東光高岳『充電インフラ』ワークショップで気付いたニッポンに「足りないモノ」

4月2日、東光高岳が充電インフラを考えるワークショップを開催しました。はたして、日本の急速充電器シェアトップを誇る企業で、電気自動車充電インフラの、何が、どのように検討されていくのか興味しんしん。ユーザー代表の気持ちで取材してきました。

東光高岳『充電インフラ』ワークショップで気付いたニッポンに「足りないモノ」

※冒頭写真は新名神鈴鹿PAに設置されている東光高岳製の急速充電器で充電するアイペイス。

充電インフラに関わる企業の担当者が真剣に議論

今回のワークショップ開催については『参加者募集』の記事(2021年3月9日)を紹介しました。「社用車のEV化に向け、あったらうれしい充電インフラの機能・サービス」について、社用車としてEV(電気自動車)の導入を検討している企業や、充電インフラに関わる企業、さらには「RE100(再エネ電力100%)」や「EV100(輸送手段の電動化推進)」など国際的イニシアチブへの参加を検討するなど、環境配慮に前向きな企業の担当者への参加を呼びかけたものです。

東光高岳としては、急速充電に限らずユニークな充電インフラのアイデアを募り、電気自動車普及に資する新たな商品やサービスを生み出したいということです。社用車、いわゆるフリートのEV化は、現実的に日本でのEV普及を進めるために、重要で効果の高い道筋といえるでしょう。そして、フリートEV化を進めるためにも、充電インフラの利便性を高めることが大切です。

ひとりのEVユーザーとして、充電インフラが便利になるのは大歓迎。日本トップレベルの充電器メーカーで「何が、どのように検討されていくのか興味しんしん」ということで取材をオファー。特別にワークショップの「現場」を拝見することができました。

4月2日、東京都江東区豊洲の東光高岳本社で開催されたワークショップに参加したのは、募集告知にあった「社用車としてEV導入を検討(あるいは進めている)企業」のほか、EV充電インフラに関わる当事者ともいえる企業など、数社のご担当者のみなさん。オンラインでのリモート参加となった企業もありました。

今回のワークショップは、企業の課題解決や新たな商品開発などをウェブを活用したプラットフォームを駆使して支援する『CUUSOO SYSTEM』とのコラボで実施されたプロジェクトです。ワークショップでは、まず東光高岳のご担当者が同社の製品やサービス、充電インフラの現状などについて説明。参加した各社のテーブルに東光高岳の担当者も入り、CUUSOO SYSTEM のファシリテーターが各テーブルの議論を進め、深めるスタイルで進められました。

取材レポートといいつつ、新サービス開発に直結する可能性もあるワークショップだけに、どんな企業の方が参加していたのかということや、どんなアイデアが出たかといった詳細を明らかにすることはできません。

でも、ワークショップでのアイデアの見つけ方や深め方の「方法」に、日本でのEV普及を進めるために大切なことのヒントがあったように感じています。また、充電インフラとしての利便性だけにとどまらず、環境配慮の視点を重視しながら議論が進んでいたのが印象的でした。

ユーザーの目的を実現する製品やサービスを突き詰める

大きく分けて2つのステップで行われたワークショップ。まず「WORK 1」では「ユーザプロファイル」「ユーザへの提供価値」に区分されたチャートの各項目に、参加者が思いついたことを付箋紙に記入して貼っていく作業が進められました。

つまり、ユーザーの立場からどんな「不便=ペイン」や「あったら便利=ゲイン」が存在するかを考えて、それを解決するための製品やサービスを発想していくための「材料を揃える」というイメージです。

日本の充電インフラの課題については、先日公開した記事『自動車4社が e-Mobility Power へ出資のニュースに、改めて「期待」を整理してみる』で列挙しました。たとえば「高速道路SAPAへの急速充電器複数台設置」や「認証&課金サービスの複雑さ」「従量課金の実現」といった点は、まさにユーザー本位の立場から解決を急いで欲しい課題でしょう。

これは、充電インフラに限ったことでなく、EVそのものの商品化、ひいては世の中のあらゆる製品やサービスに当てはまる普遍的な成功への方程式でもあるのだろうと思います。

ワークショップの冒頭、ファシリテーターの方から議論を進める際の留意点が説明されました。

●実現性は考慮しない。
●思いついたことは書き出してみる。
●すぐに判断しない。否定しない。
●意識的により多くの視点を共有する。
●他の方のアイデアを広げることを意識する。

私自身こうしたワークショップに参加する機会はほとんどない(別件でも何度か取材して「いろんなメソッドがある」くらいは認識してますが)ので、ファシリテーターの方の言葉が新鮮でした。日本で電気自動車普及がなかなか進まない、さらには日本そのものが陥っているのではないかと感じる袋小路を突破するための「心得」である気がします。

具体的な製品やサービスのアイデアをまとめる

休憩を挟んだ「WORK 2」では、WORK 1 での議論をもとに「あったらうれしい充電インフラの機能・サービス」が具体的に検討されました。アウトプットシートには、以下のような欄が設定されており、WORK 1 で作成した付箋の内容を元に、ポイントを整理しながら記入していく方法です。

①製品/サービスのアイデア概要
②ユーザー想定/誰が? どんなユーザーが?
③ユーザー想定/何をしたい?
④ユーザー想定/何に困っている?
⑤製品サービスが提供する価値/何ができる?
⑥製品サービスが提供する価値/利用シーンのイメージ

きちんと記入すれば、そのまま製品サービス企画書のたたき台になりそうなロジックです。

発表された新型EVや日本の充電インフラの現状について、一人のユーザーとしては思いつくまま不平不満をぶちまけたりしてますが、メディアの伝達者としては、常にこういう視点というか、事実の整理方法を心しておかねばと感じます。

また、長年EVに関わってきたユーザーとして、このアウトプットシートに沿って「思い」を整理して企業に伝えれば、もしかすると新たな、うれしい製品やサービスの実現につながりやすいのかも、と感じます。などと自省しつつ、私なりの「アウトプット」をひとつ例示しておきます。

思いついた「アウトプット」例

①製品/サービスのアイデア概要
アプリを活用したリーズナブルでコンパクトな集合住宅向け電気自動車用普通充電コンセントシステム。

②ユーザー想定/誰が? どんなユーザーが?
<システム設置者>
・集合住宅オーナーや管理組合。
・宿泊施設や観光施設など。
・自治体などの道路管理者。
<充電利用者>
・集合住宅に居住する電気自動車(プラグインハイブリッド車)のユーザー。
・目的地施設利用者。
・パーキングメーターなど道路施設利用者。

③ユーザー想定/何をしたい?
<システム設置者>
・初期コストや管理の手間を軽減しつつ、合理的な充電システムを設置したい。
<充電利用者>
・認証や課金の手間を減らして、手軽に普通充電を行いたい。

④ユーザー想定/何に困っている?
<システム設置者>
・普通充電でも課金できる設備は高価。
・設置場所などの制約が多い。
・課金管理が面倒。
・電気料金負担の仕組みが定めづらい。
<充電利用者>
・集合住宅に充電設備を導入しづらい。
・目的地充電設備が少ない。
・課金認証が面倒。
・充電カードの月会費負担は嫌。

⑤製品サービスが提供する価値/何ができる?
<システム設置者>
・低コストで複数の充電設備導入を実現。
・課金や電気料金負担管理を手放せる。
<充電利用者>
・集合住宅の駐車場で自分専用の充電設備をもてる。
・宿泊施設などいろんな場所に普通充電設備が増える。
・面倒な認証手続きが簡単&わかりやすくなる。
・手軽なアプリ認証で充電設備が使える。

⑥製品サービスが提供する価値/利用シーンのイメージ
・集合住宅駐車場で手軽に充電できる。
・宿泊施設駐車場には洗浄便座のごとく当たり前に充電設備が設置される。
・パーキングメーターや電柱に設置されたコンセントを利用できる。

東光高岳さん、私のアイデアいかがでしょうか。200Vの安価な製品になってしまうから、メーカーとしてはあまり美味しくないかも知れないですけど……。と、念のため確認してみたら、すでにここで想定したのと同じようなシステムを検討中(6月に発表された新商品の記事にリンクしておきます)とのこと。東光高岳は急速充電器メーカーだと思っていましたが、今後は電気自動車の充電インフラ全体を盛り上げてくれそうです。

そんなわけで、ワークショップで気付いた、日本の電気自動車普及にとって「足りないモノ」……、それは、いろんな人がいろんな立場で、ユーザー目線で必要なはずの製品やサービスを具現化するアクションや努力じゃないか? と感じた次第です。

この記事は、きっと東光高岳や電気自動車関連のいろんなメーカー、企業の方が読んでくださるはず。読者のみなさんも、それぞれの「製品/サービスのアイデア」があれば、コメント欄で提案していただけると素敵です。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. 電力量従量制がベストとはいえ
    設備出力比例×時間かな
    既に3倍 高度化するとさらに拡大
    普通充電×コイン課金は防水と200V
    対応の改造位でしょう
    通勤駐車場なら1kwでゆっくりでも
    十分使える場面があります
    安くても課金充電が普通充電では
    欠かせません

    1. 七海さんへ:コインタイマーのメーカーサイトを発見しました、そちらも見て頂ければ参考になるでしょうか。
      http://www.toadenshi.co.jp/product/product_01.html
      仮に100V/10Aで充電するならば単体3万円前後で最大15Aに耐える機種を使えば受電能力が小さくてもokですよ。ただ屋外用が見つからず防水にはボックス必須ですが、それでも現状では安価。
      200Vへの対応は100/200V小型トランス(50VA程度)と電磁接触器(マグネットスイッチ)を間に入れればよく、当家のEVコンセントも同方式で100Vタイマーと連動してますよ(電気工事士ならすぐピンとくる手法)。
      さすがにテスラ車やリーフe+には微力となりますがPHEV/i-MiEV(M)程度[10kWh前後]なら必要充分やないですか!?注意点はあとで大電力対応できるよう2.6mm以上の太めの電線を使うべきであるってことで。

  2. > ファシリテーターの方の言葉が新鮮でした。日本で電気自動車普及がなかなか進まない、さらには日本そのものが陥っているのではないかと感じる袋小路を突破するための「心得」である気がします。

    これ、単に、一般的なブレインストーミングの原則だと思いますが……

  3. ほう、なかなか有意義な会議をされたようで…こちらはインフラ系電気屋(第一種電気工事士+電気主任技術者)です、今までなかなかない充電器を自身も考えました。
    1.普通充電器と中速充電器のセットシステムが少ない
     新電元には30kW急速1台+普通最大4台のシステム充電器があるが、東光高岳さんにないのが不思議でした…某ショッピングに東光高岳20kW+日東普通充電器の組み合わせはあったのですが、認証システムが複数あり製造コストのほか通信費など維持費用もかさむと思われたので。
    2.宿泊施設にコインカウンター式充電器がない
     コインカウンターはデパート屋上で100円を入れると数分間遊べた電動遊具についていたものです。
     それで100円を入れると50~60分間充電するようにするのです。コインタイマー自体一万円程度なので家庭用EV充電回路程度の出費で安価に設置できるのではないでしょうか!?もっともZESPや電動車両サポートなどのカードユーザーには抵抗あるかもしれませんが逆にカードなしの方が利用しやすいシステムにはなります。
    ※今はとにかく廉価で数多く設置することが求めらると判断し提案しました。シンプルイズベスト
    3.駐車場にソーラー発電所を設けてV2Hを複数設置!
     ソーラー発電所の悩みは天候変化による系統電力配線の電圧変動、方や駐車場の悩みは充電器の不足。この悩みを一石二鳥で解決する方策は駐車場に近いソーラー発電所へV2Hを連立設置してLAN等で有線通信しパワーコンディショナーと連系して電圧変動抑制と充電インフラの整備を兼ねれば電力屋の不安も解消できます。
     問題は計量法との整合や充電量の不安定化ですが、それでも巨大な蓄電池を設置できるという観点から見れば魅力を感じた発想の一つです。計量器がつけられなくとも通勤で使う車をソーラー発電付駐車場へ停めることで日中の電力需要の大きい時間帯の電力を増すない安くする方策としてはアリやないですか!?

    以上、実用性に疑問がありながらも3件提案させて頂きました。この発想はなかったと驚かれるかもしれませんが電気屋EV乗りとして奥深く検討した結果です(考案者はIQ150)。

    1. さて追伸を核としますか。
      1.人文科学的考察
       心理学より哲学が重要と考え、啓蒙も含めEVコンセント設置を将来あるべき姿をいろいろ考えるべし。あとは自身の電気屋的思考から短い配線を考慮、高圧受電設備やメイン分電盤から近い場所にEVコンセント等をつける散弾の研鑽も必要でしょう。
      2.社会学的考察
       当然EVコンセントを設けるにあたり社会地理の要素も鑑み充電器設置要望の高い地域やスポットも把握、その際は当EVsmartブログ等でも要望やアンケートなど情報を収集統計して適材適所を考えつつ増やすべきかと。
       あとは地域市民有志活動との連携も重要。幸い自身有志活動「おもちや病院」のリーダー格で地域の声収集実績はあるので方法など必要あらば質問ください。
      3.自然科学部門
       これはもう理工系知識フル動員で臨むのがベスト。電圧降下や鈿線の太さなど電気計算しつつ駐車場の条件も加味し最適な配置を心がけるべし。
      …ずいぶん偉そうに書きましたが過去の実績から対応可能と判断してます、あしからず。

  4. まずは、早急に従量制の課金システムにしないといけないと思います。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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