トヨタとパナソニックの新会社がリチウムイオン電池の生産体制を強化〜不思議な合弁会社はなぜ生まれたのか

トヨタとパナソニックの合弁会社「プライム プラネット エナジー&ソリューションズ」は10月6日、徳島県に生産ラインを新設して車載用リチウムイオン電池を増産することを発表しました。計画している徳島工場の年間生産量はハイブリッド車50万台分に相当します。

トヨタとパナソニックの新会社がリチウムイオン電池の生産体制を強化〜不思議な合弁会社はなぜ生まれたのか

※冒頭写真はトヨタRAV4PHVの駆動用電池システム。写真はイメージです。

EV用バッテリーも手がけるプライムプラネット

PPES公式サイトから引用。

トヨタとパナソニックは2020年4月1日に、合弁会社「プライム プラネット エナジー&ソリューションズ」(以下、PPES)を設立しました。出資比率はトヨタ51%、パナソニック49%で、代表取締役社長はトヨタ出身の好田博昭氏が務めています。取締役の人数は、代表取締役を含めてトヨタ3人、パナソニック2人です。

PPESは、ハイブリッド車および電気自動車(EV)用の角型リチウムイオン電池の開発、製造、販売を手がけるほか、全固体電池や、それ以外の車載用次世代バッテリーの開発や生産なども事業内容としています。

既に生産を開始していて、PPESの広報担当者によればバッテリーの供給先はトヨタに限らないそうですが、どこに出しているかは非公表です。

4月1日の設立時の従業員数は約5100人で、うち中国が2400人を占めていました。その後、従業員が増えたようで、10月6日のリリースでは5600人となっています。中国の人数は公表されていません。

生産拠点は、国内は兵庫県加西市と姫路市、淡路島の洲本市と淡路市東浦、中国の大連の5カ所で、ここに、今回発表した徳島県松茂町の生産ラインが加わります。生産拠点には、もともと三洋電機が電池生産をしていた工場も含まれています。

ハイブリッド車用バッテリーの生産ラインを新設

PPES公式サイトから引用。

PPESは10月6日に、ハイブリッド車用角型リチウムイオンバッテリーの生産拠点を新設することを発表しました。PPESとして生産ラインを新設するのは今回が初めてになります。

【参考情報】
プライム プラネット エナジー&ソリューションズ公式ニュースリリース

生産ラインが新設されるのは、パナソニックの社内カンパニー、インダストリアルソリューションズ社の徳島工場内で、プライムプラネットが賃借する形になります。新設ラインは2022年に稼働予定で、生産能力はハイブリッド車約50万台分になる見込みです。

バッテリーの種類がNMCになるのか、それともパナソニックがアメリカのギガファクトリー1で生産しているNCAになるのかについて、プライムプラネットの広報担当者は、現時点での回答は控えるとのことでした。

ではハイブリッド車50万台分の電気容量はどのくらいになるのでしょうか。トヨタが詳細を公表していないのであくまで推定ですが、仮にすべてがプリウスのリチウムイオンバッテリーになるとして換算すると---

バッテリー容量:3.6Ah
システムの総電圧:207.2V
1台あたりの電気容量:3.6×207.2=745.9Wh
50万台:372950000Wh=約0.37GWh

プリウスPHVの駆動用電池。

プリウスのデータは自動車技術会の「オートテクノロジー2018」を参照しています。プリウスのバッテリーは、ニッケル水素だと6.5Ahですが、リチウムイオンだと3.6Ahになります。リチウムイオンバッテリーは第2世代になって充放電の効率が上がったため、容量が小さくても性能は十分だそうです。

もちろんこの総容量は推測にすぎないのですが、プライムプラネットの0.37GWhという増産計画は、EVsmartブログで紹介してきた海外メーカーの数字と比較すると、まだまだこれからという印象を受けます。

EV用バッテリーで先行する海外メーカーは大増産を計画

例えばノースボルトはこの8月に生産目標を上方修正し、年産40GWhまで増やすと説明しています。さらに今後10年間で年間150GWhの生産能力の獲得を目指しています。

【関連記事】
ノースボルトが電気自動車用バッテリーのギガファクトリー用に30億ドルを投資(2020年8月14日)

ノースボルトに関しては、フォルクスワーゲンが2019年6月12日に、ノースボルトとの合弁会社を設立して2023年か24年に年産16GWhのリチウムイオンバッテリーを生産する計画も発表しています。

また2020年2月28日付の日経新聞は、CATLの2019年の出荷量は32.5GWhで、今後2~3年の間に中国国内で52GWh、ドイツで14GWhの年間生産能力を有する工場を新設する予定と報じています。

こうした状況を見ると、世界的にEV用リチウムイオンバッテリーの生産競争が加熱していると言っても過言ではありません。そしてその生産量に比べると、プライムプラネットの規模が小さいことは否めません。

ギガファクトリーに巨額の追加投資をしたパナソニック

そして本命のテスラですが、ネバダ州のギガファクトリー1の生産能力を高めるためにパナソニックが百数十億円を投資して新規の生産ラインを立ち上げる計画が明らかになっています。

ギガファクトリー1は、年間生産能力35GWhを目指していましたが、2020年初頭時点では目標に届いていなかったため、パナソニックの津賀一宏社長は2019年11月の記者会見で、35GWhの目標を「早期に実現するとともに、電池の中身を変えていくことで、大きな追加投資なく、生産性をあげることがファーストプライオリティ」と述べています(2019年11月26日付CNET JAPAN)。

テスラは、2020年度に年間50万台の生産を目指していて、既報のように中国ではCATLやLG化学からもバッテリーを調達しています。そうした中でパナソニックの対応が注目を集めていました。

パナソニックの津賀社長は、テスラと一蓮托生の心づもりがあるようで、日経X TECHのインタビューの中で「私(パナソニック)の役割はパートナーであり続けることを担保することである。パートナーであり続けるということは、テスラが赤字であれば我々も赤字に甘んじてでも支え続ける」という方針を話しています。

さて、ここで疑問が浮かんできます。トヨタの方針です。

トヨタは何を考えているのか?

トヨタは1997年に初代プリウスを発売するにあたって、当時の松下グループ(松下電器産業、松下電池工業)と合弁でニッケル水素バッテリー生産のための合弁会社を1996年に立ち上げました。会社の名前は、パナソニックEVエナジーです。略称はPEVEです。

当初の出資比率は、松下グループが60%、トヨタが40%でした。まあ、名前を見れば松下グループ主導ということはわかりますね。

その後、2005年の増資でトヨタの出資比率が60%になって主従が逆転。2010年にはトヨタが出資比率を現在の80.5%超に引き上げ、社名がプライムアースEVエナジーになりました。

でも略称は、設立時と同じPEVEです。どうでもいい話ですが、ゴロを合わせるのにちょっと苦労をしてそうです。

そうした経緯があってバッテリーを自社に取り込んできたトヨタが、なぜ今になって、再びパナソニックと新しい合弁会社の作ったのかが、筆者にはよくわかりません。新会社のプライムプラネットと、元からあるPEVEの役割の違いをトヨタ広報に確認したところ、プライムプラネットはハイブリッド車だけでなくEV用の新規の電池や全固体電池などの次世代電池の開発をする、という回答でした。

ではPEVEでは何をするかというと、ハイブリッド車用のニッケル水素バッテリーとリチウムイオンバッテリーを手がけるそうです。

いやいやいや、でも作るのは同じ電池だし、それならPEVEでやればいいのでは?って思うのが自然ではないでしょうか。

2社が別々にリチウムイオンバッテリーの開発、生産をするのは、電池事業が基本的に設備産業であることを考えると合理性に欠けます。しかも、すでに合弁会社はあるのですから、事業規模を拡大するだけで済むはずです。

それなのに同じ提携相手と別の合弁会社を立ち上げて、同じような事業をするのです。なぜもう一社、別の合弁会社が必要だったのでしょうか。この点について、トヨタ広報から明確な回答はもらえませんでした。

PPES設立に関連して、パナソニックが車載バッテリー事業で苦戦しているのでトヨタ頼みになっているという記事も見かけます。でもギガファクトリーとPPESでは、生産量が文字通りケタ違いです。

またパナソニックはこれまでギガファクトリーに最大2000億円ともいわれる投資をしています。テスラ向けの事業が黒字転換に苦労しているのは事実ですが(歩留まりが公表されていないので実態が見えませんが)、将来的にはともかく、現時点では相対的に規模の小さなトヨタとの事業がテスラ関連事業を補完できるとは思えないので、パナソニックがトヨタを頼るという構図はちょっと違うようにも感じます。

ちなみにパナソニックは、PPES設立に当たって約650億円分の株式をトヨタに譲渡することになっていました。これを見ると、パナソニック傘下にある三洋電機とトヨタの間で、大規模な資産の移動があり、PPESは基本的に三洋電機とトヨタの資産を承継して運用されているようです。

【参考資料】
車載用角形電池事業に関する合弁会社化に伴う 連結子会社(孫会社)の異動のお知らせ(2020年2月3日)

そんなこんなの想像を巡らせると、むしろこの件については、リチウムイオンバッテリー開発のために、トヨタがパナソニック傘下にある三洋電機を引き込んだようにも見えてしまいます。もともとパナソニックのリチウムイオンバッテリーは三洋電機の技術が中心だったので、そのあたりも関係していたりするのかもしれません。

まあこれは単なる推測で、具体的な裏付けがあるわけではありませんが、奇妙な会社の成り立ちを考えると、こうしたうがった見方もしたくなります。

そんなこんなで、各所でバッテリー関連事業の動きが活発になってきました。EVを取り巻くビジネス環境が急変する中で、出遅れていた巨人、トヨタの新たな動きは市場にどう影響するのかしないのか。PPES設立の狙いも含めて、今後の動きが気になるところです。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. どうみてもトヨタは電池供給能力足りまへんなぁww日産には完全に負けてる。
    足りない場合の供給元変更ですら三菱には追いついてまへん(GSユアサ系のみならず東芝からSCiB供給を受け最強BEV・アイミーブM爆誕ですから)。
    トヨタなんざ今までのHV成功から日が浅くなく、体制も固まりむしろHVから身動き取れぬほどに…驕れる者も久しからず、盛者必衰ともなりえませぬぞ。

    言ってしまえばトヨタは恐竜、対する日産や三菱はネズミのような哺乳類…6500万年前の大地殻変動期にどっちが生き残るか!?でしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

執筆した記事