2022年テスラ株主総会ポイント解説〜2030年までに年間2000万台生産へ!

テスラ社のイーロン・マスクCEOは、2022年8月に開催した株主総会で今後の計画に言及する中で、2030年には年産2000万台を達成するために10から12のギガファクトリーを建設する準備ができていることなどを明らかにしました。株主総会の概要をお伝えします。

2022年テスラ株主総会ポイント解説〜2030年までに年間2000万台生産へ!

※記事中写真はテスラ社公式YouTubeチャンネルの動画から引用。

Tesla, Inc. 2022 Annual Meeting of Stockholders

2030年までに10~12のギガファクトリーで年間2000万台を生産

テスラ社は2022年8月4日、テキサス州オースチンのギガファクトリーで年次株主総会を開催しました。株主総会では、株主提案の採決の後、事前に出ていた質問などにイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が回答し、併せて今後の計画についても触れました。

株主提案で出ていた案件も重要ですが、ここではまずマスクCEOによる今後の計画について紹介していきましょう。

マスクCEOによれば、テスラ社は株主総会の前の週に、通算300万台目の車を生産しました。マスクCEOは、テスラ社の年間生産台数は2022年末に150万台に達する可能性があると述べました。生産能力は、2022年中に年産200万台を確保できそうです。

2021年の生産台数は100万台弱なので、年間の成長率は今年も50%に達しそうです。

今年中に新たな工場の場所を発表

またマスクCEOは、「支出する以上のキャッシュを生み出すことができたことを非常に誇りに思っている」と述べ、テスラの財務基盤が強固になっていることを強調しました。このあたりはテスラ社の決算報告でも明確です。

【関連記事】
テスラ2022年Q2決算~上海ロックダウンを克服して着実な成果を強調(2022年7月22日)

今後については、2030年までに年間2000万台の車を生産するという見通しも明らかにされました。マスクCEOは、これだけの車を生産するためには12のギガファクトリーが必要になるという考えを示しました。

マスクCEOによれば、テスラ社はすでに10から12のギガファクトリーを建設する準備ができていて、それぞれ150万台から200万台の生産能力を有します。

そしてマスクCEOは、「新たな工場の場所を、今年後半に発表することができるだろう」とも発言しました。会場から、場所はどこかという声が出ると、マスクCEOは「私はカナダ人のハーフだから」と言って笑いましたが、カナダ、アメリカ、メキシコは自由貿易協定を結んでいるので、あり得ない話ではないかもしれません。

年間150万台を生産するためのバッテリーも確保しているそうです。ただ、来年以降は新しい「4680」バッテリーの確保が重要になるとコメント。テスラ社として大量生産に入る可能性があると述べました。

またバッテリーについては、週に50以上のバッテリーパックをネバダ州でリサイクルしているという発言もありました。詳細は明らかではありませんが、ネバダ州でリサイクルしているのであれば、テスラ社草創期の重要人物、JBストロウベル氏が立ち上げたレッドウッド・マテリアルズが関わっていると思われます。

【関連記事】
『レッドウッド・マテリアルズ』が挑戦するEV用バッテリーリサイクル事業の意義とは?(2021年8月10日)

マスクCEOは、EVのバッテリーは15年程度の寿命があるので、今はまだリサイクルは少ないと話しています。裏を返せば、現在のように年間100万台以上の規模で生産が進むと、10年から15年後にはバッテリーリサイクル事業が、今の数百倍の規模になるのは確実ということです。

なんて考えていたら、レッドウッド・マテリアルズの今後にちょっとドキドキしてきました。

他方、これだけの車を作るのはともかく、ほんとうに売れるのかという疑問は自然に出てくると思います。大手自動車OEMからも続々とEV(電気自動車)が出てきていますし、価格競争力のある中国製EVも中国市場から外に出てきつつあります。

これらの点についてマスクCEOは、EV同志が競合しているのではなく、「EVはガソリン車から市場シェアを奪っている」という考えを示しました。そして、5年前は違うが、今は多くの大手自動車OEMが電動化の流れを受け入れ正しい道だと考えているとし、「ほかの自動車メーカーがEVを宣伝するたびに、私たちの車が売れていく」と冗談めかして言いました。

FSDの進化が一段と進む

テスラオーナーにとっては特に気になるテーマのひとつ、FSDの今後についても言及がありました。マスクCEOは株主総会の中で、「FSD Beta」が進化することをほのめかしたのです。現在のバージョン「10.13」は好調で「10.69」に相当する可能性があると、マスクCEOは話しています。もちろん、株主総会の時点で「10.69」はリリースされていません。

そしてマスクCEOは、「10.69」では、FSDが苦手にしていた「チャックのターン」を解決すると述べました。

「チャックのターン(Chuck’s turn)は、横道から中央分離帯のある複数車線の広い道に出る左折、あるいは分離帯のある本道から左折で横道に入る動きを言うようです。いや、筆者はアメリカ人ではないので、調べてようやくわかったのですが。どうして「チャックのターン」って呼ぶのかは、ご存知の方がいたら教えてくださいませ(※)。

YouTubeに上がっている動画を見る限り、人間がやっても難しいなあと思う左折でした。片側3車線で制限速度80km/h前後の本道に、一時停止から出ていくんですから。でも、アメリカではこうやってフリーウエイに出る道は珍しくないので、うまく出ることができないと日が暮れそうです。

そんな「チャックのターン」を次のFSDで解決するとマスクCEOが発言してから3日後の8月4日、マスクCEOはツイッターに、「FSD Beta 10.69 が8月20日に登場」と投稿しました。

「10.69」は冗談ではなかったようです。実際の能力がどうかは、YouTubeに上がるのを待ちましょう。

株主提案はほとんどが否決も課題は残る

ここからは、株主総会で出てきた株主提案を見てみます。

承認された株主提案のひとつは、現在の株式を3分の1に分割する株式分割でした。株式分割そのものは企業経営に影響を与えるものではありませんが、分割によって一株あたりの株価が下がれば従業員や一般投資家が株式を買いやすくなり、株価上昇の可能性があります。実行されれば、2年ぶり2回目の株式分割になります。

承認されたその他の株主提案は、投資家が取締役を指名する能力を高めるという勧告案でした。投資家による取締役会メンバーの指名は一般企業では珍しいものではありません。

他方でテスラ社経営陣は、株主提案で出た8つの決議のすべてに反対したと報じられています(2022年8月5日のニューヨークタイムズ電子版)。2022年8月5日のTechCrunchによれば、事前に開示された株主提案のリストには、ハラスメント防止や差別への取り組み、取締役会の多様性確保、従業員による組合結成の権利を認めること、水リスクや児童労働に関する追加情報の開示義務付けなどがありました。

物言う株主による経営への不満も

ロイターによれば、テスラ社の取締役会は以前、株主による取締役の指名が可能になると特定の団体がテスラ社の経営計画を歪める可能性があると指摘していました。

一方でニューヨークタイムズは、従来、テスラ社は取締役会の多様性が欠けていてマスクCEOに反対する人がいないという批判があったことを指摘しています。そして、テスラ社は温室効果ガスの削減に大きく貢献してきたものの、カリフォルニア州の工場で人種差別や組合潰しがあったという批判もあり、2022年の5月にスタンダード&プアーズは「S&P 500 ESGインデックス」からテスラ社をはずしたことに触れています。マスクCEOはこうした動きに対して、「とんでもない詐欺」などと強く反発をしています。

ニューヨークタイムズは、「テスラとマスク氏が成し遂げた地震波のような歴史的業績は、誰ひとり疑っていない」と実績を認めつつも、「マスク氏は魔法のじゅうたんに乗っていたが、投資家の間で不満が出始めている」というWedbush Securitiesのアナリスト、ダニエル・アイブス氏の指摘を紹介しています。

アイブス氏はその理由として、マスクCEOによるTwitter社の買収案件の問題(買収を発表した後にTwitter社の情報開示が不十分として買収を撤回した後、Twitter社がマスク氏を提訴し係争中)、EV市場の激化などを取り上げています。

物言う株主による提案がメディアに大きく取り上げられるのは、テスラ社が特別な企業ではなく、一般の巨大企業に成長したことを意味していると言えるでしょう。EVsmartブログの決算報告記事でも紹介していますが、テスラ社の収益力は日米欧の自動車OEMと肩を並べるところか、追い抜きさえしています。

生産現場での人権問題、待遇問題は、多くの自動車OEMでも問題になってきました。テスラ社の今後の対応次第が注目されます。なおテスラ社は株主総会で、従業員の待遇や差別問題に関して、「職場や仕事関連の状況における従業員への差別、嫌がらせ、報復、またはいかなる虐待も容認しない」と回答しています。

社会的な批判にさらされるようになったテスラ社がどのように対応するのか、これからもメディアの注目を集めるでしょう。よほど大きな間違いをしない限り、経営への直接の影響は大きくないと思われますが、カリフォルニア州当局からはすでに訴訟も提起されていて、これまで培ってきた企業イメージの維持にはそれなりのコスト(手間)がかかる可能性があります。

なお、株主総会の最後に行われた出席者とのQ&Aでは、テスラ社を考えるときに常にひっかかる、イーロン・マスクCEOの後継者問題について質問が出ました。

これについてマスクCEOは、自分が有用であると考える限り自分はテスラ社にとどまるつもりだと述べたうえで、冗談めかしてこう言いました。

「私がエイリアンに誘拐されたり、故郷の惑星に戻ったりしても、テスラはうまくやっていくだろう」

背景には、すでに長期計画を示しているという事情もあるようです。なんにせよ、良くも悪くも注目を集める人です。

最後に、個人的に気になったのは、テスラ社が計画しているダイナーです。すでに、未来的なドライブインシアターと報じられています。

これに関してマスクCEOは、ロサンゼルスで展開予定のダイナーはブレードランナーとグリースと宇宙家族ジェットソンを組み合わせたものになると言っています。

いや、正直なところ想像ができません。SFと学園ドラマと宇宙アニメって、なんですかね。ジョン・トラボルタがジェットソンの家族になって、ハリソン・フォードと戦うカルチャーミックスな感じでしょうか。ちょっとノスタルジックな雰囲気を持ちつつ、中身は超未来的な楽しみが備わっていたりするのでしょうか。

わけわかりませんが、行ってみたい場所がひとつ増えたのでした。オープンが楽しみなのであります。

(文/木野 龍逸)

(※)追記
「Chuck’s Turn」は、テスラユーザーであるチャックさんの検証動画がきっかけでそう呼ばれるようになったそうです。検証動画はドローンの映像と組み合わせて車の動きを追っていて、とてもわかりやすくできています。テスラユーザーの間ではよく知られた名称のようです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

執筆した記事