『ET7』発表の『NIO Day 2020』に痛感した「世界は前進している」事実

中国のEVスタートアップ企業であるNIOが、1月9日に開催した『NIO Day 2020』で、電気自動車の新型セダン『ET7』を発表。2022年には150kWhの固体電池搭載モデルを発売することも発表しました。刮目すべきポイントをチェックしておきます。

『ET7』発表の『NIO Day 2020』に痛感した「世界は前進している」事実

ユーザー投票で開催都市は「成都」に決定

NIO(上海蔚来汽車)は「中国版テスラ」とも呼ばれる2014年に誕生したEVスタートアップの代表格といえるメーカーです。

ユーザーを招待する祭典でもある『NIO Day 2020』の開催都市は、約4万人のユーザー投票で決定。260人以上のユーザーがイベントの計画立案にも参加、ユーザーが結成した「NIOバンド」が主題歌である『Always Forward』を披露しました。

『NIO Day 2020』の様子は、YouTubeのNIOチャンネルで公開されています。

NIO Day 2020(YouTube)

3時間以上の長い動画ですが、よくある発表会動画のようにイベント開始まで長々とティザーとBGMが流されるようなことはなく、内容は盛りだくさん。テレビCMのようなイメージ映像のほか、先進的な工場の様子、NIOが参戦するフォーミュラEドライバーのコメント、広大なスタジアムに詰めかけた参加者の様子やインタビュー、さらには、NIOユーザーの俳優陣が出演するドラマまでありました。

CEOのWilliam Li氏が登場するのは、1時間45分頃から。「Always Fowerd(常に前進)」をキャッチフレーズとするイベントらしく「2020年は変化の年だった。NIOは明るい未来へ前進する」という言葉から、約30分におよぶプレゼンテーションが始まりました。

新型セダン『ET7』を発表

NIO公式サイトより引用。

新たな最新電気自動車である『ET7』は、2時間4分過ぎに紹介されました。NIOとしては4車種目の市販モデルにして、初めてのセダンモデルです。

電池容量はまず70kWhモデルと100kWhモデルがラインアップされ、価格は70kWhモデルが44万8000元(約720万円)、100kWhモデルが50万6000元(約813万円)です。NIOではバッテリーを車両本体とは別に定額制で利用する「BaaS(Battery as a Service)」のプランも用意しており、その場合の価格は、70kWhモデルが車両本体37万8000元(約608万円)+電池月額980元(約1万6000円)、100kWhモデルも車両本体は同額で電池月額が1480元(約2万4000円)となります。

【関連記事】
電気自動車用バッテリーがサブスクに~中国から始まる新しいEVの使い方(2020年9月27日)

William Li氏のプレゼンテーションでは、『AQUILA』と名付けられた、800万画素のカメラや「LiDAR」を採用した高度なセンシングシステムや、『ADAM』と呼ぶコンピューティングプラットフォームについて熱心に説明。最新の自動運転&安全性能を備えていることが強調されました。

自動運転システムは、月額680元(約1万1000円)のサブスクリプションで提供されるオプション設定となるようです。

ET7は2022年のQ1(第一四半期)をメドにデリバリーが始まるそうです。ET7のオーナーには「車両保証」「自宅充電設備設置」「充電」「バッテリー交換」「ロードサービス」「コネクテッドサービス通信費」などが終身無料で提供されることも、誇らしく説明されました。今のところ、NIOの電気自動車が日本で販売される計画などは聞かないですし、NIOとしても日本市場なんて眼中にないでしょうから、日本のユーザーとしては指をくわえて見ているしかありません。

「固体電池」の150kWhモデルも発表

発表の中でさらに驚かされたのが、固体電池(Solid State Battery)の150kWhバッテリーモデル発売が発表されたことです。「全固体電池」は、現在の電気自動車用電池の主流である液体を使ったリチウムイオン二次電池の欠点を改善し、より高いエネルギー密度や充電性能を実現する技術として期待されていて、日本でもトヨタが開発に注力していることが知られています。

トヨタは2020年のうちには何らかの発表をする意向を示していましたが、今のところ具体的な商品化計画などは発表されていません。NIO Dayのプレゼンテーションでは、シリコン系の負極(アノード)材料と正極(カソード)にニッケル系の材料を用いること、エネルギー密度が360 Wh/kgと非常に高いことなどが説明されたものの、詳細や価格はまだわかりません。

発表された内容だけを改めて考察すると『電気自動車の進化に必須といわれる「全固体電池」は実用化できない?』(2019年11月19日)でテスラ誕生の立役者のお一人でもある雨堤さんが「今、ベンチャー企業が発表している全固体電池は、半分以上がポリマーです。ポリマーは固体ではないんですかっていう話ですよね」と指摘していたポリマー電池に近いように思えます。

ともあれ、NIOでは「固体電池」の150kWhモデルを2022年のQ4にはデリバリーすることを明言。すでに量産体制が確立されていることも発表しました。このままいけば、また、今回のNIOが発表した固体電池がトヨタなどが開発している「全固体電池」と呼べるものであったとすれば、全固体電池EVの量産化世界一番乗りは、トヨタでもテスラでもなく、NIOだった! ということになります。

さらに、「固体電池」の150kWhバッテリーは、すでに市販されている「NIOモデルと互換性がある」ことも発表されました。つまり、何年も前からNIOはバッテリーのアップグレードを可能にすることを想定して車両開発を行ってきたということです。

バッテリー交換ステーション設置もスピードアップ

もうひとつ刮目すべきトピックが、電気自動車に充電するのではなく、バッテリーパックを丸ごと交換する『パワースワップステーション』の設置をさらにスピードアップして、現在177カ所であるのを、2021年末までに500カ所にするとしています。さらに「車両が自動でステーションに入り、ユーザーは中央のディスプレイを1回タップするだけで、車両から降りることなくセルフサービススワップを開始できる」という『PowerSwap Station 2.0』を展開することも表明しました。

EVのバッテリー交換システムはテスラでも試行錯誤の末に断念した方法です。テスラの背中を追いかけながら、テスラを凌駕するためのEVづくりを目指してきたNIOならではの、ユニークなサービスだと感じます。ちなみに、自動運転用のハードウェアとしてLiDARを使うことにもテスラは否定的ですが、NIOのET7には採用されています。

2020年末現在で、NIOの累計販売台数は75,641台。自動車メーカーとしてはまだ駆け出しレベルでしょう。でも、固体電池であったり、バッテリー交換システムといった、既存の巨大な自動車メーカーが一朝一夕には追いつけないプロダクトやサービスをすでに展開しつつある。それが、世界の現実ということですね。

2019年末には資金調達のゴタゴタで経営危機も伝えられたNIOですが、まさに息を吹き返しての快進撃。1人のEVユーザーとして「バッテリー交換方式」ばかりが正解だとは思いませんが、躍進するNIOのチャレンジにはこれからも注目していきます。

NIOもテスラも、現状のラインナップはまだまだ「高級車」ばかりです。でも、アメリカではテスラモデルYのスタンダードレンジがおよそ4万ドル(約420万円)で発売されたり、2万5000ドルとされるモデル2の登場が秒読み段階となっています。数年後、NIOが量産に成功した固体電池を大容量の高級車モデルだけではなく、50kWhの大衆的なモデルとして展開してきたら……、などと想像すると。日本で暮らす日本人であることが、ちょっと恨めしい気分です。

※コメントでのご指摘を受けて「全固体電池」としていた表現を見直し、本文を修正しました。(2021年1月15日)

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)18件

  1. それと単純に全個体電池については、最終市場としては(世間に出回ってる性能が本当に出るとして)大きなのは自動車市場でしょうけど、それこそまずはスマートフォンとかノートPCあたりのモバイル家電、後はドローン、次に生活家電みたいな身の回りのものが先になるんじゃないですかね?それこそ既存のニッケル水素やリチウムイオン電池がそうだったように。

    安川様も言う通り、何電池だろうが絶対的なエネルギー量を短時間で急速充電するとなればその時間の消費電力は膨大です。
    せいぜいスマホ程度ならその心配はない

    まあスマホ程度なら電源はどこにでも充電できますけど、充電忘れがない(一気に充電できる)という程度の利便性でも今のスマホに依存しきった人なら需要はあるでしょうし

  2. 本当にお久しぶりです。hahaha
    何年前安川さんのブログを拝見致しました。

    二年前。日本で大学院卒業後、中国の広州に務めました。
    仕事内容において、ちょうどメーカーさんにAutomaton解決案を提供するものです。広州というところの工業核心といえば、自動車産業です。
    日産・トヨタ・ホンダって3つ日系メーカー及び広州汽車や小鵬汽車のような中国系メーカーも活躍しています。
    その中、広州汽車は中国国有企業なので、広州市内のタクシーを電動化させ、圧倒的に広州汽車の純EV(SUVとセダン)を指定させました。何回も運転手と雑談したことがあり、航続距離が大体450kmに達することができまして、一日分の仕事量とぴったりだと気がしました。日本のタクシー業界に関するドキュメンタリーを観たことがあります。実態が独占なので、ずっとCrownを指定されているでしょう。

    また、小鵬汽車というベンチャー企業もテスラさん負けない実力があると思われます。社長さんもアリババ系出身なので、冒険主義者の特徴がつけながら、P7ってEVを発売した後、好評されました。僕も一回乗ったこともあります。確かに好評と同じように、ハイテクのファクターを溢れると思います。

    ちなみに、中国現地の日系メーカーも少しだけ遅れたにも関わらず、ハイブリット車から純電気自動車にシフトしていく設備投資がいよいよスタートしているらしいです。特にバッテリーに関するサプライヤー連携が頻繁に投資ニュースを見られています。そもそも自動車業界に強い影響力がある日系メーカーさん(特に広東省に日系の人気あり)は、無視していけない主力軍だと思います。

    情報シェアなんですけど、このブログをまた拝見させていただきまして、本当に懐かしくと思い、感謝の気持ちを伝えたいと思っております。

    最近、ご健勝をお祈り申し上げます。(マスクを必死にお付けください)

    ありがどうございます。

    Jimmy より

    1. Jimmy様、コメント及び現地からの情報ありがとうございます!日経メーカーも電池に投資し始めたとのこと。また少しずつEVシフトしつつあるということ。お聞きして良かったです。こちらでは、未だに中国はEV辞めてハイブリッドにシフトしたとか、訳のわからないニュースが飛び交っています。

  3. 全固体電池搭載車がようやく実用化されそうですね。
    充電スタンドなどの問題を抜きにしても、航続距離も満タンになる時間もエンジン車並みであれば、リチウムイオンなんて使うのが馬鹿馬鹿しく思えてきます。
    この電池を日本で売っているリーフのリチウムイオン電池や中古エンジン車のエンジンと交換して走れるようになればすごい普及率になるんじゃないかと個人的には思います。

    1. Fuji様、コメントありがとうございます!私も全固体電池については、安全性の面で期待しています。充電速度の向上については、私は少し疑問を持っています。
      # 水を差すわけじゃなく、一応意見としてお伝えします。
      全固体電池で充電速度が本当に向上できるのか。リチウムイオン電池においては、当然のことながらリチウムプレーティングやSEIと呼ばれる電極の劣化が、充電速度を制約していることはご存知の通りです。全固体電池ではこれらの問題を避けやすくなると思いますが、逆に、内部抵抗は当然のことながらリチウムイオン電池より高くなり、これが充電速度を制約すると思います。またそれ以前の問題として、仮に250kWの充電設備があったとして、これでも15分間で62kWhしか充電することができず、ガソリン車並み、というのは不可能であることがお分かりいただけると思います。
      充電設備は高出力化の一途をたどっていますが、高出力になればなるほど、設備内に蓄電値を装備するなどよりコストのかかる設備となり、デマンドチャージ等の電気代(基本料金に相当します)も上昇します。すなわち、ガソリン車並みを求めるのは、高コストが伴うというわけなのです。例えば250kWの電気を電力会社から直接調達する場合、東京電力の高圧電力だとすると
      https://www.tepco.co.jp/ep/corporate/plan_h/plan10.html
      250[kW] x 1815円 = 453,750円/1基
      4基の場合、181万円の基本料金が毎月かかります。
      全固体電池の安全性が高いことは期待できると思いますが、充電速度については、配電網やコストにも課題があり、全固体だから解決できる問題というものでもなかったりします。

    2. 全固体電池も「リチウムイオン電池」の一種です。従来型との違いは電解質が液体から固体に変わったのでこと。

  4. 補足です。
    Teslaは否定していませんがNIOは?って感じです。

    https://youtu.be/9oIRHR-FKjI

    この動画を見れば2019年時点でグロスロスおこしています。つまり、1台売るごとに損益が出てる状況です。この上に更にバッテリーのサブスクとか電池交換ステーション500箇所とかますますコスト高なことをしようとしているので株価をつりあげて転換社債で資金調達使用としているのでは。

  5. hybrid電解質をプロセス中に固化
    と発表しているので電解液を使っている可能性はあります

    IMECもイオン液体の電解液を超多孔質シリカに含浸させた「固体電池」を開発しており
    それに似たものかもしれません

    本当に世間一般に言われる「全固体(all-solid-state)」であるのかは不明です

    なので、高温でも使える、燃えない、高速充放電できる・・・などといった、全固体電池に期待されている特性を実現できているかに注目すべきです

    1. Cm2p様、コメントありがとうございます。日本メーカーが目指している全固体とはちょっと定義が違うようですね。リンク先のMoneyball氏は非常に情報通のようでTwitterもフォロー推奨です。
      https://twitter.com/DKurac

    2. Cm2p さま、コメント、ご指摘ありがとうございます。

      初見で「solid-state」=全固体じゃん! とやや前のめりとなり、筆が滑りました。
      ご提示いただいたリンクとともに、改めて動画のアーカイブも確認したところ、ご指摘のようにプレゼンでは「solid-state battery=固体電池」としか表現されておらず、容量密度は向上しているものの、「高温でも使える、燃えない、高速充放電できる」といった「夢の電池」ではなさそうです。
      先だってテスラのバッテリーデイで発表された「改良」にも似てますね。

      本文を修正しました。

      修正でも紹介したインタビューで、電池研究者の雨堤さんが指摘していた「電解質に容量は支配できない」「研究者が全固体電池に振り回されて、実際に必要な、例えば正極材の新しい材料を開発するなどの研究が進んでいない」といった言葉を思い起こしました。少なくともNIOやCATL、TESLAは「そこ」を真摯に進めている、と感じます。

      従来比容量密度1.5倍の固体電池。実売価格の容量単価ががあまり変わらなければ、十二分に画期的だと思います。

    3. 返答ありがとうございます

      EV向け電池は
      「容量コスト削減と安全性とが第一優先、充放電高速化が第二優先」
      といった方向で進んでいると個人的には理解しています

      全固体(all-solid-state, full-solid-state)であるか否かはあくまで
      これらを実現するための一つの手段に過ぎないので
      「○○電池」の○○には踊らされず、コストとスペックで冷静に判断すべきと思います

      なお、電解質の固体化では容量を直接的には支配できませんが、間接的には向上しうるため
      世界中で固体電解質の適用に向けた研究開発がされているのが現状です

      それに対して固体電解質以外の工夫で改善している勢力も当然存在し
      いずれともが真摯に開発を進めていると私は思っています

  6. 日本語で書かれているNIO ET7の記事がEV Smartさん以外に見つからないところが、日本の自動車産業とマスコミの闇を感じます。

  7. 成功を否定するコメントが、自動車に限らず日本が停滞してることの証だと感じるのは悔しいが現実かな。
    チャレンジできる社会は成長するのを認めざるを得ない

    1. ここの人たちとか全個体電池なんて不可能だとか実現できないとか言ってたんですけどね

      本当に「何を言ったか」ではなく誰が言ったかなんですよね。

    2. an様、コメントありがとうございます。

      NIOの件はまだ詳細が発表されていないので何とも言えないのですが、トヨタさんが開発している全固体電池とは異なるもののようですね。

  8. NIO はまだ一度も黒字化していないし、電池のサブクスシステム、コストのかかる電池交換ステーション500箇所とか全個体電池とかコストがかかり過ぎる方針はあまりにも現実味が薄い気がするのですが株価は確かに大幅に上がってるので資金調達のための狙いなのかも知れないと考えてしまいます。

  9. NIOも普及価格帯モデルももうすぐ出しますよ。
    自分も欲しいですが貧乏な日本は眼中に無いでしょうね。
    欧州(ノルウェー)の次はやはり米国の噂が出てます。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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