東名300km電費検証【22】ヒョンデ『IONIQ 5 N』/2倍超のパワーで電費は25%低下

市販電気自動車の実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。ヒョンデ『IONIQ 5 N』を検証しました。ベースモデルに対して2倍超の最大出力で電費は約25%のダウン。電費低下を帳消しにする楽しさを実感できました。

東名300km電費検証【22】ヒョンデ『IONIQ 5 N』/2倍超のパワーで電費は25%低下

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧

100km/h巡航で約387kmの航続距離性能

IONIQ(アイオニック)5 Nは、アイオニック5をベースにヒョンデの高性能ブランドNによって仕立てられ本格的にサーキット走行も楽しめる電気自動車です。

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アイオニック5 N(以下、5 Nとします)のスペック概要を確認しておきましょう。全長4715mm、全幅1940mm、全高1625mm、車重2210kg、モーター出力478kW/650ps、トルク770Nm、バッテリー84kWh、一充電走行距離(WLTC)561km、0-100km/h加速3.4秒、最高速260km/h、価格858万円です。

今回の検証の注目点は、今年7月に実施したアイオニック5のラウンジAWDグレード(現在は新型にアップデート済み。以下、ラウンジ)の検証結果と比較して、出力が2倍以上になるなど高性能化された5 Nの電費がどんな水準になるかでした。

5 Nの一充電走行距離561kmを、バッテリー容量の84kWhで割った目標電費は6.68km/kWhになります。9月某日、計測日の外気温は最高30℃、電費検証に臨んだ深夜は25~27℃でした。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしています。

【今回の計測結果】

往復の電費は、各区間の往復距離を、その区間の往路と復路で消費した電力の合計で割って求めています。

目標電費を超えたのは、往路のD区間、復路のBとC区間の計3区間でした。往復では80km/hが5~6km/kWh台、100km/hが4km/kWh台、120km/hが3km/kWh台と、今年2月の真冬に検証したbZ4X AWDの結果と同じ過去最低水準になりました。なお、往路B区間の4.9は外気温が一桁の中で検証したBMW i7と同値のワースト記録です。

【巡航速度別電費】

各巡航速度の電費は下表の通り。「航続距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、561kmの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率です。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h5.92497.589%
100km/h4.61387.269%
120km/h3.95331.759%
総合4.70394.870%

(注)80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って算出、100km/hと総合の電費も同じ方法で求めています。

総合電費の4.70km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続距離は約395kmになります。100km/h巡航はそれよりも少し短い約387km、80km/h巡航は、カタログスペックの一充電走行距離に約11%届かない約497kmという結果になりました。

「東名300km電費検証」企画の独自の基準として、この表の100km/h巡航と総合の達成率が90%台だと優秀、100%を超えると相当優秀な電費性能であることが見えてきました。5 Nはそれぞれ69%と70%ですので、大きな開きがあります。

巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると22%電費が悪化します、さらに120km/hにすると33%減になります。反対に120km/hから80km/hに下げると航続距離を1.5倍(150%)に伸ばすことができる計算になりました。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h78%
120km/h67%
100km/h80km/h128%
120km/h86%
120km/h80km/h150%
100km/h117%

ここでラウンジの記録と比較してみます。両車のスペックを比較するとシステム最高出力は5 Nが478kW(650ps)、ラウンジは225kW(306ps)と2倍以上、タイヤサイズは5 Nが275/35ZR21、ラウンジは255/45R20と5 Nの方が幅広く、車重は5 Nが約100kg重いですが、Cd値は5 Nが0.313、ラウンジが0.32と5 Nの方がわずかに優れています。検証時の外気温は5 Nが25~27℃、ラウンジは29℃でした。

ラウンジAWD5 N電費差
km/kWh
航続距離の差
km
比率
80km/h電費7.945.922.0275%
航続距離576.2497.578.7
100km/h電費5.944.611.3378%
航続距離431.4387.244.2
120km/h電費4.843.950.8982%
航続距離351.2331.719.5
総合電費6.004.701.3078%
航続距離435.4394.840.6

結果は電費で0.89~2.02km/kWhも差がついたので、航続距離にも大きく影響するかと思いましたが、19.5~78.7kmとさほど大きなインパクトを覚えません。これはラウンジの検証でもお伝えしたように、そもそもラウンジも100km/h以上の電費があまり良くない、かつ5 Nのバッテリー(84kWh)がラウンジの72.6kWhよりも11.4kWh大きいため、弱点を補う形になっています。
※11月8日に発売された新型アイオニック5は、全グレードで84kWhバッテリーを採用しています。新型の試乗記はこちらをご覧ください。

快適性と静粛性はキープ

東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航するため、巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用します。さらに交通量の少ない深夜に行うことで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意しています。

5 NのACCはラウンジと同様に高性能で、自動車線変更機能もあります。異なるのはACC操作スイッチがステアリングホイール左スポークにあることくらいです。設定速度は1クリックで1km/h、長押しで10km/hごとに変わります。左下のボタンで先行車との車間距離設定を4段階から選択できます。

LKA(レーンキープアシスト)も安心感が高く、この検証コース中で最もきついカーブである鮎沢PA手前の300Rも曲がり切れます。ただし、頻繁に「ハンドルを握ってください」の警告が出ること、ACCによる停車が軽めのかっくんブレーキで止まることなどの気になる点もラウンジと同じでした。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は、どの速度でも2km/hでしたので、実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を102km/hに合わせました。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
82102122
ACC走行中の
室内の静粛性 db
707066

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hと100km/hが70dB(ラウンジは68dB)、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hが66dB(同65dB)と、静粛性はラウンジよりも少し劣ります。とは言え20mm幅が広く、ハイグリップタイヤのピレリP ZEROなので、もっとうるさくなるかと思っていましたが、そうでもありませんでした。

150kW器30分で50.6kWhを充電

駿河湾沼津SAの前後約5kmで雨に降られました。ボディカラーのアビスブラックパールにルミナスオレンジの空力パーツが目立ちます。

5 Nは、駿河湾沼津SA下りの150kW器での充電で、30分で50.6kWhをチャージ。今まで検証した全車種を通じて、チャデモ充電の最高記録を更新しました。

SOC 20%、出力85kWで充電開始。4分後に今回の充電の最高出力だった142.9kWを記録、1分後に121.3kWに下るとその出力を10分間維持します。後半の15分は81kW出力に落ちます。これは充電器の「15分ブースト」が終わったためと考えられます。

この検証企画では30分繋ぎっぱなしの記録を取っていますが、15分経ったら一旦充電を終わらせて繋ぎ直す、もしくは隣の充電器に移動すれば、再度120kWほどでの充電を続けられる可能性があります。

今回の充電量であれば、検証結果の総合電費である4.70km/kWhでは約238km分、80km/h巡航の5.92km/kWhであれば約300km走行分を補給できたことになります。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。表示がない場合は不明としています。
※ヒョンデは車両側の急速充電性能を「最大100kW」などといった出力値では公表していませんが、事前に確認したところ、405V × 350A = 141.75kW(車両から充電器への要求値)との回答を得ています。
充電中のドライバーディスプレイ、右下に142.9kWの出力表示があります。

タイヤ・ホイールは21インチ

5 Nのタイヤサイズは前後ともに275/35R21です。メーカーはピレリ、商品名はP ZERO HN ELECT PNCS。HNはピレリとヒョンデによる共同開発の証、ELECTは電気自動車専用設計、PNCS(ピレリノイズキャンセリングシステム)はタイヤによる騒音を低減させる構造を持ったタイヤであることを示しています。空気圧は前後ともに240kpaでした。ちなみにサーキット走行時は温間(タイヤが温まった状態)で前230kpa、後220kpaが推奨されています。

35扁平の薄さが際立つタイヤ。ホイールの隙間から覗く4ピストンの専用ブレーキキャリパーからもこのクルマの凄みが伝わってきます。

BEVで安心してサーキット走行を楽しむ未来のために

アイオニック5 Nは、ヒョンデが走りを楽しむために作り上げた特別モデルです。手が加えられたのは、内外装デザインはもちろん、ボディ、サスペンション、ブレーキ、タイヤ、バッテリー、モーターなど多岐に及びます。さらにパドル操作で8速DCT風のシフトチェンジも楽しめるし、その操作に呼応するICE車のエラントラNベースの排気音は完璧に調律されていて、ドライバーの気分を上げてくれます。

この運転する楽しさがこのクルマの最大の魅力です。ハンドリングもいいので、街中のカーブを50km/h程度で曲がるだけでも楽しいのですが、もしオーナーになったらサーキット走行を楽しみたいところ。

東京から100kmほどの富士スピードウェイ(FSW)には余裕を持って到着できます。F1の聖地である三重県の鈴鹿サーキットまでは東京ICから364km、今回の検証による100km/h巡航の航続距離は387kmなので、ギリギリ到着できるかどうかという具合です。

しかし5 Nは急速充電性能も優れているので、道中の伊勢湾岸道・湾岸長島PAにある150kW器なら30分で50kWhほどの充電電力量を期待できます。なお、「EV充電エネチェンジ」アプリで確認すると、FSWには50kW器が設置されていますが、鈴鹿サーキットにはまだ充電器はないようです。5 Nのような「走りを楽しむ」BEVが増えてくると、サーキットを楽しんだ後に安心して帰路につくためにも、サーキットへの急速充電器充実も望みたいところです。

例えば、広大な敷地を活かしてコーポレートPPAにより初期費用なしで太陽光発電システムを設置、パワーエックス社のハイパーチャージャーであれば、その再エネを蓄電できるし、150kWの急速充電を高圧電力契約なしで実現できます。この組み合わせならスポーツ走行をカーボンニュートラルで楽しめる新しい時代の幕開けです。サーキット関係者の皆さん、いかがでしょうか。

ボディ各所に散りばめられたNのロゴは、山道やサーキットのS字カーブがモチーフになっている。

なお5 Nの日本仕様セッティングを担当したヒョンデ・モビリティ・ジャパンのエンジニアによる富士スピードウェイのラップタイムはなんと2分切りの1分59秒を記録しています。0-100km/h加速の3.4秒はBMW M3 CS、メルセデスAMG C63 S Eパフォーマンス、アウディ RS6などのハイパフォーマンスカーと同じ性能でありながら、無音でも走行できるところがBEVならではの魅力です。

今回の検証でじっくりと5Nに乗り、ベースモデルと比較した電費低下はあったものの、それを帳消しにして余りある楽しさを実感できました。また、この東名300km電費検証シリーズでは条件を揃えるために可能な限り雨天を避けているのですが、今回は一部区間で急な雨に降られた(ややコンディションが悪かった)ことを付記しておきます。

ヒョンデ
アイオニック5 N
ヒョンデ
アイオニック5
ラウンジAWD
(検証時モデル)
全長(mm)47154635
全幅(mm)19401890
全高(mm)16251645
ホイールベース(mm)3000
トレッド(前、mm)16651630
トレッド(後、mm)16701635
最低地上高(mm)142160
車両重量(kg)22102100
前軸重(kg)11101060
後軸重(kg)11001040
前後重量配分50.2:49.850.5:49.5
乗車定員(人)5
最小回転半径(m)6.215.99
車両型式ZAA-NENLRGZAA-NE4LRG
プラットフォームE-GMP
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)167142.4
一充電走行距離(WLTC、km)561577
EPA換算推計値(km)448.8461.6
電費(目標電費)6.687.95
モーター数2
モーター型式、フロントEMEM07
モーター型式、リヤEM27EM17
モーター種類、フロント交流同期電動機
モーター種類、リヤ交流同期電動機
フロントモーター出力(kW/ps)175/23870/95
フロントモータートルク(Nm/kgm)370/37.7155/210
リヤモーター出力(kW/ps)303/412255/26.0
リヤモータートルク(Nm/kgm)400/40.8350/35.7
システム最高出力(kW/ps)478/650225/306
システム最大トルク(Nm/kgm)700/71.4605/61.7
バッテリー総電力量(kWh)8472.6
総電圧(V)697653
急速充電性能(kW)141.75101.25
V2X対応V2LV2H、V2L
駆動方式AWD(四輪駆動)
フロントサスペンションマクファーソンストラット
リアサスペンションマルチリンク
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキベンチレーテッドディスクディスク
タイヤサイズ(前後)275/35ZR21255/45R20
タイヤメーカー・銘柄ピレリ・P ZERO HN ELECTミシュラン・PILOT SPORT EV
荷室容量(L)480527
フランク(L)なし24
0-100km/h加速(秒)3.45.2
最高速(km/h)260-
Cd値(空気抵抗係数)0.3130.32
車両本体価格 (万円、A)858599
CEV補助金 (万円、B)3545
実質価格(万円、A - B)823554
※車両重量は車検証に記載の値

取材・文/烏山 大輔

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					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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