ポルシェの完全電気自動車スポーツカー、タイカン発表!これはテスラの競合なのか?

満を持してポルシェから完全電気自動車のスポーツカー、タイカン(Taycan)が発表されました。オプション付けるとほぼ2000万オーバー、巷ではテスラの競合とも噂されています。実際にスペックを比較してみました。

ポルシェの完全電気自動車スポーツカー、タイカン発表!これはテスラの競合なのか?

ポルシェ タイカン発表の詳細記事(スペック含む)でお知らせしたとおり、タイカンの最初のラインアップはターボとターボSの2グレードから。ポルシェ好きな方はすでにご存じと思いますが、「ターボS」というのは最上級グレードを意味します。つまり恐らくはこの2グレードは上位2グレードで、ターボなしの無印タイカンや、タイカンSというのも出てくるのではないかと推測できます。

さてこのタイカン、4ドアですから既存のパナメーラと被るんじゃないか、とか、すでに電気自動車ではいろんな意味で有名な(!?)テスラ モデルSやモデル3と競合なんじゃないか、という意見を見かけます。パナメーラはガソリン車ですから、底面一面にバッテリーを敷き詰めなければならない電気自動車のバリエーションを作ることは不可。そのためシャーシからすべてを新開発した、ということで、タイカンは超気合の入った電気自動車ということになります。当記事では、テスラモデルSの2つのグレード、モデルSロングレンジおよびモデルSパフォーマンスと、Dセグメントのモデル3パフォーマンスをスペック上で比較してみます。

表にしてみましょう!

タイカン VS テスラ スペック比較表

ポルシェ タイカン ターボポルシェ タイカン ターボSテスラ モデルS ロングレンジテスラ モデルS パフォーマンステスラ モデル3 パフォーマンス
新車価格15万2136ユーロ~
約1,796万円
18万5456ユーロ〜
約2,189万円
1,035万円~1,281万円~703.2万円~
バッテリー容量
(うち実容量)
93.4kWh
(83.7kWh)
93.4kWh
(83.7kWh)
100kWh
(推測値96kWh)
100kWh
(推測値96kWh)
75kWh
(推測値71kWh)
WLTC航続距離380-449km388-412km610km590km530km
EPA航続距離
※こちらが現実的に走行できる距離の目安となります
推測値
10%減:342-404km
20%減:304-359km
推測値
10%減:349-371km
20%減:310-330km
595km555km499km
電費
EPA/実容量
4.8km/kWh4.4km/kWh6.2km/kWh5.8km/kWh7.0km/kWh
0-100km/h3.2秒2.8秒3.8秒2.6秒3.4秒
最高速度260km/h260km/h250km/h261km/h261km/h
システム最大出力500kW/680PS560kW/761PS420kW/571PS
(推測値)
581kW/790PS
(推測値)
353kW/480PS
(推測値)
システム最大トルク850Nm1050Nm621Nm
(推測値)
931Nm
(推測値)
639Nm
(推測値)
全長x全高x全幅
(ミラー閉じ)
4963x1381x1966mm4963x1381x1966mm4979x1445x1964mm4979x1445x1964mm4694x1443x1933mm
車両重量2305kg2295kg2200kg2250kg1847kg
駆動方法四輪駆動、デュアルモーター四輪駆動、デュアルモーター四輪駆動、デュアルモーター四輪駆動、デュアルモーター四輪駆動、デュアルモーター
乗車定員4
(オプションで後席2+1シート)
4
(オプションで後席2+1シート)
555
AC(普通充電)最大電力11kW(欧州仕様)11kW(欧州仕様)20kW(日本では16kW)20kW(日本では16kW)9.6kW(日本では8kW)
DC(急速充電)最大電力270kW(@800V)
50kW-150kW(@400V, 150kWはオプション)
270kW(@800V)
50kW-150kW(@400V, 150kWはオプション)
200kW(@400V)
日本国内では現状120kW
200kW(@400V)
日本国内では現状120kW
250kW(@400V)
日本国内では現状120kW
充電ポート位置フロント右(CCS2仕様、日本は不明)フロント右(CCS2仕様、日本は不明)リア左リア左リア左

※PCではカーソルキーで左右スクロール、スマホではスライドしてください

そもそも比較するような価格帯の車じゃないですね。700万円、1000-1300万円、そして1800-2200万円ですから、価格帯的に競合はしていないわけです。でもやはりどちらも長距離電気自動車!ということで心理的に、比較して購入する方々はいらっしゃると思います。

まずはバッテリーを見てみましょう。両社とも強制水冷のバッテリーで、かつポルシェはサーキット使用を想定しているとのことで、ポルシェ タイカン:ニュルブルクリンクのタイム7:42の記事でもお伝えしたように、完全電気自動車としてのサーキット性能は間違いなくテスラを抜いてトップであると言えるでしょう。対するテスラは、モデルSより一世代新しいバッテリーやシステムを採用するモデル3パフォーマンスに「トラックモード」を搭載。トラックというのはサーキットのことですから、そのうちモデル3もニュルブルクリンクを走らせる方々が出てくると思われます。

またタイカンはバッテリーの未使用部分が多いようです。どの電気自動車も使用しないバッテリーの容量は、バッテリーの保護のために必ず残すわけなのですが、タイカンは多めに残しているというわけです。これはよりハードな使用=劣化大を想定して、余裕を持たせている可能性があります。例えば10%を残しておけば、100%充電しても90%充電にしかなりませんからね。まあこの価格の車を買える人ならもう一台買えばいいような気もしますが(汗

ポルシェ タイカン 公式発表画像
ポルシェ タイカン 公式発表画像
大きく違うのは航続距離です。タイカンはスポーツカー。これで家族旅行から通勤、スポーツ走行まですべてをカバーする車ではありません。航続距離に対する優先順位はそこまで高くなかったのではないでしょうか。

電気自動車の航続距離は、ガソリン車にない概念なので分かりにくいのですが、EVsmartでは、基本的にEPA航続距離を採用しています。これは米国EPA(環境保護庁)が規定している基準の方法で、満充電から車が走れなくなるまでの走行距離を計測。日本独自のJC08基準のように、低速でゆっくり走らせたりアイドリングさせたりするのではなく、主に高速道路をクルージングしたり街中で渋滞にはまったりなどのシナリオに基づいた、走行可能な距離になります。例えばEPA 400kmの電気自動車なら、夏、時速100kmで東名高速道路をエアコンを掛けて走って400kmを走行することができる、と考えてください。街中ではもう少し航続距離は短くなります。

タイカンはまだ米国EPA値が発表されていませんので、国際基準のWLTCから10%減または20%減で試算してみました。数字で見るとピンときませんが、

タイカンの航続距離はモデルSの3割減

であることが分かります。これはパワートレインの効率の問題で、電池→インバーター→モーターと電気が流れて力に変わるわけですが、この効率に関してはテスラに「一日の長がある」と言えるでしょう。

電気自動車ユーザーになじみのある「電費」で比較してみると、差は歴然としています。タイカンは電費でいえば、SUVであるテスラモデルXとほぼ同じくらいです。モデル3の電費は素晴らしいですね。実はモデル3の電費はリーフより良いのです。

テスラ モデルS
テスラ モデルS
次に加速と出力です。ポルシェタイカンの加速データはオーバーブースト時のもの。このオーバーブーストというのは2.5秒間だけ適用されるもので、恐らくローンチコントロールを使ったときに出せるパワーで達成した数字です。テスラにも同様のローンチモードがあり、通常のモードより高い出力を出せるようになっています。このあたりは同じですね。オーバーブースト、っていうのもターボっぽいです。

出力も0-100km/hを見ると大まかに「そんなもんなんだろうな」という感じの数字になっています。電気自動車の出力やトルクは大きすぎて、ガソリン車とは比較できないですよね?タイカンターボSやモデルSパフォーマンスの900-1000Nmなんて、ガソリン車では数億円の車でないと実現していません。実際に加速してみると、

頭蓋骨の中で脳が後ろに寄せられる感覚があり、頭の前側から血がなくなり目の前が少し暗くなりかける

ような感じがあります。この領域は、一般の方が使うと危険なレベルの加速ということになります。もちろん大型バイクより加速が速いので、バイクの方はタイカンやテスラがいたら、クルマが急加速するかも、という認識を持って走行されたほうがいいかもしれません(もちろん急加速はいけません)。

そしてサイズ!なんと、

ポルシェタイカンとテスラモデルSはほぼおんなじサイズ!

ちょっとだけタイカンのほうが重いんですね。

タイカンもモデルSも四輪駆動でデュアルモーターですから、前後車軸をつなぐドライブシャフトはありません。前後独立にコンピューターが回転速度を調整してトルクベクタリングを行います。また左右どちらのタイヤがどれだけ滑ったかはセンサーで検知し、それをすぐモーターの出力にフィードバックできるので、ブレーキを使ってタイヤへのトルク制御をするガソリン車などよりもレスポンスが100倍以上速く、雪道など滑りやすい路面で、ガソリン車とは比較にならないくらい滑りにくい性質を持っています。これは電気自動車一般に言える特徴ですね。

なおタイカンは前後モーターともに永久磁石モーターを採用。テスラモデルSは今年春のマイナーチェンジでフロントは永久磁石モーター(PSRM)、リアは誘導モーター(IM)を使用。日本では永久磁石モーターのほうが効率がいい!という意見が多いのですが、実際にはそれぞれメリットとデメリットがあり、永久磁石モーターのほうが全体的に良いモーターだと言えます。

誘導モーターはトルクが高く、かつ使わないときに電力を食わない特性があります。それ以外の性能は全て永久磁石モーターのほうが良いのです。テスラはなぜ誘導モーターを混ぜて使っているのでしょうか?実は春のマイナーチェンジ前のモデルSとXは前後ともに誘導モーター。誘導モーターを使用する理由は以下の通りです。

  • 発進加速を重視するなら誘導モーターのほうが有利。
  • 四輪駆動を前提として、高速道路を通常の速度で走行(つまり、スポーツ走行やサーキットではない)することを想定する場合、モーターは一つだけ駆動させたほうがよい。テスラではレンジモード時、二輪駆動モードになり、片側の誘導モーターに電気が入っておらず、電力を消費しません。高速走行時の電費が改善されます。
  • 誘導モーターは永久磁石を使用しないため、レアアースが必要ありません。モデルSが発売されたのは2012年。中国のレアアース問題がまだあった時代です。

タイカンは発進加速より、中間程度の速度における全体的な効率を考えて設計されていると考えられます。でもまだモーターはチューニングの余地がありそうですね。スポーツカーに効率とか関係ないか(爆

そしてテスラモデル3はモデルSと逆!フロントに誘導モーター、リアに永久磁石モーターを配置しています。発進時などトルクが必要な局面では誘導モーターの割合を増やし、定常走行時は永久磁石モーターの割合を増やして、または誘導モーター側をスリープさせて走行するわけです。

ポルシェ タイカン インテリア
ポルシェ タイカン インテリア
定員はタイカンが4、テスラモデルSは5です。タイカンは写真では、室内はモデル3と同じくらいに見えますね。オプションで2+1シートを選ぶと5名乗車になるようですが、恐らく真ん中の席には大人は座れなさそうです。

最後に充電です。タイカンはこの点では現時点で世界で最高レベルのスペックを誇り、800Vの充電設備で270kW充電を可能にしています。800V 337Aです!なお日本国内では400Vを使うことになるそうで、現状の欧州仕様の場合、400Vでの最大急速充電電力は50kW。オプションで150kW=400V 375Aになるそうです。これでも凄い。。。現時点でCCS2仕様しか発表されていないので、チャデモで実際に何kWで充電できるようになるのかは不明ですが、150kWをぜひ達成してもらいたいものです。

一方テスラは発表では春のマイナーチェンジ後のモデルS/Xは200kW充電に対応、と言われていますが、マイナーチェンジ前のモデルは145kWまで。またこの200kW充電を行うにはスーパーチャージャーV3が必要で、現時点では日本国内でV3の展開はありません。モデル3はさすがにバッテリーからパワートレインからすべて新型なだけに、スーパーチャージャーV3で250kWを約束しています。スーパーチャージャーはV3でも400Vなので、250kW=400V 625A。実際には700A以上を出力できると考えられ、モンスター充電器と言えます。

そして!
EVsmartブログとしては、これを自動車メーカーに言いたい!

充電ポートの位置を統一しましょう!!

タイカンはフロント右ということなのですが、リーフの充電ポートはフロント中央、アウトランダーPHEVとBMW i3はリア右、アイミーブとテスラモデルS/Xはリア左、ミニキャブミーブは自社内で統一を図ることもなくボディ中央左、そしてBMWのPHEVはフロント右。欧州車はフロント右に統一するつもりなのか?

ポルシェ タイカン 充電ポート
ポルシェ タイカン 充電ポート
日本以外の国では前から駐車スペースに入って停める方式が一般的。実はバック駐車する(バックイン)は日本の文化だったんですね。そのため充電ポートを前にするのは意味があります。また欧州では日本の路上コインパーキングのように、道の右側(イギリスでは左側)に路上駐車することも多く、この場合充電器は右側に来ますから、フロント右にも意味があるでしょう。

しかし世界で一番売れている日産リーフとテスラがそれぞれバラバラで、その他の車がフロント右に統一されても困りますよね。100kWを超える充電を超急速充電と言いますが、超急速充電ではケーブルですら過熱すると言われ、水冷ケーブルの採用が一部予定されています。この発熱はケーブルを太くすれば減らすことができますが、ケーブルの長さにも比例して増加してしまいます。いろんな充電ポートの車に対応するためにケーブルを長くすると、冷却のためのコストも増加するんです。テスラのスーパーチャージャーが、非常に短いケーブルを採用していることも、実はこの「無駄を防ぐ」意味もあると考えられます。

結論:タイカンはブランド的にも価格的にもテスラ(モデルS)の競合ではない。サーキットで楽しむ・2台め3台めで楽しむならポルシェタイカン。家族も乗せる・1台だけの車であればテスラ。こんなところでしょうか。
(安川 洋)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. ついに正式発表されましたね。 この性能は、まあ過剰でしょうね。

    EVを作っても、ポルシェはポルシェ、と言うより、ポルシェの中でもかなり過激なアイコンとして出てきた感があります。

    タイカンはモデルSの競合相手かという記事ですが、価格的にも性能的にも、本来は違うでしょうね。でも、今までモデルSより高性能で高価な市販EVが事実上なかった訳ですから、新たな選択肢が出来たという意味で、モデルSの潜在的な購入者の一部が今後はタイカンに流れる可能性は否定できないと思います。

    これから各社から色々な大きさ、価格、性能のEVが販売開始されると、いよいよ購入者が選択肢を持ってEV同士の比較を始めるようになります。消費者としては嬉しい限りですが、一人勝ちだったテスラにとっては、ここからが本番です。

    モデル3は価格競争力がありますし、スーパーチャージャーV3も出ました。 モデルYも楽しみですが、SやXにもテコ入れして商品力アップに勤めて欲しいですね。

  2. 同じカワサキにはH2と言うスーパーチャージャー搭載モデルが有ります。
    最高速230kmオーバー、パワーウエイトレシオ1.03何故かゼロヨンタイムがあまり見当たらない?
    電子デバイスで安全側に制御してるからタイムが出ないのか?

  3. ・ハッチバックじゃなくトランクあるのは意外だった
    ・加速遅い、リア2速にした意味
    ・電動ドアミラーオプションとかまだやってんの
    ・モーターついてるのにPCCBと10potはいるのか(ターボS)
    ・E-tron、EQCと違って新造してきたのは好感もてる
    ・どこも航続距離/電池容量でテスラを超えられてない
    ・APなどの数値の性能以外で勝ててる感じがしない

    あと最大トルク900Nmのガス車といえばS63 4MATIC+
    2500万円です。

    あと加速性能、リッターSSと同等くらいかな

    1. 良いものだけを買う人 様、コメントありがとうございます。
      AMG S63、900Nmあるんですね。さすが。。

      あとリッターSSというのは主に海外で販売されているモデルなんですね。ちょっと調べてみましたがカワサキのNinja ZX-10Rが2.5秒ですよね。多分これだと、最初はモデルSやタイカンのほうが速いかと。。後半はバイクに抜かれると思います。
      もっと怖いのは(汗、バイクはうまいライダーが走らせてそのタイム。EVはおばあちゃんでも速いってのが。。

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この記事の著者


					安川 洋

安川 洋

日本アイ・ビー・エム、マイクロソフトを経てイージャパンを起業、CTOに就く。2006年、技術者とコンサルタントが共に在籍し、高い水準のコンサルティングを提供したいという思いのもと、アユダンテ株式会社創業。プログラミングは中学時代から。テスラモデルX P100Dのオーナーでもある。

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