世界初:火力発電所を大規模蓄電池に置き換える米・カリフォルニア州

「カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)」は、同州のエネルギー企業「PG&E」社が3ヶ所の「火力発電所」を、テスラ社が製造する「大規模蓄電池」に置き換える計画を承認しました。火力発電所が大規模蓄電池に置き換えられるのはこれが世界初です。

世界初:火力発電所を大規模蓄電池に置き換える米・カリフォルニア州

Bloombergが2018年11月9日(金)に伝えたところによると、カリフォルニア州の電気やガスといったインフラを統括する「 カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC : the California Public Utilities Commission」は、前日11月8日(木)に、同州で電気とガスを供給する企業「PG&E(Pacific Gas and Electric Company)社」に対して、「天然ガスを燃料とする火力発電所の3ヶ所」を、テスラ社が製造する「大規模蓄電池」に置き換える計画に関して、関連する「4つの契約」に承認を与えました。

カリフォルニア州の電力の資源別割合。いまだに1/3あまりが天然ガス火力で賄われている。石炭などの化石燃料も13%ある。Bloombergの記事より転載。データは「カリフォルニア州エネルギー委員会(CEC)」発表による。
カリフォルニア州の電力の資源別割合。いまだに1/3あまりが天然ガス火力で賄われている。石炭などの化石燃料も13%ある。Bloombergの記事より転載。データは「カリフォルニア州エネルギー委員会(CEC)」発表による。

じつは「CPUC」は今年1月に、同州最大のエネルギー企業である「PG&E」社に対し、同社が発電に利用している廃止期限のせまる「Calpine Corp.が操業する3つの天然ガス火力発電所」に関して、「対策を模索するうえで、大規模蓄電池を考慮してほしい」という指示を出していました。カリフォルニア州はこれまでに、風力発電・太陽光発電の発電量の「変動」を吸収するため、「電気・水道といった公益事業を担当する企業(utilities)」に「『1.3ギガワット(1.3GW)の大規模蓄電池』を2020年までに『電力網(grid)』に追加接続するように」と命じてきました。同州知事のJerry Brown氏は今年9月、「2045年までに同州の全ての電気が『カーボン・フリー(carbon free : 二酸化炭素を一切出さない)資源』から賄うようにする」という法案に対して、すでに承認署名を行っています。

2018年11月8日(木)にCPUCで行われた採決で、本案は「4対1」で可決されました。理事のLiane Randolph氏は可決後、「今回の可決は、カリフォルニア州が患う『重度の化石燃料依存』に対抗して、我々が今後さまざまに取り組む中での『小さな一歩』に過ぎない」と述べています。なお、今回の評決で唯一反対票を投じたのはClifford Rechtschaffen理事でした。

先に「4つの契約」と書きましたが、これらは…

1. 同州San Joseの南に予定される183MWの蓄電池、
2. 「Vista Energy Corp.」が計画する300MWの蓄電池、
3. 「Hummingbird Energy Storage LLC」が計画する75MWの蓄電池、
4. 「Micronoc Inc.」が(ある場所にまとめて蓄電池を設置するのではなく)それぞれの顧客サイドに設置する予定の合計10MWの蓄電池、

との間の契約を指しています。このうち 1. はPG&E社が設計してテスラ社が建設することが明らかになっています。

Tesla社の新しい蓄電池ユニット「Megapack 」。これまでの蓄電池「Powerwall」より大きな単位となる。Electrecのサイトより転載。
Tesla社の新しい蓄電池ユニット「Megapack 」。これまでの蓄電池「Powerwall」より大きな単位となる。Electrecのサイトより転載。

周辺情報を調査中に、今回のテスラ社の蓄電池が、今年前半に南オーストラリアのHornsdale Power Reserveに設置されて大成功を収めた従来の「パワーパック」とは異なるという情報が飛び込んできました。2018年12月15日にElectrekが独自情報として伝えたところによると、今回の大規模蓄電池に使われる蓄電池は、従来の「パワーパック(Powerpack)」を基にしたものではなく、より大きな「メガパック(Megapack)」という新しいユニットだ、と言うのです。Electrekでは、メガパックがデビューするのは今後テスラ社とPG&E社が協力して設置してゆく「1.2GWhの大規模蓄電池プロジェクト」が初めてだと報じています。

上から見た、テスラ社メガパックの設置イメージ。左端の正方形が変圧器ユニットで、赤い線で囲まれているのがメガパック1台分の大きさ。2つ並んで設置され(画像では上下)、右側は将来の拡張に備えたスペースとなっている。Electrekのサイトより転載。
上から見た、テスラ社メガパックの設置イメージ。左端の正方形が変圧器ユニットで、赤い線で囲まれているのがメガパック1台分の大きさ。2つ並んで設置され(画像では上下)、右側は将来の拡張に備えたスペースとなっている。Electrekのサイトより転載。

新しいメガパックの概要は、「大きなコンテナ」くらいの大きさで、長さが7.14m、幅が1.6mだとしていますから、国際貨物でよく使われているコンテナと同じくらいの大きさでしょう。それを2つ並べて、その隣りに変圧器が1台置かれるイメージです。(前掲のイメージ写真と比べると、白い色の蓄電池の形が若干違います。)将来の拡張に備えたスペースも設けられています。今回のプロジェクトでは、「総容量1,200MWh」で「メガパック449台」が設置されるということなので、「1,200/449=2.6726…」でメガパック1台あたりの容量はおよそ「2,673kWh」ほどではないかとElectrekは伝えています。1台あたりの容量が大きいことのメリットは設置がより素速くできることですが、さらに今回のユニットは、同じ面積に設置した際の充電密度も上がっているようです。この新しいメガパックを基にした大規模蓄電池は、2020年までにグリッドに接続されるだろうとPG&Eは述べています。

日本では近年、天然ガス火力発電は「クリーン」なイメージで宣伝されてきましたが、いかに効率が良くても「化石燃料を使ってCO2を出す」点では石炭火力と五十歩百歩です。カリフォルニア州は、欧州でのオランダや北欧諸国と並んで、再生可能エネルギーの世界では、これからも先駆者(forerunner)として疾走することでしょう。今後に期待し、「日本も少しは見習ってほしい・ボヤボヤしてると置いてきぼりになりますよ」と付け加えておきましょう。

(文:箱守知己)

この記事のコメント(新着順)7件

  1. 箱守様へ:ハイレベルなラリーだなんて…光栄ですm(__)m ハハァーッ
    やはりお役所の動きは鈍いです…彼らの感覚が一般人同然だから尚更(イノベーター理論でいえばレイトマジョリティ系)。
    自分は地域のNPO団体に間に入ってもらいました(イノベーター理論でいうアーリーアダプター系)彼らのほうが情報感度が高いことをそこでも痛感。
    だからEV9の良さを広めるには大停電で困った地域を狙うんです。幸い己は電気屋であり電力会社の配電線停電情報を得やすい環境にあったので地域を特定して効率的に攻め込んでおりまして(笑)
    停電で困った人たちの情報は各地の市民活動センターに集まっており、こういう施設では小水力発電の相談なども来ているそうです…電気屋の仕事柄黙っていられないのでそういう方にも声はかけております。
    やはり何らかの市民活動をしてそれをアシストする団体と仲良くなるのが草の根活動を成功させる秘訣ではないでしょうか?それもEV一本だけでなく付随する活動も兼ねるのが得策。
    さらに自分はソーラーFIT切れの方への市民講座で講師を務め、ソーラー発電とEVとの素敵な関係を語る講座も計画しています。もし本気で広めたいなら各市町村の生涯学習課と相談してみてはいかがでしょうか?
    お役所仕事ではなかなかできない関連項目のシームレス化は行動力ある個人or少人数サークルならではの特権!使わない手はありませんよ?

  2. 箱守様へ:「MiEV Power BOX」入手しました!早速いろいろ試験してデータを集めております。
    リーフ用にはAESC製「LEAF to 100V」がありますが、三菱ほど積極的に売っておらず価格も30万円と高め…コンセントが3口ありますが1500Wまでなので微妙ですね。

    >「MiEV Power BOX」や「Power Mover」の公民館・防災コミュニティセンターへの設置には私も大賛成です。町内で、いざと言うときに強力してくれるEVユーザーを、あらかじめ把握して連携しておくことも必要でしょうね。
    おっ、これはタイムリーなお話(笑)
    実は自分の所属する自治会にて近日総会があり、自分も緊急提案でそれを出す可能性が出てきました…何なら自ら実演して実績を作ってもよさげですが。
    MiEV+power BOXのコンボ、あるいはe-NV200(インバーター内蔵)ならイケそうです。
    こういうとき何らかの市民活動をしているとより説得力が増しますよ…現に自分は子供の玩具を修理再利用する「おもちゃ病院」活動で実績を持っており、ある程度顔が利きますので。

    >防災のイベントなどがあると、MiEVとPower BOX持参で展示・デモするなど、できる限り協力しております。
    やはり行き着く考えは同じですね(笑)
    実はこちらも、昨年停電で困った地域でのイベントに[i-MiEV+power BOX]のセットで出展する話が決まりました!
    ただコラボ相手が防災課でなく環境課ですが…お役所仕事はセクショナリズムの弊害を負う可能性があり、こっちは個人出展として視野を広く持って訴求する構えです。
    ※それこそ”ワイドビュー”と銘打てば特急レベルで広がるかも(笑)

    1. ヒラタツ様、コメントありがとうございます。

      地域の防災イベントにどうか、と各市の市役所などに立ち寄った際には私もEVSAの名刺を置きながら提案していますが、動きは鈍いですね。実際に災害が一度起きないと動かないのでは、とさえ感じています。仕方がないので「草の根」で地道にやっています。

      小中学校では再生可能エネルギーを学ぶ機会があるのですが、それにEVオーナーや団体が協力できているのも、神奈県や小田原市などごく限られているのが現状です。

      もう、英語で海外向けに発信した方が良い段階かな、と感じています。

  3. ヒラタツ様、お返事ありがとうございます。

    「MiEV Power BOX」が入手できそうとのこと、良かったですね。日産リーフでも使える、同じような性能・サイズのものが早く出ると良いですね。今のこところリーフで使えるのは、一人ではEVに積み降ろしが難しい重さのニチコンさんの「Power Mover」しかありません。(MiEV用の1,500Wの1系統に対し、こちらは3系統の合計4,500Wが出せるパワフルなもので、これはこれで凄い製品です。)

    「MiEV Power BOX」や「Power Mover」の公民館・防災コミュニティセンターへの設置には私も大賛成です。町内で、いざと言うときに強力してくれるEVユーザーを、あらかじめ把握して連携しておくことも必要でしょうね。私も、防災のイベントなどがあると、MiEVとPower BOX持参で展示・デモするなど、できる限り強力しております。ただ、いろいろな市の市役所などに働きかけているのですが、一般的に反応は鈍いですね。(やる気のある市町村があったら、名乗り出て欲しいものです!)これからも諦めずに働きかけていきますけど(笑)。

  4. ヒラタツ様、コメントありがとうございます。カリフォルニアは、ノルウェーやオランダとともに世界の最先端を走っていますね。羨ましい限りです。日本はご存じの通り「再生可能エネルギー資源大国」ですし、技術もそれなりにあるので、こうした競争に積極的に入っていってもおかしくないですよね。

    電力も分散というお考え、私も大賛成です。「大艦巨砲主義・中央集権的」な電力供給はもう時代遅れですね。先頃の北海道の大規模ブラックアウトを見れば、答えは明らかです。以前私が書かせていただいたオーストラリア・サウスオーストラリア州の大規模蓄電池の記事にもありますが、グリッド総量のわずか数パーセントの蓄電池でさえ、非常に大きなプラスの効果を生むことが明らかになってしまいました。火力発電や原発にまだしがみつきたい人達にとっては、これはじつに「不都合な真実」だと思います。いずれ、海外がどんどん進めば、日本も孤立し続けるわけにはいかないので、変わることは確実だと思います。その時点まで怠けていた分を私たちまで負わされるのは、正直勘弁して欲しいものです。

    リーフなどEVの中古バッテリーを基にした蓄電池が、町の公民館などに設置され、町内会ごとに独立したグリッドが運用できる、などと私も夢想しております。

    1. 箱守さん返答有難う御座いましたm(__)m

      昨年秋の台風災害による停電で、地方在住者は電気が無ェ生活になりかなり困っていました!3日以上停電した地域も数知れません。
      そんな地域に住む方と話し合う機会があり、やはり最低限の電気はほしいとのことで自分は現在低価格で照明・通信機器の電源をまかなう12V蓄電ソーラー(カー用品流用)を紹介しているところです。
      ただ近日i-MiEVに外付けのポータブル電源装置[MiEV Power BOX]を購入する目処がついたので、今後は僻地在住の方に太陽光発電・電気自動車・V2Hのセットを提案していきたいですね。
      集落に最低一軒、それらが全て揃っているアーリーアダプター的な家庭があれば公民館・防災コミュニティセンターにも設置が進み、公用車あるいは職員の通勤車両を電気自動車にすれば効果抜群とみられますもので。

      一極集中的な電力系統にはもうウンザリです!もう欠陥だらけというか。
      そこで野党が独立型電源を提案してきたら間違いなく自分はその党に票を入れますよ。大きな金が動かなくとも、小さい金を数多く動かしたほうが住民の生活レベルが上がるはずですから。

      補助金云々言う前に自分で可能な限り防衛する、それが本来あるべき自治の姿。
      電力を自治したいなら独立型電源の構築はマスト、走る蓄電池(EV)はその手助けをする最適のツール!自宅はあとV2H導入を残すのみです。

  5. こんにちは。
    もうアメリカでは大容量蓄電池の本格的運用が始まり、更なる計画も出ているとは。
    特にカリフォルニア州は時代の先端を行ってる気がします。
    日本も今年のように災害による大規模停電が頻発すれば、検討されるべきです。ただ、まだ蓄電池が安く供給されていない現状がネックになりますが。
    アメリカで起きた事が日本に入ってくるのは10年先になる傾向にありますが、災害に弱い電力事情を考えると日本は真剣に蓄電池設備を分散配置させて安定供給を図るべきだと感じます。
    日本は山間部の高地に太陽光発電設備が多く、送配電ロスも電圧変動大きいので多くの電気技術者を悩ませています。現に電力会社も勤務先もそれで苦労しており、電圧が上がりすぎて太陽光発電設備が機能停止する事態に何度も遭遇していますよ。
    ソーラー発電設置者もそれで結構な損失が出ているようです…九州のソーラー発電設置者が土日の発電停止を言い渡されてあたふたしているのが典型例ですが。

    今後リーフなど電気自動車の廃バッテリーが増えてきたらその再利用策として送配電線の途中にV2Hのような蓄電設備を設けて電圧変動を抑える工夫がなされれば電気屋の苦悩も減るはずです…これを主張する議員がいれば投票したい(マジ)。
    2670kWhもあればメガソーラー2~3時間分の発電電力量に匹敵するので、今後ソーラー発電事業者たちが注目するかもしれません。では。

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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