シェルが欧州最大のEV用路上充電ネットワーク『ユビトリシティ』を完全買収で合意

ロイヤル・ダッチ・シェルは2021年1月25日、ヨーロッパ最大の路上充電ネットワークを提供している『ユビトリシティ』(ubitricity)を完全買収することに合意しました。規制当局の許可が出れば、2021年後半に買収手続きが完了する予定です。

シェルが欧州最大のEV用路上充電ネットワーク『ユビトリシティ』を完全買収で合意

シェルがイギリス最大の充電ネットワークを買収

低炭素社会に対する要求が強まる中、石油会社のシェル(本社:オランダ/ハーグ)は、ヨーロッパ、ことに英国で最大の路上充電ネットワークを持つユビトリシティ(本社:ドイツ/ベルリン)を100%買収することで合意しました。ユビトリシティによれば、今後は規制当局の確認を経て買収が完了します。

ユビトリシティは2008年にドイツで設立され、現在はヨーロッパの複数の国で、路上での普通充電ネットワークを構築しています。企業名は、ユビキタス(いたるところに存在する=偏在する)な電気を意味しています。マネジメントメンバーはヨーロッパの大手エネルギー企業の出身者が多く、現在のCEOはドイツのエネルギー企業である「TenneT」から来ています。

【公式リリース】
Shell agrees to buy ubitricity, a leading provider of on-street charging for electric vehicles (EVs)

現在、ユビトリシティはイギリスで2700以上の充電ポイントを持つほか、ドイツとフランスを中心に1500以上のフリート顧客向け充電ポイントを設置しています。ZAP MAPによれば、ユビトリシティはイギリスの公共充電ネットワークの13.1%を占めるトップ企業です。

またシェルはイギリスで『Shell Recharge』という急速充電ネットワークを拡大中で、これまでに430カ所のガソリンスタンドに1000以上のCCSやCHAdeMO(チャデモ)などの急速充電ポイントを設置しています。2017年には『The New Motion』、2019年には『Greenlots』などの充電ネットワーク会社を買収しているほか、『IONITY(アイオニティ)』との協働やシンガポールなどへの進出もあり、充電インフラへの投資を拡大しています。

今回のユビトリシティ買収で、電気自動車(EV)普及に欠かせない充電インフラの拡充がさらに加速することが期待されます。

ちなみにZAP MAPによれば、イギリスの充電ネットワークシェアの2位は、やはり国際的な石油会社、BP傘下の『bp pulse』です。

bp pulseは2018年にBPが『Chargemaster』というスタートアップ企業を買収して誕生しました。BMWやジャガー、メルセデス・ベンツ、三菱自動車、ルノー、トヨタ、プジョーやシトロエンなどとの協力関係もあります。

なんだかイギリスでは、国際石油メジャーによる充電ネットワークのシェア競争が激しさを増しそうです。充電インフラが充実すれば、EVそのものの普及も加速していくのは間違いありません。隣の芝は青いではありませんが、ちょっと羨ましい話です。

60分で普通充電コネクターを設置

ユビトリシティについてもう少し見ていきましょう。同社は2008年にベルリンで設立され、現在はロンドンにも拠点を設けています。基本的には、駐車場を持っていないEVユーザーが路上で手軽に充電できるネットワークの構築を目指しているほか、V2Gの拡大も狙っています。

海外では住宅地を中心に路上駐車が珍しくありませんが、これだと駐車中に充電ができる普通充電器を設置することができません。他方で、路上であれば利用できるさまざまな構築物があります。街路灯などです。

設置するのは基本的に、普通充電器です。同社のHPによれば、街路灯であれば60分の工事で設置できるそうです。簡単でいいですね。街路灯などを利用する利点を最大限に活かしていて、非常に合理的な印象を受けます。

充電出力は、街路灯の場合は最大5.8kW(単相230V/25A)です。このほか、工事が少し必要になりますが、ウォールボックスや、車止めのボラード(杭/くい)に設置する場合は、単相なら3.7kW、三相なら11kWの普通充電器を設置することができます。ちなみに、単相と三相は交流の種類で、単相は日本でも一般的なコンセントの穴が2つの送電形式。三相は日本では産業用の200Vなどに用いられることが多い、コンセントの穴が3つの送電形式です。

充電する時には、持参するタイプ2ケーブルでつなぎます。充電ポイントにあるQRコードを読み取って充電開始。課金はクレジットカードです。

などと、HPの紹介を見て書いていても実感がわかないのですが、いつかこれも、現地で体験してみたいものです。今のコロナ禍が終わらないとどうにもならないですが……。

そういえば、電柱から直接、電気をとるのならV2Gもいけるのでは? ということなのかどうかはわかりませんが、ユビトリシティではV2Gサービスも提供しています。このへんも合理性の高いサービスメニューだなと思いました。

シーメンスと提携して町を普通充電器で満たす

ユビトリシティでは、実際に充電器を設置する場合、場所の選定から設置、オペレーションまで一括したサービスを提供しています。

同社の事業で特徴的なのは、地方自治体と協力して、街路灯やボラード(路上の杭など)に普通充電のコネクターを設置し、公共充電ネットワークを構築していることです。

『InsideEVs』など複数のメディアは、2020年春に、ロンドン中心部のウエストミンスター地区で、シーメンスとユビトリシティが市役所と提携して24本の街路灯に普通充電器を設置したことを報じました。充電器が設置されたのはサンダーランドアベニューに沿った長さ800m以上の道で、『Electric Avenue, W9』と名付けられました。

また『InsideEVs』(2020年3月21日)によれば、ウエストミンスター地区の市役所では2020年内に1000カ所の普通充電ポイントを設置する計画でした。実際にはなかなか容易ではないようで、2021年1月20日現在では3kW〜22kWの充電ポイントは450カ所になっています。それでもウエストミンスター地区の広さを考えると、少なくないように思います。

余談ですが、ウエストミンスター市役所のHPでは、EVの充電ポイント設置の要望を受け付けています。日本でもこういうのがあるといいなあと思います。

どこでも手軽に充電ができることは、EV普及に向けた大きなメリットになります。今回のユビトリシティ買収にあたって、シェル・グローバル・モビリティーのIstván Kapitány上級副社長は、次のように述べています。

「私たちは、地方自治体と協力することでEVをできるだけ便利なものにし、EVに切り替えたいシェルの顧客が増えるようサポートしたいと考えています。ユビトリシティによる街路灯の充電ポイントというオプションは、都市部で働いていたり、住んでいる人たちや、路外駐車場の利用が制限されている人にとってカギになります。私たちは、自宅でも職場でも、また出先でも、どこでも充電ができるよう、手頃で手軽な充電オプションを提供していきたいと思います」

日本でも電信柱に普通充電器を付ければいいじゃん、という話は、電気自動車同好の仲間うちでは20年くらい前から話し合っていた方法です。電柱を活用して基礎工事を簡素化できる事例を、EVsmartブログで紹介したこともあります。

【関連記事】
電柱を活用したEV急速充電器設置サービスの「正体」を東電タウンプランニングに聞いてみました(2019年6月28日)

ただ、サービスが急拡大しているという話は聞こえてきません。日本の公共充電設備は急速充電器が中心なので、コストや運営者をどうするのかという問題もあるのかもしれません。それに日本ではそもそも路上駐車禁止の場所が多く、電柱の近くに車が止められるわけでもないので、どこでも設置できる=ユビキタスの実現には壁が高そうです。

課題の解決は容易ではありませんが、ユーザーの声、それを拾う行政の姿勢、問題に目を向ける政治など、日本でもいろいろなセクションがうまく噛み合って、EVの普及、社会インフラの拡大につながっていくといいですね。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. いつもブログを拝見させて頂いております
    ドイツでは、治安が悪いため、
    夜中に路上駐車で、充電を行う場合は、
    いたずらなどが多く、路上での充電は避ける人が多いとのこと小耳にはさんだのですが、
    「本当に治安が悪くて、公共の充電は広がりにくい」との話を聞いたことはありますでしょうか?
    (本記事と直接関係のない質問ですいません。スレッドの立て方がわからずここに質問をしてみました)
    もしご存知でしたら教えてください 

    1. しげ 様、ご質問ありがとうございます。
      どうなんでしょう、、そもそも路上駐車になっている地域では、充電していようがしていなかろうがイタズラされる確率はあまり変わらない気もします。最近はGPSや24時間ドラレコ搭載車も多くなってるので、そういう被害も減るのではないでしょうか?
      ちなみにあまり関係ないですが、EVではバッテリー上がりの心配が少ないので、24時間録画のドラレコが装着可能です。私も24時間録画しています。

  2. 自身電気屋視点で電気自動車を見ています。
    そもそも日本の昭和シェルが太陽光発電も手がけているあたり、シェルは石油会社としてのみならず総合エネルギー供給会社を目指している節がありますよね。
    ソーラーフロンティア社が最たる例で、今やソーラー発電システム販売のみならず卒FIT対策の余剰電力買取まで手を広げてますからこれは日本でも実現の可能性ありませんか?
    街中のパーキングメーターのみならず、駐車場にもソーラー発電とセットで電気自動車充電器がある未来を想像した事はありませんか!?

  3. 簡単に充電できそうでいいですね。私はまだEVユーザーではなく検討中の身なのですが、正直、自宅外での充電を考えるとすごく憂鬱になります。自分の車の使用状況を考えるとほとんど自宅の充電で足りてしまい、たまに充電スタンドを利用するくらいかと思ってます。そのため月会費の掛かるNCSカードなんて入る気はないのですが、でもこちらのサイトでもレポートされてますが、ゲストで充電するのってめんどくさそうですよね。

    どうして普通にガソリンスタンドみたいに現金やクレジットカードでサクっと電気が買えないんですかね。電気を買うのに認証とか必要なんでしょうか?ガソリン買うのに認証なんかないですよね。こういう変にきちっとして慎重なところが如何にも日本人なんですが、コスト増にもなるし、充電器の普及を妨げてると思うんですが。。。不思議でしょうがないです。

    1. むつお 様、コメントありがとうございます。確かにほとんど自宅充電で事足りる場合、外充電はとても億劫に感じると思います。ご参考までに、多くの充電器はゲスト充電が可能。つまりカードを持っていなくても充電できます。
      こちらの記事をご参考になさってください。
      https://blog.evsmart.net/quick-charger/how-to-quick-charge-without-a-charging-card/

  4. そっかあ。
    日本のいたるところにある街路灯から充電できれば充電ポイント一気に解決ですね。
    何よりも設備投資が安く済むというのがいいです。
    日本で街中だったら駐車違反になるところ多いから、パーキングメーターのあるところでは機械にコンセント組み込むという方法になりますか。
    こりゃガソリンスタンドを見つけるよりも充電スタンドを見つける方が簡単な時代が来るかもしれませんね。
    面白い記事をありがとうございます。

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この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。「Yahoo!ニュース 特集」などで災害対応や司法の問題などについて記事を執筆中。また原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に「ハイブリッド」(文春新書)、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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