テスラ2022年第4四半期の台数速報〜株価低迷も台数は過去最高を記録

テスラ社は2023年1月2日(現地時間)、2022年度第4四半期の生産台数と納車台数の速報を発表しました。生産、納車のいずれも過去最高を記録しましたが、年初に目標にしていた伸び率には届いていません。目標に届かなかったことも含めてテスラ社の企業価値に対する見方が厳しさを増していて、株価は1年で大きく下落しています。

テスラ2022年第4四半期の台数速報〜株価低迷も台数は過去最高を記録

生産、納車はいずれも過去最高に

電気自動車(EV)メーカーのテスラ社は2032年1月2日に、第4四半期(10~12月)の生産台数と納車台数の速報値を発表しました。生産台数は、『モデルS/X』が2万613台、『モデル3/Y』が41万9088台で、合計43万9701台となり、いずれも過去最高の台数を記録しました。第3四半期は36万5923台だったので、約20%の増加です。

納車台数は、『モデルS/X』が1万7147台、『モデル3/Y』が38万81318台、合計40万5278台で、前期比約17%の増加になりました。なお前期の納車台数は34万3830台でした、

2022年通期では、生産台数は136万9611 台、納車台数は131万3851 台で、前年同期比では生産台数が約47%増、納車台数は約40%増でした。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はかねて、年率50%の伸びがしばらく続くという見通しを示していましたが、昨年に続いて今年も、微妙に届かなかったことになります。

生産台数推移

納車台数推移

生産台数の伸びに比べて納車台数が少なくなっているのは、前期同様、生産量に対して物流のルートが確保できていない影響があると思われます。それでも前期に続いて大幅な伸びを維持できたのは、各地域での車両製造をより均等にすることで物流への負担を減らすことができたためと、テスラ社はコメントしています。

【関連記事】
テスラ2022年第三四半期の台数速報~生産台数は過去最高の36万台へ(2022年10月4日)

またテスラ社は今回の結果について、次のコメントを発表しています。

「COVIDとサプライチェーンに関連する重大な課題が年間を通じて発生する中、2022年の素晴らしい業績達成にご協力いただいたお客様、従業員、サプライヤー、株主、支援者の皆様に感謝いたします」

株価低迷の要因は目標不達か、マスク氏の言動の影響か?

前回の速報発表の時にもお伝えしましたが、2022年にテスラ社の株価は大きく下げました。2022年4月4日の最高値約381.8ドルが、2023年1月6日には113.06ドルになっています。テスラ社の株価が急騰しつつあった2020年8月の水準です。

株価が急落した要因についてニューヨークタイムズ紙は、マスクCEOがTwitter社に入れ込んでいることや、SNS上での保守派を喜ばせるような暴言を挙げています。そして今期の実績は、「ウォール街のアナリストを失望させるとともに、イーロン・マスク氏に対して、Twitter社のオーバーホールよりも車作りに集中するようプレッシャーを与えることになった」と指摘しています(2023年1月2日付ニューヨークタイムズ電子版)。

他方でブルームバーグは2023年1月1日の記事で、テスラ社の株価収益率(PER)は12か月先ベースで24倍あまりなのに対し、フォードやGMは5~6倍であること、同様にアナリストの見込む増収率がテスラ社は36%なのに対しフォードやGMは1桁台であることなどから、まだ数年間は業界をリードし続けるだろうと評価しています。

加えてブルームバーグは、アナリストの中にはテスラ株が2023年中に倍以上に値上がりすると示唆する見方もあることを伝えています。

メディアによって見方がずいぶん違うので、当たるも八卦当たらぬも八卦といったところでしょうか。

それでも株価収益率は堅調

一方、テスラ社の実績は年初目標に届かなかったとは言え、生産台数、納車台数ともに前年比40%以上も伸びていて、既存の自動車メーカー(自動車OEM)とは比較にならないくらいの成長率です。

この実績と株価が釣り合うのかという疑問は、テスラ社の株価が急騰した頃から消えていません。自動車メーカーではなくIT企業としてみているからだという見方や、マスクCEOの言葉を信じる投資家が多いからだという認識までさまざまです。

はっきりした理由がわからない以上、現在は急落しているとは言え、短期的な株価の上下を気にしても仕方ないとも言えます。

なおロイターによれば、マスクCEOは2022年12月28日にテスラ社の従業員に電子メールを送り、「株式市場の狂気にあまり悩まされるべきではない。われわれが優れた業績を上げ続ければ市場も評価する」、「長期的にはテスラが地球上で最も価値のある企業になると強く信じている」と強調したそうです(2022年12月29日付電子版)。

テスラ社では従業員に株式による報酬を提供しているので、不安が大きかったのかもしれません。それにマスクCEOの言動がテスラ社の株価に影響を与えているという指摘もある中では、従業員にしてみると、Twitterよりテスラの方に本腰をいれておくれよ、という思いがあっても不思議ではないでしょう。もし筆者が従業員だったら、そう願うだろうなあと思うのです。

大幅値下げはどう影響するか

そうこうしている中、テスラ社は各国で大幅な値下げを発表しました。

【関連記事】
テスラがモデル3とモデルYを大幅値下げ~ライバルはIONIQ 5とATTO 3?(2023年1月7日)

ロイターは1月9日、値下げ後に中国ではモデルYの「RWD」と「ロングレンジ」の納車までの期間が1週間延びたと伝えました。いつものことですが、突然の値下げで怒りを爆発させる購入者もいるようです。

この値下げの影響がいつ頃、どの程度出るのかは、3か月後の速報発表を待つしかありません。複数の報道によれば、中国での値下げは2022年10月24日に続いて2度目です。

ただ中国乗用車協会(CPCA)の発表によれば、値下げ直後、2022年12月のテスラの販売台数は5万5796台で、ロイターは5か月ぶりの低水準になったと指摘しています。

同時期のEV販売台数は、BYDが23万4598台、GM系の上汽通用五菱が85万632台でした。わずかな期間では影響を判断できませんが、中国での立て続けの値下げに販促の意味も含んでいるとしたら、少なくとも中国市場の競争が激しくなってきていることになります。

日本でのEVの種類の増え方も急激ですが、世界ではさらに多くのEVが市場に出ています。競争の激化がテスラの販売台数にどのように影響するのか、これからも追いかけていきたいと思います。

ところで、そうした変化の激しい場所で日本勢がどうなっているかというと、ほとんど存在が見えません。ソニー・ホンダモビリティーの新ブランドも発表されましたが、発売はまだ先のこと。その頃には、世界はさらに先を走っているのは間違いありません。テスラですら一人勝ちができない状況の中、日本勢がいつ頃キャッチアップできるのか、あるいはこのまま沈んでいくのか、2023年にはその一端を見ることができるのでしょうか。

文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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