日産が軽商用電気自動車『クリッパーEV』発表〜ミニキャブEVより40万円高い理由は、謎

日産自動車は2024年1月30日に、軽商用EVバン『クリッパーEV』を発表しました。商用車の軽EVが日産から出るのは初めてです。三菱自動車の『ミニキャブEV』をベースにしたモデルで、三菱自動車からのOEM供給になります。発売は2月12日の予定です。

日産が軽商用電気自動車『クリッパーEV』発表〜ミニキャブEVより40万円高い理由は、謎

日産初の軽商用EVが誕生

軽商用EVのラインナップが揃ってきました。個人的には歓迎以外のなにものでもありません。

ガソリンエンジンの軽自動車は、排気量が小さいために音が大きくなるし、パワー不足を感じることは多いし、乗り心地もそれなりなものが多いのが残念でした。でもEVになればこうした不満がほぼすべて解消されます。

トルクは1クラス上だし、音は静かで振動は少ないし、乗った感触は高級車に近いです。これの何がいいかというと、疲れないことです。音と振動は身体に響きます。

そして何より、サイズ感が日本の狭い道路にピッタリ合っていると思うのです。これで動力性能に不満がなくなれば鬼に金棒、のはずです。もちろんカーボンニュートラル社会への貢献にもなります。

ということで、日産が軽商用EV『クリッパーEV』を2月12日に発売することを発表しました。三菱自動車『MINICAB EV』(ミニキャブEV)をベースにしたOEM供給になります。

価格は286万5000円(税込)からで、ミニキャブEV(243万1000円〜)より約40万円ほど高くなっています。日産によれば、各社の販売戦略の違いからくるもので「装備に大きな差はない」そうです。もちろん動力性能やバッテリーなどは同じです。

給電機能やコンセントをオプションで用意

クリッパーEVの基本的な装備は、ベースになっているミニキャブEVとほぼ同じです。安全装備は衝突回避のためのインテリジェントエマージェンシーブレーキ、車線逸脱警報(LDW)、ハイビームアシスト、踏み間違い防止アシスト(前進のみ)を標準装備しています。この他、運転席側のシートヒーターを標準装備しています。

急速充電機能はミニキャブEVと同じくオプション(ミニキャブEVのオプション価格は税込5万5000円)で、搭載した場合はカタログ上80%まで約42分で充電可能となっています。サクラなどと同様に、急速充電の受け入れ可能最大出力は30kW程度に抑えられているようです。普通充電なら7時間半で満充電になります。

その他、オプションで100Vのコンセント、給電機能、助手席のシートヒーターなどが用意されています。

グレードは、2シーターで荷室部分のサイドに窓がないルートバン、窓ありの2シーター、4シーターの3種類です。

●日産クリッパーEV車両価格(税込)
ルートバン 定員2人 286万5000円
2シーター 定員2人 291万2800円
4シーター 定員4人 292万500円

まだ発売前なので確定ではありませんが、2023年度のクリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)が適用されるとすると、ミニキャブEVと同じで、給電機能なしは45万円、給電機能あり(急速充電のオプションを選択)なら55万円の補助金になります。

なお、次世代自動車振興センターが1月30日に公表した2023年度補助金の残額は43億円で、2月8日~13日くらいに使い切るという予想が出ています。

クリッパーEVの発売は2月12日予定なので、発売時には、今年度の補助金は受け付け終了になっているかもしれません。2024年度の補助額や制度の発表は、予算が決定する3月~4月ではないかと思われます。

花盛りの軽商用EVを比べてみた

日産が軽商用EVを発表したことで、三菱、日産、春に発売予定のホンダ『N-VAN e:』(エヌバンe)と、3社の軽商用EVが出揃うことになりました。日本独自市場ではありますが、少しおもしろいことになってきました。

そこで、ホンダだけはまだ発表前なので予想になりますが、いろいろ比べてみました。結論を先に言ってしまうと、何を重視するかで微妙に違いが出てきました。クリッパーEVとミニキャブEVは4シーターがあるのですが、ここではエヌバンeと比べるために2シーターを中心に見ていきたいと思います。

日産 クリッパーEV三菱 MINICAB EVホンダ N-VAN e:
ルートバン(2シーター)2シーター2シーター
全長×全幅×全高(mm)3395×1475×19153395×1475×1915
荷台内寸法(長さ×幅×高さ)1830×1375×12301830×1375×12301480(※2)×1390×1365
荷室床面地上高675mm675mm540mm
最大積載量※1350kg350kg300kg
駆動方式RWDRWDFWD
最高出力31kW31kW
最大トルク195Nm195Nm
バッテリーリチウムイオンリチウムイオンリチウムイオン
総電圧330V330V
総電力量20kWh20kWh(予想)30kWh
一充電での航続距離(WLTC)180km180km210km(目標)
電費9km/kWh9km/kWh7km/kWh(推定)
外部給電機能ありありあり
価格286万5000円243万1000円(予想)約250万円
CEV導入促進補助金(※)(予想)45万円45万円未定(2024年補助金対象)
CEV導入促進補助金(給電機能あり)(予想)55万円55万円未定(2024年補助金対象)
※CEVはクリーンエネルギー自動車の略
※2 1シーターにした場合助手席側最長2645mm

まずは基本の、価格とバッテリー容量です。

クリッパーEV 286万5000円(2シーター)~ 20kWh
ミニキャブEV 243万1000円(2シーター)~ 20kWh
エヌバンe 250万円(予想)~ 30kWh(予想)

価格は、日産のクリッパーEVだけがだいぶ高めです。前述したように販売戦略が関係しているようですが、明確な理由はわかりません。軽EVの『サクラ』が三菱『eKクロスEV』よりだいぶ数多く売れたので、ここは一歩引いて、というわけでもないでしょうが、一見すると勝負を放棄しているかのような価格設定に見えます。

エヌバンeとミニキャブEVは、ほとんど価格差がないことが予想されます。ホンダは当初、エヌバンeの価格について100万円台とアナウンスしていましたが、後にこれは補助金を含んでの価格ということが明らかになりました。もしそうならミニキャブEVと真っ向勝負の価格帯になる可能性が大です。

搭載しているバッテリーは、クリッパーEVとミニキャブEVはリチウムエナジージャパンのLEV61です。以前のミニキャブMiEVよりもセル1個あたりの容量が上がっています。またこれまでの発表から推測すると、エヌバンeはエンビジョンAESCではないかと考えられます。
(コメントでご指摘いただいた点、確認ができたので修正しました)

そうすると、バッテリー容量が1.5倍のエヌバンeが、バッテリー単価的にはいちばんお買い得になります。

【関連記事】
ホンダが軽商用EV『N-VAN e:』をHPで先行公開~価格やバッテリー容量を予想してみた(2023年10月1日)
三菱が軽商用電気自動車『ミニキャブEV』を12月に発売~ついに「MiEV」の車名消滅(2023年11月25日)

総合力はミニキャブEVとエヌバンeが同等か

一充電当たりの航続距離は、WLTCでミニキャブEVとクリッパーEVは180km、エヌバンeは目標値ですが210kmです。

この場合の1kWhあたりの電費は、ミニキャブEVとクリッパーEVが9km、エヌバンeは7kmです。リアルワールドでどうなるかは、エヌバンeの動力性能も関係するのでわかりませんが、データ上は三菱/日産連合に軍配が上がります。

もしエヌバンeの動力性能が三菱/日産連合より上で、一般道での走行に適した部分に振っているとしたら、積載量が多くなった時の電費の差は縮まる可能性はあります。今はわかりませんが。

一方で最大積載量は、三菱/日産連合の350kgに対して、エヌバンeは300kgと、50kg少なくなっています。バッテリー搭載量が多い分、積載量に制限があるのかもしれません。

荷室は、三菱/日産連合の方がエヌバンeよりも全長が350mm長くなっています。ミニキャブEVとクリッパーEVは後輪駆動なのに対して、エヌバンeはFWDなので、その分運転席が後方に寄っていると思われます。またエヌバンeは1シーターがラインナップされる予定で、この場合は助手席側足元が最長2645mmになります。

他方、エヌバンeは荷室の床面を低くすることができています。三菱/日産連合に比べると135mm低いのは特徴的です。床面が低い分、荷室の床面から天井までの高さは、他2車に比べて135mm高くなっています。

後輪駆動だと荷室の床下にモーターや減速機を入れないといけないので、高くせざるを得ないのでしょう。とくに女性が使う場合、この差は使い勝手に影響するかもしれません。

装備関係は、エヌバンeが発売前なのでまだ公平な比較ができません。ただエヌバンeはサイドカーテンエアバッグを標準装備することが発表されていて、安全装備では優位性がありそうです。

というように、実車が出ていないので予想は難しいのですが、三菱ミニキャブEVとホンダ・エヌバンeは、価格帯、性能ともに、同じ土俵でがっぷり四つに組むことになるかも知れません。対して日産クリッパーEVは、価格面で不利な状況にあるのは否めません。

前述したように、2023年度のCEV補助金はもうすぐ払底します。次の補助金は4月以降に明らかになります。

ホンダのエヌバンeは春に発表、発売になる予定なので、急ぐ理由がないのであれば、それまで待って3モデルを比べてからでも買うのは遅くないと思います。他にはトヨタ、ダイハツ、スズキによる軽商用EVが航続距離200kmを目標にしているのでユーザーが被りそうですが、市場投入時期は発表されていません。トヨタグループの検査不正問題もあり、しばらく時間がかかる可能性もあります。

などといろいろ書いてきましたが、最後は実車に乗ってみてわかることも多いわけで、春の軽商用EVレースで勝ち名乗りを上げるのはどれなのか、今から楽しみなのであります。もちろん、試乗ができるようになったらEVsmartブログでも紹介したいと思います。

文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)4件

  1. さくらとeKクロスEVも例えばBEVに必須の充電ケーブルが日産はオプションで確か7万円。
    三菱は標準装備。
    「高値をつけても売れるだろう」的幹部の値段設定が透けて見えます。
    なのにさくらの方が売れるのか?
    それは営業力に尽きると私は思います。
    賢い使い勝手優先のユーザーなら三菱自動車のBEVを選んだ方が幸せと思います。

  2. はじめまして。いつも楽しく拝見させていただいております。
    N-VAN Eですが、全グレード価格は決定していますよ。今手元にないので記載出来ずすみません。

  3. >軽商用EV『クリッパーEV』を2月12日に発売することを発表しました。三菱自動車『MINICAB EV』(ミニキャブEV)をベースにしたOEM供給になります。
    >もちろん動力性能やバッテリーなどは同じです。
    >搭載しているバッテリーは、クリッパーEVとミニキャブEVはエンビジョンAESCです。

    下記でも記載しているように・・・
    情報入手元は明かせませんが、確度の高い所から入手したほぼ一次情報だと、少なくともミニキャブEVの駆動用電池は「LEJ製のLEV61」みたいです。

    三菱が軽商用電気自動車『ミニキャブEV』を12月に発売〜ついに「MiEV」の車名消滅
    https://blog.evsmart.net/mmc/mitsubishi-launches-minicab-ev-commercial-electric-vehicle-in-december-end-of-miev-name/

    念のためにご確認並びに必要に応じて情報の修正をお願いします。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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