「充電インフラ整備促進に向けた指針」策定へ前進~パブコメ用読者アンケートを実施します

経済産業省が第6回充電インフラ整備促進に関する検討会を開催し「充電インフラ整備促進に向けた指針(案)」を示しました。電気自動車ユーザーの利便性高く、持続可能なEV社会構築に向けて前向きな内容です。EVsmartでは、提出予定のパブリックコメントに盛り込むための読者アンケートを実施します。

「充電インフラ整備促進に向けた指針」策定へ前進~パブコメ用読者アンケートを実施します

EVユーザーの声を反映した指針案

2023年8月28日、経済産業省が第6回となる「充電インフラ整備促進に関する検討会」を開催し「充電インフラ整備促進に向けた指針(案)」を公表しました(参考サイトなどは記事末でリンクを掲載します)。

この検討会は、経産省が所管する「充電インフラ補助金」のあるべき方向を策定することなどを目的に、今年6月から充電サービス事業者やNEXCO各社、自工会などが参加して議論を重ねてきたものです。

公表された指針案では、冒頭から ①ユーザーの利便性向上 ②充電事業の自立化・高度化 ③社会全体の負担軽減 という原則を挙げて「利便性が高く持続可能な充電インフラ社会 の構築を目指していく」ことが明示され、全体としてEVユーザーの要望を具体的に反映した前向きな内容になっています。

2030年に向けた設置目標数を30万口に倍増

指針案はかなり詳細な事柄に踏み込んでおり、PDF(記事末にリンクを掲載したパブリックコメント募集ページからダウンロード可能)ファイルで29ページに及ぶ労作になっています。EVユーザーが注目すべきポイントをピックアップしておきましょう。

設置目標数の大幅な引き上げ

まず、明るい大ニュースといえるのが、充電設備設置目標数の倍増です。日本政府では2021年のグリーン成長戦略で「2030 年までに公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15万基設置する」との目標を掲げ、今までに約3万基の設置を進めてきましたが、今回の指針では、2030年に向けて整備を目指す充電器の口数について「公共用の急速充電器3万口を含む充電インフラ30万口の整備を目指す」ことが明記されました。

従来の「15万基」から「30万口」へ倍増です。また、急速充電器の複数口化などを踏まえ、今まで「基」としていた目標数を「口」に統一することが示されました。

充電用途別では、高速道路SAPAや道の駅などを中心にした経路充電(急速充電器)が従来通り3万口。宿泊施設や滞在時間の長いレジャー・商業施設などへの公共用目的地充電(普通充電)が10~15万口。集合住宅や月極駐車場などの基礎充電(普通充電)は10~20万口を目安としています。経路充電については、2030年までに目標達成できれば、かなり快適なEV充電環境が整うことでしょう。

一方で、EV普及にとってとても重要なファクターである基礎充電と目的地充電の数はやや心許ない印象もあります。

集合住宅駐車場での基礎充電について、分譲マンションのストック戸数を調べてみると、2021年末時点で約690万戸(出典:国交省資料)で、マンション居住者の自家用車ニーズは少なめに見積もって400万台くらいはあるでしょう。また、国が掲げる2030年新車販売の電動車比率20~30%としたときに、年間乗用車新車販売台数は400万台弱で、20%としても80万台。その半分がBEVであれば40万台分の基礎充電設備が必要になります。

目的地充電は、『充電インフラ補助金予備分の配分が決定』の記事で述べたように、12万口というのは国内の宿泊施設に2口ずつ整備できる数になります。2030年に向けて当面の目標としてはまずまずですが、さまざまな目的地に利用者のニーズを満たす数の充電設備が整備され、「長時間滞在施設ではEV充電できるのが当たり前」になるには十分とはいえません。

今回、30万口への倍増はEVユーザーとしても高く評価したいポイントだし、一気に全てがEVに置き替わるわけではないので「実情に合わせて適切に」と考えると当面の目標として合理的ではありますが、集合住宅などが「10~20万口」、目的地充電が「10〜15万口」というのは「将来的にはまだまだ足りない」印象です。

かといって、大規模マンション駐車場への全区画設置といったやり方はEV普及の実情に合わず(関連記事)、使われない充電設備に補助金を浪費する原因になります。とくに基礎充電には戸建ても関わってくる(集合住宅への整備が急務だけど)し、公共用の経路や目的地の充電インフラ整備とは別の仕組みや対策が必要なのかも知れません。

高出力化の目標を明示

ふたつ目の要注目ポイントが、充電設備の高出力化を明確な目標として掲げたことです。急速充電器については、現状の「平均的な出力が約40kW」であることを指摘した上で、2030年に向けて「3万口を目指し、平均的な出力を2倍の80kWまで引き上げる」としています。

具体的には「高速道路など充電ニーズが高い場所においては、1口90kW以上の高出力の急速充電器を基本とし、特に需要の多い場所においては150kWの急速充電器も設置する」、さらに「90kW以上を設置する場合には、複数口に対応した機器を設置」と、高出力器複数口設置というビジョンを明示しました。

高速道路SAPAにも設置され始めた150kW器(新東名駿河湾沼津SA上り線)。

現状は出力3kW~6kWが中心になっている普通充電についても、充電機器に対するJARI認証(一般財団法人日本自動車研究所による認証で補助金交付の条件になっています)の上限が6kWであるのを2023年度内に10kWへ引き上げするよう見直すとしています。実現すれば8kWや10kWといった高出力な普通充電器も補助金対象とすることができるようになります。

その上で、設置する充電器全体の総出力を、現状の約39万kWから、口数同様に「約10倍に相当する約400万kWを確保する」という目標が示されました。充電インフラの総出力は国際的な評価基準にもなっており、こうした目標の指針に明示されたのは初めてのこと。国として、世界トップレベルのEV充電インフラ構築を目指す意思表明ともいえるでしょう。

さまざまな課題解決にも前向きな提言

さらに、今回の指針案では、EV充電に関わるさまざまな課題解決に向けた姿勢と具体策が示されました。書き出してみましょう。

●350kWなどさらなる高出力化。
●バリアフリー対応。
●OCPP(Open Charge Point Protocol=EV充電器の国際標準通信プロトコル。課金や保守運用が汎用可能)などオープンプロトコル対応の推進。
●急速充電における充電器とEV間の不具合解消。
●従量課金制度の導入。
●CHAdeMO規格へのプラグ&チャージ(PnC)実装に向けたガイドライン作成を検討する。

こうした課題は、EVsmartブログがさまざまな記事で繰り返し指摘してきた日本の充電インフラにEVユーザーが抱える不満の要因となるポイントでもありました。

充電器の稼働率や「無料または電気料金と比較して割安な価格(で利用可能な)の充電器」の存在に疑問を提示して、補助金のあり方を含めて、充電ネットワークの持続可能性にまで言及しているのも画期的なポイントだと感じます。また、CHAdeMO協議会において「希望する車両OEMが、チャデモ認証を受けた様々な充電器と接続確認ができる」マッチングテストセンターを今年度中に設置する(準備を進める)ことも明記されました。

ちなみに、検討会では経産省による指針の説明に続いて参加委員の意見が述べられました。網羅すると長くなるのでポイントをピックアップしておくと……。オープンプロトコル対応については、ENECHANGE株式会社の城口氏が将来的な充電サービスの利便性向上を考慮すると「OCPPだけでなくOCPI(充電サービスのローミングを可能にする新しい通信プロトコル)への対応も検討すべき」と指摘。

また、e-Mobility Powerの四ツ柳氏が、ユニバーサルデザインや高出力化実現に向けた規制緩和などを要望するのとともに、CHAdeMO規格における従量課金やPnCの早期実現への決意を示し、自動車メーカーや充電器メーカー各社に協力を呼びかけたことが印象的でした。

今回の指針案にこうした歓迎すべき具体案が明記されたのは、作成した経産省自動車課の担当者が、EVユーザーの声や、充電サービス事業者、自動車や宿泊施設関連団体などの意見を丁寧にヒアリングして、社会として合理的なEV充電インフラ構築を検討してくれたからこその成果だと思います。ちょっと高飛車かつ個人的には「こんなにユーザーの声が適切に反映された国の施策ってあまりないんじゃないの」と感じるほどで、EVユーザーのひとりとして、ご担当者に感謝したい思いです。

新東名浜松SA下り線。

最後にひとつ、ちょっと物足りないと感じるのは、こうした検討会に日本のOEMが参加していないことです。自工会やJAIAは委員に名を連ねてはいるものの、NACS(北米標準充電規格=テスラ規格)や高出力急速充電性能への対応など、市販EVの行く末を決めるのはOEMの判断です。今後は、日本の大手自動車メーカー各社からも明確な意見が表明されて、ユーザーを含めた議論が広がることを期待しています。

パブコメ用アンケートに回答をお願いします!

経済産業省では、今回の「充電インフラ整備促進に向けた指針(案)」について、2023年9月28日17時までの期間でパブリック・コメントを募集しています。

この指針は次年度以降の充電インフラ補助金の要件設定などにも深く関わってきます。つまり、近未来の日本のEV充電インフラのあり方を大きく左右する方針です。ぜひ、多くのEVユーザーのみなさまのご意見を! といいたいところではありますが、議論の流れを踏まえつつ自分の意見を書くのはひと仕事。

そこで、EVsmartブログ(運営:ENECHANGE株式会社)では、今回指針案に基づく読者アンケートを実施。その結果を盛り込んだパブリックコメントを提出(もしくは経産省ご担当部署にお届け)することを考えています。EVユーザーのみなさま、そしてEVに関心が高い読者のみなさまに回答いただけるようお願いします。

【読者アンケート】
「充電インフラ整備促進に向けた指針(案)」へのご意見アンケート

最後に、参考情報ページのテキストリンクを貼っておきます。ご参照ください。

【参考情報】
第6回 充電インフラ整備促進に関する検討会(経済産業省)
第6回検討会 動画アーカイブ(YouTube)
パブリック・コメント募集要項(G-GOV)

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文/寄本 好則
※冒頭写真は新東名浜松SA下り線の急速充電スペース。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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