フォルクスワーゲン電動化への鳴動〜『パワーデイ』が示したテスラに学び挑戦する覚悟

世界の電気自動車シフトが加速しています。ことに激しく鳴動しているのが世界一の自動車メーカーであるドイツのフォルクスワーゲングループです。3月15日には2030年までの電動化ロードマップを示すカンファレンス『Power Day』を開催。電気自動車でテスラに挑む覚悟を感じる内容でした。

フォルクスワーゲン電動化への鳴動〜『パワーデイ』が示したテスラに学び挑戦する覚悟

『Power Day』のポイントをピックアップ

自動車電動化の目的は、環境問題だけではありません。「脱炭素」は「脱化石燃料」ということであり、化石燃料は安全保障上のリスクでもあります。電動化は自動車が走るためのエネルギーを多様化し、新たな世界を構築する可能性があるのです。

さらに、きちんと電気自動車に乗ってみると実感できるのが、電気自動車はエンジン車よりも気持ちいいことです。今はまだ「電気自動車は高価」な状況が続いています。でも、充電インフラが正しく整い、同じような性能や価格の電気自動車とエンジン車がディーラーの店頭に並ぶようになれば、多くのユーザーが電気自動車を選ぶようになるでしょう。

デジカメがフィルムを駆逐したのと理屈は同じです。

欧州では電気自動車充電インフラの整備が加速して進展中。そして、世界最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲン(グループ)は電気自動車のアドバンテージに気付き、勇気を持って電動化へと大きく舵を切りました。

2021年3月15日、フォルクスワーゲングループは「2030年までのバッテリーおよび充電に関するテクノロジー・ロードマップ」を発表する『Power Day(パワーデイ)』と名付けたカンファレンスを開催しました。明示された目標は「電気自動車をできるだけ多くの人々にとって魅力的で現実的な選択肢とするために、バッテリー生産の複雑さとコストを大幅に削減すること」としています。

パワーデイの中で示された具体的な施策は、自動車の電動化にとって大切なことを教えてくれるものでした。すなわち、今の日本が抱えていてまだ解決の道が見えない課題を示唆してくれてもいるのです。ポイントをピックアップしてみます。

バッテリーのコストを最大50%削減

電気自動車を「多くの人々にとって魅力的で現実的な選択肢」とするために現状で最大の課題となっているのが、バッテリー価格です。パワーデイで大きく掲げられたのが「バッテリーのコストを最大50%削減」するという目標です。コスト削減の方法としては「セル生産の内製化」とともに、2023年から「新しい統一規格のセル」を生産。「2030年にはグループ内の全ブランドの電気自動車の最大80%に搭載」する予定であることを示しました。

フォルクスワーゲンが示す電動化戦略の筆頭に「バッテリーのコストダウン」が掲げられたのは、電気自動車作りがすなわちバッテリーの生産(調達)でもあるという現実を示唆しています。先日の記事『フォルクスワーゲンがノースボルトに約1兆5300億円相当のバッテリーを発注』でも紹介したように、世界ではバッテリー工場への1000億円レベルの投資を伝えるニュースが当たり前になってきています。日本でも4月にようやく『電池サプライチェーン協議会』の設立が発表されましたが、電気自動車用、ひいては定置型を含めた大容量蓄電池への注力が立ち後れている感は否めません。

240GWhの生産能力を備えた6か所のギガファクトリーを建設

多くの電気自動車を供給するためには、大量のバッテリーが必要です。パワーデイでは、2030年までに「ヨーロッパで合計6カ所のセル工場を建設」し、全体として「240GWhのバッテリーセルを生産することができる見込み」であるとしています。前述のノースボルトへの投資と調達契約もこの中に含まれています。

勝手な予想ですが、今後、広く普及していく電気自動車のバッテリー容量は30〜70kWh程度になるのではないかと思います。仮に1台平均50kWhとすれば、240GWhは480万台分に相当します。フォルクスワーゲンの2019年の販売台数は約1100万台なので、そのままの数字で計算しても40%以上を完全な電気自動車に置き換えることが可能です。

この目標を逆に考えると、世界のフォルクスワーゲンが全力で電動化を急いでも、10年後に年間500万台分に満たない電池工場しか計画できない。つまり、電池をいきなり増産するのは容易ではないということを示唆していると理解できます。

ヨーロッパの充電ネットワークを5倍に拡大

次に注目したいのが、充電ネットワークへの関与です。パワーデイでは、フォルクスワーゲンが『IONITY(アイオニティ)』などのパートナーとともに「2025年までに欧州で約1万8000カ所の公共急速充電スポットを運営」する目標を掲げ、欧州における充電ネットワーク構築のプログラムに約4億ユーロ(約520億円=年間100億円程度)を投資することを明示しました。

さらに欧州だけではなく、中国では約1万7000台、アメリカやカナダ(北米)ではIONITYと同様にフォルクスワーゲンも出資している充電インフラ企業である『Electrify America』のネットワークで約3500台の急速充電インフラ網を構築することに言及しています。

電気自動車メーカー自らが充電インフラネットワークを構築するのは、テスラが当初から行ってきた方法です。大きくまとめて理解すると「充電インフラネットワークは電気自動車の性能の一部」という考え方です。フォルクスワーゲンでは前述のように欧州ではIONITY、北米ではElectrify Americaに出資していました。また、先だってタイカンをローンチしたポルシェ(グループ企業のひとつ)が、独自の「ターボチャージャー」網を構築しつつあり、パワーデイの翌日である3月16日にはさらに高性能な電池開発を進めるとともに「欧州の主要道沿線に独自の急速充電ネットワークを構築」することを発表しています。今回の発表は、フォルクスワーゲンが今後の充電インフラ構築についてさらに積極的に関与していく姿勢を示したと言えるでしょう。

電気自動車をエネルギーシステムに統合

カンファレンスでは「電気自動車をエネルギーシステムに統合」する予定であることにも言及されました。日本発の急速充電規格であるチャデモが「V2H=Vehicle to Home」に対応していたことから、日本では早くから「走る蓄電池」としての電気自動車の価値が注目されていました。でも、欧米規格である『CCS(コンボ)』が基本的にV2H(つまり、車両から電気を取り出す機能)には非対応であることなどの理由から、テスラをはじめとする欧米メーカーの電気自動車はV2H非対応が標準的でした。

今回の発表では「太陽光発電システムからのグリーン電力を車両に蓄え、必要に応じて家庭用電力網に供給することができる」ことや、ユーザーが「公共電力網から独立した電源を持つことができるだけでなく、電気代を節約し、CO2 排出量を削減」できること。そして、フォルクスワーゲンの電気自動車用プラットフォームであるMEBをベースにしたモデルでは「2022年からこのテクノロジーをサポート」することが明言されました。

V2Hにはそれなりに高価な専用機器が必要なので、いきなりそれがスタンダードになるとは考えにくい面もあります。とはいえ、世界の自動車産業をリードするフォルクスワーゲンがV2H導入の意思を示した発表の意義は小さくありません。日常的にはそれほど距離を走らない電気自動車を蓄電池として活用し、自然エネルギー発電による電力の平準化が進むとしたら、電気自動車にはさらなる社会的価値が広がることになるのです。

テスラに学び、挑戦するトップの姿勢

パワーデイ以降も、フォルクスワーゲンの周辺からは電動化に関するニュースが続々と飛び込んできます。3月17日には、「2021年の成功」を予測するニュースリリースで、約30万台の完全電気自動車と15万台のプラグインハイブリッド車を販売する見込みであることを発表。その数日後には、アウディCEOの Markus Duesman 氏がドイツ紙のインタビューで「アウディはエンジン(ICE)の新規開発を中止する」と語ったことが伝えられ、22日にはフォルクスワーゲンも「エンジンの新規開発を終了する」ことを欧米メディアが伝えています。

ちなみに、こうした動きはフォルクスワーゲンに限ったことではありません。ジャガーやMINIは電気自動車ブランドへと進化することが発表されました。また、メルセデス・ベンツ(ダイムラー)が「すべての新型車はEVから開発」すると表明したことは、EVsmartブログの記事でも紹介しました。

自動車の電動化が加速する中、電気自動車産業のトップランナーがテスラであることは誰もが認めるところでしょう。今回のカンファレンスを『パワーデイ』と名付けたあたりも、テスラが昨年開催した『バッテリーデイ』を意識しているように思えます。電池工場を「ギガファクトリー」と呼ぶのもしかり。

2月には「マイクロソフトとの提携を通じて自動運転の開発を加速」することを発表。さらに3月5日には「ソフトウェア主導のモビリティプロバイダーへの変革を加速」するニュースリリースを発信しました。なんというか、フォルクスワーゲンはぐんぐん加速しているようです。

自動運転やOTA(Over the Air=通信によるソフトウェア更新システム)、ソフトウェア重視の自動車開発、広告宣伝費のカット、ネット直販の販売手法、企業トップのSNS発信などなど、今、自動車産業を変革しつつある事象の多くは、テスラが始め、切り開いてきた「方法」だったりします。

この記事をまとめるためにいろいろとネット検索をしていて発見し、ちょっとほくそ笑んでしまったのが、フォルクスワーゲングループのトップである Herbert Diess 氏が、テスラを率いるイーロン・マスク氏を参考にしたのでしょう、Twitterにアカウントを開設してさかんに情報発信していることでした。

今年1月21日、アカウントを開設した最初のTweetでは、イーロンへのメンションで「私たちの ID.3 とe-tronはヨーロッパで売れてるよ。建設的な議論を楽しみにしてます」と、フレンドリーなメッセージまで送っています。

テスラに学び、挑戦するトップの姿勢。そしてフォルクスワーゲングループのビジョンに敬意を表します。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. テスラの足を引っ張ろうとするのではなく、テスラに追いつこうとしているポジティブ思考な企業姿勢に好感を持てます。
    YouTube動画のコメントに上手い事言っている次の様なものがありました。
    EV主役の車社会への遷移に関し、
    ・出来ない理由を懸命に探しているのがトヨタ
    ・出来ることを懸命に追い求めているのがVW
    という感じだったかな?

  2. 発表を受けての国内メーカー幹部のコメントも知りたいな。
    「ここまで事業計画を練っていたとは、ビックリ。早すぎる」なのか、それとも「大風呂敷を広げておいて、どうせ過去みたいに、しれっと計画を縮小もしくは停止になるよ」なのか、知りたい。

  3. 日本国のEV化(純粋EV),再生エネルギー源の開発(現今18%)状況,急速充電システム(全国6千機程度),ギガファクトリー等は欧州連合と比較すると格段の遅れを感じている.菅総理が[脱炭素社会の形成及び構築,カーボンニュートラル]を宣言しているが,我が国は菅総理の重要な政治政策テーマー課題を真剣かつ真摯にこれらの実際の行動力がなされておらずはなはだしく欠如している.これらの諸問題点の根底はどこにあるのか❓人類の現状社会活動における大規模CO2排出量による地球温暖化問題やこれに起因する大気候変動問題等に伴う近未来の人類に降りかかる諸問題等の幼児時代からのほとんどの人が無教育であり無知識が主因と思われる.例えば,これらの諸問題点に対して高度に進捗している北欧のスエーディンは幼児期からこれらの教育が徹底されており義務化されている.そしてEV化(純粋EV)は80%超,再生エネルギー源開発比率は90%超である.政府,国民が一体となり[パリ協定の厳守]となりこれらの諸問題政策が解決されるのである.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

執筆した記事