テスラの最新モデル3納車/EVとテスラの利便性を考える

EVコンサルタントの前田謙一郎氏が5年間スーパーチャージャー無料特典付きのテスラ『モデル3』を購入。マンション住まいながら数年ぶりにテスラがマイカーとなり、改めて実感するEVやテスラ車の利便性についての気付きを提言します。

テスラの最新モデル3納車/EVとテスラの利便性を考える

数年ぶりのモデル3に進化を実感

先日、納車後5年間無料でスーパーチャージャーを利用できる特典が付いたモデル3が納車された。以前テスラ車に日常的に乗っていたのはテスラに在籍していた2020年までで、その後ポルシェに移ってからはポルシェ・タイカンに乗っていた。電気だけでなくその間にもポルシェを代表する911からジムニーのような軽自動車を乗り継ぎ、仕事の関係で他ブランドのEVにも乗ってきたが、改めてモデル3に乗ることで電気自動車の便利さと楽しさを実感している。

テスラのこの5年間の進化は車両やアプリだけでなく、日本においてもスーパーチャージャー充電ネットワークの拡充が進んだ。今回はテスラモデル3を所有し気づいた点を紹介しながら、EVの快適性や利便性、将来の自動車について考えてみたい。

テスラ最大の特徴であるユーザーインターフェース(筆者撮影)

5年間充電無料という最強のプロモーション

これまで、テスラはイーロン・マスクCEOの方針により、通常の広告(TVCMやデジタル広告など)を全く行ってこなかった。最近その方針が変更され、日本でもこの充電無料キャンペーンの広告が走っているので、気づいた人はいるかもしれない。EVsmartブログでも以前の記事で詳しくまとめられているが、3月31日までに納車される旧型モデルYの在庫車、そしてモデル3の在庫車と新規オーダー車については、スーパーチャージャーを5年間無制限で使い放題というお得なプロモーションだ。

画像:テスラ・ジャパン

「スーパーチャージャー5年間無料」に惹かれた人は多いのではないかと思う。筆者が住んでいる神奈川はマンションが多く私もそこの住人の一人。未だマンションで充電器を導入すると言うほど進んではおらず、外で充電しないといけないユーザーは日本にはかなり多いと思う。

そのようなマンションが多い都市に住んでいる人であれば、最寄りのスーパーチャージャーステーションがあるはずだ。現在、スーパーチャージャーV3と呼ばれる機種からの最大出力は250kW、2024年からは日本でも最新機種でさらにハイパフォーマンスなV4も設置され始めている。テスラのリリースによると2025年1月現在、日本国内では125カ所、638基のスーパーチャージャーが稼働しており、ネットワークは拡充している。

充電ネットワークにはナビから簡単にアクセスできる(画像:筆者撮影)

私の最寄りSCは東名川崎で自宅から車で5分のところにある。高速入り口のすぐそばにあり、都内に行く際や通勤の前後に充電できてとても便利だ。日本では未だEVは充電時間が長い等、間違ったイメージがあるが、20分くらい充電しながらスマホを見たり仕事をしたりするのは全く苦にならない。ちなみに東名川崎には近くにブックオフがあり長く充電する時はそこで過ごすこともできるし、代官山Tサイトなどはスターバックスでお茶したり本を読むことができる。

充電もプラグをそのまま車に挿すだけで自動決済が行われ、日々値上がりするガソリン代を確認しながら、ガソリンスタンドでカードや現金を入れたり、寒い中給油するような動作の方が苦痛に感じると思う。もちろん充電ステーションの混雑状況(何基空いているか)などもUIから事前に確認することができる。

東名川崎SC(筆者撮影)

そして、今回の充電無料の恩恵だ。年間1万km走行してモデル3の電費が7km/kWh、平均の充電料金が60円/kWh程度だったと仮定して、1年間で約8万6000円、5年間で約43万円の充電代が無料になる。同じ1万kmをガソリン車で走った場合は燃費の差もあるが、それ以上かかるはずだ。

今回、実際に充電無料を体験すると、その金額試算以上に充電や燃料費に対して気持ち的な余裕が生まれるのが一番嬉しい。長距離を走ってもガソリン代や電気代を気にする必要はないし、好きな時にいつでも充電ステーションに行くことができる。長距離を走る時も燃料費を気にしなくて良いのは素晴らしい体験だと思う。

もちろん、EVを所有する上で自宅充電などの基礎充電があることに越したことはない。使わない間にフル充電でき、コスト的にもスーパーチャージャー充電より安価だ。ただ、日本の住環境を考えるとこの充電無料というプロモーションはとても有効だと思うし、こういったマンション住まいの次なる課題、立駐サイズについてもモデル3は1850mmという車幅でほぼ解決できているため、とても日本に適したモデルだと思う。

ちなみにポルシェ時代にはフォルクスワーゲングループのEVが共同で使えるPCA(Premium Charging Alliance)を開始し、推進して来た。これも自宅充電ができない日本のEVユーザーには必要な充電解決策であった。2024年末には360基以上のチャデモ急速充電器がポルシェ・アウディ・フォルクスワーゲンの販売店に設置してある。最近ではそこにレクサスが加入するというニュースが話題になった。

PCAに加入したレクサス(画像:トヨタ)

ちなみに、ポルシェ・タイカンに乗っていた時にはアウディ東名川崎の急速充電にお世話になった。今回モデル3の購入にあたり、周囲の自動車業界関係者にまたテスラを買ったという話をすると「充電が大変だよね」というコメントを多く貰うことに気づいた。2025年になっても日本ではEVの航続距離や充電に関する不安など間違った認識を持っている人は自動車業界でさえ存在することを改めて認識、やはりこのEVのメリットや所有のしやすさは様々な方法で伝え続けていかなければいけないと思う。

ユーザーインターフェースやアプリの快適性

流麗なスタイルのモデル3(筆者撮影)

様々なガソリン車、そしてEVを乗って感じるのは改めてテスラのUIやアプリがスマホ並みに快適で便利ということだ。車の状態や充電残量はスマホで常に確認できるし、Apple Watchを使って施錠・開錠できて様々な操作も可能だ。朝、子供を駅に送る時にはリモートで快適な温度に設定することができるし、混雑した駐車場に停める際にはセントリーモードで車の周りを常に確認できて、何かあった際には携帯に通知がくる。

音声認識は優秀で目的地の設定などもスムーズにできるし、プレミアムコネクティビティを使ってYoutubeやNetflixを視聴でき、必要があればZoom会議も可能だ。テスラユーザーなら当然の機能であるが、これら機能をテスラと同じレベルで実現している車はあまりないように思う。

豊富なエンターテイメント機能(筆者撮影)

ちなみにテスラ・ジャパン時代にはまだ社内の人数が少なかったこともあり、このUIの日本語へのローカリゼーションは私が担当していた。翻訳の依頼は細かいアップデートのたびに24時間届くし、すぐに翻訳をあてて返信しなければならない。テスラのバックグラウンドはシリコンバレーカルチャーであり、そのスピード感は自動車メーカーにはないことを学んだ。

今もブーブークッションのおなら機能の翻訳は当時自分が悩んで考えたものがまだ使われているのは嬉しかったし、子供達も真っ先に使って楽しんでいた。

ブーブークッション(筆者撮影)

また、すごく初歩的に聞こえるかもしれないが、モデル3に乗って最初に気づいたのはその静粛性によって車内で音楽の広がりや深みを楽しむことができるということだ。そこでは音楽はたんなるBGMのレベルを超える。テスラ自体の音響性能の高さもあるが、やはり静かであること、振動がないことはエンジン車には再現できない純粋な音場である。

他には携帯のアプリの優秀さが挙げられる。他の車を使っていた時には、携帯アプリの動作がぎこちなかったり、アップデートが遅かったり、充電には充電アプリを別で開く必要があったりした。

もしかすると多くの人は純正ナビではなく、Apple CarPlayをディスプレイに映して使っている場合も多いのではないだろうか。私自身もポルシェ時代はこのデジタル部分やスマホアプリなどのドイツ本国の開発進捗には本当に苦労したし、もちろん車としては素晴らしいが、デジタル部分はやはりソフトウェアを作る会社の方が開発スピードも早く、使い勝手が良いのが現実である。

テスラアプリ(筆者撮影)

世の中ではSDVなどと謳われているが、ユーザー目線からもこのデジタル化は今後の車に最も求められる機能の一つであり、これが今の中国新興企業、シャオミやNIOなどが現地では従来ブランドよりも人気が高いことの理由の一つである。

私の最初のキャリアはヨーロッパで日系のナビゲーション会社で働いたことから始まるが、その後自動車会社でも商品企画としてナビやコネクティビティを20年以上追ってきて感じるのは、従来のハードウェアから電動化・デジタル化への急速なシフトであり、今後の自動車の定義やビジネスのあり方は大きな変革を迫られていると痛感している。

電気自動車を運転する楽しさと自動運転の未来

これまで日本でしばしば言われてきたことの一つに「電気自動車は運転する喜びがない」という誤解がある。これはテスラとポルシェ時代にも説明してきたことの一つであるが、そもそも電気自動車はモーターならではの速さや快適さ、静粛性があるわけで、ガソリン車とはまた別物であるということだ。

ポルシェのタイカンで言うならば911よりも速く、そのサスペンションや車全体の剛性の高さはサーキットを走るとひしひしと感じられる、まさしくポルシェのフル電動スポーツカーだ。テスラにおいても0-100km加速では同じ価格帯のエンジン車を余裕で上回り、以前サイバートラックのデリバリーイベントではサイバートラックが911を牽引しながら、911との直線加速でも勝るというムービーをテスラが出していたようにガソリン車とは比較できない速さがある。

今回納車されたモデル3も全くラグがなくスムースに加速でき、街中ではとても使いやすい。モデル3パフォーマンスを選ぶと0-100km/hは3.1秒でポルシェ911 GTS並みの加速ができるし、電気自動車ならではの加速、スムースさ、静粛性は一度体験するとガソリン車に戻ることができないと言われる一つの理由だと思う。

最近はMLB大谷選手がタイカンをLAで乗っている姿も。(画像:ポルシェニュースルーム)

そして、今後はこの電気自動車がベースとなってテスラが進めるFSDのような自動運転技術が普及してくることになる。完全自動運転サービスを行う上で、BEVはそのシンプルさ、精度、電力供給、ソフトウェアやOTAとの相乗効果から自動運転に適している。テスラのFSDチップは数百ワットの電力を消費するし、高性能コンピュータやセンサー、そしてAI処理に必要な大量の電力を安定して供給するにはBEVのプラットフォームが不可欠だ。

昨年の「We, Robot」イベント(関連記事)でテスラが示した将来の交通社会のように、今後は自動運転能力があるBEVやロボタクシーが主流になっていき、環境や排ガス規制も進むことで、ガソリン車を所有し走ることは、よりラグジュアリーで趣味性が高く嗜好品のように二分化が進んでいくだろう。

イギリスの調査会社Rho Motionによると2024年の世界のBEV・PHEV販売台数は1710万台となり、前年の1400万台から25%成長し、新車全体の約20%を電動車が占めるまでになった。先週からは中国でテスラのFSD展開が始まり、アジア特有の狭い街中でも問題なく自動運転をこなしている。

ロボタクシー(画像:テスラ)

今回改めてテスラのモデル3を所有し毎日乗ることで、将来の自動車というものを考え直す良い機会になったし、もし次のEVを検討中であれば、テスラは最有力候補としておすすめしたい。次回の記事では今後の電動化、そして加速する自動運転とAIについて考える。

文/前田謙一郎Youtube / Spotify

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この記事の著者


					前田 謙一郎

前田 謙一郎

テスラ、ポルシェなど外資系自動車メーカーで執行役員などを経験後、2023年Undertones Consulting株式会社を設立。自動車会社を中心に電動化やブランディングのコンサルティングを行いながら、世界の自動車業界動向、EVやAI、マーケティング等に関してメディア登壇や講演、執筆を行う。上智大学経済学部を卒業、オランダの現地企業でインターン、ベルギーで富士通とトヨタの合弁会社である富士通テンに入社。2008年に帰国後、複数の自動車会社に勤務。2016年からテスラでシニア・マーケティングマネージャー、2020年よりポルシェ・ジャパン マーケティング&CRM部 執行役員。テスラではModel 3の国内立ち上げ、ポルシェではEVタイカンの日本導入やMLB大谷翔平選手とのアンバサダー契約を結ぶなど、日本の自動車業界において電動化やマーケティングで実績を残す。

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