」というような話ではない。欲望の喪失が倫理的といわれる社会で、充足した人生を送るために、新しい消費文化を考えてみませんか、というのが趣旨だ。私にはそう聞こえた、ということだけど。
 
「モノ消費よりコト消費」とか、「エシカル消費」とか、これまで都合よくかじり散らしてきたいろいろな概念を、思想の大きな潮流の上に浮かべてみることで、クリアになったことがたくさんあった。もちろん、EVのことはずっと念頭に置いて、車に対する欲望はどう変わってきたんだろう、と思いながら聞いていた。たとえば70年代の「スーパーカーブーム」とか、最高級車が飛ぶように売れた「シーマ現象」とか。直接的な言及はなかったけれど、参加者はきっと同じように、それぞれのカーライフを思い浮かべていたに違いない。答えを教えてもらう必要はなかった。「どうなんだろう」と問い続ければいい。そのための思考回路を開いてもらった感じ。ちょっと興味があったので、「先生のマイカーは?」と質問したら、トヨタのHV『アクア』だとのことでした。

「100万台EVプロジェクト」とは?

HW ELECTRO蕭偉城社長のプレゼンテーション風景。

講演に続いて、行政サイドの脱炭素社会に向けての取り組み紹介、海外メーカーの電動化戦略の説明などのレクチャータイムに。さきほど見かけたHW ELECTROも、蕭偉城(ショウ・ウェイチェン)社長自らが登壇してアピール。地元の東京都江東区青海に本社がある独立系メーカーだ。「商用車でイノベーションを起こす」と宣言。軽規格の『ELEMO-K』の受注開始を発表していた。この時点ではまだ、参加企業のひとつ、という印象だった。

イベントの締めくくりが、公開ディスカッション「100万台EVプロジェクト」。元JAF Mate編集長の鳥塚俊洋さんをコーディネーターに、EVsmartブログの寄本好則編集長やジャーナリストの木野龍逸さんらがパネラーとなって登壇した。

EV100万台普及で…… みたいな話なのかと思ったら、これが「100万台作ろう」という話だったので驚いた。作るってそんな無茶な。だけど聞いているうちに、なるほどなぁと思えてきたのである。パネラーのみなさんによると、あるとき「自分が乗りたいEVがない」ことに気づいた。メーカーが作ってくれなくても「自分たちで作れそうじゃない?」と考えた、らしい。

自動車は自動車メーカーが作るもの。そこから選ぶしかない、と思っていたが、たしかに先入観にとらわれていただけかもしれない。ジャパンEVラリー白馬のシンポジウムで聞いたスイス・ツェルマットの話を思い出した。車両の流入を規制していて、村の中を走れるのは基本的にEVと馬車だけなのだが、そのEVはなんとツェルマット村内の町工場製。村にEVメーカーがあるという。

さすがに普通の人にはハードルが高い。いくら「内燃車に比べたら構造はシンプル」と言われても、「じゃあ私も」という気にはなれないだろう。しかし、壇上に上がった日本EVクラブの面々は、市販の内燃車を電動に改造したコンバートEVでのレースやロングドライブの体験があるので、「作れる」と確信があるようだ。

そして、屋外の展示会場には、まさに「作ろう」を実践した車たちが並んでいる。旧車をEVにコンバートするカスタムビルダーとして今年度のグッドデザイン賞に選ばれた「OZ Motors」が手がけた『EVシビック』や『EVセドリック』、日本一周した『EVスーパーセブン』、もう20年以上走っているという『EVジムニー』などなど……。原寸大プラモデルというと語弊があるかもしれないが、手作り感満点の「大人の工作」という感じ。苦労話やトラブルの話がじつに楽しそう。話していると、やってみたくなるから危なくてしょうがない。

一方、隣接した展示会場には、内外の自動車メーカーが市販している最新EVやPHEVが展示されている。メルセデスベンツ『EQA』、プジョー『e-208』、日産『リーフe+』、三菱『アウトランダーPHEV』……。『Audi RS e-tron GT』(お値段1799万円~)なんて、かっこよすぎて欲望をロストできなくなりそうだ。

自分たちが欲しいクルマを作ればいい

そして、市販EVと手作りEVのエリアをつなぐようにHW ELECTROが置かれている。寄本編集長によると、HW ELECTROは「100万台EVブロジェクト」から生まれたわけではないが、そのスピリットを具現化した存在なのだという。乗りたい、欲しい、必要だと思う車を自分たちで作ってしまう、あるいは作ってもらう。車のオーダーメイド。以前なら考えられなかったことが、EVシフトを機に可能になってきた。

つまり、時代の変化を象徴する展示なのだ。「自分たちの乗りたい車を作る」というハンドメイドEVと、大企業が「魅力的な商品」として生み出す市販EV。そのボーダーライン上の、新しい存在。この3つの展示空間の比率が、5年後、10年後にどうなっているかが興味深い。

会場では最新EV・PHEVの試乗会も開催されていた。

自分が理想とする車を作れるとしたら、どんな車にするだろう、と考えた。デザインが良くて、加速が抜群で、旋回性が良くて、と挙げていくと『Honda e』はかなりいい線だが、あと、フルフラットで車中泊ができるといいし、それからオーディオも……。いろいろ夢想していると、自分が車をどう使いたくて、カーライフに何を求めているのかが、なんとなく見えてくる。どうやら爆音よりは静粛、高級感よりはカジュアルさ、効率性よりは趣味性、という傾向がある。それがつまり、いまの私の「欲望」の向かう先なのだろう。

(取材・文/篠原 知存、写真提供/日本EVクラブ)

【編集部コメント】

篠原さん、考えを深めるきっかけになるレポート、ありがとうございます。私自身、27回ものEVフェスティバルに関わっていると、EVに対するフレッシュな気持ちを忘れそうになったりして。今回のフェスティバルで「EVシフトはクルマへの欲望を見直すきっかけになる」と感じたという視点に、とても共感できました。

EVをいろいろ取材しながら、EVに、エンジン車と同じ航続距離や利便性ばかりを求めるのは違うよな、と感じています。エンジン車でもEVでも、500万円を超えるようなクルマはおいそれと買えません。電池も価格もコンパクトなEVの車種が増え、高出力の急速充電インフラが網羅され、EVなりの使い方で、エンジン車より気持ちよくて豊かな暮らしを楽しめる。そんな時代が来ることを願っています。

(EVsmartブログ編集長/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 篠原 知存さん、私ではないですが、2013年にMINICAB-MiEVのキャンピングカー改造をされている記事を見かけたことがあります。
    https://www.tosuken.com/blog/2013/11/post_1567.html

    まだ現役かどうか検索したら以下のブログが出てきました。全国を回られていたと記憶しています。
    「同行ふたり 電気自動車 ミニキャブ・ミーブの旅物語」
    https://ameblo.jp/swrh3s/entry-12714719952.html

    最新記事は2021-12-09ですから、お元気なようです。取材にうかがわれてはいかがでしょうか。

    1. Eddyさん、こんにちは。
      情報提供、感謝いたします。ほんとにいらっしゃるんですね。
      連絡をとってみます!ありがとうございます!!

  2. EV100万台に最も近い答えは「卒FIT家庭への普及」やないですか!?固定買取価格が急落したらガソリンを電気へ変えて燃料費を減らすのが王道かつ費用対効果高いですから…ただ平日自宅にEVがなきゃアカンのがネック。
    幸い自営業で時間の融通が利く当家は蓄電池と組み合わせ、作業車をMiEVにしてるからいち早くコストダウンも再エネ宣言アクションも可能な事業者にもなってますが。

    車中泊可能なEVといえばe-NV200/ミニキャブMiEVしか選択肢ないですね…とはいえ電池容量や航続距離把握の観点で商用車や軽規格車がEV化に有利と見られ、実際i-MiEVで一日作業で走るのは大概80km以下なんで不都合なんて感じませんよ。あと20km航続距離がほしいならEV普通充電器のある場所で昼休憩すればエエだけですし。シンプルに考えたほうがエエで!?

    1. ヒラタツさん、こんにちは。情報ありがとうございます。いまネットで検索しましたが、たしかにe-NV200もMINICAB-MiEVもフルフラットで爆睡できそうですね。商用車のキャンピングカー改造は内燃車では定石ですし、もしかしたら誰かやられていないでしょうか。取材に行きますので、ぜひこちらにコメントをお願いしますm(_ _)m
      記事を書きながら、とりあえずHonda eで車中泊できるかどうか試してみようと思ったので、そのうちにどこかでレポートします!

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。車歴/アコードワゴン、BMWミニ、インサイト、ランドクルーザー、N-BOX、Honda e。バイク歴の方が長くて、いまはKTM 125 Dukeを所有。

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