新星「Rivian」が完全電気自動車のピックアップトラックとSUVを発表

数ヶ月前に「第2のテスラ」をめざす「Lucid」をお伝えしましたが、今度は新星の「Rivian」が登場しました。しかも世界初の「電気自動車ピックアップトラック」を携えて…。2020年の発売が検討されています。

新星「Rivian」が完全電気自動車のピックアップトラックとSUVを発表
ピックアップはとかく無骨になりがちだが、Rivian R1Tは角の取れた直線や水平に繋がったリアランプなどでBEVらしい未来感を出すのに成功している。Rivianの公式サイトより転載。
ピックアップはとかく無骨になりがちだが、Rivian R1Tは角の取れた直線や水平に繋がったリアランプなどでBEVらしい未来感を出すのに成功している。Rivianの公式サイトより転載。

アメリカのロサンゼルスではこの記事執筆時点、「ロサンゼルス・モータ-ショー(2018 LA Auto Show)」が開かれています。一般公開は2018年11月30日から12月9日までの予定で、ビュイック、シボレー、フォードといったアメリカ勢をはじめ、メルセデス、VW、ポルシェ、BMWといったドイツ勢、フィアット、アルファロメオなどのイタリア勢、ジャガー、ランドローバーなどのイギリス勢、トヨタ、日産、ホンダ、マツダなど日本勢、ヒュンダイと、世界の自動車メーカーおよそ30社が出展しています。次世代自動車系では、このところ「モデル3」が絶好調なテスラももちろん参加しています。

そうしたなか、次世代自動車系で最も目を引いているのが、新興の「Rivian(Rivian Automotive Inc.)」です。モーターショーの始まる数日前に相次いで発表されたものが世界を驚かせています。もちろんショーにも出展されていますが、それは、世界初の「完全電動(BEV: Battery Electric Vehicle)」の「5人乗りキャブを持ったピックアップ・トラック」の「Rivian R1T Truck」です。 今までどこのメーカーもBEVのピックアップ・トラックなど出していませんし、近々出すと表明していたところもありませんでしたから、驚きが広がって当然ですね。Rivianは引き続き「7人乗りのSUV(Sports Utility Vehicle)」である「Rivian R1S」も公表しました。いずれも完全な電動車で、自動運転にもある程度対応しています。さて、Rivianを「新興」と書きましたが、じつは2009年の設立で、すでに600人ほどの従業員が働いていて、それなりの歴史もあります。

まずは、先に発表されたピックアップ・トラックの「R1T」のスペックをRivian社の公式サイトの情報から見てみましょう。

Rivian「R1T」の荷台のようす。照明が点き、荷台中央部分の蓋の下にスペアタイヤが収まっている。Rivianの公式サイトより転載。
Rivian「R1T」の荷台のようす。照明が点き、荷台中央部分の蓋の下にスペアタイヤが収まっている。Rivianの公式サイトより転載。

1. 航続距離:643km(400マイル)以上
2. 加速:およそ100km/h(60mph)まで3秒
3. 積載量:800kg
4. 牽引力:5,000kg
5. 全長:5,475mm
6. 全幅:2,015mm
7. ホイールベース:3,450mm
8. 出力:750hp(4モーター)
9. トルク:14,000Nm
10.ディパーチャー・アングル/アプローチ・アングル:34°/30°
11. フロントトランク/リア荷台(*ギア・トンネル):330L/350L

Rivian R1TのGear Tunnelと名付けられた有蓋荷室。Rivianの公式サイトより転載。
Rivian R1TのGear Tunnelと名付けられた有蓋荷室。Rivianの公式サイトより転載。

*「ギア・トンネル」とは、キャブの「2列目席」と「無蓋の荷台」の間に設けられた「有蓋の荷物収納スペース」のことで、車体左右に取り付けられたリッド(蓋)を開けることで使えます。内部には照明も点き、車体幅とほぼ同じの長さの物も風雨に晒されずに積むことができます。

続いて、7人乗りSUVの「R1S」のスペックは以下の通りです。

Rivian R1Sのインテリアが見えるカットモデル。Rivianの公式サイトより転載。
Rivian R1Sのインテリアが見えるカットモデル。Rivianの公式サイトより転載。

1. 航続距離:643km(400マイル)以上
2. 加速:およそ100km/h(60mph)まで3秒
3. 積載量:800kg
4. 牽引力:3,500kg
5. 全長:5,040mm
6. 全幅:2,015mm
7. ホイールベース:3,075mm
8. 出力:750hp(4モーター)
9. トルク:14,000Nm
10.ディパーチャー・アングル/アプローチ・アングル:34°/30°
11. フロントトランク/リアトランク:330L/180L

ピックアップの「R1T」のフロント席まわり。共通プラットフォームを使うため、SUVの「R1S」も同様のものと予想される。Rivianの公式サイトより転載。
ピックアップの「R1T」のフロント席まわり。共通プラットフォームを使うため、SUVの「R1S」も同様のものと予想される。Rivianの公式サイトより転載。

車内も未来的な雰囲気でまとめられており、直線基調のデザインは車外と同じながら、木質の素材も使われており、未来的なだけでなく、環境に優しく心和む演出も忘れていません。中央にタッチスクリーン、運転席前にも別のスクリーンと、2つのディスプレイが設けられているところはいかにも「次世代自動車」の印象です。自動運転は現時点では「レベル3」までを予定しているようですが、その後のソフトウェア・アップフレードでさらに高度な自動化に対応できるよう、各種センサー類やGPSも装備しています。

Rivianが「Skateboard」と名付けている「共通シャシー(chassis)」。バッテリーはもとより、操舵系もサスペンションも駆動系も全て装着されている。Rivianの公式サイトより転載。
Rivianが「Skateboard」と名付けている「共通シャシー(chassis)」。バッテリーはもとより、操舵系もサスペンションも駆動系も全て装着されている。Rivianの公式サイトより転載。

「R1T」も「R1S」も、同社が「スケートボード」と呼ぶ「駆動用バッテリー、パワートレーン、サスペンション、操舵系類」などを搭載した「共通プラットフォーム」を基に設計されるので、コクピットも似たような形になると予想されます。VWが同じようにプラットフォームを共通化しているのが思い出されますね。

さて、この記事を執筆中にもう少し詳しい情報が出てきました。Jeff Nisewanger氏が編集長を務める、EVと再生可能エネルギー、化石燃料車を置き換える技術などを紹介するサイト「Electro Revsの2018年11月29日の記事」が、Rivianの2台のBEVに関して、他では伝えられていない「バッテリー容量」、「バッテリー・モジュール」、「熱移動システム」そして、「ワンペダル操作」について、さらに詳しく伝えています。

1. バッテリー容量
Rivianでは、テスラを上回る大容量のバッテリーを搭載する予定です。最も小さなものが「105kWh」ですが、これはテスラの現行の最大容量の「100kWh」を超えています。真ん中の容量が「135kWh」、最大のモデルは「180kWh」を搭載し、「640km(400マイル)」の航続距離を誇ります。充電時には、通常のCCSポートを介せば「160kW」まで出せると様々なメディアが今回伝えていますが、Rivianの発表によると、搭載容量の大きいモデルの電池でも、30分もあれば「320km程度(200マイル)」走る分の電力を充電できるそうです。

2. バッテリー・モジュール
Rivianが搭載するバッテリー・モジュールは結構厚みがありますが、これは「21700(2170とも呼ばれる)」という円柱状のセルが「立てて」積まれているからです。このセルはテスラのネヴァダのギガファクトリーでパナソニックが作っているものと同じで、テスラ最新のモデル3が採用していることで知られています。Rivianはどこからこのセルを入手しているか明らかにしていませんが、ギガファクトリーからではないでしょう。サムソンなども21700の製造する能力を持っていますから、どこかと手を結んでいるのでしょう。Rivianはまた、「カソード(cathode)」の組成を明らかにしていません。現在の主流は、テスラの採用するNCAと、他のメーカーが採用するNMCの2つですが、どちらも公称電圧(nominal voltage)は3.6Vで同じです。NCAやNMAに関してもう少し詳しく読みたい方は、こちらの記事を参照してください。

LAオートショーで立てて展示されたRivianの「Skateboard」シャシー。黄色いのが電池モジュールで、電池容量の大きなモデルの上から2タイプまではこれを12個、最も小さい容量のモデルだと9個搭載する。Electric Revsの記事より転載。
LAオートショーで立てて展示されたRivianの「Skateboard」シャシー。黄色いのが電池モジュールで、電池容量の大きなモデルの上から2タイプまではこれを12個、最も小さい容量のモデルだと9個搭載する。Electric Revsの記事より転載。

セルは「セル・グループ」の中では「並列」で接続されます。さらに上位の塊である「モジュール」の中では、セル・グループは「直列」に接続されます。最も小さな電池容量のモデルでは、この3.6Vのセル・グループが12個直列接続されて、およそ43Vの公称電圧を産み出します。 最終的にはモジュールは直列に接続されますが、モジュール数・セル数・パックの容量にかかわらず108のセル・グループが協調して働くように制御されます。そして108個のセル・グループが389V(またはフル充電時でも450V以下)という一定の電圧を出すよう制御されます。余談ですが、ジャガーのI-PACEもアウディのe-tronも、これと同じ「108セル・グループ」のシステムを採用しています。電池容量別のモジュール数、セル・グループ数、セル数をまとめてみると以下のようになります。

105 kWh容量モデル:
9 モジュール、モジュールあたり12セル・グループ搭載、セル・グループあたり56セル搭載、合計6,048セル

135 kWh容量モデル:
9 モジュール、モジュールあたり12セル・グループ搭載、セル・グループあたり72セル搭載、合計7,776セル

180 kWh容量モデル:
12モジュール、モジュールあたり9セル・グループ搭載、セル・グループあたり96セル搭載、合計10,368 セル

モジュールの並べ方ですが、ピックアップ・トラックの「R1T」ではホイールベースと車体の長さを活かしてそのまま搭載し、SUVの「R1S」では前後長は少し短めにして、短くした部分は後席下のところに積み増して搭載しています。後席下のスペースにバッテリーを積むレイアウトは、シボレーBolt EVやヒュンダイ、Kiaなど他社でも採用しています。

3. 熱移動システム
RivianのRichard Farquhar氏によると、冷却・保温のためのクーラントシステムには、全体を統括する水をベースとした「メインループ」と、少なくとも2つの「サブ・ループ」、それにグリルにマウントされたラジエーターが接続されているそうです。

第1のサブ・ループはモーター、モーターインバーターなどのコンポーネントの温度管理を担当し、第2のサブ・ループはバッテリーパックを担当します。コンピューター制御のバルブとポンプが、こうしたループとラジエーターを「単独で動作」させたり、「繋げて協調して動作」させたり、最適な熱移動ができるよう制御します。たとえば、バッテリーパックは独自にヒーターを持っていますが、場合によってはモーター・モーターインバーターのループに貯まった熱を利用する方が効率が良いこともあります。これは第3のサブ・ループであるキャビン(乗員の乗る区域)の温度管理をするループとも協調して動きます。

4. ワンペダル操作
「力行(りっこう:powering / transfer of force)」と「回生(regeneration)」をシームレスに行えるのがワンペダル操作です。簡単に言えば「加速」と「減速」ですが、これをテスラをはじめとする多くのBEVのように、アクセルペダルだけで行うと言うことです。「日産ノートe-Power」はこれを大々的に宣伝して売り上げに貢献したのが記憶に新しいですね。RivianのBEVにも当然搭載されています。

極低速時はふつう、物理ブレーキを併用しフルストップまで持って行きます。BMWのi3や日産リーフもそうです。RivianのCharles Sanderson氏によると、Rivianではそれに加えて「モーターのトルクを使って制動するシステム」も搭載しているそうです。このシステムのおかげで、20%までの勾配でも、物理ブレーキの助けを借りずにモーター・トルクで車輌を停止させたままにしておけます。ドライバーがブレーキペダルを踏む強さによって、物理ブレーキに移行するのを早めたりといった制御もしています。多くの他のEVと同様、Rivianもボッシュの「iBoosterブレーキシステム」を採用しています。

LAのオートショーで展示されたRivian R1S。フロント周りはいかにもEV。Electric Revsの記事より転載。
LAのオートショーで展示されたRivian R1S。フロント周りはいかにもEV。Electric Revsの記事より転載。

Rivianは正直のところあまり知られていない会社ですが、財政的側面を見てみると、すでに出資を決めた住友商事をはじめ、世界の複数の企業が提携しており、工場に関しては、三菱自動車が撤退したアメリカ・イリノイ州の工場をすでに購入しており、生産実現の可能性は高いように思われます。生産自体は2020年から始まりますが、「R1T」や「R1S」の購入を予約するには「1,000ドル(約11万4000円)の予約金」を支払う必要があります。価格はバッテリー容量により変化しますが、EVへの税優遇を適用したあとの価格は、ピックアップの「R1T」が「6万1500ドル(日本円でおよそ698万円)」から、またSUVの「R1S」が「6万5000ドル(およそ740万円)」からとのことです。また一つ、魅力的なBEVが地球上に姿を現しそうです。

(文・箱守知己)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. 初コメです!
    電気自動車きてますねー、日本のメーカーも頑張ってほしいですが波に乗り遅れてますよね(^_^;)

    リーフに余り魅力を感じれないので、model3購入予定です

    ちょっと関係ない質問かもしれませんが、米の電気自動車購入時の控除金額7500ドルというのは何年からスタートした補助制度なんですかね?

    日本もこういった補助をもう少し手厚くしてもらえると助かりますよね?

  2. 公式でTank modeがあるって言ってましたよ!
    公式PVでもオフロードで使ってました。
    三菱の工場も手に入れたみたいですしかなり期待できますね。Rivian

  3. この車、四輪独立モーターなので
    信地旋回できるみたいなんですよね。
    これぞEVって感じがします。

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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