オフロードEV『G 580 with EQ Technology』試乗記/3トン超ながらの悪路走破性能に驚愕

10月に日本デビューを果たしたメルセデス・ベンツのGクラスに追加されたEVモデル『G 580 with EQ Technology』にオンロードとオフロード、さらに東京駅を中心とした市街地で試乗しました。その場で回る「Gターン」も試したレポートです。

オフロードEV『G 580 with EQ Technology』試乗記/3トン超ながらの悪路走破性能に驚愕

サイズは大きいが見切りが良くて市街地もラク

G 580 with EQ Technology(以下、G580)の最大の特徴は4輪それぞれに駆動用モーターが取り付けられていること。こうした4モーターシステムを持つモデルには何度か試乗したことがあります。といってもいずれもテスト用車両として作られたもので、自動車メーカーのテストコースでの試乗です。いずれは実用化される技術だと確信はしていましたが、自分が現役で原稿を書いている間に実現する可能性は半々ぐらいだと思っていました。

パワーユニットが1つで4つの車輪に配分する場合は機械的に配分すれば駆動力の異常配分や時間的ズレはある程度予想の範囲に収まります。前後に2モーターの場合も前後の駆動配分やズレが生じてもさほど大きなトラブルにはならないでしょう。しかし、左右となると話は変わってきます。左右の回転差が少しでも発生すれば、クルマはまっすぐ走れません。ですので前後2モーターと左右2モーターは同じ2モーターでも制御に求められる精度はまるで異なります。

さて、まずは一般道での試乗からです。試乗ベースとなったのは富士山の山梨県側に位置するオフロードコースの富士ヶ嶺オフロードです。ここから朝霧高原の中を走り静岡県の富士宮市街を目指します。当初は新東名高速道路の駿河湾沼津サービスエリアに行き150kW急速充電をテストする予定だったのですが、3時間と限られた試乗時間では撮影などをする時間が無くなってしまうため、富士宮市東阿幸地のセブンイレブンに行き90kW充電を試すことにしました。

G580は全長こそ4730mmとさほど長くはないのですが、全幅は2mに迫る1985mm、全高は1990mm、車重はなんと3トン超えの3120kgです。ちなみにいすゞのEVトラック、エルフEV木製平ボディは全長×全幅×全高が4690×1695×1965(mm)で、車両総重量が3490kgです。車両総重量というのは車両重量に積載量と55kg×乗車定員を足した数値です。G580は5名定員なので車両総重量だと3395kgです。つまりG580は、エルフEVよりも少し長くかなり幅広ボディで、フル積載のエルフEVと同等の重さということになります。

そんなサイズ感、重量感のG580ですが、走らせてみるとそれほどの大きさは感じません。ボディパネルが直線とフラットな面で構成され、Gクラスの象徴ともいえるフェンダー上に配置されたウインカーレンズのおかげでビックリするぐらいに運転席からの見切りがいいのです。そして432kW/1164Nmのパワー&トルクは3トン超えのボディをものともせずに加速します。乗り心地もよく荒れた路面でもけっこう快適。ラダーフレームのシャシにオフロードも走れるタイヤの組み合わせだということを考えればかなり優秀だと言えます。

おそらく荷物を満載して車両総重量が3トンを超えたトラックを運転していたら、かなり慎重になるであろうコーナリングもさほど気をつかうことなくドライブできます。ブレーキングも慎重さは不要で、ごくごく普通のタッチで踏み込めば十分な制動力を発揮しますし、低速でのブレーキの扱いやすさも十分に確保されています。基本的には後輪駆動のコンフォートモードで走行しましたが、スポーツモードにすればさらにスポーティな走りが可能です。とはいえ、日本の一般路でスポーツモードを使う必要があるシーンはそんなに多くないだろうといった印象です。

回生モードは弱いほうから、回生のないコースティング、通常回生、強回生、最大回生の4モードがあります。同乗者がいるときは強回生までとしたほうがいいでしょう。最大回生にするとアクセルワークに対してギクシャクした走りになってしまうので、クルマ酔いを誘発しそうです。とはいえ、普段の走りでは走行状態に合わせて回生量を調整するD autoを使えば、車間距離なども考慮した適度な回生となります。マニュアルで回生量を選ぶのは下り坂で回生量を調整したいときなどに便利です。

最近はコンビニ駐車場などにも最大90kWの2口器が増えています。

急速充電を試すために「バッテリーを減らしたい」走りで富士宮市東阿幸地を目指しましたが、出発時82%だったSOCは到着時にはなんと83%にアップしていました。あとからデータを調べて見るとスタート地点の標高は994m、ゴール地点は135mで高低差なんと841m。移動距離23.6kmでこの高低差ですからけっこうな下り勾配だったわけです。運良く90kW充電器には先客がおらず、1台のみの充電が可能でした。23分25秒で充電はなぜか自動的に終了。SOCは9%アップの92%に上昇。充電量は11.123kWhでした。

G580は最大150kWの急速充電に対応していますが、確認できた最大充電出力は50kW程度。今回、EVsmartブログ編集部だけでなくメルセデス・ベンツからも急速充電を試すリクエストがあったのですが、いずれにしてもSOC80%超からの急速充電では、あまり参考になるデータを得ることはできませんでした。23分ちょっとで自動停止した理由も不明。車両側で90%を超えると充電停止する設定になっていたのかも知れません(未確認)。改めて、しっかりと充電性能を確かめるチャンスを待ちたいと思います。

SOCが85%になっても40kW以上流れていました。

充電が終わり次は試乗会の拠点である「富士ヶ嶺オフロード」を目指しました。復路は撮影しながらだったので39kmと距離が長くなりました。また今度は841mの標高差を上らないとならないので当然電力使用量も増えます。SOC92%でセブンイレブンをスタートし富士ヶ嶺オフロードに到着したときには76%まで減少していました。

車重3トン超にして驚異的なオフロード性能を実感

さて、G580最大の見せ場なのがGターンと呼ばれる「その場で360度ターン」です。対角線上のタイヤを逆回転させることで360度ターンができます。この機能は公道で使うことはNGで林道などで行き詰まったときに狭い場所でのターンが可能にするという目的があります。

富士ヶ嶺オフロードの広場で実際に操作してみましたが、必要なスイッチ操作をしてあとはアクセルを床まで踏み込むことで簡単にターンできます。ターン時の障害物などについてはドライバー自身が確認する必要があり、安易にGターンするとクルマをキズつけることになります。また、G580はGステアリングという機構も備える。Gステアリングは後輪左右の回転速度を調整することでテールスライド状態を作り出し、タイトコーナリングを可能にする機構で、狭い林道などで切り返しすることなく前進することが可能です。

富士ヶ嶺オフロードでは林道コースやキャンバー、モーグル、ロック、ウォーターハザードなどさまざまなセクションを走行しましたが、どのセクションでもしっかりとトラクションを掛けて走れました。タイヤが空転するようなシーンは皆無で、かなりきつい状況でもつねに4輪のグリップがコントロールされていました。よくよく考えてみると荷物満載のエルフEVと同じ重量のクルマがこうしたセクションを軽々とこなすのは脅威的です。

富士ヶ嶺オフロードでの試乗から3日後、希望されるお客さんを助手席や後席に同乗してもらい、G580をドライブして皇居1周を体験してもらうというイベントでドライバーを務めました。地下駐車場を出発し、ふたたび地下駐車場に戻るという都内でのドライビングには多少不安がありましたが、G580の扱いやすさはビックリするほどよく、ボディの大きさもあまり気にならずにドライブできました。

やはりフロントフェンダーのウインカーレンズや直線で構成されるボディが使い勝手を向上している印象です。さすがに都内住宅街の狭い道では取り回しに苦労する場面もあるでしょうが、都心や郊外を中心に使うのであればあまり大きさは気にならないでしょう。

取材・文/諸星 陽一

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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