EV充電へのビジョン【02】緊急提言/急速充電器は「必要な場所」を優先して設置を進めるべき

経産省の「充電インフラ整備促進に向けた指針」が発表されて、日本の電気自動車(EV)用充電インフラ整備が本格的なEV普及に向けて進んでいます。「EV充電エネチェンジ」でEV充電設備拡充に取り組むENECHANGE株式会社CEOの城口洋平氏が、指針の方向性を評価しつつさらなる課題について考察する連載企画。第2回は「急速充電器への補助のあり方」についての提言です。

EV充電へのビジョン【02】緊急提言/急速充電器は「必要な場所」を優先して設置を進めるべき

※冒頭写真は新東名浜松SA(上り線)に設置された高出力急速充電器。

自身がEVユーザーとして充電インフラへのビジョンを考察

私が自らEVユーザーとなったのは、ロンドンの自宅アパートの前にユビトリシティ(ubitricity)の普通充電スポットができたのがきっかけだったことは前回記事でも触れました。今のアパートには専用の駐車場があって、出力は小さいですが無料(駐車場代にインクルーズ)で利用できるEV充電用のコンセントが設置されています。

エネルギー革命を実現するための重要なピースとしてEV充電ビジネスに注目していたこともあり、最初に購入したBMW i3で、イギリスからスペインまで片道3~4日かけて往復するドライブ旅行をしたことがあります。i3はレンジエクステンダーでしたが、一充電航続距離は短いので、高速道路などでちょこちょこと急速充電を繰り返します。私は2時間以上休憩なしで運転するのはつらいと感じるほうですし、休憩がてらの充電はそれほど苦になりませんでした。ただ、当時から欧州では充電サービスのオペレーターが各国で乱立していたために、アプリをいくつもダウンロードしなければいけないのを不便に感じたのが印象的でした。

最近もしばしばEVでのドライブ旅行は楽しんでいます。ホテルは予約サイトを活用して自分で探します。ペットの犬と一緒に旅するので、ペットとの宿泊がOKでEVの普通充電器を備えていることが必須条件となりますが、イギリスや欧州の主要な都市であれば、さほど苦労せず条件を満たしたホテルが見つかるようになっています。

基礎充電、経路充電、目的地充電と、それぞれの充電インフラを自分がユーザーとして利用しながら体感し、理想的なあり方を考えることは、6kWの高出力で目的地充電設備を拡充する「EV充電エネチェンジ」のサービスや、充電サービス事業者として日本のEV充電インフラに対するビジョンを構築する礎になっています。

条件が甘い100%補助は無駄な投資に繋がりかねない

今回は、急速充電器の設置とその補助制度について提言します。

ちなみに、ENECHANGEでは急速充電のサービスは提供していません。急速充電器はハードの価格がおおむね500万円以上と普通充電器に比べて何倍も高く、工事費用も1カ所1000万円レベルで掛かります。また、指針が推奨する出力90kW以上の充電器を2口、合計180kWの設備とした場合、高圧受電のデマンド基本料金だけで概算で毎月30万円ほど必要になります。さらに、保守メンテナンスの費用も年間数十万円は掛かるので、相当な稼働が見込めないと採算が合いません。

ところが最近、「急速充電の無料設置」(多くの場合は東京都限定)を打ち出す動きが出てきています。なぜ、そんなことができるのか。それは、東京都では高出力急速充電器設置への全額、さらに3年間の維持管理費や高圧受電の基本料金を最大5年間助成する制度が用意されているからです(関連記事)。

東京などの大都市圏では拠点ガレージに充電設備をもてない方の基礎充電代替としての急速充電ニーズがあることは承知していますし、適切なニーズを調査・予測して、そうしたユーザーが稼働率高く利用してくれる持続可能な急速充電設備とするのであれば、評価するべき取り組みだと思います。

一方で、初期費用から維持費まで全額税金で負担する、というのは、モラルハザードを助長するリスクがあります。費用負担なく設置して、設置時の工事などで利益を出せるのであれば、高稼働率が見込めない場所であっても、とにかく数多く設置して多くの補助金を獲得するほうが、設置事業者としてビジネスが拡大するという目論見かと推察できます。

事実、2013〜2015年頃に大規模なEV充電インフラへの補助制度(運営費などは日本充電サービスが8年間の期限付きで補助)が施行された時にも、急速充電器の導入や維持管理を無料で提供するサービスを始めた事業者がありました。でも、すでにプロジェクトは破綻し、稼働率が上がらず撤去される充電器もあるのが現状です。過去に明確な失敗を経験してきたにも関わらず、また同じ失敗を繰り返してはなりません。

国の補助金は、そうした経験も踏まえ、令和5年度補助金の「予備分」の規定では、急速充電器の募集対象が「高速道路、公道、道の駅(50kW以上のみ)」に限定されました。また、維持費は出ないため、事業者としては好立地の選定が重要となります。急速充電は基本的に経路充電のニーズを満たすためのインフラですから、高速道路SAPAや道の駅といった、経路充電に的を絞った仕組みは合理的だったと評価しています。

急速充電器は本当に必要な場所への設置を優先すべき

補助金による急速充電器の設置は、あくまでも公共用充電器として必要性が高く、普通充電器では代替できない場所が優先されるべきです。東京都等の自治体の補助金においても、一部の地域性は鑑みながらも、国の方針と一定の整合性をとり、事業者に健全な設置を促す仕組みにすべきだと考えます。その上において、今年度の国の補助金予備分の方針を軸としつつ、検討していくのはいいと考えます。

●優先すべき設置場所を明確にした補助率を設定する。
高速道路、公道、道の駅、また公共用として重要度の高い施設や、高い利用率が見込まれる基礎充電代替になりうる施設への公共用90kW以上の急速充電器への補助率は100%を適用しつつ、それ以外の施設においては設備補助率を50%とするなど、EVユーザーが求める場所(普通充電では代替できない場所)へ優先的に設置されるよう、優先すべき設置場所を明確に示すべきです。

●設置される充電器容量(kW)の優先順位を明確にする。
充電出力の下限を設定し、高いニーズが見込まれる90kW以上の急速充電器設置を優先的に促す仕組みとするべきです。

●設置後の稼働時間を重視した設置を促す制度にすべき。
維持費への補助金は、設置後の稼働率を考慮しないケースが多発してきた過去の実績があります。設置事業者として責任をもってインフラサービスが継続可能な案件検討と設置を促すためにも、維持費への補助金は撤廃すべきだとと考えます。

国や地方自治体が制度として正しいビジョンを示してくれることこそが、「利便性が高く持続可能な充電インフラ社会」構築に繋がっていくと信じています。

連載/EV充電へのビジョン

【01】2030年の日本に必要なEV充電インフラの口数と出力は?(2023年10月30日)
【02】急速充電器は「必要な場所」を優先して設置を進めるべき(2023年11月14日)

提言者/城口 洋平(ENECHANGE株式会社代表取締役CEO)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 充電器等のインフラ整備が必要な事は勿論ですが、高速道路の料金所の人間などへの教育や意識付けも急務なのではないでしょうか。

    先日、自分の乗っている軽電気自動車が高速道路を走行中、バッテリーがゼロになり、充電スポットがある次のSAまで、保たないので、最寄りのインターチェンジで降りて、近くの充電スポットで充電しようと、料金所の係員に最寄りの充電スポットを聞いたら、すぐ近くのコンビニにあったにも関わらず「知らない」という返事でした。

    現状、高速道路の充電スポットが、70、80km間隔でしかないなら、自分のようなケースは、よく起きるのではないかと思います。

  2. 急速充電設備一基に1000万って!
    鉄道会社や大規模工場の配電設備や電気料金のレベルってどのくらいなんでしょうか?
    evが普及すれば、自動車充電器はコンビニやgsと同様の公共インフラとなるべきですよね
    そうするためには、送電会社や自治体が道路整備のようなインフラ補助を行うべきじゃないでしょうか

  3. 急速充電器が必要なのは、高速道路と充電過疎地だと思います。ただ、充電過疎地は宿泊施設なら長時間滞在するので、普通充電器でもかまいません。高速道路以外はどこも必要といえば必要でしょう。これは充電器密度と利用頻度によると思います。
    採算の点で言えば、高速道路は利益を出せるかもしれませんが、他は難しいと思います。自宅充電できる人にとって、急速充電はあくまで緊急用です。常に利用するものではありません。一方、自宅充電できない人にとっては基礎充電なので、料金が高いと利用したくありません。例えば、イオンモールの急速充電は利用されている方だと思いますが、これは30分300円と安いからです。系統電力並かそれより安くないと利用しないでしょう。そういう充電環境にない人は、おそらくEVを購入しないと思います。
    充電料金を安くするには、太陽光などで自家発電して電力コストを抑えるしかありません。もしかしたら、今補助金利用で急速充電を設置しようという業者は秘策があるのかもしれません。エネチェンジがいくら持論を主張してもポジショントークになるので、テラモーターズなど他社の考えを聞いてみてはどうでしょう。

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この記事の著者


					城口洋平

城口洋平

東京大学法学部卒、英国ケンブリッジ大学工学部博士課程卒。同大学での研究成果をもとに2015年にENECHANGEを起業し、2020年にエネルギーテック企業として初めての東証マザーズ上場を実現。2021年に時価総額1,000億円を達成。起業家大賞(新経済連盟 2022年)受賞。経済産業省委員会、経済同友会、新経済連盟等にて、脱炭素戦略の政策提言にも参画。

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