世界の潮流を追いかけるお台場のEVレースイベント
晩秋の2022年11月19日、東京・お台場で開催された「JAF MOTORSPORT JAPAN 2022(以下、MSJ)」では、隣接する駐車場に「MSJ シティ・サーキット(1周500m)」を仮設して、全日本カート選手権のEV部門最終戦が行われました。
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JAF公認の選手権がかかったカートレースが都心で行われたのは初めてで、なおかつ仮設コースでの公認レースも日本初という、初めてずくしのレースでした。
でも初めてなのはそれだけではありません。この日は、選手権用のマシンを開発したトムスが主催した「にゃんこ大戦争 Presented シティ・サーキット ODAIBA2022」の中で、もっと手軽に乗ることができる電動レンタルカートをお披露目し、エキシビションレースまで行ったのでした。しかもエキシビションレースの最後を飾ったのは、ナイトレースです。
音が静かな電気自動車(EV)を使ったレースは、都心部でも開催しやすいという大きな特徴があります。FIA公認の世界選手権「フォーミュラE」は、その特徴を最大限に生かすため、各国の首都、それも中心部付近で開催するものが多くなっています。
自動車の環境対策が急がれる中、エンジン音がなく、排ガスも出ない環境イベントとしても注目されているEVレースは世界各国を舞台に、フォーミュラカーだけでなく、様々な車を使ったFIA公認イベントの数が増えています。
日本でも、東京都知事が「フォーミュラE」誘致を希望するなどEVレース開催への機運が盛り上がってきていて、今回の全日本カート選手権の開催とナイトレースの実施は、電動化に向かう世界の動きをキャッチアップする大きな一歩と思います。
キッズカートや特別展示に表情も緩む
さて、「シティ・サーキット ODAIBA2022」ではカートのデモレースをはじめ、見どころがたくさんありました。入口を入ってまず目を引いたのは、仮設されたキッズカートコースと、電動キッズカートでした。
子ども用コースは、空気を入れたバルーンで作っています。バルーンコースは移動も再利用も可能で、しかも安全性の高い造りになっています。しばらく見ていると、何を思ったかバルーンにまっすぐ突っ込んでいく子どももいましたが、バルーンがボヨヨヨーンとなって止まるだけでした。
トムスが提供するキッズカートは出力を4段階に調整可能で、今回はいちばん小さな出力にしていました。これなら思い切り踏んでも、おとなが歩くくらいの速度しか出ません。でも小さな子どもにとっては、アクセルを踏むだけで走り出すカートは異次元の乗り物のようです。ニコニコ顔から真剣な顔までいろいろな表情を浮かべながらステアリングを握っていたのでした。
そんなキッズカートの様子を見たトムスの谷本勲代表取締役社長は、今後の可能性を実感したそうです。
「キッズカートは(電動だと)音とか振動の問題がないので、怖いって言う子どもがいないんですよ。それはすごくメリットだと思う。エンジンカート教室をすると、子どもの3割は音とか振動で怖いってなってしまうんです。でも、今日は僕も5人乗せましたが、誰も怖いって言ってなかった。もっと速くっていう子もいましたよ」
ちなみに「にゃんこ大戦争」は子どもに人気のスマホアプリのゲームだそうで、キッズカートも「にゃんこ大戦争」カラーになっていました。なるほど、子どもが喜ぶわけです。
会場内には、同じく「にゃんこ大戦争」カラーでレースに参戦している「TOM’S FORMULA PONOS Racing」の実物フォーミュラカーも展示されていました。このマシンは乗り込んで撮影ができるため、子どもの行列ができていました。
ナイトレースに将来の可能性を感じる
「シティ・サーキット ODAIBA2022」のメインイベントは、なんといってもレンタルカートのエキシビションレースです。エキシビションレースは、昼間と夜間の2回に渡って行われました。注目はやっぱり、都市部で初めて夜間に実施されるカートレースです。
エキシビションレースには、特別参加の井出有治さんと、現在は国会議員を務める元F1ドライバーの山本左近さんも参加し、「競争女子」と銘打った女性ドライバーたちとバトルを繰り広げました。
また会場では、エキシビションレースの走者を予想するレースtotoも実施。会場に来ていた大勢の人が参加していました。
まあ、エキシビションレースなので勝敗はさておき、夜間照明の中を走るEVカートには、昼間のレースとは違ったワクワク感を覚えました。常設サーキットでのナイトレースは珍しくありませんが、軽快な音楽が流れる中、フジテレビ本社をはじめとするお台場ビル群の夜景をバックに駆け巡るEVカートは、都市部での新しいモータースポーツの可能性を感じさせてくれました。
なにしろレース中でも音楽は聞こえるし、MCのレース実況や解説者との楽しいおしゃべりもよく耳に入ります。身体に響くエンジン音はありませんが、EVカートのモーター音やタイヤのスキール音の変化はマシンの挙動をよく伝えてくれます。音の迫力とは違う楽しみ方があると思うのです。
そんな電動カートイベントを初めて見て、なおかつ自身でも夜間のレースでステアリングを握った山本左近さんは、次のようにコメントしました。
「EVカートならどこでも、またナイターでもレースができます。しかもこういう仮設のコースで開催可能と言う事は、全国各地で開催できることを証明していて、皆さんにモータースポーツの楽しさを感じてもらえるものだと思います。特にレンタルカートは誰でも乗れるスピードになっているので、皆さんにも、ぜひ機会があれば乗っていただきたいと思います。今後の可能性に期待しています」
トムスがレンタルカート場を自ら手がける計画
では「シティ・サーキット ODAIBA2022」を主催したトムスは、どんな思いでEVカートに取り組んでいるのでしょう。
トムスを率いる谷本勲代表取締役社長は「具体的な計画はあります。まだ言えませんが」としつつ、未来予想図をこう話してくれました。
「レンタルカートなどは年内に正式に販売をしようと思っています。単純に販売するだけではなくて、EVカート場を増やしていきたいんです。実はもう、商業施設から、うちの施設でやってもらえないかと言う問い合わせが結構入ってるんです。今回のイベントが終わった後、来年に向けての交渉を本格的に始めていこうと思っています。トムスでも数店舗は手がけたいし、いろいろな人たちにも協力して欲しいと思っています」
つまり、トムスとしてEVカート場を運営する事業に乗り出す計画を持っているということです。正式なニュースリリースはまだ出ていないのですが、計画はすでに動き出しているようです。ビックリです。
また谷本社長に、東京都がフォーミュラEの計画を発表したという話を振ると、力強くこう話しました。
「それこそ文脈から言えば、前座だったらこれ(EVカート)でしょと思ってるんです。前座で、まさかエンジン車はないよねと。今、世の中に出ているフォーマットからすると、電動カートがあると思います。見て、実際に体験してもらって、感じることで変わっていく世界があると思っています」
電気をやることで社会を変える
トムスがカート場運営を事業にするとは驚きましたが、もう少し詳しい話を聞くことができないかと思い、この計画を束ねるキーパーソンにも話を聞いてみました。経営戦略室の田村吾郎室長です。
まずはストレートに「来年からレンタルカートをデリバリーしてカート場を始めるつもりなのか」と聞いてみました。
「(カート場は)常設でできるといいと思っていて、いろいろな自治体さんと話をしています。早ければ来年の春ぐらいから作れるかもしれません。EVカートは、街の中でやれるところに意味があるじゃないですか。同じことを山の中でやっていたら、ほとんど意味がない。都市部での広い場所と言うのは、県や市など行政が持っていることが多いので、そこは連携しないといけないと思います」
田村室長は続けて、EVカートを都市部で走らせること、自治体と協力することの意味について、明解に説明してくれました。
「モータリゼーションとかMaasとか、新しいモビリティと社会の関係を築くというのは自治体にとっても課題で、そこをモータースポーツから考えていこうと言うのはすごくあり得ると思うんですね。そういうアプローチで自治体と一緒にやっていくのはすごく意味があると思います。単にお金を払って遊びに来てくださいと言うのではダメなんだと思います」
それはつまり、電気で社会を変えるということなのかと聞くと、「そうです、それをやらなきゃいけない」と即答でした。
「今はエンターテインメントと言う切り口でやっているけれども、僕らはこの先にたくさんのことを仕込んでいるんです。(EVで)人々の移動の問題を解決するとか、エネルギーの問題を解決するとか、様々なことが後ろに控えている。それを一気にやるのは難しい。だから最初の、わかりやすい、楽しい切り口として、EVカートを用意していると言うことです」
トムスが生まれ変わる?
この話を聞いて感じたのは、レース事業を柱にしてきたこれまでのトムスとは、まったく違う分野に挑戦しようとしている姿でした。すると田村室長は、「ぜんぜん違います」と言いました。
「レースだけをやることが目的ではありません。レースもやるし、エンターテインメントと、モータリゼーションと、自分たちの生活がどういう関係なのかをもう一回考え直すことが必要で、それに一番いいのがEVと言うことです」
「(今回の全日本選手権最終戦とエキシビションレースを終えて)ここから始まるわけじゃないですか。これは全くゴールではありません。とりあえずやりましたと言うことです。今回は(来年以降につなげる)テスト版ですね」
ということで、来年の全日本カート選手権のEV部門については、できれば4戦を開催したいそうです。そして、そのうち2戦は都市部、それも地方都市での開催を狙っているそうです。個人的な希望を言えば、都市部で開催するうちのひとつは、できればナイトレースになるといいなあと思うのです。
EVカートにキッズカート、全日本選手権がかかったレース、夜間レース。昼前から会場入りしていたEVsmartブログ取材班は、もうお腹いっぱいという感じでヘロヘロだったのですが、最後にもうひとつ驚きがありました。
会場には、2019年6月に、伝統があると同時に世界でもっともヤバいバイクレース、「マン島TT」に出場した電動バイク『韋駄天X改』(TEAM MIRAI)が展示してあったのですが、この実車が夜間のエキシビションでコースを走ったのです。見慣れない2輪レーサーが周回しているのを見て、それが『韋駄天』とわかったときには感激してしまいました。
さらに驚いたのは、乗っていたのが、エンジンバイクだけでなく電動バイクでも「マン島TT」に出場した経験があり、寄本編集長が以前に取材をした、岸本ヨシヒロさんだったことでした。暗い上にヘルメットをかぶっていたので名前を聞くまでわからず、寄本編集長は気付かなかったことを平謝りしながら挨拶してました。
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もうすぐ年の瀬、すぐに来年、2023年がやってきます。トムスの新事業がどうなるのか、EVカートのレースはどこで開催されるのかなど興味は尽きません。新しい動きがあればどんどんお伝えしたいと思います。乞うご期待です。
取材・文/木野 龍逸
電動カートは、日本EVクラブで室内スケートリンクで走行会をやるなど、都心部での開催に期待されています。
後は、家族連れで手軽に参加できるコストで開催されるといいですね。
セグウェイの電動カート(プロ)は、最高速度37km/hで、30万円。
i-MiEVに積んで運べます。
たとえば北海道の富良野なんか、廃校になった小中学校のグランドがたくさんあるのでデンキの制御性の良さを生かしたフラットダートカートとか雪上カートなんかにちょうどいいんじゃないかなーと思います。地域に人を呼ぶのにいいんじゃないかなぁ・・景色は抜群。プロレーサー対メーカー本気開発制御介入アマレーサーの対決とか・・!? それからジャンルは違うけど静水面の湖とか沼でE-boatレースとか・・ 環境負荷が少ないので可能なんじゃないかと思うのです。なんといっても景色がいいからカートもボートも映えるんじゃないかなーと。そんななかで地元選手を応援しながら地ビール飲んで美味いもの食ったら楽しいなーと妄想しました。