電気自動車メーカー『リビアン』が量産車第1号をラインオフ〜約800万円だけどお買い得かも

アメリカの電気自動車製造のスタートアップ企業『リビアン』のRJ・スカーリンジCEOは、2021年9月15日(日本時間)にTwitterに、量産ラインから第1号の車を送り出したと投稿しました。いよいよテスラに続くEVの新興企業が走り出しました。

電気自動車メーカー『リビアン』が量産車第1号をラインオフ〜約800万円だけどお買い得かも

リビアンが量産車の第1号をラインオフ

日本のユーザーにはあまり関係がないけど気になる話題、第3弾。電気自動車(EV)メーカーのスタートアップ企業『リビアン』は、現地時間で2021年9月14日に、量産第1号車を生産ラインから送り出したことを発表しました。リビアンのRJ・スカーリンジ最高経営責任者(CEO)は、1号車のラインオフの様子をこんなふうにTwitterに投稿しました。

「何か月にもわたって量産試作で車を作ってきましたが、今朝、私たちのお客様向けの最初の車がノーマル工場の生産ラインを離れました! 私たちのチームが総力を結集し、この瞬間を可能にしたのです。車をお客様の手に届けるのが待ちきれません!」

Twitterの写真は、ラインオフする第1号車を囲んだ従業員の人たちの、たくさんの笑顔で埋まっていました。

スカーリンジCEOはさらに9月25日にTwitterで、創業から11年以上という長い期間、リビアンを支えた従業員やその家族に対する感謝の気持ちを述べました。

リビアンは、2009年に創業したスタートアップ企業です。本社はカリフォルニア州アーバインです。またリンクトイン(LinkedIn)を見ると、アメリカに本社を含めて5カ所、カナダに1カ所、イギリスに1カ所の計7カ所に拠点を置いています。

拠点のうち車を生産する工場は、シカゴの南西約200kmに位置するイリノイ州ノーマルという町にあります。もとは三菱自動車の工場だったのですが、2015年に閉鎖され、2016年にリビアンが買い取りました。三菱自動車の工場で働いていた従業員の一部はリビアンが継続して雇用しています。

リビアンが送り出した量産車の第1号車は、写真を見るとピックアップトラックの『R1T』です。このほか、リビアンは2列シート5人乗り、または3列シート7人乗りのSUV『R1S』も販売しています。ローンチエディション以外の『R1S』の納車は2022年1月に始まる予定です。

4モーターのスケートボードプラットフォーム

まずはアウトラインから紹介しましょう。ピックアップトラックの『R1T』、SUVタイプの『R1S』ともにグレードが3種類あります。このうちひとつはローンチエディションで、先行販売分に限るグレードです。2022年1月をめどに、恒久的なグレードの納車が始まる予定です。価格とグレードは以下の通りです。

●『R1T』
Launch Edition 7万3000ドル(完売)
Adventure Package 7万3000ドル
Explore Package 6万7500ドル

●『R1S』
Launch Edition 7万5500ドル(完売)
Adventure Package 7万5500ドル
Explore Package 7万ドル

日本円にすると、7万3000ドルは約814万円、6万7500ドルは約753万円、7万5500ドルは約842万円、7万ドルは約780万円です(1ドル111.5円で計算)。

プラットフォームは、上物に何を乗せても構わないスケートボードタイプです。駆動は、4つの車軸にモーターを配した4モーター方式のAWDです。

ちなみにこのプラットフォームは、少し前まではフォードが利用してリンカーンからEVを出す計画がありました。しかしコロナ禍の中でフォードは協力関係を解消。つい最近、独自のシステムでピックアップトラック『F150』のEVを発売しました。

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フォードはプラットフォームの共同利用は中止したものの、リビアンに対する投資は継続していて、7月にAmazon傘下の基金などとともに追加の出資をしています。

800馬力のピックアップトラック

ではスペックを見ていきましょう。ここでちょっと愚痴になりますが、リビアンのWEBサイトで数字を拾おうと思ったら、えらく大変なのでした。まとまった形で出ていないだけでなく、あちこちの説明書きの中で数字を紹介しているので、端々まで見ていかなければなりません。

とにもかくにも数字を探し出してまとめてみました。

リビアン『R1T』『R1S』スペック

R1T(ピックアップトラック)R1S(SUV)
価格6万7500ドル〜7万ドル〜
全長/全幅/全高(mm)※5514/2077/19865100/2077/1963
ホイールベース(mm)※34493075
車両総重量/GVWR(kg)3870kg不明
定員5人5人/7人
動力系
駆動方式AWD(4モーター)
モーターAC3相交流
最高出力(前輪)162kW×2(415PS)
最高出力(後輪)163kW×2(420PS)
最大トルク(前輪/後輪)560Nm/672Nm
0-60mph加速3秒
走行可能水深3フィート以上
消費電力
一充電航続距離(EPA)314マイル(約505km)316マイル(約508km)
電費(EPA)3.35km/kWh3.28km/kWh
電気系
バッテリー容量(推定)約150kWh
AC充電対応出力11.5kW/1.3kW(120V)/7.6kW(240V)
DC急速充電対応出力200kW
ユーティリティ
オンボード電源120V×4個/12V×2個
※サイズはインチをミリメートルに換算
※バッテリー容量はEPAの電費から推定

前述したように、駆動方式は『R1T』『R1S』ともに、4輪それぞれの車軸に3相交流モーターを配した4モーターシステムです。最高出力は前後輪ともに400馬力以上で、単純に足し算をすると835PSになります。最大トルクは前輪560Nm、後輪672Nmで合計1232Nmです。なんとも言いようがないパワーです。

例えばポルシェ『タイカン』の最大トルクが1040Nmなので、軽く超えています。単純にパワーとトルクで車のコスパを見るなら、『タイカン』が2000万円を超えているのに対して、リビアンの2車種はいずれも800万円前後なので、かなりお得感があります。

加速性能は、0-60マイル(時速100km弱)を3秒です。トルクが1000Nmもあれば、このくらいはいくだろうなと思いつつ、車重(車両総重量)が3870kgもあることを考えると呆れた動力性能です。小型トラックが高性能スポーツカー並の加速力を持っている感じです。

大きさも小型トラック並です。『R1T』は全長5.5m、全幅2m以上、ホイールベースが3449mmです。でかいです。フォード『F150 Lightning』にリビアンが続いたことで、アメリカで人気のフルサイズトラックにもEVの選択肢が広がりつつあります。

興味深いのは、『R1T』と『R1S』でホイールベースが374mmも違うことです。ボディ形状に合わせてプラットフォームの伸縮が自在なのでしょう。共通フレームの上に用途別のボディを乗せるのがトラックの特徴のひとつですが、リビアンのスケートボードプラットフォームは、そうした構造を継承できるシステムになっているようです。

重いだけに電費は厳しいが航続距離は500km確保

『R1T』、『R1S』はともに、4モーターを備えているためにトルクベクタリングも可能です。ゼロスタートから最大トルクを出せるEVは、もともと内燃機関(ICE)の車に比べて悪路の踏破性に圧倒的な優位性がありますが、4モーターになることで無敵感がさらに増すように思えます。

それはリビアンとしてもアピールポイントのようで、公式サイトのスペック欄には動力性能ではなく、グランドクリアランスや走行可能水深、アプローチのアングルなどが一覧で示されています。と言っても筆者はオフロード性能に詳しくないので、90cm以上の水深でも走れるとか、最低地上高が約38cmあるのを見てなんとなく「すごいのかも」と思うくらいなものですが。

ただ、考えてみると水深90cmということはスケートボードのプラットフォームの高さまでは完全に水没します。それでも問題ないということは、室内に水が入るのを気にせずタイヤが駆動力を伝えられれば、もっと深くても行けるということかもしれません。

このあたりは、いずれアメリカの物好きたちがテストをしそうです。テスラ『モデルX』のフロントガラスの強度を検証するために実弾を撃ち込んでしまうユーチューバーがいるのですから、水の中を走るくらいは気にしないでしょう。

気になる電費は、2022年モデルとしてEPAのサイトに掲載されていました。それによれば、電費は『R1T』が3.35km/kWh、『R1S』が3.28km/kWhです。1回の充電での航続距離は約500kmとなっています。

決して電費がいいとは言えませんが、総重量で4トン近い車重を考えると奮闘している印象も受けます。なお、牽引能力は最大11000ポンドで、フルキャパシティーで引っ張る場合は航続距離が半分程度になります。

バッテリータイプと容量は非公開ですが、EPAが公表している電費と航続距離から単純に推計すると、約150kWhになります。なお『InsideEVs』では、バッテリー容量は135kWhと推定しています。また今後はバッテリー容量が多いタイプと少ないタイプが追加される予定です。

保証もあります。まず車全体については5年または6万マイルのどちらか早い方が期限です。バッテリーパックは、8年または17万5000マイルのどちらか早い方で、容量は70%を保証しています。

1kWhあたりのバッテリー単価は、車両価格が800万円でバッテリー容量が150kWhだとすると約5.3万円、135kWhでも約5.9万円です。現状ではかなりお買い得なEVともいえそうです。

充電ネットワークは自動車メーカーが用意するのが常識の時代へ

充電は、急速は最大200kWに対応しています。リビアンは、今後は300kWまで対応予定と発表しています。時期は明らかではありません。

充電ネットワークは、リビアンは独自で整備するようです。アナウンスによれば、『Rivian Adventure Network』という名称で、2023年までに600カ所の充電設備に3500基以上の急速充電器を設置する計画です。電力は、100%を再生可能エネルギーで調達する予定です。

この他、J1772の規格を採用した公共充電設備を、アメリカとカナダに整備していく予定です。こちらの名前は『Rivian Waypoints』で、計画では2023年までにレベル2対応の普通充電器を1万基以上、導入するとしています。充電対応出力は11.5kWです。

リビアンが整備する充電ネットーワークは急速も普通もリビアンユーザー専用で、プラグを車に差し込むだけで充電ができるシステムにしているそうです。

専用施設だけでなく、CCSと互換性があるので既存施設も使えます。スマホにリビアンアプリを入れておけば、空き状況も含めて表示されるようになっています。

この他、家庭での充電やポータブル充電器を使った120Vや240Vでの充電も可能です。自宅に充電器を設置する場合は、OTAでのアップデートが可能になります。

今に始まったことではないのですが、リビアンやテスラだけでなく欧州自動車メーカーの充電インフラに対する考え方を見ていると、インフラがないからEVが普及しない、EVがないからインフラが増やせないという、日本ではいまだに残る「ニワトリとタマゴ」議論が時代遅れになっていることを感じます。

EVと充電インフラは、自動車メーカー自らがセットで手がけるのが標準的な手法になってきました。テスラの成功から、充電インフラを自前で揃えることに大きなメリットがあることが見えてきたのではないでしょうか。

あるいは、第三者への丸投げではいつまでたっても前に進まないことを実感したのかもしれません。いずれにしても自動車メーカーが車だけ作っていればいい時代は、とうに終わったと言えそうです。

購入者には自宅まで車を持ってきてくれる

このほか、リビアンの便利装備としては、『R1T』には120Vのコンセントが4個と、12Vが2個付いてます。おそらく『R1S』にも同様のアウトレットがあるとは思うのですが、公式サイトでは確認できませんでした。

自動運転や周辺を確認するためのカメラなどは標準で装備しています。

ではリビアンの車を買うときにはどうすればいいのでしょうか。なんていうのは、愚問でした。新興自動車メーカーらしく、オンラインで簡単に予約、購入ができます。手付金は1000ドルです。

納車は、自宅も含めて希望の場所に車をデリバリーしてくれるそうです。なんだかアメリカっぽいですねえ。また、納車から7日間、あるいは1000マイルのいずれか早い方までは、返品が可能です。クーリングオフですね。なんとなく安心です。

現在、リビアンはテストドライブのキャンペーンを実施中です。オンラインで予約すればスケジュールが出るそうです。テストドライブの頻度や場所は、サインインして申し込むとわかるのでしょうが、ライセンスナンバーなどを登録する必要があるので日本からはダメっぽいのでした。まあ、この試乗だけのためにアメリカに行くという選択肢は、ないですが。

創業から生産まで11年かけたリビアン

最後に、リビアンの現状などについて補足します。リビアンは、創設から第1号車のラインオフまで11年をかけています。今から約2年前、2019年11月のロサンゼルスオートショーで、リビアンは『R1T』と『R1S』のプロトタイプを出展しました。この時にニューヨークタイムスは、なぜリビアンは生産を始めるまでに10年近くもかかったのかという問に対する、リビアンのRJ・スカーリンジ最高経営責任者(CEO)のコメントを伝えています。

「(私たちは)すべてのピースを並べたんです」

ニューヨークタイムスは「すべてのピース」というのは、技術開発事業計画の作成、組織の構築、サプライチェーンと生産システムの設定で構成されていると解説しています。

この時点でリビアンは、生産関連のエンジニアリング担当者に、ジープで『グランドチェロキー』や『ラングラー』の生産に携わったジェフ・ハモウド氏、マクラーレンで『MP4-12』などの開発をしたマーク・ヴィネルズ氏などを雇用しています。

それでも、ラインオフまではさらに2年を要しました。その間に、リビアンには日産、トヨタ、テスラなどで生産技術を担当してきた技術者が何人も加わっています。産みの苦しみがあったのは間違いありません。

このことは、自動車を大量生産することが極めて難しいことをはっきりと示しています。テスラのイーロン・マスクCEOもかつて、「大量生産の難しさは正しく評価されていない」と話していました。

さらにマスク氏は、「自動車生産システムを構築するのはプロトタイプを作るよりも100倍難しい。過去100年でいくつもの自動車スタートアップが出てきたがほとんどは名前が売れることなく消えた。タッカーやデロリアンのような会社もあったが消えてしまった」と言っています。この時は他にも、スタートアップがモノを作る難しさの原因について語っています。

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とにもかくにも、リビアンは大量生産を開始しました。資金調達に関しては、2019年以降の公式発表を足し算すると、Amazonやフォード、多数の投資会社などから総額で105億ドルの投資を受けています。日本円で約1兆1730億円になります。

前述したように、コロナ禍の影響でフォードとの提携は棚上げになっていますが、フォードは今年7月の投資ラウンド(総額25億ドルを調達)にも参加していて、関係が継続していることがわかります。

またリビアンは、2019年にAmazonから、10万台の配送車の注文を受けています。納車開始は2021年の予定でしたが、ピックアップトラックやSUVの生産開始が今になっていることを踏まえると、もう少し先になるのでしょう。それでもリビアンへの注目度が下がることはありません。

現地時間の10月1日、リビアンはIPOのための書類を証券取引委員会に提出しました。複数のメディアによれば、2020年の損失は10億2000万ドルに達しているほか、2021年上半期にも9億9400万ドルの損失を計上しています。これも産みの苦しみのひとつですが、損失額のケタがすごいです。

他方、リビアンの評価額は800億ドル(約8兆8000億円)とも報じられていて、これもまたケタ外れです。GMやフォードの評価額を上回っています。

艱難辛苦を乗り越えて大量生産を開始したリビアンですが、テスラの前例を考えるとまだまだハードルが残っているかもしれません。それでも今後への期待はふくらみます。新しい企業が新しい分野で新しい実績を積み上げていくのは、シンプルに楽しいしワクワクするのであります。

(文/木野 龍逸)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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