東京→兵庫の約600kmを急速充電2回で約8時間
ここ数年の恒例となっているお盆時期の「東京=兵庫」長距離実走レポート。今年は、7月に日本発売されたばかりのメルセデス・ベンツ『EQB250』をお借りしてチャレンジしています。8月11日の夜9時ごろに東京世田谷区内の自宅を満充電で出発。郷里で最寄りの道の駅「ようか但馬蔵」まで、約600kmの往路所要時間は約8時間でした。
東名〜新東名〜伊勢湾岸道〜新名神〜中国道〜舞鶴若狭道〜北近畿豊岡道と経由するこのルート。一昨年からは、途中の「長篠設楽原PA下り線」に新電元90kW2本出しの急速充電器が設置され、以前からあった「草津PA下り線」の同じ新電元90kW2本出しを利用すれば、90kWの高出力急速充電(QC)だけを繋いで走りきることが可能です。
ただし、90kWのQC2回で600kmを走破できるのは、EQBが66.5kWhという大容量バッテリーを搭載し、最大100kWの高出力QCに対応しているからです。
たとえば、新車時容量30kWhの私のマイカーリーフではそもそも最初の長篠設楽原PAまでの約250kmを一発で走りきることができません。また、60kWh以上の大容量バッテリーを搭載して一充電航続距離400km以上の高級EVであっても、チャデモ規格の急速充電出力が最大50kWに制限されていたら、1回30分のQCによる充電電力量はおおむね20kWh程度、つまり約100km走行分しか補給できないので、さらに1〜2回、どこかでQCが必要です。
66.5kWhという大容量バッテリーと、最大100kW急速充電の性能を両立しているEQBは、もうそれだけで高級EVを名乗る資格があるのだと実感します。
バッテリー容量は同じ『EQA』と実際の電費を比較してみた
昨年の夏は、メルセデス・ベンツの『EQA250』でまったく同じルートを、同じ充電計画で走りました。
【参考記事】
ベンツの電気自動車『EQA』長距離実走レポート【往路編】急速充電最大100kWの実力は?(2021年8月17日)
たしか2012年でしたか、東京=兵庫の似たようなコースを三菱i-MiEVで走ったことがあり、当時は東名〜名神の幹線高速道路SAPAでさえQCは網羅されておらず、途中、高速を下りて充電しながら、約16時間掛かった経験があります。2019年にはバッテリー容量90kWhのジャガーI-PACEで走り、QC(最大50kW)3回、所要時間は約9時間30分でした。そうした経験を踏まえると、最大100kW対応の高出力QC2回、約8時間で余裕をもって600kmを走破できるのは感激でした。
EQAと、今年新たに発売されたEQBのバッテリー容量は66.5kWhと同じです。実走したグレードもともに「250」でFWD。車重はEQAが1990kgに対して、EQBは2100kgとおよそ100kg重いのですが。7月の日本発売発表で示されたEQB250の一充電航続距離は520kmと、EQA250の423km(ともにWLTC値)よりも100km近く延びていたのに驚きました。
423kmが520kmということは、割合にして23%ほども向上している計算になります。いや待てよ、実際に走るとどうなんだろうなどと抱いた疑問を、今回、まったく同じコースのロングドライブで検証できる、というわけです。
なにはともあれ、往路の実走データを比較してみました。
EQB250 | EQA250 | ||||
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区間距離 (累計) | SOC(充電前後) 充電電力量 | 推計消費電力 推計電費 | SOC(充電前後) 充電電力量 | 推計消費電力 推計電費 |
|
東京都世田谷区 | START | 100% | --- | 100% | --- |
長篠設楽原PA 下り線 | 251km | 39%→90% 36.1kWh | 約40.6kWh(61%) 約6.2km/kWh | 33%→87% 38.1kWh | 約44.6kWh(67%) 約5.6km/kWh |
草津PA 下り線 | 170km (421km) | 53%→96% 30.5kWh | 約24.6kWh(37%) 約6.9km/kWh | 37%→91% 38.0kWh | 約33.3kWh(50%) 約5.1km/kWh |
道の駅ようか但馬蔵 (兵庫県養父市) | 180km (601km) | 56% --- | 約26.6kWh(40%) 約6.8km/kWh | 35% --- | 約37.2kWh(56%) 約4.8km/kWh |
結果は、一目瞭然ですね。
ルート全体の消費電力と電費を計算してみると、EQBが91.8kWhの電力を使い、電費は約6.55km/kWh(約153Wh/km)、EQAの消費電力は115.1kWhで、電費は約5.22km/kWh(約192Wh/km)という結果になりました。
向上した電費の割合は約25%で、カタログスペックよりも差が大きいのですが、このあたりは長篠設楽原PA以降、ことに草津PAを過ぎて郷里まで上り傾向のルートでの巡航速度が昨年のほうが高かった影響があるかと思います。ちなみに、昨年も今年も高速道路走行中はACCを活用し、巡航速度はおおむね法定速度に合わせつつ、実際の道路状況に即した速度で走っています。昨年の草津PA以降は、到着時バッテリー残量の余裕を確信してちょっと浮かれて、エンジン車時代に近い走りをしてしまったのですが……。まあ、そんなこんなを含めて実走検証であるとご理解いただければ幸いです。
電費向上の理由は駆動用モーターの変更
EQBの電費向上について、実は事前にメルセデス・ベンツ ジャパンの広報部に問い合わせ、回答をいただいていました。
最大の理由としては、EQAが「非同期モーター」を採用しているのに対して、EQBでは新設計で効率が向上した「永久磁石同期モーター(PSM)」を搭載したことです。
メルセデス・ベンツではPSMをフラッグシップである『EQS』(日本未発売)で初めて採用し、『EQE』(これも日本未発売)でも採用されているとのこと。EQBに搭載されたPSMがEQSやEQEなどと同じかどうかは「本国に確認中」という回答でした。
正直な感想として「さすがメルセデス・ベンツ」と感じます。エンジン車時代を象徴する偉大なメーカーでありながら、着実に電動化を進め、日本市場でもすでに EQC、EQA、EQB と3車種のEVバリエーションを提供してくれています。
2019年に日本発売されたEQCは、当初、チャデモQCは最大50kW対応でした。でも、2021年に日本発売したEQAでは最大100kWのQCに対応。2022年にはEQCも最大110kW対応にアップデートされました。そして、今年のEQBはQC最大100kWへの対応とともに、進化した電費性能を手に入れました。
メルセデス・ベンツは世界の市場へ堅実にEVモデルを届けつつ、着実な進化を遂げているのです。
だからといって、EQCやEQAが時代遅れかというと、決してそんなことはありません。高級EVの性能としてはともに十二分に魅力的です。ただ、最新のEQBは「より魅力的なEV」に仕上がっているということですね。
日本の充電インフラの進化と真価が問われている
もう「日本メーカーのEVは……」などと、はかない愚痴や報われない願いを書き連ねることは止めましょう。日本メーカーも新型軽EVという新たな選択肢を提示してくれたし、アリアは高級EVとして一流です。日本メーカーが出さなくても、大衆車EVやコストパフォーマンスに優れたEVは中国のBYDや韓国のヒョンデが、そして高級EVはメルセデス・ベンツをはじめとする欧州メーカーや、アメリカのテスラが届けてくれることでしょう。ユーザーとしては、個人の選択肢として魅力的なEVのバリエーションが増えてくれれば、それを作っているのがどこの国のメーカーだろうとあまり問題はありません。
ただし、充電インフラ、ことに高速道路SAPAへの高出力(90kW以上)急速充電器複数台設置の遅れは大問題です。
昨年、東京〜関西のルートには下り線では長篠設楽原PA、上り線で遠州森町PAに90kWの2本出し充電器が設置されたので、便利に走破することができるようになりました。でも、東京〜関西方面を結ぶルートでも、中央自動車道のSAPAに90kW器は皆無です。関越や東北道、常磐道などのルートにも、90kW器は設置されていません。
90kWではないですが、中央道の釈迦堂PA(上下線)や東名の鮎沢PA下り線にABB製の最大56kWの2本出し器が新設されて利便が高まりました。でも、高性能EVの車種が増え、軽EVなどが増え、本格的にEVが普及していく時代を見据えると焼け石に水である印象が否めません。
56kW2本出しなど、50kW程度以下の「最低でも2口」となる複数台設置は全国すべてのSAPAを網羅して欲しい。さらに、各路線、できれば100kmおきくらいには、首都高大黒PAに設置された最大90kW6口器のように、4基以上の高出力器を設置していくことが必要です。
日本の充電インフラ構築を担う e-Mobility Power に取材すると前向きな意欲を聞けるのですが、現実は一向に進んでいかないのはどうしたことか。
興味を持ってくれる政治家など「社会」を動かす立場の方がいらしたら、いつでも手弁当で説明に行きますのでお声がけください。
というわけで、今夜は親父の遺影を前に、少し酔っ払いたいと思います。
●復路編のレポートはこちら
ベンツのEV『EQB』長距離実走レポート【復路編】兵庫→東京「充電1回で走破」に挑戦(2022年8月16日)
(取材・文/寄本 好則)
細かなことを言って申し訳ないのですが、長篠設楽原下りPAの90kW機は一昨年には設置されていたはずです。私のリーフで2020年3月に利用した記録があります。確か東京・大阪間で初めて設置された90kW機だったと記憶しています。さらに2020年7月には遠州森町上りPAの90kW機を利用した記録があります。草津はそのあとだったんじゃなかったかな…
wa さま、ご指摘ありがとうございます。
2020年はモデル3で東京=兵庫を走ったので、私が気付いていなかった、ですね。
記事を「一昨年」に修正しました。
お書きのように車に関しては、日本メーカー以外で庶民でも購入できるかも?な動きも出てきました。
海外メーカー勢の動きが刺激となって日本メーカーの奮起に期待したいです。
また充電待ち短縮のためにCHAdeMO1.2+6kW普通充電への既存車への対応も進めて欲しいです。
>充電インフラ、ことに高速道路SAPAへの高出力(90kW以上)急速充電器複数台設置の遅れは大問題
高速道路に関しては、車のように選ぶことは出来ないですし。
>100kmおきくらいには・・・4基以上の高出力器を設置していくことが必要
その通りだと思います。
ほとんど取材されていない下記に関してダイヘンに取材&実機での充電テストを行って欲しい。
ダイヘンEV用急速充電器(180kW)
プラグを2本追加することでEV4台の急速充電に対応可能(EV2台の充電が完了後、自動切替で残り2台に充電)
https://www.daihen.co.jp/products/wireless/quickcharger/quickcharger_180kw.html
自動切り替え機能が有るので、先発車の充電が終わると次発車の充電が自動で始まるようですし。
>e-Mobility Power に取材すると前向きな意欲を聞けるのですが、現実は一向に進んでいかない
絵に描いた餅が有ることをいつまでも一生懸命アピールされてもね~。と言うのが本音です。
個人的には、首都高大黒PAに設置された最大90kW6口器ではなく、上記ダイヘンの4口自動切換え型を可能ならば1施設2セットずつ設置してもらえるとお盆・年末年始・GWのピーク時でも30分以上待たない環境になるのでは?と想像しています。
それが実現しないと多くの方がEVを買おう!とは思わないと思います。
よこよこ さま、コメント&情報ありがとうございます。
ダイヘンの180kW器、いいですね。
先行2台が合計で100kWしか要求しない時には、待機する2本に80kW出してくれる、だとさらにワンダフルではないかと思います。まあ、そうするとダイナミックコントロールが必要になって、またぞろ相性問題が発生しそうな気もしますけど。日本メーカーが自負する技術力で解決し、これが基幹SAに2基ずつ設置されたら、まずは安心なQCインフラになっていきますね。
大黒のニチコン6口器も、ケーブルを吊り下げるデザインとか、ユーザビリティは悪くありません。現状電源が200kWですが、需要によっては300kWとか400kWに強化も可能とのこと。たとえば360kW(90kW×4台分)で、ケーブルを90kW用に換装してブーストモードを廃止してくれたらベターではないかとも思っています。あと、液晶に出力表示して欲しいってのもありますが。
いずれにしても、日本の仕組みが何を選ぶかという問題。期待して叫び続けたいと思います。
EQBの様な大容量バッテリーEV購入に踏み切れない理由に、今回のレポートで指摘されている国内の高出力急速充電インフラ問題や高い高速料金制度にあります。ガソリン車と同一の高速料金を支払うのであれば、高速道路をEVで走るメリットは全く無いです。従って将来的に国内でも大容量バッテリーEVを普及させるには、急速充電インフラのみならず、高速料金制度も見直していく必要があると思います。
米国カリフォルニア州は、今月ACCII(アドバンスドクリーンカーII)規制(https://ww2.arb.ca.gov/our-work/programs/advanced-clean-cars-program/advanced-clean-cars-ii)を決定します。2035年からガソリン車・ハイブリッド車の販売が禁止されます。国内市場だけを考えれば軽EVでも十分かもしれませんが、日本製EVが世界市場で戦うにはやはり欧米の大容量バッテリーEVともガチンコで勝負する必要があります。これから日本がどう世界自動車市場で戦っていくかを考え、国家戦略としてEV普及を目指すべきと思います。日本政府はハイブリッド技術に固執して、ガラケーと同じ間違いをすべきでないと思います。
確かに、日本で電気自動車を選ぶアーリーアダプターの為に、購入時の補助金や安い重量税の優遇は有りますが、高速道路料金の優遇があるとなお良いですね。
ただ、電気自動車一律で高速優遇すると、サクラとかが高速に乗ってきて、電欠が増えるとか恐ろしい光景が目に浮かびます(笑)
なので、高速優遇と併せてより一層の充電設備の拡充が必要ですね。
興味深いレポートをありがとうございます。
電費=航続距離ですから、肝心なところに全力投球してきっちり結果を出したのでしょうね。さすがとしか言いようがありません。
EQBの日本での最大の売りは3列シートによる多人数乗車だと思います。でも800万円では手が出ない・・eNV200が早々と姿を消したのが惜しまれます。ここはBYDではなく日産に頑張って欲しいです。