ボルボ『EX30』試乗レポート〜上質でコスパが高い電気自動車であることを実感

昨年6月の発表から約8カ月。ボルボのコンパクトSUVタイプの電気自動車(EV)「EX30」がようやく街中に出てきました。納車が始まったのは3月初旬。ここでは、納車開始時期に実施された、ボルボ・カー・ジャパンのメディア向け試乗会で見て乗って感じた実車のインプレッションをお伝えします。

ボルボ『EX30』試乗レポート〜上質でコスパが高い電気自動車であることを実感

世界同時納車の一角に日本も

ボルボは2023年6月に、コンパクトSUVタイプの電気自動車(EV)「EX30」を公開。日本でも11月に発売されました。間が少し開いているように感じますが、8月の発表時には、納車は2024年2月という予告があったので、おおむね予定通りです。

ボルボ・カー・ジャパンによれば、納車開始は欧州でも日本より2週間ほど早かっただけだそうです。ほぼ同時、ですね。

日本導入のためには、「日本だけ」になりつつあるチャデモ規格への対応が必要なので、欧州と同時期の納車開始はボルボが日本市場を重視していることの現れと言えそうです。

日本重視と言えば、EX30の全高が1550mmなのは、日本独特の機械式駐車場に合わせたそうです。これにはちょっと驚きました。でも欧州の人たちに、この中途半端なサイズの意味を説明するのはたいへんそうです。スペースの有効利用とは言え、これもまたガラパゴス的な感じです。

ボルボは2030年までに、完全なEVメーカーになることを目指しています。では日本の現状はどうなっているかというと、ボルボ・カー・ジャパンによれば、日本市場全体のプレミアムクラスでのEVシェアは8〜9%。一方、ボルボの日本での販売台数のうちEVは12%を占めているので、そこそこの手応えは感じているようです。

またボルボ・カー・ジャパンのまとめでは、2023年の日本市場でのプレミアムクラスEVは、1位がテスラで、メルセデス・ベンツ、BMW、レクサスと続き、ボルボは5位でした。これまで日本でのボルボのEVは「C40」と「XC40」しかなかったので、車種の少なさを考えると検討していると言えるかもしれません。

そこに加えて出てきたEX30は、XC40に比べると100万円以上価格が下がりました。価格差ほどの性能差、機能差があるとは思えず、というか加速力はアップしているし、これまで以上の販売台数になるのかもしれません。

性能はアップしているのに価格は下がる

試乗会は良く晴れた暖かい日でした。こういう天気のいい時に、空が広く見えるガラスルーフ(現状の日本導入モデルは1グレードで標準装備)は気持ちがいいものです。

試乗会の時間は2時間半弱でしたが、撮影でだいぶ時間をとってしまったこともあって、実際に走ったのは、南青山のボルボスタジオ東京から東京国際展示場横の駐車場までの往復だけでした。長距離でどうなるかは別の機会に譲るとして、初見&初試乗で感じたことを記していきたいと思います。

ということで、南青山から出発です。下道と迷いつつ、高木町から首都高速に乗って有明を目指しました。

まず全体の印象は、予想通り、大きな問題は感じませんでした。というか、普通に乗っている中で問題を見つける方が難しいかもしれません。

走り出しはスムーズだし、加速力も問題ありません。首都高速の継ぎ目も静かに越えます。まあ、500万円クラスのEVなら当然ではあります。

パワーも十分です。アクセルを踏みこめば、首が少しうしろに持っていかれるくらいトルクがあります。0-100km/h加速は5.3秒なので、それも当然です。同じシングルモーターのXC40は7.3秒なので、性能の向上には目を見張る思いです。

これで価格はXC40より下がっているのだから、コスパ的な魅力は大きいのではないでしょうか。

緩めのドライブモードがほしい

走行時のドライブモードは、シンプルにひとつだけで、スポーツモードやエコモードなどの選択肢はありません。車におまかせということなのでしょう。

ただ、もう少しアクセル操作に対するトルクの出方が緩くてもいいかなとは思いました。とくに速度域が低いところでは、慎重に踏み込まないとトルクが出過ぎてちょっとしたGを感じるからです。

そのため、トルク感をちょっと緩和するエコモードのようなものがあればいいなと思いました。ソフトウエアのアップデートで切り替えできるようになるとおもうのですが、どうでしょうか。この辺はEVならではの柔軟なアップデートを期待したいところです。

ワンペダル操作は可能です。切り替えは、センターモニターに出てくるメニューか、あるいはステアリングホイールの操作ボタンでオン/オフを選択(要事前設定)します。

なおステアリングホイールの切り替えボタンは、ワンペダルの切り替えか、センターモニターの表示切り替えのいずれかの機能を割り当てられるようになっています。

ワンペダルにすると完全に停止するまでアクセルだけで操作できます。

ちょっと気になったのは、ワンペダルをオンにして停止する間際や、徐行くらいの速度の時にアクセル操作をすると、カクカクした動きになる場面があることでした。モーターのコギングなのか、アクセル開度が少ないときの微妙な制御ができていないのか、理由はわかりません。

この点について試乗後にボルボの技術担当者に確認すると、状況は把握しているとのことでした。ソフトウエアのアップデートで改善できる可能性はあるようです。この部分も含めて、今後、細かなアップデートは続けていくそうです。

なぜかコースティングはなしの制御に

ワンペダルを切った状態でアクセルを離すと、微妙に回生ブレーキが効きます。コースティングはしません。ボルボによれば、内燃機関(ICE)の車の操作感覚に近づけているそうです。

以前のボルボのEVはコースティングするようになっていたので、ボルボの中でも迷いがあるのかもしれません。でも個人的には、切り替えでもいいのでコースティングは欲しいところです。車によってはアクセル操作でコースティング状態にしやすいこともあるのですが、EX30はどういう加減なのか中立位置がわかりにくいこともあり、モード切替でコースティングが可能になったほうが乗りやすそうです。

また、ワンペダルに関して気になったのは、ワンペダルモードになっているのかどうかが、ぱっと見ではわからないことです。切り替え時に一瞬、センターモニターに表示が出るだけで、すぐ消えてしまいます。これがとてもわかりにくく、切り替えをしながも「どっちになってるんだろう」と戸惑いました。

ワンペダルを切ってもアクセルオフで回生ブレーキが微妙に効くので、違いを感じにくいというのもあります。このあたりも、アップデートで改善があるといいなと思います。慣れの問題があるとはいえ、表示させてもコストはかからないだろうし、できれば常に明示してほしいと思いました。

物理ボタンは廃止

エアコンの操作はセンターモニターのタッチボタンで行います。これも慣れだとは思うのですが、どうしても目線が前方から外れるのが気になります。まあ、音声認識で操作すればいいのかもしれませんけども。なお音声認識のキーワードは「オッケー、グーグル」です。

そういえば欧州の安全評価プログラム、ユーロNCAPは最近、物理ボタンを復活させる動きを見せています。ハザードランプなど重要な機能だけですが、2026年から、最高点を取るためには物理ボタン装備を要求しています。

評価の中にエアコンなどユーティリティー関係の操作は含まれていませんが、コストダウンなどの関係でタッチ操作が増え続けるのか、あるいは物理ボタンが復活するのか、今後の動向が気になります。

運転支援システムのオン/オフは、ドライブ/バックのシフト操作レバーに付いているボタンで操作します。実際の動作状況は、首都高速の短い区間だけだったので詳細な検証はできていません。またの機会に確認したいと思います。

充電は150kW対応だけれども……

細かいことを指摘するようですが、ほかに気になったのは、スピードメーターなど運転席正面の表示メーターが全廃され、すべてセンターモニターに移ったのですが、速度などの文字がいまひとつ小さいことでした。

速度を確認するのに目線を前方からはずす以上、安全性確保の意味でも表示はできるだけ大きい方がいいと思うのです。EX30にはヘッドアップディスプレイの選択肢もないので、ソフトウエアのアップデートで改善されることを期待したいところです。

もうひとつ気になったのは、ステアリングホイールに装備されているボタンの操作感です。押し込むと物理的な感触があるのですが、機能表示のマークの部分にちんと触れていないと作動しないのです。

物理ボタンと静電センサーの二重チェックになっているためですが、なぜそうなっているのかはよくわかりません。うっかり触れてしまった場合のフェイルセーフなのかもしれませんが、ちょっと不思議です。慣れるまではとまどうかもしれません。

なお、センターモニターに静電センサーが反応しているかどうかの表示が出るのですが、運転中には見ていられません。これもちょっと不思議なシステムに感じました。

急速充電は、設計上は150kWまで受入可能です。ただ、これはボルボに限った話ではないのですが、チャデモ規格で最大150kW出力の急速充電器は、電圧は450V、電流が350A程度のスペックで最大150kWとなっています。EX30のシステム電圧は392V。電圧が上がってSOCが増えると電流が抑制されるため、残念ながら最大値の150kWは享受できません。ボルボの担当者は、実感として「最大100kW前後ではないか」と話していました。

またEX30は、バッテリーの充電状態による電圧変動が、仕様上は300〜465Vなので、急速充電器を使ったときにどこまで入るのかは状況次第かもしれません。

なおボルボ・カーズは2023年6月、北米とメキシコでは2025年以降に北米充電規格(NACS)対応の充電ポートを装備することを発表しています。日本がガラパゴス状態から脱出できないと、日本だけEVのコストが上がってしまいそうです。

というわけで、細かい部分で気になる点はあるものの、全体としては上質でとても感じのいい、扱いやすいサイズのEVだと思いました。同価格帯のライバルEVとの競争がどうなるか、楽しみな1台が登場したのは間違いないと思います。

EX30Ultra Single Motor Extended Range
全長×全幅×全高4235×1835×1550mm
ホイールベース2.650mm
最低地上高175mm
車両重量1790kg
車両総重量2065kg
最小回転半径5.4m
定員5人
駆動RWD
モーター永久磁石同期電動機
最高出力200kW/6500-8000rpm
最大トルク343Nm/0-4500rpm
一充電航続距離(WLTC)560km
EPA推計値約428km
タイヤサイズ245/45R19 or 235/45R20
駆動用バッテリー
種類リチウムイオンバッテリー(NMC)
セル数/セル電圧107/3.67V
容量169Ah
総電力量69kWh
定格電圧400V※
価格(税込)559万円〜
※仕様書のシステム電圧は392V

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文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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