キアの新型電気自動車『EV6』が日本以外の世界で発売へ〜アダプターでV2Lにも対応

現代自動車傘下の起亜自動車(Kia Motors =キア)は2021年5月27日、キア・アメリカなどを通じて新型電気自動車『EV6』の限定モデルの事前注文受付を開始しました。『EV6』はキアでは初めて現代自動車グループの電気自動車用共通プラットフォーム『E-GMP』を採用したEVになります。

キアの新型電気自動車『EV6』が日本以外の世界で発売へ〜アダプターでV2Lにも対応

車の基本部分をモジュール化した『E-GMP』を採用

キアは6月3日に、同社初のEVとなる『EV6』のファーストエディションモデルの事前予約を開始しました。台数は1500台限定で、アメリカでは保証金100ドル、ヨーロッパでは100ユーロで予約できます。保証金はキャンセルすれば返金されます。車のデリバリーは2022年第1四半期を予定しています。

その他の通常モデルの本格的な予約は2021年後半に始まる予定です。販売地域は、筆者が確認した範囲では韓国、北アメリカ、ヨーロッパ各国です。

『EV6』は3月30日に発表されたEVです。プラットフォームに現代自動車グループの『lectric-Global Modular Platform(E-GMP)』を使用している、キアとしては初めてのEV専用モデルとなります。

改めて『E-GMP』の基本仕様を見てみると、『EV6』のスペック性能がほぼ同じであることがわかります。ということで、まずは『E-GMP』の基本仕様を見てみます。

現代自動車グループは『E-GMP』をグループの中核技術とし、2025年までに23モデル、100万台のEVを市場に投入する予定です。この中には、2021年以降に現代自動車(ヒュンダイ)の新EVブランド『ioniq』から発売する車とともに、キアが2021年に発売予定のEVが含まれています。今回の『EV6』はこの計画に沿った1台ということになります。

『E-GMP』の特徴の主なものは、①衝突安全性まで考慮、②モーター、インバーター、バッテリー、充電器なども共通化、③後輪駆動が基本、④V2Lに対応していることだと言えます。イメージとしては、ラダーフレームの上にボディを乗せた昔の車のような感じでしょうか。

現代自動車グループでは、『E-GMP』では衝突安全性まで考慮していると説明しているので、上に載せるボディはどんなものでもいいことになります。通常、プラットフォームの共通化と言っても、上にボディを「ポコッ」と乗せるような車の作り方はしていません。でも『E-GMP』では、車の主要部分をまるごとモジュール化しているようで、ボディの自由度を大幅に高めていると考えられます。

実際、発表されている『EV6』の仕様を見ていくと、ほぼ、『E-GMP』発表時の仕様を踏襲していることがわかりました。足回りの特性は別にして、EVなら出力の制御はどうとでもなるので、プラットフォームが同じでもさまざまなタイプの車に対応できるということなのでしょう。今後のラインナップ拡充でどうなるのか、ちょっと楽しみです。

【関連記事】
現代自動車が電気自動車用プラットフォーム『E-GMP』を発表~欧米メディアも高評価(2020年12月5日)

最高グレードは0-100km/hを3.5秒!

『EV6』のスペックを見ていきましょう。『EV6』のグレードは『EV6』、『EV6 GT』『EV6 GT-line』の3種類ですが、動力性能はグレードの違いというよりも、バッテリー容量と駆動方法によって違いがあります。また、出力や航続距離などの数値はいずれも開発段階の目標値なので、発売時には変わっている可能性もあります。

まずバッテリー容量は、58kWhと77.4kWhの2種類です。1充電あたりの航続距離は明示されていませんが、77.4kWhで後輪駆動(2WD)の場合はWLTPのコンバインドサイクルで510km以上になるとしています。単純に割り算をすると、58kWhなら約382kmの航続距離があることになります。

『E-GMP』の発表時には、航続距離は500km以上としていたので、標準が77.4kWhという考え方になるのかもしれません。だとすると58kWhのタイプは廉価版というか、お買い得モデルという位置付けになりそうです。

最高出力はバッテリー容量や駆動方法によって違いがあります。駆動方法は、『E-GMP』の発表時にあったように基本は後輪駆動(2WD)です。これに前輪のモーターを追加した全輪駆動(4WD)がラインナップされています。

バッテリー容量が58kWhで全輪駆動の場合は最高出力173kWで、0-100km/hの加速性能は6.2秒、77.4kWhで全輪駆動だと最高出力239kW、5.2秒になります。最大トルクはどちらも605Nmです。後輪駆動の場合は、最大トルクはバッテリー容量に関係なく350Nm、最高出力は58kWhでは125kW、77.4kWhだと168kWになります。

EVではよくあることですが、搭載しているシステムは共通で、全輪駆動でも後輪駆動でもバッテリー容量によって出力を制御してるのかもしれません。だから一充電あたりの航続距離は、後輪駆動の77.4kWhが最長で、以降は77.4kWh/4WD→58kWh/2WD→58kWh/4WDという順番になりそうです。これも公式には発表されていないので、推測です。

なお、トップグレードの『GT』は、バッテリー容量は77.4kWhで、最高出力は430kW、最大トルクは740Nmという破壊力のあるスペックになっています。0-100km/hの加速性能は3.5秒、最高速度は260km/hだそうです。

加えて『GT』だけは、電子式のLSDがオプションのソフトウエアとして用意されています。現代自動車グループの社長兼研究開発部門の責任者、アルバート・ビアマンは、「専用のEVプラットフォームにより、広さとパフォーマンスの間で妥協する必要はありません」と述べ、『E-GMP』の特性を強調しています。

プラットフォームは『GT』も他のグレードと同じ『E-GMP』を使っているのですが、出力が段違いなので、ここだけはもしかしたらモーターが違うのかもしれません。また、一充電あたりの航続距離は他のグレードに比べて短くなる可能性があります。とにかく詳細情報がないので推測しか書けないのが辛いところです。

急速充電は最高350kW対応でV2Lも可能に

充電は、急速充電が800Vか400Vに対応しています。『E-GMP』は最大350kW/800Vも使用可能なのですが、インフラが未整備なこともあって400Vでも使えるよう、車側で充電電圧を制御しています。アダプターなしで400Vでも800Vでも使えるのは世界初だと、現代自動車グループはアピールしています。いずれにしてもコンボ規格での話なので、チャデモが普及している日本は関係ありません。普通充電は11kW/240Vのオンボード充電器が使用可能です。

バッテリーはLG化学かSKイノベーションのものを搭載していると思われます。形状は、リーフのようなラミネートタイプと考えられています。これも調達先は公表されていません。保証期間は10年です。

EVユーザーにとって大事なポイントになりそうなのが、V2L(外部給電)に対応していることでしょう。これも『E-GMP』の発表時に明らかになっていました、電力供給の出力は最大で3.6kWで、110Vと220Vのいずれにも対応可能です。とくに外付けのオプションは必要ないようで、キア・アメリカの公式HPの写真を見ると、充電口に外部給電のためのアダプターを接続しています。もちろん車にプラグの差込口(コンセント)があれば便利なのですが、そうではないようです。

充電口に差し込んでいるのはV2L対応のアダプターに見えます

その他、各グレードに共通の特徴は、回生ブレーキの強弱をパドルシフトで3段階にコントロールできるほか、モードを「回生なし」「オート」「i-PEDAL」に切り替えができます。「i-PEDAL」はご想像の通り、ワンペダルで発信→停止が可能なモードです。

ファーストエディションモデルの予約を開始

『EV6』の各グレードの価格はまだ発表されていませんが、アメリカの現地時間で6月3日に予約が始まる特別バージョン『ファーストエディションモデル』は、5万8500ドル(約642万円)と発表されています。

ここがまたややこしいのですが、『ファーストエディションモデル』は標準でラインナップされているグレードとは少し仕様が違っています。

発表されているスペックでは、『ファーストエディションモデル』は全輪駆動で、最高出力が320kW、最大トルクは446lb-ft(約605Nm)です。トルクは標準バージョンのバッテリー容量77.4kWhのグレードと同じですが、パワーは239kWhから大幅にアップしています。

おそらくそのためだと思いますが、一充電あたりの航続距離は、標準バージョンが300マイル(約480km)をターゲットとしているのに対して、『ファーストエディションモデル』は265マイル(424km)になっています。なお、アメリカでは必須のEPAモードによる航続距離は、2021年後半に公表される予定です。

ところで『ファーストエディションモデル』のデリバリーは、キア本社の英語版メディアサイトでは2021年第1四半期となっているのですが、キア・ヨーロッパのメディアサイトでは1号車は2021年9月に始まる予定と記載されています。ヨーロッパでの予約のための仮払金は100ユーロです。

地域によってデリバリーの時期が違うのはわかるのですが、欲を言えば本社サイトにまとめて紹介してもらえると、筆者としてはラクなんだけどなあ……と思ってしまいます。まあでも、普通は自国以外の販売状況はあまり気にしないですね。

キア・ヨーロッパでは『IONITY』の利用ができる充電パッケージプランも用意しています。『IONITY』なら350kWの恩恵を受けられます。CHAdeMOの進化がいつになるのか見通せない日本でからすると、羨ましいかぎりです。

というわけで、キアも本格的にEV市場に参入することがはっきりしました。アメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国に拠点を置く大手自動車メーカーはみな、電動化の比重を急速に高めています。商品が揃えば、ユーザーの目も肥えて、欲求も高まり、性能は上がります。そうした中で、温室効果ガスの削減という至上命題がベースにある以上、モビリティ全体の効率も上がっていくことを期待したいと思います。

その輪の中に日本がどのように食い込んでいくのか、動きの出てきたトヨタやホンダ、日産の巻き返しに注目です。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 韓国

    良い車を作りますが。日本人ユーザーは難しいから(汗)

    兎に角!品質にうるさい!
    iphoneよりも安くて!使いやすいのにサムソンのスマホの売り上げはイマイチ?

    自動車?
    安かろう悪かろうは、買わないから!

    まあ、でも日本で作られない車は買うかな?
    電気自動車バスとかね?

    中国のBYDバスは売れていますね!
    何台か日本に輸入されています!

    1. 羽柴健一様、コメントありがとうございます。サムスンのスマホ使ってますが、安定してるしアップデート頻繁だし、快適ですよ。
      https://www.counterpointresearch.com/global-smartphone-share/
      世界シェアも日本にいると感じにくいですが、Appleより上で1位です。こういう製品は電気自動車も含めて、いかに大量生産できるかが正否を分けると思います。そういう点で、品質重視の代わりに、販売数の優先度を下げてアプローチするのは、リスクの高いビジネスの可能性があるのではないかと思います。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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