衝撃! メルセデス・ベンツが10年以内にすべて電気自動車へ移行の方針を発表

ドイツのメルセデス・ベンツは2021年7月22日、電動化に向けた従来の計画を前倒しする経営方針を発表しました。最大のポイントは「10年後にすべての車を電気自動車(EV)にする準備ができている」と明言したことです。メルセデス・ベンツの新たな発表をお伝えします。

衝撃! メルセデスベンツが10年以内にすべて電気自動車へ移行の方針を発表

400億ユーロ以上を投資してEV専業メーカーに向かう

メルセデス・ベンツは7月22日に『Mercedes-Benz prepares to go all-electric』というタイトルでニュースリリースを出し、研究開発や経営のリソースをEVに集中していくことを発表しました。

リリースの冒頭、ダイムラー社は次の言葉をいきなりぶっ込んできました。

「メルセデス・ベンツは、市場の状況が許せば、今後10年の終わりまでにすべてを電気にする準備をしています。電気ファーストから電気のみへ移行する世界でも優れた高級車メーカーは、排ガスがなく、ソフトウエアが牽引する未来に向けて加速していきます」

Mercedes-Benz is getting ready to go all electric by the end of the decade, where market conditions allow. Shifting from electric-first to electric-only, the world’s pre-eminent luxury car company is accelerating toward an emissions-free and software-driven future.

リリースでは「all electric」や「electric-only」という言葉を使っていますが、要するに電気自動車(EV)と考えていいと思います。時期は状況によって前後するかもしれませんが、これからの10年以内に、市場の状況によるという条件はあるものの、メルセデス・ベンツはEV専業の自動車メーカーになると宣言したわけです。仰天です。

この目標のために、メルセデス・ベンツは2022年から2030年までにEVに関連して400億ユーロ以上を投資します。これに対して、内燃機関(ICE)やプラグインハイブリッド(PHEV)などの技術開発への投資は、2019年から2026年の間に80%減少するとしています。

メルセデス・ベンツを擁するダイムラー社は、2019年に『Ambition2039』を発表し、販売する自動車を2039年までにカーボンニュートラルにする目標を掲げました。つまり販売する車はほぼEVになります。そこに向かう最初のステップとして、2030年までにPHEVとEVを合わせた販売比率を乗用車の50%にすることを目指していました。

今回のメルセデス・ベンツの発表は、『Ambition2039』の最終目標を10年ほど前倒ししたことになります。

ここでEVsmartブログの過去記事を見直してみると、2020年にダイムラー社のオラ・ケレニウス最高経営責任者(CEO)が、すべての新型車はEVから開発すると語ったことがわかります。この時はドイツメディアの取材に対するコメントでしたが、明確に企業目標と位置付けたのが今回のメルセデス・ベンツの発表だと言えそうです。

【関連記事】
ダイムラー社CEOが「すべての新型車はEVから開発」すると表明(2020年9月15日)
メルセデス・ベンツが上海で電気自動車『EQB』を世界初公開~宣言通りの電動化急加速(2021年4月19日)

メルセデス・ベンツがEV専業メーカーになる方針に関して、今回の発表の中でケレニウスCEOは次のように述べています。

「EVシフトは、特にメルセデス・ベンツが属している高級車のセグメントでスピードを上げています。 転換点(the tipping point)は近づいています。そして私たちは、この10年の間に自動車市場が電気のみに切り替わる事に対する準備ができています」

ティッピングポイントは、あるしきい値を超えると一気に変化が加速する転換点です。EVシフトはこれから加速度的に進む可能性が高いと、メルセデス・ベンツを含むヨーロッパの自動車メーカーは見込んでいるわけです。

EVへの投資額は400億ユーロ以上

今回の発表の具体的なポイントは、大きく次の3点です。

① メルセデス・ベンツが2025年以降に新たに投入する技術構成(アーキテクチャ)は電気だけ(electric-only)になる。
② 2025年に電気のみのアーキテクチャを3つ発表する。
③ パートナーとともに8つのギガファクトリーで200GWh以上のバッテリーセルを生産する

2025年にメルセデス・ベンツが新たに販売する車のアーキテクチャは、中型から大型の乗用車をカバーする『MB.EA』、技術とパフォーマンスを重視するメルセデスAMGの顧客に向けた専用のプラットフォーム『AMG.EA』、専用の電気バンと小型商用車の『VAN.EA』の3種類です。それぞれの詳細はまだ発表されていません。

またメルセデス・ベンツはEVシフトを実現するために、開発から生産にまたがる関連部門の垂直統合を進めます。その中には、イギリスを本拠地にするモーターの開発会社『YASA』の買収が含まれるそうです。

『YASA』は、アキシャル・フラックス・モーターという薄型の高性能モーターの開発を手がけているスタートアップ企業です。『YASA』について解説した記事(E-MOBILITY ENGINEERINGの関連記事にリンク)によれば、『YASA』のモーターは1kgあたり10kWの出力を出せるらしく、実現すれば大きなメリットになりそうですが、アキシャル型のモーターは生産技術の確立に難点があるため今後を見守りたいです。加えて、このモーターをどの市場で使っていくのかも興味深いところです。もし格安でそこそこの性能が出るのであれば、中国市場での強い味方になりそうです。

バッテリーに関しては、いろいろな関連会社との提携を通して、8つのギガファクトリーを建設します。協力企業名は明らかになっていませんが、ヨーロッパのメーカーも含まれているようです。この他、スタートアップ企業の『Sila Nanotechnologies』などと協力して次世代バッテリーの開発も進めます。ちなみに『Sila Nanotechnologies』はテスラ社の黎明期のメンバー、Gene Berdichevsky氏が立ち上げたバッテリーの研究開発会社(TECHBLITZの関連記事にリンク)です。

とすると、メルセデス・ベンツは全固体電池ではなく、シリコンの複合材料をアノードに使う次世代バッテリーを重視しているということなのかもしれません。将来のEVを支えるのは全固体電池か、あるいはまったく別の次世代電池か。この競争も目が離せません。

こうした電池を使ってということなのでしょうが、メルセデス・ベンツは将来的に、1回の充電での航続距離が1000kmを超えるEV、『Vision EQXX』の開発に取り組んでいるそうです。この車の電費はなんと、1kWhあたり6マイル(9.6km)以上を目指しているそうです。重量のある車が多いメルセデス・ベンツでこの電費になれば、EVとしては鬼に金棒ですね。

衝撃! メルセデスベンツが10年以内にすべて電気自動車へ移行の方針を発表

ヨーロッパのEVシフトが急加速

7月に入ってから、ステランティス、フォルクスワーゲンが相次いで今後10年~20年の中長期計画を発表しました。いずれの発表も、EVやPHEVへの大規模な投資と生産規模の拡大、それに伴う内燃機関(ICE)の車のシェア縮小という見通しを含んでいました。そして現状ではICE社とEVのコストを、フォルクスワーゲングループは今後2~3年で、ステランティスは2026年までに同等にすることを目指すとしています。

【参考記事】
ステランティスが急進的電動化を発表/『 EV DAY 2021』解説レポート(2021年7月13日)
フォルクスワーゲンが2030年までにEVシェア50%とするプランを発表~電動化で利益率向上へ(2021年7月21日)

さらにフォルクスワーゲングループは、2040年には新車のほぼ100%をゼロエミッションの車にする予定であることを明言しました。ことに、グループ内のブランドであるアウディは、2026年以降の新型車はすべてEVにすることを発表(2021年6月)しています。ボルボも2030年までにEV専業となることを宣言済み。日本でも、ホンダの三部社長が就任後の初会見で「2040年には世界での販売の全てをEVとFCVにする」と明言したのは記憶に新しいところです。

あれよあれよという間にヨーロッパの自動車メーカーが次世代車をメインストリームと位置付け始めたのですが、とうとうメルセデス・ベンツまでもが、この流れに乗ってきました。そしてメルセデス・ベンツもフォルクスワーゲングループと同様に、EVシフトをしてもICE車中心の時と同等の利益率を確保できると予測しています。

最後になりましたが、メルセデス・ベンツも、電動化に向けて従業員に対するトレーニングを強化し、雇用の転換を図っているようです。2020年には約2万人が、e-モビリティに関するトレーニングを受けたそうです。従業員の教育はフォルクスワーゲングループも強化していくことを発表しています。ICE関連の雇用を言い訳にして次世代車への転換を遅らせることはないという決意を感じます。

7月に入ってからのメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲングループ、ステランティスの発表を見ていると、EVはコストが高いから価格も高くなるので売れない、使い勝手に課題がある、バッテリーに問題がある、という日本でよく聞く言い訳はもう世界で通用しないことが明らかだと感じます。その根底には、パリ協定の実現に対する強い意思もあると思えます。

ダイムラー社のケレニウスCEOは、2019年にこんなことを言っていました。「私たちにとって、パリ協定は義務以上のものです。それは、私たちの信念なのです」。そして今回の発表にあたり、ケレニウスCEOは次のように述べています。

「この変革における私たちの主な義務は、有力な製品への切り替えを顧客に納得させることです」

上から目線と言う意見も出るかもしれませんが、ユーザーが選ぶのを待つのではなく、積極的にEVを売り込んでいくという姿勢が、いっそ清々しく感じました。自動車を作ったのはダイムラーでありベンツであるという自負が、そこにあるのかもしれません。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. メルセデスいうたらスマートがあるやないですか!
    そもそもスマートは元来スウォッチ社とベンツが提携して作ったシティコミューター、しかも本来は電気自動車で始めたかったという逸話までありますー。後輪駆動も将来電気自動車にできるよう設計されたとか。
    せやからメルセデスはスマートエレクトリックドライブで味をしめて順次大型車へも適用できるロードマップを持ってたともいえなくないですか!?
    ひとまずコンパクトなスマートで10km/kWhを達成し、テクノロジーの進化とともにアメリカが好む大型車の開発につなげてくはずです。このあたりは国民性問題もあり難しくもありますが。
    そのスマートも日本向けに軽自動車スマートKを開発販売したくらいやからお手の物やと思いますでホンマ!?

  2. この記事を読んで、人間の保守性を痛感しました。何年か前、まだゴーンさんが神格化状態にあったころ、講演を聴く機会があり、その時に彼が言ったことを思い出しました。
    「リーダーは15年から30年先を見つめて決断をしなくてはならない。私はそれをする。これからはEVだ。関連企業の皆さんには、私を信じてついてきてくれれば、必ずや正当な利益を上げることができることを約束する。一方で、逡巡する人たちには辛い未来にならざるを得ないだろう。人間は保守的であることはよくわかっている。だから今、私はこうして皆さんに呼びかけている」

    これまで単なる憶測であった、BMWがApple Carを作る、という話が、何やら真実味を帯びてきたような気がします。改めて、クルマが変わる、と感じました。

    ただし、電力を何から得るか、についてはまだ色々と問題がありそうですね。

  3. 昔、ある自動車会社の開発をやっていたとき、自社の看板技術がメルセデスのエンジンに使われていて、特許当たってるんじゃないか?と特許課に問い合わせたら、”ああ、あれは買っているんだよ”との返答。特許回避して中途半端なモノを出すより買ってまでも最高のモノを出す。なんと迷い無く、力強く、潔い会社だなと思ったことがあります。今回もそんなことを思い出しました。外力に屈したという卑屈な理由でなく、自分たちの製品に求められるものを突き詰めた解答と私は思います。

  4. 日本人や、日本のモータージャーナリストと自動車評論家が大好きなメルセデスブランドが、ここまで明確な方針を出したのが、本当に驚きです。
    19年に新規エンジン開発はしないと発表してから、この発表まで時間がかかったなという印象もあります。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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