東名300km電費検証【17】BYD『SEAL』AWD〜RWDに対して航続距離最大19%短縮の可能性

市販電気自動車の実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。第17回はBYD『SEAL』(シール)AWDで実施した。7月に検証を行ったRWDとの差は乗り心地にもあると感じた。

東名300km電費検証【17】BYD『SEAL』AWD〜RWDに対して航続距離最大19%短縮の可能性

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧

100km/h巡航で約460kmの航続距離性能

『SEAL』(シール)のグレードはRWDと今回の検証に使用したAWDの2つがある。搭載するバッテリーはどちらのグレードも82.56kWh。現在は1000台限定の導入記念キャンペーン価格でRWDが495万円、AWDは572万円だ(通常価格は528万円と605万円、どちらも価格差は77万円)。
1000台限定の導入記念キャンペーンなどのシールの詳細についてはこちら、試乗記についてはこちら。スペックは記事末の表を参照いただきたい。

RWD(検証記事はこちら)の一充電走行距離(WLTC)は640km、AWDは575kmで約10%の差がある。今回の検証の注目点は、実走結果でも差が10%ほどになるのか、さらにそれ以外にも違いが確認できるのかであった。なお、電費に関わりそうな両グレードの違いは、AWDがフロントに160kW/217ps、310Nmを発揮するモーターが追加されていること、車重が110kg重い2210kgであることくらいで、Cd値は両グレードともに0.219だ。

カタログスペックである一充電走行距離575kmを、バッテリー容量の82.56kWhで割った目標電費は6.96km/kWhになる。8月某日、計測日の外気温は最高35℃、電費検証に臨んだ深夜は24〜28℃だった。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。

【今回の計測結果】

BYDの電費表示は、直近50km走行データをもとにして100km走行した場合の数値という独特の算出方式のため、各区間の電費はその区間の走行距離を消費電力で割って求めている。往復の電費は、各区間の往復距離を、その区間の往路と復路で消費した電力の合計で割って求めた。

目標電費を超えたのは、往路のD区間、復路と往復のBとC区間の計5区間だった。往復では80km/hが7km/kWh台、100km/hと120km/hが同じ5km/kWh台になるという意外な結果だった。120km/h電費の落ちが少ないのはCd値のおかげなのかもしれない。

【巡航速度別電費】

各巡航速度の電費は下表の通り。「航続距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、575kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率だ。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h7.12587.6102%
100km/h5.58461.080%
120km/h5.12422.573%
総合5.83481.284%

(注)80km/hの電費は、80km/hの全走行距離をその区間に消費した電力の合計で割って算出した。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。

総合電費の5.83km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続距離は約481kmになる。100km/h巡航はそれよりも少し短い約461km。80km/h巡航であれば、カタログスペック(WLTC)の一充電走行距離をわずかに超える約587kmを走り切れる結果になった。

「東名300km電費検証」企画において、この表の100km/h巡航と総合の達成率が90%台だと優秀、100%を超えると相当優秀な電費性能であることが見えてきた。今回のシールAWDは80%台だったのでもう一歩といえる。ちなみにRWDは100km/h巡航が89%、総合が87%と90%が目前だった。

巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると22%電費が悪化する、さらに120km/hに上げると28%減になる。反対に120km/hから80km/hに下げると航続距離を約1.4倍(139%)に伸ばすことができる計算になる。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h78%
120km/h72%
100km/h80km/h127%
120km/h92%
120km/h80km/h139%
100km/h109%

ここでRWDモデルの記録と比較してみる。

AWDRWD電費差
km/kWh
航続距離の差
km
下落率
80km/h電費7.128.181.0613%
航続距離587.6675.387.7
100km/h電費5.586.921.3419%
航続距離461.0571.7110.7
120km/h電費5.125.630.519%
航続距離422.5464.942.4
総合電費5.836.80.9414%
航続距離481.2558.577.3

電費は最大1.34km/kWh、航続距離は最大110.7kmの差があった。電費、航続距離ともに下落率は9〜19%になる。120km/h巡航以外は、両グレードの一充電走行距離を比較した下落率の10%よりも大きくなった。

ACCの性格はRWDと同じ

東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航するため、巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用する。さらに交通量の少ない深夜に行うことで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意している。

シールのACC設定は、ステアリングホイール左側のスポークにあるスイッチで行う。上下に動く速度調整スイッチの右隣のスイッチを押すとACCがスタンバイになる。その状態で速度調整スイッチを下に下げると、その時の速度でACC走行をスタートする。

左隣のステアリングのマークが入ったスイッチを押すとLKA(レーンキープアシスト)のオン・オフを切り替えられる。速度調整のスイッチは上げると設定速度も上がり、下げると速度も下がる。1クリックで5km/hずつ、5の倍数の速度に変えられる。その下の左右のボタンで先行車との車間距離を4段階で設定できる。

RWDの記事でも報告したように、ACCは停車時にかっくんブレーキになること、大きい段差やうねりでの「加速現象」、LKAの「最後の砦」的な制御、車線変更時のステアリングアシストの介入があること、などはAWDでもみられた。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は2〜3km/hだった。実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を102km/hに合わせた。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
83102123
ACC走行中の
室内の静粛性 db
696965

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hと100km/hが69dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hが65dBとRWDと全く同じ結果になった。Cd値0.219の優れた空力性能により、どの速度域でも風切音よりもタイヤのパターンノイズの方が大きかったこともRWDと一緒だ。

RWDと同じく30分で46kWhを充電

AWDの急速充電はRWDと同様に良好な結果を残してくれた。駿河湾沼津SA下りでは150kW器を使用し、充電開始直後に102.9kWの最高出力を記録、徐々に出力は下がっていくが、終了直前でも79kWを維持し30分で46.583kWh、SOC 50%分をチャージした。これは検証結果の総合電費である5.83km/kWhでは約271km分、80km/h巡航の7.12km/kWhであれば約331km分を補給できたことになる。なお、駿河湾沼津SA上りの90kW器では30分で33.750kWh、SOC 36%分を充電した。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。
充電中のセンターディスプレイ。シールの急速充電性能は105kWなので、ほぼ最大値でチャージしている。AWDもSOCに連動した航続距離表示はない。

タイヤ・ホイールは19インチ

タイヤサイズは前後ともに235/45R19、メーカーはコンチネンタル、商品名はEcoContact 6 Q、リヤがフロントより空気圧が高い(フロント:250kpa、リヤ:290kpa)こともRWDと一緒だった。メーカーオプションやアクセサリーカタログで、インチ違いや別デザインのホイールの設定はない。

3つの理由で個人的にはRWDをおすすめ

シールのカタログで主要装備を確認すると、両グレードともに全て標準装備だ。唯一の相違点はインテリジェントトルクアダプテーションコントロール(iTAC)で、これはAWDの前後モーターの出力配分を制御することで、雪道などの滑りやすい路面でも高い安定性と快適性を発揮すると謳われている。

このように装備面ではどちらのグレードを選択しても変わらないが、私にはRWDをおすすめする理由が三つある。

一つ目は航続距離だ。カタログスペックの一充電走行距離の差は10%だが、検証結果では9〜19%の差が出た。しかも最も使用頻度が高いと思われる100km/h巡航では19%も違い、RWDで571km、AWDで461kmと110kmも開いたことが大きい。

二つ目はRWDでも十分な速さを持っていること。0-100km/h加速5.9秒は2リッターターボエンジンのスポーツカー並みだ。AWD(システム最高出力390kW/529ps)の3.8秒にいたっては、BMW M3 CSやMercedes AMG C63 Coupeという2018年当時のハイパフォーマンスカーの2台よりも0.1秒速く、あのフェラーリF50と同値と言えば「すごさ」をイメージしやすいだろうか。全開加速は頭の血がGで後に偏るほど強烈だ。私の「0-100km/h加速タイムリスト」の中で、4秒を切る最も安いクルマでもある。

三つ目は、乗り心地の差でAWDの方がより固く感じたこと。シールはBYD自らが「e-スポーツセダン」と呼んでいることもあり、スポーティな乗り心地であることはRWDでもお伝えした。今回AWDに試乗し、RWD以上に段差での突き上げを意識させられた。主要諸元を確認するとAWDには前後に可変ダンピングアブソーバー(機械式で任意の調整はできない)が装備されている。

BYDオートジャパンに確認したところ、このアブソーバーにより下記の効果が得られるとのこと。
・車両の発進、停止や路面の凸凹による不快な車体の揺らぎを軽減。
・コーナリング時の車両姿勢変化を抑え、高い走行安定性を提供。
・高速道路の継ぎ目を通過する際の不快な突き上げを軽減。

私の感じた印象とは逆の効果が記されているが、この装備の有無により乗り心地に変化が生じていることは間違いない。

冒頭でシールは、1000台限定の導入記念キャンペーン中だと書いた。6月25日発売の同車は、わずか1週間で150台を受注、そして8月末までの約2ヶ月間でその数は425台にまで増えた。この勢いであれば年内に1000台に達する可能性がある。グレード内訳は7:3でRWDの方が多いそうだ。クルマ選びの重要なポイントである乗り心地の面も含め、購入検討の際は、可能であれば両グレードを乗り比べてみることをおすすめする。

BYD
SEAL
AWD
BYD
SEAL
RWD
全長(mm)48004800
全幅(mm)18751875
全高(mm)14601460
ホイールベース(mm)29202920
トレッド(前、mm)16201620
トレッド(後、mm)16251625
車両重量(kg)22102110
乗車定員(人)55
最小回転半径(m)5.95.9
車両型式ZAA-EKXFCZAA-EKXYA
プラットフォームe-Platform 3.0e-Platform 3.0
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)165148
一充電走行距離(km)575640
EPA換算推計値(km)460512
電費(目標電費)6.967.75
モーター数21
モーター型式、フロントYS210XYA
モーター型式、リヤTZ200XYCTZ200XYC
モーター種類、フロントかご形三相誘導モーター
モーター種類、リヤ永久磁石同期モーター永久磁石同期モーター
フロントモーター出力(kW/ps)160/217
フロントモータートルク(Nm/kgm)310
リヤモーター出力(kW/ps)230/312230/312
リヤモータートルク(Nm/kgm)360360
システム最高出力(kW/ps)390/529
システム最大トルク(Nm/kgm)670
バッテリー総電力量(kWh)82.5682.56
急速充電性能(kW)105105
普通充電性能(kW)66
V2X対応V2L/V2HV2L/V2H
駆動方式AWDRWD
フロントサスペンションダブルウィッシュボーン、可変ダンパーダブルウィッシュボーン
リアサスペンションマルチリンク、可変ダンパーマルチリンク
フロントブレーキドリルドベンチレーテッドディスクドリルドベンチレーテッドディスク
リアブレーキベンチレーテッドディスクベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前後)235/45R19235/45R19
タイヤメーカー・銘柄コンチネンタル・EcoContact 6 Qコンチネンタル・EcoContact 6 Q
荷室容量(L)400400
フランク(L)5050
0-100km/h加速(秒)3.85.9
Cd値0.2190.219
車両本体価格 (万円、A)605528
CEV補助金 (万円、B)3545
実質価格(万円、A - B)570483

取材・文/烏山 大輔

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 小生SEAL AWDユーザーですが、このEVは、乗り方が肝で、小生の設定は、回生スタンダード、加速エコ、ステアリングスポーツ、航続距離ダイナミックの設定で、首都高周回100kmを何度も走行して、エアコンOFFで10.1kWh/100km、23℃/風量3でのエアコンONで11.5kWh/100kmは毎回行きますので間違いない数値であると断言いたします。なお、ACCはあまり電費は今ひとつの精度なので、回生がプラスマイナス一桁台を維持しつつゼロクロスを行ったり来たりの頻度をできるだけ多くすることで電費はかなり改善されます。首都高は一般の高速道路よりもカーブが多いのでステアリング電力消費は多くなるはずでございますがステアリングスポーツが多少電費有効性があると言えます。なお、回生ハイよりも回生スタンダードの方が高速では電費に有利になり、回生ハイは全く不要と断言いたします。回生ハイはほとんどのユーザーが良いと勘違いされてますが、回生はするのですが、その分速度も落ちるので回生効率から言うと抵抗にしかなりません。回生スタンダードこそが電費で最適に制御されます。なお、SEALの電費計測はEVネイティブさんも指摘されてましたが、100km走行して正確な数値がでます。特に50km走行までは電費は上昇傾向で表示されますが50kmを超えて100km走行すると正確な表示まで下がり収束してきます。もし50km未満の区間を正確に計測する場合には、ステアリング中央表示を電費表示にして、区間ゴールの10km前くらいで、右手ステアリング回転ボタンで電費リセットをすると100kmの収束値と同じ正確な電費に補正されます。グラフはリセットされず継続のまま、数値だけ補正されて10km走行後正確な数値に収束します。この操作をしない限りSEALではRWDでもAWDでも正確な電費が計測されないので、再度検証されることを強くオススメいたします。今までの貴殿の計測方法ではSEALの本当の電費が計測されていないからなのです。これはSEALを乗りこなしているユーザーが初めて実験して分かることなので、注意⚠️が必要ですね!

    1. 山岸寛光さん、貴重なご意見ありがとうございます。

      「首都高周回100km」の電費について
      首都高は制限速度が50〜80km/hのため、本企画と条件が異なります。大半が60km/h以下ですので、おっしゃる通り10km/kWh前後の電費になる可能性もあると思います。ペースの遅い車に追いついたり(アクセルオフ=電費向上)、カーブ手前でブレーキを踏む場面もあると思いますので、その場合はご存知の通り回生による電費向上も見込めます。

      本企画においては、回生モードやドライブモードが選択できる場合は、すべてノーマルやスタンダードなど必ず「普通」のモードに設定しております。

      シールに限らずBYDが100km走行して車載電費計に正しい電費が表示されることは承知しております。記事中でも触れておりますが、そのため走行距離を消費電力で割って区間電費を求めております。

      BYDの車種で実施した電費検証は、全てBYDオートジャパンさんに結果を共有しておりますが、計測方法や結果について問題になったり、再計測を求められたことはありません。そのため今回のシールAWDについても再計測の予定はございません。

      なお、次にBYDをドライブする機会があれば、「ステアリングスイッチでの電費リセット法」も試してはみるつもりではおります。

      以上、よろしくお願い致します。

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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