フォードとGMがテスラスーパーチャージャー利用で合意〜アメリカのEVは便利になる?

アメリカでは、フォードに続きGMもテスラが独自に整備してきたスーパーチャージャーを利用することを発表しました。他の自動車メーカーの動向にもよりますが、北米地域でこれから販売されるEVは事実上テスラが提供する「北米充電標準規格(NACS)」に対応するのが主流になると見込まれます。

フォードとGMがテスラスーパーチャージャー利用で合意〜アメリカのEVは便利になる?

北米ではテスラ規格が急速充電のスタンダードに!

2023年6月8日、アメリカのゼネラル・モーターズ(GM)が、テスラが独自に拡充してきたスーパーチャージャーを利用できるようにして、急速充電規格統一への取り組みを強化することを発表しました。

GMのニュースリリースによると、2024年から北米ですでに整備されている約1万2000基のスーパーチャージャーを専用のアダプターとスマートフォンアプリを使ってGMのEVユーザーが利用できるようになり、2025年以降に発売されるGMのEVは最初から「北米充電標準規格(NACS)=テスラスーパーチャージャー」のインレット(充電口)を備え、アダプターなしで利用できるようになるとしています。

また、すでに拡大しつつあるCCS1(コンボ規格)対応の充電ステーションでも充電できるよう、将来的にはCCS1→NACSのアダプターを提供する予定ということです。

5月25日には、フォードも2024年から同社製の電気自動車がアダプターを介してスーパーチャージャーを利用できるようにして、2025年以降に発売されるEVの充電口はNACSに統一することを発表(関連記事)していました。

フォードとGM、かつてアメリカ自動車産業のビッグスリーと称えられ、今後のEVシフトでも主要なメーカーになるであろう2社が揃って充電規格統一への動きに同調したことで、北米地域で今後発売されるBEVはテスラが提供するNACSに対応するのが「当然」になっていくと思われます。

NACSは本当に優れているのか?

そもそも、テスラが自社EV用の急速充電インフラとして整備してきたスーパーチャージャー網を開放したのは、「2030年までに新車の50%以上をEVと燃料自動車(FCV)にする」という目標を掲げて意欲的な政策を打ち出すバイデン政権の要請に応えたもので、2022年11月にはテスラ車専用コネクターとして開発したTesla charging connectorを、NACS(North American Charging Standard=北米充電標準規格)として公開、北米標準化を目指すことを発表していました。

【関連記事】
テスラが自社充電コネクター規格を公開し「北米標準」目指す。日本はどうするべきか?(2022年12月2日)

なぜ、フォードやGMが、ある意味でテスラの軍門に下るような決断をしたのでしょうか。最大の理由は「NACS、つまりテスラのコネクター規格が優れているから」というしかありません。詳細な仕様や背景などは、上にリンクを貼った記事で解説しているのでご参照いただくとして、日本のEVユーザー的視点で考えても、チャデモ規格の急速充電器を使うより、テスラ車でスーパーチャージャーを使う方が便利で快適です。

何が便利で快適なのか、具体的に挙げておきます。

●プラグアンドチャージができる
充電口にケーブルを挿すだけで認証や課金(事前にクレジットカードなどの登録は必要)が行われ、自動的に充電が開始されます。

●ケーブルが短くて扱いやすい
車両側の充電口の位置が統一されており、充電器側のケーブルが短く、コネクターがコンパクト。クルマを駐車する方向で悩むこともありません。

●充電口がひとつ
テスラ車の充電コネクターは急速充電も普通充電も同じです。コネクターのサイズもコンパクトで、車両側の充電口もコンパクトだし、1カ所でOK。テスラ車の場合、左後方のレフレクターが電動でスマートに開閉する仕様になっています。日本では、急速充電用のチャデモアダプターを早くから提供し、普通充電のJ1772(タイプ1)用のアダプターも提供されています。

●複数器設置が当然で高出力
日本を含め、世界各地に整備されているスーパーチャージャーステーションではおおむね4〜8基以上の複数台設置がデフォルトになっており、経路充電のために必要なスポットを吟味しつつ整備が進められています。また、車両側の受け入れ性能にもよりますが、現在、中心的に拡充が進んでいる「V3」というバージョンは250kWの最大出力を発揮します。

●ユーザー目線で合理的なサービス
たとえば、充電終了後も充電区画に車両を放置していると一定のペナルティ課金が行われるなど、EVユーザーの多くが「課題」と感じる点に対処する合理的な仕組みが構築されています。そんなこんなのメリットは、テスラが早くから「急速充電はEVの性能そのもの」として発想し、磨き上げてきたからこそのサービスです。追随する既存自動車メーカーにとって、実は電気自動車を作ることでテスラに対抗することよりも、ユーザー本位の充電インフラを新たに構築することのほうがハードルが高かったと理解することができそうです。

GMが発表した翌日の6月9日には、イーロン・マスク氏がGMの決定を祝福するTweetを発信していました。

まさに「better connector」への自信が感じられるTweetです。

北米ではチャデモ規格が駆逐される?

SNSなどでは、今回のフォードとGMの発表を受けて、北米では日本発の急速充電規格であるチャデモが駆逐されるのではないか? といった懸念の声を目にしました。

えっと、あくまでも個人的な印象ですが「何を今さら」って感じです。北米でチャデモ規格の急速充電を行う電気自動車はあまりにも少数派。日産アリアもトヨタbZ4XもCCS1規格を採用していました。つまり、北米や欧州などにおいて、すでにチャデモ規格はこれ以上広がる可能性がない過去の規格になっていたといわざるを得ません。今回のGMの発表で、CCS規格も北米では遠からず淘汰されることが決定的になったと考えられます。

今後、北米でのEVセールスを考えるのであれば、日産もトヨタも、ましてEV事業でGMと連携を発表しているホンダは当然、できるだけ早くNACS採用への動きを進めるべきと言えそうです。

今まで、急速充電規格はAC電源のコンセントみたいなものだから、大陸ごとに違っても大きな問題はないでしょうてなことを薄ぼんやりと思っていましたが、「better connector」であるNACSが北米を統一するのであれば、日本メーカーは日本で発売するEVにもNACSを採用するのがいろいろと合理的で、ユーザー本位な判断になるのではないかとさえ思います。

なにはともあれ、日本の急速充電インフラには絶望的に欠落してた「ユーザー目線」がテスラの強み。「V2Xがチャデモの強み!」といった反論が聞こえてきそうではありますが、正直いってV2XはEVにとってオマケの機能。それも、EVにとって本当に不可欠と判断してテスラがその気になればあっという間に対応できる(2年後には対応できるというアナウンスもあったかと)些末的な要素だったりします。

NACSを巡るアメリカの動きは決して対岸の火事ではなく、日本のEV普及にとっても「大きな変革を運んでくるかも」と感じるニュースなのでした。

文/寄本 好則
※冒頭写真はGMのNewsroomから引用。

この記事のコメント(新着順)6件

  1. 自宅でV2Hを運用しています。もう7年経過しました。唯一、チャデモが他の方式より優るポイントかもしれません。

    執筆者の寄本さんは、「V2Xはオマケ」みたいな言い方をされていますが、それはBEVの利便性や社会的な存在意義を低下させてしまう見方であって、現状ではエンジン車よりも利便性が大幅に劣るBEVの立場を支援する要素なのですから、BEV関連のメディアとしては大事に取り扱って欲しいところです。

    そう考えつつも、テスラ方式では、水冷でケーブルが細く(大出力チャデモの太いケーブルは、女性には厳しいはず)、コネクターもコンパクトで、急速充電も普通充電も1つのコネクターでこなしてしまい、差すだけで認証~課金まで完了してしまうので、非常に魅力的です。

    テスラ方式も、仕様上は外部給電に「対応」となっており、前回の同社のイベントでも電力網への給電に言及されていたので、チャデモとしては、実績があるV2Xの技術や運用についてテスラに情報提供しつつ(いらんかもしれんけど)、テスラ方式に将来を託して発展的に解散!という流れが個人的妄想です(既存のものについては、とりあえずアダプターで対応できれば可)。

    この辺りは、日本の自動車メーカー(特にトヨタ)が、主導的な役割を担って、日本国内の規格統一と利便性向上に動いて欲しいところです。これは、トヨタの佐藤社長が自分の存在をアピールできるいい機会になると思うのですが…

    1. totton さま、コメントありがとうございます。

      >V2XはEVにとってオマケの機能

      端的に「オマケ」と表現したのはご指摘のように軽すぎるきらいはありますが。。

      V2GやVPP実現に向けて重要な機能ではあると思いますが、EV普及に向けたモビリティの商品力として不可欠かというと、必ずしもそうではないと個人的には捉えています。

      また、チャデモ勢たる日本の自動車メーカーがチャデモのV2X機能をアドバンテージとして訴求するのであれば、接続機器(第三者メーカーの別売しかない)のあり方や効率などの性能ブラッシュアップ、またVPP実現へのロードマップやビジョン構築などについてもにより積極的かつオープンに取り組んでいくべきではないか、というのが個人的な思いです。

      チャデモ規格が、また日本の自動車メーカーが生き残ってほしいの思いを込めて、あえて端的に表現しました。

  2. トヨタが大々的なBEVに対する発表をしましたが「充電設備については、何も触れていない」ことに強い違和感を覚えました。
    トヨタは「充電設備は自動車メーカーが対応するものではない」と考えているのか「もうNACSにお手上げ」状態なのか。
    チャデモもいざ充電しようとしたら、相性や出力の問題とすでに終わっています。
    中国では、チャデモの発展型チャオジの話もありますが、具体的なことは見えないので、もういっそ全世界NACSに統一した方が自動車メーカーも開発・生産が楽だろうにと思います(笑)

  3. V2Xを含めてEVの価値は車以上のところにあるって喧伝されていて、いまになってオマケ扱いなのはちょっと…。
    EVを使ったスマートグリッド、マイクログリッドってあれだけ言われてたのはなんだったのでしょう。これじゃただトルクが太いクルマそのものに見えます。
    エネルギーのありかたも含めてEVをに未来を見た自分の先見性の無さに本当にがっかりです。

    実際はNACSでのV2Xは仮想発電所の下地ができたところでテスラの好きなタイミングで一気に普及するのかもしれません。
    CHAdeMOでV2Hを組んだご家庭は悲惨ですね。しばらく先から使えないシステムになるのが確定したわけですから。
    NACS→CHAdeMOの変換アダプターがなければCHAdeMO搭載のEV所有車はおちおち遠出もできなくなりそう。テスラユーザー以外はこれからなかなか大変そうです。

    CHAdeMOはNACSに比べて良い規格だとはとても言えませんが、なんかこうEV周辺は振り回されることばっかりですね。

  4. EVに乗っていて感じる事は、EVの充電規格を制した者がEVを征するのではないか?という事です。何故チャデモが世界標準になれなかった?これは日本のガラケーがスマホに敗れ去った歴史と類似している様に思っています。プラグアンドチャージというのはEV充電に於いて破壊的な革新技術で、GMとFordはテスラのこの革新技術に脱帽したのだと思います。もしテスラがプラグアンドチャージを採用していなければ、GMやFordにとってCCSや(チャデモ)でも良かったのだと思います。EV充電に於ける認証手続きは本当に面倒くさい作業で、チャデモでも当初はプラグアンドチャージを検討していた様ですが、凄く残念な結果となってしまったと思っています。

  5. ユーザー目線で合理的なサービスという点では、チャデモの場合いろいろな出力の急速充電器があり同じ型でも設定で最高出力変えられるようになっていたりするのに、各充電器で最高出力の表示がない。チャデモ規格云々より、EMP等、充電器の運営会社の意識の問題。先日まで最高出力75Aだった充電器が24Aになっていてびっくり!!
    詐欺にあったような気分でした。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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