テスラ2023年第2四半期の台数速報〜年間180万台の目標を達成へ

テスラ社は2023年7月2日(現地時間)に、2023年第2四半期の生産台数と納車台数の速報を発表しました。生産、納車のいずれも過去最高を記録しただけでなく、主要メディアのアナリスト予想を上回る結果でした。金利上昇の影響も見られず、年間目標の達成に楽観的な見通しが出てきました。速報をお伝えします。

テスラ2023年第2四半期の台数速報〜着々と年間180万台の目標達成へ

生産、納車のいずれも46万台を超えて過去最高に

電気自動車(EV)メーカーのテスラ社は2023年7月2日に、第2四半期(4~6月)の生産台数と納車台数の速報値を発表しました。生産台数は、『モデルS/X』が1万9489台、『モデル3/Y』が46万211台で、合計47万9700台と、四半期ベースで過去最高の台数を記録しました。2023年第1四半期の44万808台からは8.8%増、前年同期の25万8580台からは85.5%増と急増しています。

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納車台数は、『モデルS/X』が1万9225台、『モデル3/Y』が44万6915台、合計46万6140台で、前期比10.2%増、前年同期比では83%の増加になりました。前期の納車台数は42万2875台でした。

ウォール・ストリート・ジャーナル、ニューヨークタイムズ、ブルームバーグの各メディアはこの結果についていずれも、アナリスト予想を上回り、テスラ社がアメリカでの金利上昇の影響を乗り越えたと報じています。

業績の上昇はコロナ禍の影響で逼迫していたサプライチェーンの状況が改善していることも示唆していて、年間180万台という今年の目標の達成が見えてきたと言えるかもしれません。

テスラの車が3万3000ドル以下で買えるアメリカ

販売台数の伸びに大きく貢献していると思われるのが、7500ドルの税控除や販売価格の引き下げです。ニューヨークタイムズは、今年始まった優遇措置によってテスラ車を買う人は7500ドルの連邦税額控除を受けられため『モデル3』なら3万3000ドル以下で買えるようになると伝えています。

そして、この価格帯はベンツやBMWの高級セダンより安く、トヨタ『カムリ』やホンダ『アコード』のような大衆車を肩を並べると指摘しています。

EVsmartブログでも何度か紹介したことがある、カリフォルニア州新車ディーラー協会(CNCDA)のまとめによれば、2022年通期で新車販売でのEVのシェアが17%を超えたカリフォルニア州でもっとも売れた乗用車は『モデル3』です。2番手は『カムリ』、その次が『カローラ』です。

そしてSUVのトップは『モデルY』で、2番手がトヨタ『RAV4』です。

昨年のテスラ車の価格は上がったり下がったりしていましたが、昨年後半から今年にかけては引き下げ傾向が続いています。

視野を広げてみると、オーストラリアのWEBメディア「DRIVE」は、『モデル3/Y」ともにオーストラリアでの販売価格が7月1日に引き下げられたことを報じています。ブルームバーグも同日に、中国で価格引き下げがあったことを報じました。

価格引き下げの影響は、販売台数の伸びによる在庫減少にもつながっているようです。もともとテスラ社は生産台数と納車台数のギャップが少ないメーカーでした。でもコロナ禍や販売台数の急増などによって、それまで数千台だった差が2022年第4四半期には3万4423台に広がっていました。それが今期は1万3560台にまで縮小しています。

こうした状況は利益率にどのように影響するのでしょうか。2023年第1四半期では価格引き下げが利益率を圧迫していることが明らかでしたが、テスラ社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は決算後のアナリストに対する説明会で、利益率より販売台数増加を優先すると語っていました。

第2四半期決算は7月19日(現地時間)に発表される予定です。

スーパーチャージャー開放の影響は?

Tesla, Inc.

イーロン・マスクCEOは2023年第1四半期のアナリスト向け電話説明会で、ヨーロッパでスーパーチャージャーをテスラユーザー以外に開放したことで充電の待ち時間が増えているわけではないと話し、北米や中国でも同じようにスーパーチャージャーを開放していく考えを示していました。

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テスラ2023年Q1決算を発表~台数は過去最高も利益率は低下(2023年4月22日)

その言葉通り、5月から6月にかけてテスラ社は、フォード、GMと急速充電の規格統一に向けて取り組みを強化することで合意。規格はテスラ社のスーパーチャージャーが採用しているNACS(北米充電標準規格)になることが明らかになっています。

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フォードとGMがテスラスーパーチャージャー利用で合意~アメリカのEVは便利になる?(2023年6月18日)

急速充電器の規格統一については、前記2社のほか、新興EVメーカーのリビアンやボルボもNACSの採用を発表しました。ボルボは6月25日のニュースリリースで、2025年に発売するモデルからNACS規格の充電システムを搭載することを明らかにしました。

ボルボ・カーズのジム・ローワンCEOはNACSの採用について、「電気自動車へのシフトを行う上で、大きな阻害要因のひとつは、簡単で便利な充電インフラへのアクセス」だとし、テスラ社との合意は、ボルボがアメリカ、カナダ、メキシコのボルボユーザーにとっての「障壁を取り除くための大きな一歩を踏み出すこと」になるとコメントしています。

確かにスーパーチャージャーの軽いケーブルや、プラグインチャージのシステムなどは簡単で便利です。

スーパーチャージャーの開放は、テスラユーザーにとっては利用者が増えることで待ち時間への不安が生まれる可能性があるとも言われていますが、規格統一後はテスラ社以外の自動車メーカーによる充電設備投資も進むはずで、今以上のペースで数が増えることも期待できます。

ここからは個人的な感想です。従来のCCSやCHAdeMOを使っているEVユーザーにとっては一時的に厳しい状況になる可能性は否定できませんが、10年先のモビリティーを考えるとプラス要因が大きいのではないでしょうか。

車そのものの性能ではなく、インフラの不足に加えて規格乱立による不要な競争によって成長が阻害されるとしたら、社会にとっての不幸だと思います。それに持続可能なモビリティーにとって大事なのは、テスラ社のEVが売れることではなく、EVがあたりまえの存在になるよう市場が変化することでしょう。

そこでの阻害要因を自動車メーカー各社の協力によって排除できるとしたら、市場活性化への近道になるのではないでしょうか。もちろん自社開発した規格がスタンダードになればそれにこしたことはありませんが、そのチャンスは市場を確立したメーカーの手にあるように思います。

そんなわけで、スーパーチャージャーの開放、規格統一への動きは、長期的にはテスラ社はもちろん、自動車業界全体にとって大きなメリットを生むと思うのです。

なお、充電規格統一の影響かどうかはわかりませんが、テスラ社の株価は規格統一の発表をはさんで、4月26日の153.75ドルが、6月30日には261.77ドルに急上昇しています。少なくとも市場は、規格統一を歓迎していると言えそうです。

それほど順風満帆でもないEV市場

ところで、テスラ社は順調に伸びているように見えますが、EV市場全体を見ると、苦しいスタートアップが少なくありません。

GMの工場を引き継ぐなどしてEV事業に挑戦していたローズタウン・モーターズは、5月に米連邦破産法11条の適用を申請し経営破綻しました。それに関連して台湾の鴻海科技集団グループ(フォックスコン)を提訴するなど、複雑な様相を見せています。

アマゾンが出資しているリビアンも、5万台の年間生産台数に対して第1四半期は9395台でした。上場直後に172ドルをつけた株価も、直近では16.66ドルに落ちています。生産能力に対してアマゾンに不満があるという見方も、メディアを通して伝わってきます。対してリビアン側はアマゾンにEVを独占供給する契約の見直しを求めていて、関係が少しこじれているようにも見えます。

そしてWEBメディアのINSIDE EVは6月27日に、フォルクスワーゲンがEVの需要減少を理由に、EV生産工場の夏季休暇期間を延長すること、一部の従業員の雇用契約の更新をしないことなどを報じました。加えて『ID.7』の生産が、当初予定の2023年7月から、2023年後半に延期されたとしています。

記事によれば、フォルクスワーゲンのヨーロッパでの販売台数は、2023年第1四半期には前年同期比で68%増、アメリカでは98%増でしたが、最大市場の中国で伸び悩み、予想していたよりも需要が30%少なかったそうです。

中国で売れないと需要予測を満たすことができない計画になっていたのでしょうか。でも最大の市場で数が増えないのでは、生産計画に大きな影響が出るのは当然と言えます。

翻って日本メーカーの様子を考えると、これから販売するEVがテスラやBYDを超える人気を獲得できるんだろうかとか、余計な妄想が頭をもたげてきます。トヨタがテスラ社の生産方法を見習うなどの動きはありますが、そうしている間にも先行したメーカーは先に走っていきます。

なにはともあれ、7月19日の決算発表で改めて、テスラ社の状況をお伝えしたいと思います。

文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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