ガソリンスタンドでEV充電できるとどうなる? 『ENEOS Charge Plus』現地体感レポート

サービスステーションのネットワークを中心に電気自動車用の急速充電器を設置する『ENEOS Charge Plus』の経路充電サービスが始まっています。はたして、認証手順や使い心地などはどうなのか。敷地内にコンビニエンスストアも併設されている「浦和美園SS」で体感してきました。

ガソリンスタンドでEV充電できるとどうなる? 『ENEOS Charge Plus』現地体感レポート

洗車してから現地に行こうと思ったけれど

先日のインタビュー記事でサービスのポイントやEV事業のビジョンなどをお伝えした『ENEOS Charge Plus』。私もウェブサイトから会員登録してカードが送られてきましたが、まだこのサービスの急速充電器を使ったことがありませんでした。インタビューの取材アポイントと併せて、『ENEOS Charge Plus』のサービスを象徴するようなサービスステーション(SS)の現地で、実際に充電も試す取材撮影をENEOSのご担当者に相談し、2月下旬、さいたま市内のSSを取材することになりました。

訪ねたのはさいたま市内にある「浦和美園SS」です。いわゆる郊外型の大型SSで、敷地内にはセブンイレブンが併設されているとのこと。コンビニがあれば急速充電の待ち時間にちょっとした腹ごしらえをしたり、コーヒーブレイクもOKなので、そんなこんなを交えて撮影しようという算段でした。

浦和美園SS。急速充電器は給油するクルマの向こうに隠れた奥側に設置されています。

取材にはマイカーの30kWhリーフで行くことにしました。ただ、数日前に雨中を走ったままで、黒いボディにはこの時期特有の黄砂らしき汚れのまだら模様が目立っています。「写真も撮るから洗車していくか」と、いつもセルフ洗車する近所のSSに向かいかけたのですが……。「そうか、今日取材するのはSSじゃないか」と気がつきました。まして三軒茶屋(私の自宅)界隈の窮屈な場所ではなく、新たな都市開発が進む街の大型SS。きっと洗車機も使いやすいに違いないと予想したのです。

充電しながら洗車後の拭き上げするのがいい感じ

予想は的中。浦和美園SSのセルフ洗車機は出入りも楽々で、拭き上げ用のスペースなども広々とした使いやすい施設でした。

ENEOSご担当者との待ち合わせは午前10時でしたが、渋滞を警戒した首都高山手トンネルがスムーズに流れ、9時30分前には現地に到着してしまいました。充電器の取材を始める前に洗車してしまうことにして。「泡ブローワックスコース(1000円)」を選んで洗車機をドライブスルー。拭き上げ用の駐車枠が並んだコーナーへ移動します。

すると、まさに拭き上げ用駐車区画の端っこに、私は初対面となるENEOS Charge Plusの急速充電器が設置されているのです。これはもう「拭き上げしながら急速充電するしかないよね」というわけで。ご担当者の到着を待たず、充電を始めさせていただくことにしたのでした。

エンジン車からEVに乗り替えて顕著に変わるのが「ガソリンスタンドに行く機会が減る」ことです。エンジン車では洗車やエアチェックなどのメンテナンスは洗車ついでに行う方が多いでしょうが、EVでは洗車のためにスタンドへ「行かなきゃいけない」ことになります。

ドライブスルー洗車の後、ボディやガラス面の水滴を拭き上げる作業はエンジン車でもEVでも面倒に感じるもの(私の場合)ですが、急速充電する際に無駄になる待ち時間を活用して洗車の拭き上げをしていると、なんだか「EVならではの新たなカーライフ」を実感できて、うれしくなってしまったのでした。

このSSの洗車拭き上げ&急速充電コーナーには、コイン式の掃除機(バキュームクリーナー)や、無料で使えるエアチャージャーなども設置されていました。

充電&洗車などの使い勝手をリアルに感じられるSS

今までにも、ガソリンスタンドに設置された急速充電器は何度か取材したことがあります。そのたびに、「充電ついでに洗車や空気圧チェックができるといいですね」といったアイデアには思い当たっていました。でも、敷地が狭かったり、いまいちアイデアに乗ってきてくれない店員さんの表情とかに邪魔されて、リアルなEVカーライフとして確信するのは難しかったのが正直な気持ちでした。

でも、浦和美園SSの設備は素晴らしく、「そうか、こういうことなんだな」と実感することができたのです。ひとつのポイントは、余裕ある敷地だと思います。エンジン車のセルフ給油コーナーも使いやすそうでした。まるで「ここだけアメリカ」な印象で、セルフ給油機の代わりに、テスラスーパーチャージャーのような高出力急速充電器がズラリと並んでいてもマッチする感じです。日本の都市部ではなかなか困難ですが、豊かなモビリティサービスを具現化するには、「ゆったりした空間」が大事だなぁと感じます。

もうひとつが、サービス配置のパッケージングです。今回の急速充電コーナー周辺では、以下のようなサービスがまとめて利用できるようになっていました。

●ドライブスルー洗車
●洗車タオル(拭き上げ用区画)
●車内用掃除機
●タイヤ空気圧チェック
●コンビニエンスストア(ゴミ箱も設置)
●ENEOS Charge Plusの急速充電器(最大出力50kW)

端的にまとめると「洗車の拭き上げしながら急速充電器が使えてコンビニがあるSS」ということです。ひとつひとつはSSには普通に存在する施設やサービスですが、まとまって、使いやすく配置されているのはレアケース。少なくとも、私は今までこんなSSで急速充電したことはありませんでした。こういう「あったらいいな」を具現化したスポットが登場したのは素晴らしいこと。利便を実感することで、さらに新しいアイデアが生まれるような気もします。

さまざまなEVカーライフ拠点の登場にも期待

エンジン車の給油とEVの急速充電は似て非なるエクスペリエンスです。エネルギー補給にかかる時間はEVの急速充電のほうが長くなります。ただ、ガソリンは臭いけど、電気に臭いはありません。それぞれ一長一短ですが、例えば、「クルマと人が一緒にエネルギー補給することをコンテンツ化した施設」を具現化するならEVのほうが圧倒的にリアルです。

給油に比べて長い充電時間を、どのように過ごせる施設にするかというのは、今後、EVならではの施設や新サービスがヒットするためのキーポイントになることでしょう。

充電時間を充実させるアイデアでは、すでにさまざまな取り組みが始まっています。アウディは欧州を中心に都市型充電ステーション「Audi charging hub」設置の実証実験を進めており、2023年のアウディジャパン年頭会見では、欧州以外では世界で初めてとなるAudi charging hubを東京に設置することを発表しました。

そのアウディジャパンとの提携を発表したパワーエックスも、蓄電式EV用超急速充電器(最大出力150kW以上)による「パワーエックスチャージングステーション」を、2023年夏のサービスローンチに向けてまずは都内を中心に10カ所、さらに2030年までに日本国内7000カ所を開設していく目標を示しています。

デザイン性の高い充電器へのこだわりが特長的な充電サービス企業のプラゴでは、普通充電器と急速充電器をラインナップと予約可能な独自アプリ「Myプラゴ」で、都市部を中心にした「マイ充電ステーション」や、リゾート地などでEV充電と電動マイクロモビリティのシェアサービスなどを組み合わせた「プラゴプレイス」の構想を掲げてプロジェクトを進めています。

充電サービス企業のチャレンジだけではありません。「EVごはん」というウェブサイトとSNSによるコミュニティでは、「クルマも、おなかも、いっぱいに!」をキャッチフレーズとして、充電スポットに近いグルメスポット情報をシェアするムーブメントを拡げています。

浦和美園SSでの急速充電体験は、きっと「5年後にはEVならではの多彩なカーライフを楽しめるスポットがいろいろ誕生しているのだろう」と感じる時間になったのでした。

ENEOS、そして充電サービス各社、なにより、日本の自動車メーカーのさらなるチャレンジに期待しています。

使い勝手はシンプルで上々です

最後に、充電器の使い勝手は、シンプルで簡単でした。今回、ENEOS Charge Plusのカードで10分間、日産ZESP2認証で20分ほど、合計約30分の急速充電を行いました。ENEOS Charge Plusの都度利用料金は税込で495円。充電が終了すると通知メールが送られてきて、ウェブサイトの「お客様ページ」でも確認できます。

本当はそれぞれのカードで10分ずつ試すつもりだったのですが、ZESP2の充電中にENEOSのご担当者が約束の時間より早く駆け付けてくださって、話していたら20分になってしまった次第。都度利用料金をケチったわけではないのであしからず。

使用手順は充電器の液晶画面で案内してくれます。原則は、先にカード認証して、ENEOS Charge Plusカードの場合は「10分/20分/30分」から時間を選んで(ZESP2では時間選択の必要はなし)ケーブルを接続、充電をスタートします。急速充電に不慣れな方でも、画面の案内に従って進めればとくに戸惑うところはないかと思います。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)9件

  1. 郊外で広い駐車場が無いと、GSに充電設備ってのは無理。
    充電設備が、あのピョコっと出た部分だけだと思ってるのなら、もっての外です。
    電圧変換用の大型トランスが最低1台、それに付随する変電設備一式。
    更に変圧した交流を直流に変換する装置、それらの装置の末端にあのピョコがぶら下がってる状態。
    んで、それだけ設備しても、2台同時良いところ。
    4台同時となると、トランスはもう1台必要となる。
    この変電設備、普通のシャッター付駐車スペース1台分位は必要だし、郊外にそんだけの設備を設置して採算が取れるのか・・・

  2. ガソリンスタンドは24時間開いていることも多いので、充電中に遠慮することなくトイレが使えるというのも非常に重要で強みであり、ありがたいことだと思いました。他の簡易的な充電施設だと簡単には用意できないので。

    1. 24時間営業のガソリンスタンド内に設置されている場合でも、スタンドによっては夜間トイレを利用出来ない所も有るので、事前にトイレも24時間利用出来るか否か電話などで直接確認した方が確実です。

    1. EVjiiji さまへ
      私の車はミニキャブミーブバンですのでeMP系でも「三菱自動車電動車両サポート」の充電カードですが、以前利用した際には10/20/30分の選択画面が表示されていましたのでZESP3においても同様かと思います。

      ある意味では、ZESP3の10分刻みに対応することを一つの目的にしているのかもしれません(設定すれば勝手に終わるので)。

      ご参考になれば幸いです。

  3. かなりスペースが無いといけませんね。
    私が使っているENEOSは4台同時給油出来ますが、少し混んでいると路上で給油待ちになります。
    ガソリンや軽油の給油だと、せいぜい5〜10分待てば自分の番になるが、給電待ちだとそうはいかず、路上に長蛇の列が出来てしまうのでは?
    現状ではBEV車は少ないので大丈夫だと思いますが、自分の車の給電での30分は許せても、待ちの30分下手すると1時間は苦痛以外の何物でも無い。

    1. よほどの観光地にあるGSでもない限りガソリン車のように混むことはないと思いますよ。
      ガソリンを入れるには必ずGSに行かないといけませんが電気を入れるのに必ずしもGSに行く必要はないので。

  4. 群馬・栃木の南部でコスモ石油のガソリンスタンドを展開する企業でも、56kW×2の充電器を導入し始めています。よく通る国道沿いのGSに充電器が設置されたので、ZESP2認証で何度か利用しています。コンビニや売店は併設されていないのですが、自由に利用できるトイレがあるだけでとてもありがたいです。いつも食料持参で訪れて、昼食の時間を充電にあてています。

    「急速充電器を置いてもビジネスとして成り立たない」という話を聞くことがありますが、設置する企業側がビジネスとして成立させられるのであれば、今後エンジン車が減ってBEVが増えたとき、従来のGSによる充電の提供が自然な姿なのかもしれません。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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