テスラ スーパーチャージャーV3が発表、250kW・5分間で120km走行可能に

先日のモデル3スタンダードレンジの発表の際に予告のあった、スーパーチャージャー バージョン3が本日発表されました。世界最大の充電ネットワークを構築しているテスラの最新情報です。

テスラ スーパーチャージャーV3が発表、250kW・5分間で120km走行可能に

本日の発表は予想に反してブログで行われました。おそらく日本語版もじきにリリースされると思います(こちらのリンクは、執筆時点では英語になっていますが、このページが日本語化されるはずです)が、当サイトではEVsmartチームの意見も加えて、より分かりやすく、充実した情報をお伝えします。当記事は翻訳をベースにしています。

テスラは北アメリカ、欧州、アジア地域に12,000基のスーパーチャージャーを設置し、そのネットワークは毎日成長を続けています。米国では99%の人口をカバーし、欧州でも同等の人口を2019年末までにカバーする予定です。中国では人口カバー率90%を最近超え、その率は上昇を続けています。しかし、電気自動車の普及を推進し、世界の再生可能エネルギーへのシフトを加速するためには、充電速度はもっと速くなる必要がありますし、一か所の充電スタンドにおける一日当たりの充電可能台数は、今より圧倒的に多くなる必要があります。
※EVsmart注:現在日本には20か所のスーパーチャージャーがあります。

本日テスラは、スーパーチャージャーの次のステップであるスーパーチャージャー バージョン3(スーパーチャージャーV3)を発表します。V3はテスラの世界最大の蓄電設備の経験から生まれ、テスラ車を現時点で発売中のどの電気自動車よりも高速に充電できる設備です。
※EVsmart注:高速充電を明示的に発表しているポルシェ社のタイカンは現時点未発売の車両です。こちらは最大350kW、20分で80%および、4分間で96km走行可能という情報になっています。EVsmartブログの読者の方々は最大出力があまり意味がないことはお分かりだと思います。結局、高出力をどのくらいの時間継続できるかで、充電時間は決まります。4分間で96kmということは、5分間だと120km。5分間での性能では、テスラのV3とほぼ同じであると言えると思います。80%まで20分で充電できるかどうか、というのは、これも読者の方ならお分かりと思いますが、0-80%のことを言っているとは限りません。電気自動車のバッテリーが0%に近い場合、フルパワーで充電できるケミストリー(電池の内部の種類)はほとんどなく、おそらく非常に空に近いところは避けて、10-80%とか20-80%あたりのことを指して20分としている可能性が高いと思われます。

高速な充電と、電力の共有なし(ペアリングなし)

スーパーチャージャーV3は、まったく新しいアーキテクチャーで設計されています。電力会社が利用しているテスラの製品と同じように設計された、新しい1MWの高圧受電設備で最高一台あたり250kWで充電することができます。250kWでは、モデル3ロングレンジの最も効率の良いときで、5分間で120kmを走行可能にします。本日発表する他の改善点と合わせて、今までのテスラ車の充電データに基づいて推測すると、テスラ車のお客様がスーパーチャージャーで充電に使う時間は今までの半分になる予定です。

V3の新しいパワーエレクトロニクスを装備したスーパーチャージャーでは、一台のテスラ車が自分のバッテリーの許す限り、最大のパワーで充電することができます。今までのように2基のペアになっていて、隣の車両とパワーを分けることはありません。この新技術により、スーパーチャージャーV3での平均的な充電時間は15分に短縮されると推測しています。
※EVsmart注:「平均的」ですから、やはりバッテリーを空にしたら30分くらいはかかるでしょう。しかし仮にですが、20-80%が15分になったら多くのユーザーは15分しか充電しなくなるでしょうね。

オンルート・バッテリーヒーティング

充電体験を改善するのは、スーパーチャージャーV3インフラストラクチャーだけではありません。今週(※本日2019/3/7)より、テスラは「オンルート・バッテリーヒーティング」という新機能をリリースします。オンルート・バッテリーヒーティングは、スーパーチャージャーに向かって走行しているとき、到着時点で急速充電に最適な温度になっているよう、計算してバッテリーを予熱し、平均的な充電時間を25%短縮します。
※EVsmart注:名前は弊社の翻訳です。この機能は非常に重要で、毎日電気自動車を乗っているからこそ思いつくものです。今まででもパフォーマンスモデルには「バッテリー最大化」というスイッチがあり、バッテリーヒーターを強制的に入れることができましたが、わざわざそんなことしなくても、車が自動的にバッテリーを温めておいてくれるわけです。急速充電には、ある程度、できれば30℃以上の高いバッテリー温度が必要です。航続距離とバッテリーヒーターで使う電力量を考慮に入れつつも、結果として充電時間が短くなるシミュレーションがリアルタイムで行われることは、素晴らしい進化だと思います。この機能は寒冷地での電気自動車の利便性を飛躍的に高めるでしょう。

スーパーチャージャーV3による250kW出力、ペアリングなしの車両への電力供給とオンルート・バッテリーヒーティングを合わせることにより、充電時間を半減させ、1か所の充電スタンドにおいて1時間当たり従前の2倍以上の台数を充電できるようになります。追加として、既存の12,000基のスーパーチャージャーV2ステーションにも、これから145kW出力ができるよう改善をしていきます。
※EVsmart注:スーパーチャージャーステーションには、90kW、120kW、135kW、145kWなどの「バージョン」がありました。現在は90kWのスーパーチャージャーは存在せず、すべてが120kW以上となっています。日本ではまだ一部120kWのスーパーチャージャーが存在しますので、日本においてもこの改善の恩恵は受けられると思われます。なお120kWはペアリングありにおける、2基分の合計出力。つまり、2台で同時に充電すると60kWずつになるというわけです。145kWのスーパーチャージャーで2台で同時に充電すると、72kWずつに分配されます。

(中略)
2019年に追加される予定の数千基のスーパーチャージャー、V3のリリースやその他の改善を合わせることにより、テスラ スーパーチャージャーネットワークは2019年の年末時点で、1日当たり本日時点の2倍以上の車両を充電することができるようになり、2019年のテスラ車の増加に余裕をもって対応が可能になります。

本日より、ベイエリア(※カリフォルニア州のサンフランシスコからシリコンバレー近辺の範囲)に最初のスーパーチャージャーV3ベータサイトをオープンし、テスラのアーリーアクセスプログラムに参加しているオーナーが徐々に利用可能になります。スーパーチャージャーV3は最も台数の多いモデル3にまずは提供開始され、その後数百万回におよぶ充電履歴データを確認したうえで、他のテスラ車両にも提供を開始する予定です。モデルSとモデルXの充電速度は、今後のソフトウェアアップデートで高速化されます。アーリーアクセスプログラム以外の一般のオーナーがスーパーチャージャーV3を利用できるのは、スーパーチャージャーV3の設備が増加したのち、第2四半期(4-6月)のソフトウェアアップデートにより可能になります。ベータではない正式のスーパーチャージャーV3は4月に工事を開始し、北アメリカでは第2四半期と第3四半期に利用可能になり始め、欧州とアジアでは第4四半期になる予定です。
※EVsmart注:モデル3だけでなく、モデルS/Xでも新スーパーチャージャーの恩恵をソフトウェアアップデート後、受けられるというのは素晴らしいのですが、恐らく現行の車両についてはさすがにまったくモデル3と同じだけの250kWを受けられるということはないのではないかと思います。もしかするとバッテリーのリビジョン(バッテリーもたった7年間で何回も改善されています)によって、制限が変わってくるのかもしれません。今後どこかで、新しいバッテリーを使ったモデルS・モデルXが発売されるかどうかは不明ですが、その場合はもちろんこのスーパーチャージャーのV3に対応した、新バッテリーが用意されることと思います。

EVsmart総括

今回の発表は電気自動車の歴史に残るものだと言えると思います。モデル3スタンダードはもちろんリーフe+より電費は良いのですが航続距離はわずかに短く、またコストという意味ではGM BoltやKia Soul EVなどに負けています。しかし電気自動車はハードウェアだけで戦うものではありません。結局長距離を快適に移動できなければ、移動手段としての自動車の必要条件を満たさないわけで、スーパーチャージャーV3により、


化石燃料車は唯一のメリットを奪われつつある

ということが明確になりました。

この記事のコメント(新着順)8件

  1. テスラの性能だったら近所の往き来位だったら、家やそこいらで充電で大丈夫ですけど、より遠い所へ出かける時の道中の通過点で250kwの充電設備が有れば良いです。そうなると、設置場所が高速道路のサービスエリアだったら、日本全国隈なく往き来出来るのでは無いでしょうか。設置してもわずか500ヶ所ほどです。街の中に作られれも、充電設備の近くへ行く用事が有れば良いですけど、殆どのユーザーが、そうとは限らないですからねえ。

    1. いつか脱化石燃料様、おっしゃる通りです。
      じゃなんでSAPAには大規模の充電設備が作られないのか。その理由はコストにあります。実はサービスエリアは「日本高速道路保有・債務返済機構」の所有になっており、高額な賃貸料がかかるそうです。
      道路から車を下ろしたくない道路族と、道路から車を下ろしたい他の族との闘いなのかもしれません(笑)

  2. 「オンルート・バッテリーヒーティング」こんなことまでどんどん機能追加してくるのはさすがですね。「しかし電気自動車はハードウェアだけで戦うものではありません。」この観点からするとやっぱりテスラ は別格な気がします。

    一つわからないことがあるのですが、スーパーチャージャーの人口カバー率というのはどういう計算に基づいているのでしょうか? (どこかに公開されていますか?)
    ちなみに現在の日本では何%になるのでしょう?

    1. ITO様、人口カバー率、昔、携帯電話で話題になりましたね。その時は、その市区町村(最小行政単位)の役場でアンテナが立てば、その市区町村は100%圏内であると仮定していました。今回の内容は恐らくテスラ社内部の資料に基づいた発表だと思われますので、現時点で私の知る限り、明確な根拠は公開されていないように思います。

  3. いつも示唆に富む情報発信、参考になっています。モデルS85のオーナーです。
    電気音痴の還暦オヤジですが、確かEVの場合、自分の車のバッテリー容量に対し、何倍量でチャージをするのか?って、結構大事だったような気がします。例えば、初期のリーフ24だったら、チャデモにおける2倍相当の48くらいが限界?と言う話を聞いた記憶があります。これを2倍なので「2C」と考えるならば、今回の発表は、私の85の場合、250でチャージすると、瞬間的にでも「3C」で、グイグイ入れてしまう時がある訳で、バッテリーの劣化について、少し心配になります。その辺の所で、何か知見がございましたら、ご教示下さいませ。

    1. テスラ愛様、コメントありがとうございます。
      はい、Cは充電式のバッテリーにとって非常に重要な概念だと思います。今までテスラは120kWくらい止まりだったので、60kWhバッテリーでも2C程度、100kWhバッテリーでは1.2Cだったわけなのですが、250kWともなると2.5C-3Cくらいの充電となると思います。
      ただ今回の発表では、モデル3では250kWで充電できる、と言っていますが、モデルSとモデルXにおいて250kWを達成できるとは書いていないですよね。150kWなのか200kWなのかそのあたりは分かりませんが、まったく同じではない可能性もあるのではないでしょうか。バッテリーの劣化については、テスラはバッテリーの劣化度合いまですべて把握しているわけですから、スーパーチャージャーV3で頻繁に充電している車のバッテリーの変化を統計学的に分析したうえで、少しずつ調整していくのではないでしょうか?

  4. こんにちは
    いつも素敵な内容なblogありがとうございます。

    テスラがまた定説を変えるキッカケを作ってくれましたね
    ユーザーの笑顔が何よりも説得力ありますね

    日本は計画や話しこそあれ
    どんどん遅れていきやしないかヒヤヒヤしますね

    日本というよりも、社会意識や意欲が原因かも知れませんが…

    勝手ながらブログにリンク紹介させて頂いてしまいましたm(__)m
    https://minkara.carview.co.jp/userid/2832671/blog/42583025/
    問題やご迷惑ありましたら削除しますので
    お知らせくださいませ

    これからも宜しいお願い致します

    1. hideshy様、コメントおよび、いつもお読みいただきありがとうございます。
      はい、今回のこの発表は電気自動車の発展において、モデルSの発表と同じくらい象徴的なイベントだと思っています。
      これにより、私はこのブログでも「充電計画」が必要だ、と常に書いていましたが、V3によりそれがほぼ不要になるからです。サービスエリアみたいにすべてが揃っている施設でも、充電スタンドに駐車してからトイレに行って帰ってくるまで10分はかかります。飲み物買ったら余裕で15分。これでもう充電できているわけですから、2-3時間おきにトイレ休憩のみで食事しなくても、旅行を継続できるようになったのです。

      日本が遅れる、という視点ですが、私見では、新しいものを試したり受け入れたり理解する能力が、社会が成熟するにつれ衰えていく「老化」ではないかと思っています。ある意味老化=成熟と言ってよいのだと思いますが、変化が激しい時代において変化の遅れは致命傷になりますよね。なので、この老化は日本だけでなく、世界全体でこれからも起こっていく現象だと思います。老化も合わせて社会なわけですから、競争しつつも共存できる社会にしないといけない、、結構難しいように思います。

      リンクに関してはもちろんご自由にお願いいたします。ありがとうございます。

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この記事の著者


					安川 洋

安川 洋

日本アイ・ビー・エム、マイクロソフトを経てイージャパンを起業、CTOに就く。2006年、技術者とコンサルタントが共に在籍し、高い水準のコンサルティングを提供したいという思いのもと、アユダンテ株式会社創業。プログラミングは中学時代から。テスラモデルX P100Dのオーナーでもある。

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