メルセデスベンツが761馬力の『AMG EQS』発表〜AMGブランド初の電気自動車

ダイムラーはミュンヘンで開催された『IAA MOBILITY 2021』で、AMGブランド初の電気自動車になる『Mercedes-AMG EQS 53 4MATIC+』を発表しました。最高出力560kW(約761馬力)の怪物マシンについて、詳細をお伝えします。

メルセデスベンツが761馬力の『AMG EQS』発表〜AMGブランド初の電気自動車

AMG初のEVはAMG専用のプラットフォームを採用

メルセデス・ベンツを擁するダイムラーは2021年9月6日から12日までミュンヘンで開催された『IAA MOBILITY 2021』で、メルセデス・ベンツの上級グレード『AMG』としては初めての電気自動車(EV)、『Mercedes-AMG EQS 53 4MATIC+』を発表しました。4月に発表された『EQS』をベースに、スペックが大幅にアップしています。

ダイムラーは2019年に発表した『Ambition2039』の中で、2039年までに販売する車のカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げました。その一環として、この4月にはメルセデス・ベンツのフラッグシップ電気自動車となる『EQS』を発表。『EQS』は欧州では8月から受注が始まったことが伝えられています。

【関連記事】
メルセデス・ベンツの完全電気自動車『EQS』から読み解く「世界の本気」(2021年4月18日)

『EQS』は従来の『Sクラス』の電気版だけあって、全長5216mmという車格も、最大出力385kWという性能も並外れています。そんな『EQS』を軽々と超えてしまったのが、アップグレード版と言える『AMG EQS 53 4MATIC+』です。

『AMG EQS 53 4MATIC+』のプラットフォームは、7月にメルセデス・ベンツが開催した「Mercedes-Benz prepares to go all-electric」での発表でも触れられていたように、『EQS』とはまた別の、AMG専用に開発された『AMG.EA』を採用しています。

メルセデス・ベンツは2025年以降に販売する車のアーキテクチャを、乗用車向けの『MB.EA』、AMG専用の『AMG.EA』、商用車系の『VAN.EA』の3種類に統合することを発表しています。メルセデス・ベンツのこれまでのEVは基本構造が内燃機関の車と共通のままですが、これから出てくる『EQS』は電気自動車専用に開発された新しいプラットフォームになることが発表されています。そう考えると、上級グレードのAMGが新しいプラットフォームを採用するのは当然の流れと言えます。

メルセデスAMGのフィリップ・シーマー取締役会会長は『AMG EQS 53 4MATIC+』について次のように話しています。

「完全に電動化した初めてのAMGの車を、私たちは確実にメルセデスAMGの新しい顧客に訴えかけていき、そして勝利するでしょう。付け加えれば、『EQS 53』は、メルセデスベンツがすべてのブランドで一貫して電化を推進していることを証明しています。それほど遠くない将来に、『AMG.EA』プラットフォームを使った完全電動化のAMGモデルが続いていきます」

100km/hまで加速するのに3.4秒

では、ざっと『AMG EQS 53 4MATIC+』のスペックを見ていきましょう。車のサイズはまだ出ていませんが、『EQS』が「全長5216/全幅1926/全高1512mm」だったので、それほど大きく変わらないと思います。ホイールサイズは21インチか22インチから選択になるようです。でかいです。

『EQS 53 4MATIC+』スペック(2021年9月12日時点)
最大出力484kW(560kW)
最大トルク950Nm(1020Nm)
最大回生出力300kW
バッテリー容量107.8kWh
一充電航続距離(WLTP)526〜580km
一充電航続距離(EPA推計)約469〜517km
電費(WLTP)4.18~4.6km/kWh
0-100km/h加速3.8秒(3.4秒)
最高速度220km/h(250km/h)
※カッコ内は「AMG DYNAMIC PLUS package」
※EPA推計はWLTP値を換算指数「1.121」で割った値です。

最高出力と最大トルクは、ノーマルバージョンが484kw(658hp)/950Nmで、オプションの「AMG DYNAMIC PLUSパッケージ」にすると、レースモードでは560kW(761hp)/1020Nmになります。ちなみにICEのメルセデスAMG『E 53 4MATIC+』の公式HPには、レースモードはサーキット走行専用なので公道では使わないでくださいと注意書きがありました。とは言っても、ノーマルの650馬力っていうのも、平民の筆者にはどこで使うのか想像できません。

駆動方式は、前後輪の車軸にそれぞれAMG専用のモーターを搭載した、2モーターの全輪駆動(4WD)で、0-100km/hの加速性能はベーシックモデルが3.8秒、オプションのレースモードでは3.4秒です。信号グランプリではテスラ『モデルSプラッド』といい勝負ができそうです。危ないのでしないでほしいですが。

モーターは、ローターシャフトに冷却剤を通す構造になっているようです。AMGはこの構造を『water lance』(水の銛)と呼んでいます。リリースではその他、インバーターを含めて温度のコントロール能力を高めていることを強調しています。

前後輪のモーターは、1分間にトルクチェックを1万回することなどによって運転状況に応じて細かくコントロールするそうです。応答性がとても高そうです。運転モードは「コンフォート」、「スポーツ」、「スポーツ+」の3種類です。

大出力のモーターがあるおかげで、回生ブレーキの最大出力は300kWになります。といってもどのくらい強いのか比較対象がないのでよくわかりませんが、エネルギーの回収能力は高そうです。回生ブレーキは、ステアリングのスイッチで3段階に調節ができます。オプションのドライブパイロットを付けると、信号などでは前方の車の動きに応じて、停止するまで自動で減速できるようになります。

107.8kWhのバッテリーで航続距離は500km以上

バッテリーはリチウムイオンで、正極材はニッケル、マンガン、コバルトを8:1:1で含む「NMC 811」です。バッテリーの調達先についてリリースは言及していませんが、この7月にメルセデス・ベンツは協力企業と連携して8つのギガファクトリーを建設することを明らかにしているので、自社生産かもしれません。

バッテリー容量は『EQS』と同じ107.8kWhです。ただしリリースでは、高容量に対応するためのAMG専用配線やエネルギーマネジメントを採用したことを強調しています。マネジメントシステムは、OTA(over the air)でのアップデートに対応します。EVの航続距離や出力はバッテリーマネジメント次第で大きく変わるので、システムの更新で電費が向上することがあります。テスラはそうなっていますね。

一充電での航続距離は、WLTPで526~580kmです。同じバッテリー容量を持つノーマルの『EQS』は4WDの『580 4MATIC+』でも705km(WLTP)なので、当たり前ですが、大きくパワーアップした分だけ短くなっています。500kmオーバーは短いとは言えませんけど……。ちなみにRWDの『EQS 450+』なら843km(WLTP)も行けます。

電費は23.9~21.5 kWh/100km、1kWhあたりの走行距離は4.18~4.6kmです。EVsmartブログで推計したEPA換算にすると3.73~4.1km/kWhになります。650馬力の車でこの電費は、かなり良いと言っていいのではないでしょうか。早く実走行で試したいですね。

興味深いのは、インテリジェントナビゲーションを使用して車が充電ポイントを認識すると、バッテリーを急速充電に適した温度に調節する機能があることです。温度が低いときには予熱され、高ければ冷却されます。冷却は、アルミの押し出し材を使ったフレームの内部に冷却液を通して行います。

充電は、急速充電は最大200kW、車載の普通充電器は最大22kWに対応しています。ところでリリースには、「日本」限定の機能として「双方向充電」ができるという記載がありました。「bidirectional charging」と表記しているので、V2GやV2Hと同義だと思います。けれども、なぜ日本限定なのかは、謎です。謎すぎます。もし理由が確認ができたら追記したいと思います。

バッテリーの保証期間は、10年、または最大25万キロです。とは言え、今のところどの程度のSOHまで保証するのかは不明です。

3年間は公共充電サービスの料金が無料

ところで、さすが高級車だけあって、充電ネットワークの利用にあたっての恩恵があります。『AMG EQS 53 4MATIC+』を購入後の3年間は、公共充電設備を利用できる『Mercedes me Charge』の基本料金が無料になるサービスが付くそうです。この他、ヨーロッパの『EQS』ユーザーは『Mercedes me Charge』に加入すれば、高速充電設備を運営する『IONITY』の充電器を、1年間は無料で使用できます。充電量の上限は、ありません。ちなみに、日本でも同様の特典は用意されています。ただし、チャデモ規格の急速充電網は現状で「90kWがちらほら、数年のうちには120〜150kWの充電器が登場するかも」といった様子で、200kWなんていう超高出力にはインフラが対応していません。

バッテリーは、メルセデス・ベンツのグループ企業でリユースされるようです。リリースでは、エネルギーバンクの『Mercedes-Benz Energy GmbH』が、EVから回収したバッテリーを使って50MWhの容量を持つ3つの設備をドイツの電力網に導入済みであることを紹介しています。『AMG EQS』に限らず、メルセデス・ベンツのEVで使ったバッテリーをリサイクル、あるいはリユースするためのルートがすでに構築されつつあるようです。こういった取り組みは、今後はEVを手がける自動車メーカーの社会的責務になるのではないでしょうか。

ところで『AMG EQS』は、現行のICEモデル『AMG GT R』にも搭載されている後輪操舵の「AMGリア・アクスルステアリング」を装備しているのですが、仕様が少し違っているようです。メルセデス・ベンツ日本のサイトでは、ICEでは100km/h以下では前輪と逆方向に後輪が操舵し、100km/h以上では同方向に動くと説明があるのに対し、EVでは60km/hで動きが切り替わります。速度の違いがなぜなのかは未確認ですが、サーキット走行よりも公道走行での安定性や操作性を優先したのかもしれません。これも今後、理由がわかればお伝えしたいと思います。

というわけで、駆け足で超高級車を紹介してみました。では、盛りだくさんの先端機能を搭載したAMGの最新EVは、いったいいくらくらいになるのでしょうか。ちなみにICEの『AMG E53 4MATIC+』は、日本では1298万円(税込)で売っています。でもICEの『E53』は、後輪操舵は付いてないですし、性能も『AMG EQS 53 4MATIC+』は段違いに高いです。

また『EQS』は、ドイツでは『450+』が10万6374.1ユーロ(約1377万円)、4WDの『580 4MATIC』が13万5529.1ユーロ(約1754万円)で販売しています。ということはAMGになると最低でも2000万円は下らないというか、3000万円近くになるかもしれません。平民にはまったく歯が立ちません。

最後になりましたが、オマケです。『AMG EQS 53 4MATIC+』のドイツの公式サイトに、走行音などを体験できるボタンがありました。試しに聞いてみると、車というよりは、「スタートレック」のエンタープライズ号のような音でした。ちょっと勢い余るとワープしそうです。ヨーロッパメーカーは昔から走行音の調整に凝っていますが、EVでも変わりないようです。実車が出たら、ぜひ体験したいと思います。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)8件

  1. ロールアウトの事は分かるけど、にしてもpladといい勝負は無理。
    1.3秒の差は埋められない。
    pladの対抗馬はeqs63が出ていい勝負だと思うよ。

  2. PLADの0-100加速は2.1秒なのでいい勝負は出来ませんね。
    EQS53という事は、PLAD対策としてEQS63が控えているって事なんでしょうかね?
    現在は内燃機関→EVへの過渡期なので様々な意見が出ますが、車に楽しさを残す事は失って欲しくないですね。

    1. BA様、コメントありがとうございます。一点だけ補足させてください。

      >PLADの0-100加速は2.1秒

      これですが、テスラは米国基準で(これもややこしいですね)2.1秒と言っていますが、メルセデスは欧州メーカーなので欧州基準となり、単純比較が難しいです。
      米国基準:1フィートのロールアウトあり
      欧州基準:完全に停止からのスタート
      ですので、米国基準では、スタート時に多少速度が付いていても構わないんです。これはドラッグレースを基準としたもので、欧州基準を使うと車載のVBOX等を使わないとどっちが勝ったかすぐ判定できないのでレースにならない、というところが理由のようです。米国基準のほうが、数字はわずかに小さくなります。
      ロールアウトについては、過去記事の中で少しだけ説明しています。
      https://blog.evsmart.net/tesla/model-s/trivia/

  3. 製造過程からのco2排出量を計算しないと、何が1番環境に悪いかなんてわからないはず。
    電気自動車を製造するのにどれだけのco2を排出してどれだけのレアメタルを必要としているのか知りたい。
    多様性は良いと思うが

    1. 福島様、コメントありがとうございます。
      こちらの記事で詳細に計算しています。よろしければ検算されてみてください。
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/ev-global-life-cycle-co2-emissions-less-than-ice/
      結論としては、日本の電源構成でも、その他の中国を含む主要国の電源構成でも、電気自動車の方がライフサイクルの排出でみて低排出なのです。

      なおこの試算は小型車で行っています。EQSのように大型セダンやハイパワー車では、ライフサイクル排出量の差は2倍にも及びます。

  4. まぁ、どでかい打ち上げ花火ですね。
    「好きにしてください」なのですが、こういうクルマだからこそ充電課金はキッチリとかけて平民どもと同じ環境で充電渋滞の列に並んでくださいね。
    おかわりなんて許されませんよ。

  5. 電気自動車EV化へ邁進ですね!(^-^)

    ある方が言います!
    二酸化炭素CO2は、空気よりも重いから。
    低い土地に住む方は、呼吸が出来なくなる(泣)

    まあ、二千メートル級の高地に住む方は大丈夫でしょうが(汗)

    地球温暖化よりも、これが深刻!
    日本は地下の工事現場で、CO2の中毒での死亡事故が多発している!
    CO2の危機は、既に始まって居るのでは?(汗)

    地下は、地上と違い風でCO2が拡散して毒性が弱まるのは期待出来ないか?

    ガソリン車は最早、作っては行けない!
    売ってもいけない!
    ガソリン車のハイブリッド車もね!

    1. CO2は毒?はじめて聞きました。どおりでAMGEQSが買えるような上級国民様が高層マンションの最上階に住んでいるわけですね。
      ガソリン車やハイブリッド車は毒を撒き散らしているのだから、一刻も早く禁止しないと!
      ごめんなさい、ふざけました。冗談コメントだと信じますが、EV化消極派に揚げ足をとられそうなので、冗談と明記しておいてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

執筆した記事