イタリア『イドラ』が巨大鋳造マシン受注を発表〜電気自動車の可能性を拡げる技術

2021年3月18日、イタリアの大手鋳造機械メーカーである『IDRA』社が、世界初となる8000トンのダイキャストマシーンのオーダー確約を発表しました。発注した「新エネルギー車のリーダー的メーカー」は、おそらくテスラではないかと思われます。

イタリア『イドラ』が巨大鋳造マシン受注を発表〜電気自動車の可能性を拡げる技術

なぜか、動画でニュースを発信

『IDRA(イドラ)』社はイタリアを拠点とするダイキャストマシン(鋳造機械)の大手メーカーです。3月18日、このイドラのゼネラルマネージャーである Riccardo Ferrario 氏が登場するニュース動画が、YouTubeで配信されました。

●IDRA | Flash News – Giga Press(YouTube)

※冒頭写真などは動画からのキャプチャです。

会社のウェブサイトには文書のリリースもあるだろう、と確認してみましたが、なんと、公式サイトのトップページにも『Another outstanding world first for IDRA!』(IDRAがまた世界初の常識破りな世界へ!)と題したYouTube動画へのリンクが貼られていましたが、ニュースリリースページはありませんでした。

公式サイトトップページ。

丁寧に話す Riccardo さんの英語はかなりわかりやすいです。そんなに長くはないので、動画で語られているメッセージの翻訳をご紹介しておきます。


IDRAがまた、世界初の技術を実現しました。2021年3月16日、今日発表するのは「8000トンのダイキャストマシンのオーダーが決まった」ことです。新エネルギー車のリーダー的なメーカーからの発注です。

これは、我々の信頼性に富んだトグル機構による型締めと再生式注入システムの組み合わせが、世界的なファウンドリー(メタルキャスティングを製造する工場)や自動車メーカーにとって、勝ち組になるために必要なものであるというサインです。

大きな夢を持ち、やるべきことが分かっていれば、子供たち、孫たちの世代のためにも世界をより良く変えることができます。(今回受注したダイキャストマシンは)巨大なマシンで、例えばピックアップトラック、純電気商用車、SUVなど、大型車のシャシを製造するために使われます。これはマイルストーンであり、私たちの技術的な優位性を示すだけではなく、長年心血が注がれてきたプロジェクトを実現するものです。

すべての関係者に感謝します。ここからが「始まり」です。

発注者は電気トラック『Semi』を開発するテスラ?

EVsmartブログでIDRAについて紹介するのは初めてではありません。2020年7月12日、『Automotive Engineering』に掲載されたレポートの翻訳で『テスラの新しい車体戦略~軽量化を進める世界最大の鋳造技術』という記事をお届けしています。

この時のニュースは、モデルYを効率的かつ合理的に製造するため、IDRAの『OL6100CS』という巨大な鋳造機械を世界で初めて発注し、画期的な「メガキャスティング」技術を採用したというものでした。

今回、IDRAが発表した「8000トンのダイキャストマシン」が、それと比べてどのくらい巨大なのか、どんなにすごい機械なのか、正直言って根っから文系の私にはあまりうまく想像はできません。でも、なんだかスゴそうだとは感じます。きっと自動車製造の常識を変えていく技術なのでしょう。

ニュース動画では発注した企業は「新エネルギー車のリーダー的なメーカー」としか語られていませんが、おそらく『テスラ』であると考えられます。

テスラはEVトレーラーの『Semi(セミ)』を発表済みで、生産開始の準備がほぼ整っている(ただし電池セルの生産が追いつかない)と伝えられています。Riccardo さんがちょっと興奮気味に語る「巨大なマシン」は、Semi の製造をさらに効率化するために使われるのではないかとも推察できます。

大きな夢を持ち、やるべきことが分かっていれば……

EVsmartブログでは、一昨日『フォルクスワーゲン電動化への鳴動〜『パワーデイ』が示したテスラに学び挑戦する覚悟』という記事を。そして昨日は『トヨタがアメリカ政府に電気自動車シフトの速度を落とすよう働きかけている? という悲報』という記事を公開しました。電気自動車シフトに立ち向かう、フォルクスワーゲンとトヨタの姿勢の違いが、あまりにも真逆で興味深かったからです。

そして今日の情報は、8000トンのダイキャストマシン、メガキャスティングが自動車製造の新たな可能性を拡げようとしていることを示唆しています。

「大きな夢を持ち、やるべきことが分かっていれば、子供たち、孫たちの世代のためにも世界をより良く変えることができます」というRiccardo さんの言葉が胸に染みます。そして、最後を締めくくる言葉はさらに印象的でした。

This is the start!

号砲は、もう鳴っているのです。

(翻訳/杉田 明子 文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)8件

  1. 遠州QCソルジャー
    テスラがIDRAのマシンを採用したのは、やはり技術的な面からではなく単に投資家にアピールするのが意図であったと、個人的に感じます。実は磐田市のオートバイメーカーY社はIDRAの2500トンマシンを導入し、うまく作動しないため本社工場から森町工場に移動し、その後最近廃棄されてしまいました。2500トンマシンはダイカスト業界の常識からすれば、非常に大きな投資になります。小生は当時このマシンが上手く動かないので、メンテ担当者とイタリアのブレシアにあるIDRA本社に出張して、担当者(ファブリーノ氏)と直接技術的議論をして問題点の分析と解決法を議論して、帰国後マシンの改造を行いました。マシンの分析をして驚いたのはシーケンス回路のラダー言語がイタリア語で書かれているので、修理が日本人には難しいのです。せめて英語で書いてくれたら修理が日本人でも可能であったはずです。マシンの油圧関係の改造も行いましたが、日本の油圧技術では考えられない問題(レベルは国内メーカーに比較するとちょっと?という感じ)が多数ありました。ダイカストマシンの規格を型締め力である2500トンや8000トンと多くのメディアが評価しますが、マシンの能力は射出能力で評価するのが正しい方法です。単に型締め力でメディアが評価するのは、疑問を感じます。
    ただ、テスラの一体成型で車体を作る発想は素晴らしいです。これは難しい技術です。この場合一番の問題は品質の問題です。車体を一体成型した場合、変形や鋳巣の問題が必ず起こります。特に強度は通常のダイカスト法より劣る可能性があります。日本ではダイカスト法のキャストホイールは、認められていないのはこのためです。安定した強度がダイカストでは得られないため(強度規格が日本にはあります)です。この辺の認証はテスラで行ったか疑問です。もっとも、テスラのギガファクトリは上海にあるようなので、中国ではパスした可能性があります。テスラのIDRAマシンの採用によって、日本国内のマシンメーカーのU社は、大型ダイカストマシンの発表と販売を始めました。新たな風が吹き始めました。 

  2. テスラの株価がトヨタを上まったニュースは、意外に思いました。2013年にスイスのウツビル(チューリッヒ空港から2時間くらいの田舎町)の世界最高のダイカストマシンメーカー(東北大学の安斎先生の評価)B社の出張の後、電車で3-4時間のミュンヘンにあるBMW社の工場や博物館を見学しました。博物館にはイギリスのロールスロイスやオースチンミニがBMWに生産移管された展示があり、イギリスの自動車産業の衰退を実感しました。移管理由も詳細に記載されています。2018年ドイツの田舎のシュツガルトのベンツ博物館とポルシェ博物館に旅行の帰りに寄ってきました。ヨーロッパではドイツだけが自動車産業が何とか元気だったと思います。フランスのパリや主要都市に行くとフランス製の車はほとんど観かけずドイツ車が多かったです。そのイギリスとフランスがEV車でCO2ガスの低減を叫んだのは、最もだと思いました。先のB社の指定会社はVW社で、VWの技術者とヨーロッパの自動車業界の窮状を聞きました。私が一番驚いたのは、この技術者は日本の自動車メーカーの金型の段取り時間を正確に把握していました。欧米の自動車メーカーの衰退の要因を正確に知っていたことです。まだまだ面白い話があります。

  3. 小生実は、2011年にイタリアのIDRA社に出張したことあります。その頃、静岡県磐田市のオートバイメーカーの技術者で、IDRA2500tダイカストマシンのトラブルシューティングでミラノ空港から3-4時間のブレシア市に伺いました。該当マシンは現在森町工場にあります。当時はかなり衰退した会社で工場まで運転してくれた会社の運転手が最盛期の1/4の敷地になってしまったと嘆いていました。その原因はイドラの技術者が東芝機械にマシンのメカをまねされて市場を奪われたそうです。マシンのタイプはCタイプらしいですが、帰国後確認しましたら、やはりそうでした。ただ、大型マシンのメーカーにはIDRAより優れたスイスのB社があります。8000tマシンはB社でも製作可能だと思いますが、価格が高いので諦めたと思います。

  4. これはちょっと間違いです。8000トンギガプレスは、サイバートラックに使われ、その後予定されているテスラのバンにも使われるのです。Teslaは正式に8000トン鋳造機の発注を公表しています。

  5. このニュースとは直接関係ありませんが、
    日経ビジネスのコラム『欧州のEV戦略は「ブラック魔王」で読み解ける』(池田 直渡)』
    https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00240/032500004/
    はとっても同意です。
    日本の政治家が無知なので日本の自動車業界はいつもヨーロッパの政治に翻弄される。

  6. テスラのベルリン工場に納品するんだろうなぁ。
    日本の皆さんにも、テスラのモノづくりの凄さと貪欲さを知って欲しい。

  7. そのマシンはCybertruck用だとイーロン・マスクが言及していたと思います。ピックアップトラックのベッド(荷台)のフレームは従来のマシンでは足りないそうで。そのうちギガテキサスに搬入されるのを楽しみに待ちたいと思います。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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