東名300km電費検証【02】トヨタ『bZ4X』の実用電費〜今後のキャッチアップに期待

市販電気自動車の実用的な電費性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ企画の第2回は、トヨタ初の量産電気自動車である『bZ4X』で行った。スタッドレスタイヤを装着し、外気温は一桁台と関東の冬季としては相当厳しい環境下でどんな結果が出たのだろうか。

東名300km電費検証【02】トヨタ『bZ4X』の実用電費〜今後のキャッチアップに期待

※「東名300km電費検証」企画の計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。

【関連記事】
東名300km電費検証【INDEX】検証のルールと結果一覧

トヨタ『bZ4X』電費性能の実力は?

bZ4XはZとGの2グレード展開で、その両方にFWD(前輪駆動)とAWD(全輪駆動)を用意している。今回の計測にはZグレードのAWDで20インチタイヤ(スタッドレス)を履いた車両で臨んだ。一充電走行距離(カタログスペックのWLTC値)はグレード、駆動方式、装着タイヤによって487kmから567kmと変わるのだが、今回の広報車は487kmの一番短くなる仕様だった。

なお、この車両は2023年4月のSOC表示追加や1日に可能な急速充電回数の増加などのアップデート(関連記事)に加え、急速充電性能の改善、メーター表示改善などの改良(11月)が施された車両ということだった。

搭載するバッテリーはグレードなどによる差はなく71.4kWhであるため、一充電走行距離をバッテリー容量で割った電費(目標電費)は6.82km/kWhで、この数値を上回れば、一充電走行距離を実現できることになる。

今回の目標電費

一充電走行距離
km
電池容量
kWh
目標電費
km/kWh
48771.46.82

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。

【今回の計測結果】

目標電費を超えたのは316m、85m、347mと標高差が大きな下り勾配であるD区間の往路とB・C区間の復路の3区間だった。往復では80km/hが5km/kWh台、100km/hが4km/kWh台、120km/hが3km/kWh台ときれいに並んだ。

高速道路で冬の航続距離は300kmほどか

各巡航速度の電費は下記の表の通りだ。「航続可能距離」は実測電費にバッテリー容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は、487kmとするカタログスペックの一充電走行距離に対して、どれほど良いのか、悪いかだ。

【巡航速度別電費】
巡航速度別の電費計測結果を示す。80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って求めている。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。今回、検証時の外気温が2〜6℃程度と低く、スタッドレスタイヤを装着していたこともあり、全体としてやや厳しめの結果だったといえる。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続可能距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h5.76411.384%
100km/h4.38312.764%
120km/h3.80271.156%
総合4.51322.366%

広報車を受け取った時は、SOC(バッテリー残量)は100%で航続可能距離表示が406kmと表示されていた。航続可能距離表示は直前の走行状況なども影響するといわれているし、オドメーターの走行距離がまだ681kmの新車だったので、十分な電費データが蓄積されていない可能性が高いことは付記しておく。ともあれ、航続可能距離表示の信頼性向上は、EV普及に向けた課題のひとつと言えるだろう。

「100%」がアップデートで追加されたSOC表示、その上の406kmが航続可能距離。その上と「CHG」の右の赤い線はブレーキランプが点灯していることを示していて、回生ブレーキやACC走行中など、ドライバーがブレーキを踏んでいない時でも、ドライバーがブレーキランプ点灯の確認と後続車へ自車の減速を知らせていることもできて安心だ。左の「681km」はオドメーター。

各巡航速度の比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると24%電費が悪くなった。120km/hから80km/hに下げると1.5倍ほどの航続距離の伸長が期待できることが確認できた。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h76%
120km/h66%
100km/h80km/h132%
120km/h87%
120km/h80km/h152%
100km/h115%

UIなどのさらなる進化にも期待

bZ4XのACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の設定は、ステアリングホイール右側のスポークにあるボタンで行う。ACCの使用方法を事前に確認しなかった私が悪いのだが、高速道路に乗ってACCを入れようとしてもなかなかオンにできない。以前のトヨタ車は機能を起動させた後に「―」ボタンでクルーズコントロールによる走行を始めていたので、同じ方法かと思ったが違う。

結局、右スポークの一番左上がACC走行スタートのボタンだった。その右側は車線維持機能のオン/オフ、その左下は速度調節、キャンセルスイッチを挟み、「ACC」と「クルーズコントロール」のMODE切り替えボタンと先行車との車間距離調整ボタン(4段階)だった。速度調節ボタンは1クリックで1km/hごとに速度が変わり、押したままにすると連続して5km/hずつ変わっていく。

ちなみに右スポークの下半分はオーディオソースを選択する「MODE」ボタンと選曲やラジオのチューニングなどの左右のボタンなのだが、音量の調整は左スポークにあるため、オーディオをコントロールするためには両手での操作が必要だ。レクサスUX300eも同様だったので、これがトヨタ・レクサスのステアリングホイールボタンの方程式なのだろう。

テスラ『モデル3』試乗(関連記事)の直後に乗ったという一種のハンデもあるが、ステアリングにボタンが多すぎるというのが正直な印象だった。モデル3はACCのオン、速度調節、先行車との車間距離設定の3つの機能を右スポークにある「ひとつのスクロールボール」に集約していて、とても使いやすいと感じたからだ。今後、電動化の推進に伴って、トヨタからも新しく使いやすいUIが提案されることに期待したい。

ACCの速度制御は「完璧」だと感じた。特に渋滞中の加減速調整は秀逸で、ただ単に先行車に合わせるのではなく、さらにその先の状況まで確認し運転しているかのようで、急激な減速は少なく滑らかな運転だった(実際にカタログにも「先々行車検知」という機能が掲載されていた)。

一方、車線維持機能には「もっと」を期待してしまう。東名高速道路下りの鮎沢PA手前にある300Rなどの緩やかなカーブは曲がっていくが、首都高5号池袋線の熊野町JCT(池袋本町ICから護国寺IC方面)の緩い左の90度カーブでは車線維持機能が解除されてしまった。もちろん安全のための配慮であることは理解するが、全体の質感や先進運転機能の使い勝手がいいだけに、さらに信頼感の高い機能を求めたい気持ちになる。このあたりはUIと同様に、次世代車開発における「塩梅」のポイントになってくるのかも知れない。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は、下記表の通りどの速度でも4km/hの差だった。実速度を100km/hにしたい場合は、メーター速度を104km/hに合わせた。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
84104124
ACC走行中の
室内の静粛性 db
686868

巡航時の車内の騒音(スマホアプリで測定)は、路面が荒れているところでの最大値で68dBと音量としては変わらなかった。大きくて存在感のあるドアミラー周辺からは速度が上がるにつれて相当な風切音を発するのではと予想したが、120km/hでも格段にうるさくなることはなかった。

150kWの出力不足は相性問題?

トヨタはbZ4Xの1日に可能な急速充電回数を2回から4回(基準回数を超えると充電出力が抑制される)に増やすアップデートを行った。今回の電費計測では約5時間で3回の急速充電を行った。

駿河湾沼津SA下りの150kW器で充電中。

そしてbZ4Xのカタログには「より短時間で充電が可能な150kW出力の急速充電器に対応」とあるが、下記の表の通り150kW器での充電は90kW器とほぼ同じ結果に終わった。この結果からbZ4Xの急速充電時の車両側の受入性能は75kWほど(150kWの半分)という印象だった。

150kW器での充電中に少しでも90kWを超えた充電ができていれば、もっと言えば150kWに近い数値で充電ができていれば「150kW器に対応」をカタログで謳う意味があると思うが……。疑問が残る結果であった。最大150kWに近い出力が得られていれば(カタログスペック通りの充電性能が発揮されれば)、30分で少なくとも40kWh以上の充電量が得られるはずだ。
※充電開始時のSOCが30%を超えていたことや、気温が低いことが関係したかもしれない。どなたか相応の記録をお持ちであればコメントなどでご教示下さい。また、検証取材後に確認したところ、今回利用したABB製の150kW器とbZ4Xの充電で不具合が発生していたことがあるとのこと。すでに充電器側の改善で対策済みという情報もあった。ともあれ結果は結果、レポートはご紹介しつつ、さらなる確認を進めている。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。

150kW器の1回目の充電は73kW出力から始まり、徐々に出力が下がっていき、終了直前には47kWまで落ちた。90kW器の2回目の充電も74kWから47kWと同じような推移だった。この2回の充電は充電器のディスプレイで出力値を確認できた。

50kW器による3回目の充電は、充電器に出力値が表示されないタイプだった。bZ4Xは充電中に「充電完了までの時間」「80%までの時間」「電力収支」という3種類のイメージ図の表示はあるが、出力値の表示がないため、車内でも出力値を確認できなかった。オーナーであれば専用アプリで確認できるとのことだが、できれば車内にも表示して欲しい。

「電力収支」のイメージ表示。下向きの矢印の方が太いので、バッテリーへの充電がエアコン使用による消費よりも大きいということを示しているのだと思うがアバウトだ。航続距離表示の右上の扇風機みたいなマークは、「エアコン使用中の航続距離表示」を示すためのものだ。

冷暖房使用で航続距離表示は短くなる

bZ4Xは前述のアップデートで「冷暖房使用時の航続距離表示が短くなりすぎる点」も改善されたそうだ。広報車借用中に、エアコンオフ、冷房最大、暖房最大のそれぞれで航続距離表示がどれほど変化するのかを3回確かめてみた。

結果として冷房は6%から13%、暖房は5%から8%の下落率だった。冷房の13%は数字としては小さく感じるが、実際の航続距離表示は370kmから322kmと48kmも短くなるため、なかなかインパクトがある。

冷暖房には電気を使うので航続距離が短くなるのは当然と言えば当然なのだが、冬季は一充電走行距離の487kmからSOC100%でも406kmとなり、さらに暖房で8%短くなると374kmになってしまう可能性があることはお伝えしておく。

装着タイヤはブリザック

装着タイヤはスタッドレスだった。タイヤの製造週年は右側面にのみあるようで左側の2本は確認できなかった。

【装着タイヤ】
メーカー/BRIDGESTONE
ブランド(商品名)/BLIZZAK DM-V3

サイズ空気圧
kPa
製造週年
左側右側
フロント235/50R20260確認できず4522
リヤ235/50R20260確認できず4522

※製造週年は「4522」の場合、2022年の45週目に製造されたことを意味する。

今後の「トヨタの本気」に期待

bZ4Xでの電費計測は厳しい数値になり、車内での充電出力値の表示など改善をお願いしたい点もあるが、このクルマはトヨタ製BEVの第一弾であるため、まだまだスタートしたばかりだ。だからこそ分からないこともあり、2023年春のアップデートを実施することになったし、BEVについては業界のフォロワーの部分もある。

しかし会社としては4年連続で販売台数世界1位に輝き最高益も叩き出しているし、豊田会長も「BEVも本気」と仰っていた。新しい電池の開発も進めている(関連記事)。今後発売される二の矢、三の矢での大幅なキャッチアップを期待したい。

これまでの電費計測記録

参考までに、これまでに筆者が実際に計測した市販EV6車種の数値から、100km/h巡航時の電費と目標電費をbZ4Xの結果とともに記載しておく。

車名100km/h巡航電費目標電費計測年月
日産
ARIYA B6
5.18km/kWh7.12km/kWh2024年3月
ヒョンデ
KONA Lounge Two-tone
5.48km/kWh8.35km/kWh2024年3月
トヨタ
bZ4X Z AWD
4.38km/kWh6.82km/kWh2024年2月
BYD
DOLPHIN(スタンダード)
5.38km/kWh8.91km/kWh2024年1月
BYD
DOLPHIN Long Range
5.18km/kWh8.13km/kWh2024年1月
BMW
iX xDrive50
5.71km/kWh5.83km/kWh2023年8月
三菱
ekクロスEV
6.63km/kWh9.00km/kWh2023年7月
BMW
iX1 xDrive30 M Sport
6.42km/kWh6.99km/kWh2023年6月
メルセデス・ベンツ
EQE 350+(セダン)
6.19km/kWh6.89km/kWh2023年6月
メルセデス・ベンツ
EQS450 4MATIC SUV
4.98km/kWh5.50km/kWh2023年6月

電費計測は、季節、気温、天候による差はどうしてもカバーしきれないこと、また電費は実際の乗車人数や荷物の積載量によっても変わってくるため、あくまでも参考値になることを承知いただきたい。基本的には速度規制や車線規制がない状況で走行するものの、避けられない場合は適切な速度で走行し、その区間の電費については数値の補正や注記を行う。

取材・文/烏山 大輔

この記事のコメント(新着順)5件

  1. bz4xのバッテリー容量を71.4kWhとしていますが、これは空になったバッテリーに充電した際の電力量を示したものです。
    WLTC充電走行距離にWLTC交流電力量消費率を掛けるとbz4xは71.4kWhとなります。
    なので他車が公表しているバッテリー容量は大体総電力量の85%前後なのに対してbz4xのバッテリー容量を71.4kWhとしているのは、メディアとして少しお粗末なのではと思いますが如何でしょうか?

    1. メーオさん、コメントありがとうございます。
      ご指摘されたいのは
      「NET容量(実効容量)が総電力量の85%前後ではないのか」

      その「85%前後」と思われる数値をもとに電費などを算出しないのか
      ということでしょうか。

      今回トヨタにNET容量(実効容量)を確認しましたが、非公表とのことです。
      したがって、すべての車種が総電力量とNET容量(実効容量)が「85%前後」になるのかも不明です。

      またNET容量(実効容量)が公表されている車種はNET容量をベースにして、公表されていない車種は、「予測数値」である総電力量の85%前後をベースにすることも一貫性のないデータとなってしまいます。

      以上の理由に加えて、大前提として誰でも知り得る数値であることから、下記URLのようにこの「東名300km電費検証」企画ではメーカーが発表しているカタログ値をベースに各数値を算出しています。

      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/tomei-300km-energy-consumption-verification-index-rules-and-results-overview/
      以上、よろしくお願い致します。

    2. NET容量(実効容量)が総電力量の85%前後ではないのか」
      とその「85%前後」と思われる数値をもとに電費などを算出しないのか
      ということでしょうか。
      上記ではありません。
      私が指摘したのは総電力量の85%前後がグロスのバッテリー容量(ネットではない)になるのにも関わらず、トヨタだけが使っている総電力量をバッテリー容量として記載しているところに異議申し立てをしているのです。ネットのバッテリー容量の話はしていません。その手前の話です。
      例えばアリアのB6を例にとってみましょうか。
      日産が公表しているバッテリー容量は66kWhです。
      それに対してWLTC1充電走行距離(km)は470km、WLTC交流電力量消費率(Wh/km)は166Wh/kmとなっています。
      掛け算すると総電力量が78.02kWhとなります。bZ4Xよりも大きい値ですね。
      つまり66kWhの空のバッテリーを充電するのに78.02kWh 必要ということです。なので66/78.02=0.8459となりますので、総電力量の85%位がグロスのバッテリー容量と申し上げています。
      なぜトヨタだけ総電力量という値を使い、他社のグロスのバッテリー容量と異なる算出基準にも拘らずbZ4Xのバッテリー容量は71.4kWhと書いてあることについて、せめて注釈を入れて同じ土俵で比較出来ていないことを明記すべきです。
      トヨタだけが充電効率100%で充電出来るのならばバッテリー容量は71.4kWhになりますが、85%とするならば、グロスのバッテリー容量はせいぜい60kWh前後なんでしょう。EVsmartは老舗のEVメディアなのですから、この程度のこと位気付いて欲しいと思ってずっと見守って来ましたが、いつまで経っても注釈一つ入れずに71.4kWhと記載したままなので大変残念です。

  2. bZ4Xの蓄電池容量は、71.4kWhと表記されていますが、これは実効容量ですか?
    私の車はガソリン車ですが、タンク容量が56Lでも実際には58Lくらい入り、これをほぼ全部使用できます。
    メーカー発表値ではなく、実効容量を調べたサイト等はないのでしょうか?
    満充電での走行距離の参考になりそうなのですが?

    1. たくろうさん、コメントありがとうございます。
      「実効容量」がNET値のことを指しておられる場合は、71.4kWhは実効容量ではなく、カタログ記載の「総電力量」です。
      なお、今回トヨタにNET容量(実効容量)を確認しましたが、非公表とのことです。
      このようにメーカーによってはNET容量(実効容量)を非公表にしていること、誰でも知り得る数値であることから、下記URLのようにこの「東名300km電費検証」企画ではメーカーが発表しているカタログ値をベースに各数値を算出しています。
      また、「NET容量(実効容量)を調べたサイト」は存じ上げておりません。
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/tomei-300km-energy-consumption-verification-index-rules-and-results-overview/
      以上、よろしくお願い致します。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

執筆した記事