テスラがロボタクシー実現に向けて「DeepScale」を買収

米CNBCは10月1日、テスラ社が、2014年創業にしたコンピュータービジョンの新興企業、DeepScale社を買収したと報じました。パロアルトに隣接するカリフォルニア州マウンテンビューに本社を置くDeepScale社の最大の特徴は、自動運転車用の認識技術に特化した開発をしていることです。自動車メーカーへのライセンス供与や、開発した技術の採用実績もあります。

テスラがロボタクシー実現に向けて「DeepScale」を買収

※冒頭画像は「DeepScale」社ウェブサイト

【CNBCの記事】
Tesla is buying computer vision start-up DeepScale in a quest to create truly driverless cars

テスラ社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は今年4月、投資家向けのセミナー「Tesla Autonomy Investor Day」で、2020年には完全自動運転のロボタクシーを実現すると宣言しました。一方でテスラ社については、CNBCの記事でも触れているように、セミナーで発表をしたStuart Bowers氏をはじめ技術系幹部の退職がたびたび報じられています。今回のDeepScale社の買収によって、そうした開発分門の補完が可能なのではないかと見られています。

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DEEPSCALEとはどんな会社なのか

本稿執筆時点で、テスラ社によるDeepScale社の買収金額は明らかになっていません。またDeepScale社のHPにも、買収に関する記載はありません。しかし10月2日付のTechCrunchによれば、DeepScale社の共同創業者、Forrest Iandola(フォレスト・イアンドーラ)氏は9月30日(現地時間)に自分のツイッターとLinkedinのアカウントを更新し、テスラ社の自動運転技術の開発チームに参加したことを公表しました。

Twitterには以下のように書かれています。

「I joined the @Tesla #Autopilot team this week. I am looking forward to working with some of the brightest minds in #deeplearning and #autonomousdriving.」
「私は今週、テスラ社の自動運転チームに加わりました。ディープラーニングと自動運転の技術について最も優れた能力を持った人たちと働くのを楽しみにしています」

CNBCの記事によれば、Iandola氏はカリフォルニア大学バークレー校で電気工学とコンピューターサイエンスの博士号を取得。メモリーの容量が比較的少ないモバイルデバイスでも動作するディープニューラルネットワークの開発に取り組んでいます。ディープニューラルネットワークは人間の脳の神経細胞の働きを模した理論で、AIによるディープラーニングの発達に欠かせないものです。

DeepScale社はこれまでに、ベンチャーファンドのPoint 72と、ジーメンスが支援するベンチャーファンドのnext47から1500万ドルを調達したほか、サンマイクロシステムズの共同創業者のAndy Bechtolsheim氏、投資家のAli Partovi氏、AME Cloud Venturesなどから300万ドルのシードラウンドを受けています。

Iandola氏はEE Timesのインタビューで資金の使用目的について、黎明期にある深層学習の専門家を確保するのが難しいのが現状でもあり、「深層学習の専門家を雇用することだけでなく、深層学習の社内向けトレーニングプログラムを開発し、チームを強化する必要もある」と話しています。

もっともDeepScale社のHPを見ると、開発部門の25%が博士号を持った専門家です。それでも人材が不足しているというのは、日本との感覚の違いに驚くしかありません。

2020年にロボタクシー実用化を目指すテスラ社へのメリット

DeepScale社の技術的な特徴についてIandola氏は『TECHBLITZ』のインタビューで、カメラの画像データと、LiDAR(光センサー)などから収集した情報を集約して、道路や周辺状況をリアルタイムに認識できるソフトウエアの構築にあると話しています。

ところでテスラ社の自動運転は、レーダーやLiDARを使わず、カメラ画像データなどをディープラーニングによって解析、集積して状況認識をするハードウエアやソフトウエアに特徴があります。プロセッサ、グラフィックカード、ニューラルプロセッサなどをひとつのチップに搭載したカスタムチップ(チップというよりSystem-on-a-chip=集積回路製品)を自社で開発し、HW3として、現行のモデル S/X/3に搭載したのは、その代表格です。

他方、DeepScale社が得意とするのはLiDARと画像デバイスからの情報の統合処理ですが、自動車に必要な低消費電力や高い信頼性を確保できるソフトウエア開発に関して経験を持つ極めて有能な人材が豊富なのは間違いないでしょう。Iandola氏が指摘しているように業界として人材確保が課題になっているとすれば、DeepScale社の買収で集約される開発チームの能力は、テスラ社はもちろん、自動運転技術全体の発達に大きなメリットをもたらすかもしれません。

イーロン・マスクCEOは2020年に、完全自動運転のロボタクシーを実用化することを目指しています。ユーザーが車を使っていない時間、ロボタクシーとして運用すれば、ドライバーもテスラ社も大きな利益を得ることができると見ています。

2020年はもうすぐそこ。イーロン・マスクCEOの見込みが実現するのか、あるいは、今すぐでなくても近いうちに日常の風景になるのか。DeepScale社の買収後にどうのような進展があるのかが、ひとつのキーポイントになりそうです。

(木野龍逸)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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