京都の都タクシーがENEOSのEVリース事業と連携してBYDの電気自動車『M3e』を導入

新型コロナのまん延で厳しい状況になっている業界はたくさんありますが、中でも厳しいのがタクシー業界です。それでも、厳しい環境に抗うような新しい挑戦も始まりつつあります。そのひとつ、営業車に中国BYD製の電気自動車(EV)を導入した『都タクシー』でお話を聞いてきました。

京都の都タクシーがエネオスのEVリース事業と連携してBYDの電気自動車『M3e』を導入

BYDの乗用車を日本で初めてタクシーに利用

1997年12月に日本で初めて開催された「COP3」(気候変動枠組条約第3回締約国会議)の拠点になった京都市では、これまでにたくさんの電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)などがタクシーやバスなどの公共交通機関で利用されてきました。導入の試みは今でも続いていて、2021年1月20日には京都新聞などが、MKグループが2025年までに全車両をEVに切り替えることを目指していると伝えました。

それに先立つ2020年11月20日、エネルギー業界の大手ENEOS(エネオス)はEVのリース事業展開に向けた実証として、京都市を拠点とする『都タクシー』と協力することを発表しました。ENEOSはリリースの中で、実証試験の中でEVの走行データや充電記録などの情報収集し、EVリース事業の商品設計を目指した検討を行うとしています。

最終目的は、「カーシェア、メンテナンス、充電サービス、EVオーナー向けENEOSでんき供給などのEV関連サービスをパッケージ化して提供」することです。

でもEVsmartブログとして気になったのは、リリースの中で、実証に使うクルマが中国の比亜迪(BYD)製乗用車だと書いてあったことです。すでにリーフをタクシーに使う試みは日本各地で少しずつ進んでいますし、海外ではニューヨークのように大量導入を進めている都市もあります。でもBYDの乗用車タイプのEVは、世界ではたくさん走っていますが、日本には入ってきていません。もちろんタクシーは初めてです。

ちょっとマニアックな興味ですが、「これは見に行かないといけない」という指令が編集長から出て、まだ寒風吹きすさぶ2021年の2月末に都タクシー本社にお邪魔しました。

明るい社長の深イイ話〜「i-MiEVをタクシーに使ってました」

都タクシーの筒井基好社長。

京都駅から近鉄京都線に乗り換えて南に下り、上鳥羽口駅で降りて少し歩くと、輸送会社などが並ぶ中に都タクシーの看板が見えました。都タクシーの設立は1940年。創業81年目になるタクシー業界の老舗です。

今回の取材に対応していただいたのは、筒井基好・代表取締役社長と、澤井貫二・部長代理のお二人です。実は取材申し込みの電話をした時に対応していただいた澤井さんがとても明るい話し方だったので、当初は取材も澤井さんにお願いできればと思っていました。ところが筒井社長にお話を聞くと、さらに上を行くマシンガントークで興味深い話がぽんぽんと出てきたのでした。

というわけで、まずは筒井社長へのインタビューをお届けしたいと思います。

ー今回、ENEOSの協力でEVを導入されましたが、もともとEVに関心はあったのでしょうか
「とくに電気自動車への関心が高かったということではないのですが、『i-MiEV』が出た時に使ってみました。出たばかりで500万円くらいしましたけど、将来はEVも十分に選択肢に入るだろうと思っていたので、試しに使ってみる必要があるだろうなと。まだEVが(タクシーにとって)実用ではないのは十分に承知してました。でも我々のようなタクシー会社が電気自動車を導入する社会的な意義は大きいのではないかと考えたのと、こういう車をお客さんが体験するのも大事なのではと思ったんです」

ー実際に使ってみて、どうでしたか。
「お客さんには好評でしたが、長い距離は走れないので実用的にはまだまだのレベルでした。それでも乗ってもらったお客さんは電気自動車は初めてだし、我々としてはナイストライアルでした。あ、軽自動車って本当はタクシーに使うのは認められてないんです。でも国交省と交渉して、電気だからっていう意義を認めてもらったんです。初めての試みだからって」

ーどうしてそこまでしてEVを使うのですか。
「環境に優しいというのはいいことだし、そこに向けて積極的な行動をすることが大事だと思っているんです。社会貢献が好きなんです。だから時には、商業ベースに乗るかとか、利益が出るかどうかは後でもいい。私たちがやることが有益なら、社会はそのうち認めてくれるだろうと思うし、それが会社の役割じゃないのかって思うんです。でもi-MiEVは早すぎましたね」

都タクシーの初代EVタクシーはi-MiEVでした。

そう言って筒井社長は笑っていました。確かにi-MiEVをタクシーに使うのは、えらいチャレンジングなことだと思います。そこに飛び込んで実験してしまう都タクシーの挑戦者精神には感心というか、敬服するしかありません。

「使ってみないとわからない」けど「使えばわかる」

都タクシーでは、最初に導入した『i-MiEV』を約5年間にわたって使用したそうです。でも筒井社長によれば、走行距離は1日平均で50キロくらい。トータルで3万キロほどにとどまったと言います。

では『i-MiEV』のあとはどうしたのだろうと思って、「そのあと、リーフでやろうとは思わなかったのですか」と聞くと、間髪を入れず、「やりましたよ」と返事が返ってきました。

もう今はタクシーには使っていない、元タクシーのリーフ。

「リーフが出た時に入れました。24kWhのです。i-MiEVは(1回の充電で)70kmくらいしか走らないって言われていて、リーフは130kmは走るって言われていたから、『これでいけるやんけ』って思いました。i-MiEVよりはずっといいっていう、経験に基づいた感触です」

ー経験しないと、使えるかどうかはわからないということですか。
「そう、わからないです。リーフの時はうちだけではなく、京都で何社か一緒に入れてましたし、PHEVのプリウスも出ていたので、みんなやってました。結局、実用にはならなくてなんとなく立ち消えましたが」

ーリーフの使い勝手はどうでしたか。
「i-MiEVよりはいいですが、通常の使い方をするのは無理でした。でもi-MiEVとリーフの経験から、『次の電気自動車はこのくらいの性能があれば実用に耐えるんだな』っていうことがわかりました。大事なのはそこじゃないかと思います。何台も使ってきて、無駄ではない経験をしたと思います」

EVを使ってきた経験から、必要なスペックがわかるというのは至言だと思いました。別の言い方をすれば、使わなければ何が必要なのかもわからないということです。

EVについて日本では今でも、航続距離が、充電時間が、という批判が先行することがあります。でも本当にそうなのかどうかは、使い方や使う人によるはずです。個人的には、例えばベンツ『Sクラス』やトヨタ『86』が万人向けではないのと同じだと思いますし、そもそも万人が便利に使えるものの方が少ないのではないでしょうか。そのあたりのさじ加減を、都タクシーの筒井社長は経験値として体得しているのだなと思いました。

EVを通じて、自分の成長と新しい産業の成長を同時進行で感じる子どもたち

そんな筒井社長がリーフの次に導入したのが、BYDの『M3e』でした。筒井社長は、知人から「中国がすごい」という話を聞いて関心を持ち、そうこうしているうちにENEOSによるEVリースの話が入ってきて、「我々と考えてることが同じだ」と思ったそうです。筒井社長はこう言います。

「ENEOSさんはエネルギーのことについて考える。僕らは僕らで、どういうことが環境改善につながるのかを考えながらやってきました。最初にi-MiEVを導入してから10年で、僕らのそんな思いを実現できるくらいに技術が追いついてきたということかなと思います」

もともと都タクシーでは、『i-MiEV』や『リーフ』は観光客向けの予約専用で使っていました。また、筆者のようなオジサン世代では想像がつかなかったのですが、現代の学校の修学旅行で京都に行く時は、小グループに分かれてタクシーで移動することが多く、ドライバーが引率とガイドを兼ねるそうです。修学旅行なので、行く先々ではとにかく歩くことが多く、中高生に付き合って1日中歩き回るとヘトヘトになるそうです。

だから1日の走行距離は50kmにもならず、一充電の航続距離が短いEVでも十分に利用できました。筒井社長は、「i-MiEVもリーフも、修学旅行に使うとすごく喜ばれました」と嬉しそうに話してくれました。

「EVを見たことも、乗ったこともない子どもたちにとっては、初めての体験です。とくにi-MiEVの時には驚いてました。それだけでも導入した値打ちはあったかなと思っています。それに彼らは、修学旅行で乗った電気自動車がどうなっていくのか、これから感じていくんですよね。自らの成長と、世界の産業の成長を、車を通じて感じることができるのはいいなって思いますね」

新型コロナの影響もあり、EVを普通に「流し」で使う

では、満を持してという感じで導入した『M3e』の使い勝手はどうなのでしょうか。

本来は、今までのEVと同じように観光客向けの予約に使おうと思っていたそうですが、今は新型コロナ禍の真っ直中。外国人観光客が多かった京都のタクシー業界は大きな影響を受けていて、存続の危機にあります。観光客需要はほとんど見込めません。

だから導入した『M3e』も予約用というわけにはいきません。ではどうしているのかと思いきや、なんと「流し」で、普通の内燃機関のタクシーと一緒に運行しているそうです。これにはちょっと驚きました。

新型コロナの影響もあって、都タクシーに『M3e』が入ったのは2021年2月で、それから4月上旬までに約3000kmを走ったそうです。澤井部長代理によれば、街中を流すしてお客を乗せる方法だと、通常は1日に約150~200kmを走るそうですが、新型コロナの影響で走行距離が少なくなっているのかもしれません。

とはいえ、仮に通常営業のように1日の走行距離が150kmくらいになっても、『M3e』なら十分に走れると、澤井部長代理は言います。エアコンやヒーターを使うとバッテリー残量の減り方が早くなりますが、それでも途中の充電なしで走れるそうです。

●M3eスペック(BYDのシンガポール向け公式ページより)
一充電での航続距離 300km
最高速度 100km/h
最大出力 70kW
最大トルク 180Nm
モーター 永久磁石式交流同期モーター
バッテリー NCMリチウムバッテリー
容量 50.3kWh
充電対応能力 直流急速40kW/交流6.6kW
全長 4460mm
全幅 1720mm
全高 1875mm
定員 7人(3列/2+2+3)

たぶんIEC 62196-2 Type2の規格。単相でも3相でも使えますが、都タクシーでは急速充電はしてません。

トライ・アンド・エラーをしながら前に進む

そんなお話を聞いた後、『M3e』の後部シートに乗って少しだけ会社の周りを走ってもらうことができました。中国製EVの乗用車は、初めての体験です。ぼくが運転してお客に手を上げられても困るので、とりあえずは乗客体験です。

走り出して最初に感じたのは、「あ、EVだ」という、ボキャブラリーの少ない筆者にとっては書き方に困る感覚でした。要するに、それだけ車の完成度が高いということですね。十数年前に上海や北京でよく乗った中国製タクシーは、なかなかスペシャルな乗り心地でした。いろいろなところからギーギーという音が聞こえたり、ショックが抜けきってる感じがしたり、走ればいいだろ的な部分が少なからずあるのが普通でした。中国に限らず、新興国のタクシーは総じてそんな印象がありました。

それに比べると、ごく普通の車になっています。当たり前ですが、エアコンも付いてます。ギーギーとか言いません。まだ新しいこともあるのでしょうが、ちゃんとサスペンションも働いています。澤井部長代理がドライバーから聞いた話では、少しショックが固めで、お客が乗ると落ち着くそうです。

ただひとつ、問題があるとすれば自動ドアがつかないことだそうです。『M3e』はスライドドアなのですが、お客を拾うときにドライバーが素早く降りてドアを開ける、という作業が必要です。こうした部分は「日本車が最高ですね」と筒井社長は言います。

後席の取り付け部のカバーがないなど質素な作り。

でも、「だからといって、やらない理由にはならないと思っています」と、筒井社長は言葉をつなげました。

「こうした細かいことでも、日本人的な経営感覚だとやらない理由になるでしょうけど、今はトライしていかないといけない時だと思ったんです。それに、最初のi-MiEVやリーフに比べれば、自動ドアが付かないなんていうのは気にならないですよ。最初の頃に比べたら車としては素晴らしいくらいです。そういう意味では、今までの練習が効いているんです」

そして筒井社長は、今後のことについてこう話しました。

「時代が、トライ・アンド・エラーに変わってるじゃないですか。万全のものから、トライ・アンド・エラーが必要なものに変わってきている中で、古い業界はなかなか変われないけれども、そこはがんばって少しずつ勇気を出して取り組んでいるのが、都タクシーかなって思っています。だからエラーも増えますよ。でもいちどやってみると、トライするスピードは早くなるんですよ」

日本の大手企業は、成功体験が大きいために社会の変化を受け入れられず、新しい分野への挑戦が遅れて後手後手になっていることが多いのではないかと感じることが増えています。そんな悪循環を、会社の規模は違いますが、創業81年の老舗が吹き飛ばそうとしています。

ところで『M3e』の担当ドライバーは、もともと外国人観光客を想定していたので、英語、ロシア語、中国語で京都案内ができるそうです。忙しい時期はほとんど、日本語を話さない日もあったとか。

そんな話をしながら、筒井社長から、「絶賛、EVは動いてます。いつでも京都に遊びに来てください」と、京都観光をお薦めされました。新型コロナ禍のパンデミックが収まったら、EVで京都観光を試してみたいと思ったのでした。いや、筆者は修学旅行が京都ではなかったこともあって、ちゃんと回ったことがないもので、先の楽しみがひとつ増えたのでした。

「そうだ、京都へ行こう」と思ったら、都タクシーで『M3e』を体験してみてください。

EVへのエネルギー供給からメンテナンスまで包括するENEOSのEVリース事業

さて、ここでENEOSの「EVリース事業」についてお伝えします。ENEOSがこの事業の助走段階となる実証を発表したのは2020年11月でした。リリースによれば、EVの動きについてENEOSは、「世界的に進む地球温暖化対策を追い風にヨーロッパや中国を中心にEVの普及が加速しており、日本国内においても、各大手自動車メーカーが新車の発売を発表するなど、今後更にEVの普及が進むことが想定」されると分析してます。

こうした動きに対応するため、ENEOSではBYDのEVを2台、都タクシーと共同で運用しEVリース事業を展開するための基礎情報の収集を行っています。

リース事業の狙いについてさらに詳しい情報をENEOSに問い合わせると、このような回答がありました。

「今後、自動車の所有の形は、「購入」から「カーシェア利用」や「カーリース」のようなサービスに変わっていくと言われています。当社としては、サービスステーション(以下SS)にて培った地域密着型ビジネス・お客様との接点を活かして、このモビリティ事業に積極的に取り組んでおります」

「一方で、政府や東京都が発表しておりますとおり、自動車の電動化は間違いなく進んでいきますので、当社としては、EVリース事業についてもいち早く取り組むことが重要と考えております。これまでお客様のカーライフを支えてきたSSにて、EVへのエネルギー供給からメンテナンスについても提供できる環境を整えることが、お客様の更なる利便性向上に繋がると考えております」

石油関係の会社では、出光がタジマモーターと『出光タジマEV』という新会社を設立して超小型EVの開発を手がけるなど、気になる動きが出てきています。ENEOSの新事業にも期待したいところです。

化石燃料からの転換は容易ではないでしょうが、海外に目を向ければロイヤル・ダッチ・シェルがヨーロッパで急速充電設備をすごい勢いで増やしたりしています。脱炭素に向けた動きは国外ではすでに急加速しているので、パリ協定にアメリカが再参加したことで日本に対するプレッシャーが急激に強まるのは、間違いありません。失われた30年と言いますが、この先も失ったままにならないことを祈るばかりです。

(取材・文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. まさにeNV200の兄弟車ですね! 日産も60kWh版を出せばミニバンとして売れたんじゃないかと思いますが・・ 悲痛な思いで「日産がんばれ!」と言いたいです。
    シンガポールでもBYDタクシーがプリウスを駆逐しているようですし、本当に大変な事になっていますね。

  2. なんかベースは海外版のNV200によく似てますが、国内版のe-NV200の40kWh版じゃコスパ悪かったんでしょうね。もう買えませんが。

    1. 外観だけでなくインパネ周り含めてまんまeNV200のパクリで笑えますね、流石中国の面目躍如といったところです。
      しかしバッテリー容量は50kwhとは頑張ってます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

執筆した記事