元記事:Stranded Energy BY Jesse Roman on NATIONAL FIRE PROTECTION ASSOCIATION (NFPA) Website
※元記事のリンク先では、実際の事故などの関連写真が掲載されています。
Reprinted with permission from NFPA Journal®, January/February 2020 issue, copyright © 2020, National Fire Protection Association, Quincy, MA. All rights reserved. This article has been translated by Ayudante, Inc. and has not been reviewed by the NFPA.
衝突したモデルXのバッテリーが燃え上がる
2018年3月23日9時27分、カリフォルニアのマウンテン・ビューで朝のラッシュアワーが落ち着いてくる頃大きな事故が起こり、いつもは退屈な金曜の朝が大混乱に陥りました。
原因は不明ですが、時速70マイル(約113キロ)で高速101号線の直線を走っていたテスラのSUV・モデルXが突然左方向にドリフトし、出口車線と走行車線を分けるコンクリートの分離帯に衝突したのです。近くで見ていた人達が命の危険を冒しながら38歳の運転者を車に火が着く前に引きずり出しましたが、この怪我が原因で彼は病院で亡くなりました。
衝突事故の現場は複雑で危険なものとなりました。衝撃でフロント部分が車体から切り離され、1200ポンド(約544kg)、400ボルトのリチウムイオンバッテリーに亀裂が入り、充電済みのセルが路上に飛び散りました。マウンテン・ビューの消防隊が9時半過ぎに現場に到着する頃には、大きく損傷したバッテリーが1.5メートルの火を噴き出しており、隊員たちは機材の用意をして仕事に取りかかりました。
世界中の消防署の中で、この朝101号線で起こった事故に対応する機材が揃い、訓練され、準備が整っていたのはマウンテン・ビュー消防局だけでしょう。8万人が暮らすベイエリアはシリコンバレーの中心に位置し、テスラを含む大手テクノロジー会社が名を連ねる場所です。テスラの車両はこの近くで組み立てられており、社は定期的にマウンテン・ビューやその他地域の消防隊員を招いてEVバッテリー、高圧配線、緊急ループ切断(※フランク下にあるリング状ワイヤーの切断)などを、設計を担当したエンジニアが直接教えています。
テスラは地元消防局に緊急救出などの手順を練習できるように数百台の車両を寄付しており、マウンテン・ビューの消防隊員は十分な訓練を受けました。最新の研究によると、シリコンバレーの乗用車は、全国平均の倍近い10%近くがハイブリッドか純電気自動車です。マウンテン・ビュー消防局長のJuan Diaz氏は最近のインタビューで「テスラその他のEV衝突事故を、多く処理してきました。(事故の)報告を毎日聞いています」と話しました。
訓練通り、消防士達は燃え上がるバッテリーに直接大量の放水をし、数分で火を消しました。その後8分間再度炎が現れないことを確認してホースを閉じましたが、切断されたバッテリーはシューシュー、バチバチと音を立て続け、Diaz氏はその様子を「キッチンテーブルを手で殴りつけた」ようだと例えました。
感電を恐れてレッカー車も対処を拒否
消防士たちは車両フレームに電気が通っているのか分かるツールを持ち合わせておらず、状態を確かめられないため恐怖を感じていました。また充電済みのリチウムイオンセルを取り除く安全装備も持っていなかったため、不安定なバッテリー内に取り残された大量のエネルギーを放電することもできませんでした。さらにレッカー会社は感電を恐れて、音を立て続ける車を載せることを拒否したのです。消防士たちは次に取れる選択肢がほとんどない状態で、混雑した高速道路の真ん中にぼろぼろのEVと取り残されました。
テスラ車の中でも、モデルXのバッテリーは10以上のモジュールでできており、各モジュールは数百のセルから成り立っています。これらすべてのコンポーネントは長方形のメタルケースに整然と詰め込まれ、助手席下にシャシーと同じくらいの長さで配置されています。
満充電で75kWhの容量を持ちますが、これは平均的なアメリカ家庭の電気を2日半以上賄える電気量と大体同じで、人を即死させるには十分な量でもあります。穴が空いたり、破損したりすると、欠陥のできたバッテリーセル内で熱が急速に溜まり、周辺セルに次々と広がる、ある種カスケード反応のような熱暴走という状態が起こります。その結果が火災、アークフラッシュ、ガス放出、時には爆発、となるのです。この危険に直面して、マウンテン・ビューの消防士たちは、少ない選択肢の中からテスラに電話することを選びました。
事故から約2時間後、すぐ近くのテスラ本社から送られたエンジニア達が事故現場に到着しました。彼らは損傷を受けたバッテリーのセルを1つ1つ取り外し、バケツの水に入れるという骨の折れる作業を始めました。テスラ社員がむき出しになったバッテリーを取り除いて高圧配線を仕分ける間、消防士たちは再発火を防ぐために必要な水を供給していたのですが、この間6車線の101号線は6時間も閉鎖されたのです。
バッテリーの約4分の1が取り除かれたあと、サン・マテオの集積所に安全に移送できるとの確認が取れました。マウンテン・ビュー消防隊長を乗せた消防車は、32kmほどの移送をするレッカー車に付き添いました。走行中、車に残されたバッテリーの残骸は火花を散らし続けていました。
集積所では、バッテリーが到着してから24時間以内に2度再発火し、職員はサン・マテオの消防員に助けを求めなければなりませんでした。事故から6日後の木曜日、バッテリーはまた発火しました。 テスラのエンジニアは最終的に残りのバッテリーを車両から取り除き、大樽の塩水に漬けて放電させました。
その後、事故を担当した米国国家運輸安全委員会の調査員はDiaz氏に、このような究極の状況でバッテリー火災を適切に対処した消防局は、彼が見てきた中ではマウンテン・ビューが初めてだと話したそうです。事故車両の運転手以外に怪我人や物損は伝えられませんでした。
EVの事故に対処する研究と訓練が必要
そうは言っても世界中で起きているこのような衝突事故は、急速に進んでいると専門家の言うバッテリー・テクノロジーの潮流に対応する消防隊が、どれだけの準備をすれば良いのか、またそのような事故により何が引き起こされるのかという知識を私達が持っていない事をつまびらかにします。このテクノロジーはEVだけでなく、電力会社のスケールから個人宅のガレージでオンデマンド利用できる消費者サイズのものまで、あらゆる種類の蓄電システム(ESS)に使われます。
しかし現在、多くの消防隊が主に関心を寄せているのはEVに関連する危険です。路上を走るEVの数が劇的に増えれば、EVの衝突事故とそれに付随する困難も増えます。緊急対応の専門家は、より安全で効果的に、最も危険なEV事故に対処できるツールができるよう、今よりかなり多くの研究と訓練が必要だと話しています。
Diaz氏によると、今回の事故に対処したマウンテン・ビューの隊員は、1件のEV衝突事故のために7時間の業務に従事しましたが、内燃機関車で似たような事故が起きた場合、通常30~45分で終わらせることができるそうです。これからEV事故が増えた場合、「より多くのリソースがひとつの事故への対応に割かれ、他の緊急事態への影響が出ます」とDiaz氏は話しました。
似たようなバッテリー損傷事故が起きた際、シリコンバレー外の消防局には、人手不足に陥る以外にも無数の疑問が湧いています。中でも重要なのが、似たような究極の状態に直面して、近くのEVエンジニア達に助けを求められないとしたら、消防署はどうすれば良いのか、という点です。
事故から1カ月後の電話会議で、Diaz氏はNFPA職員たちに「この経験から、消防隊員たちはこの種の火災を鎮めるための訓練を完璧にはされていない、と言えます。テスラ社員が来なければ、バッテリーを燃えたまま高速道路上に放置したかもしれません。他に方法がなかったんです」と話しました。
事故処理の選択肢がほとんどない
マウンテン・ビューの消防隊員たちが直面した困難で主だったものは「取り残されたエネルギー(電気)」ですが、今回の記事のためにインタビューをした研究者によると、科学論文もほとんどなく、大いに見落とされがちなトピックだそうです。
取り残されたエネルギーとは、取り除くのに有効な手段がないまま電気エネルギーがバッテリーに取り残されている状態を指します。通常はバッテリーが損傷(力が加わる、冷却水漏れ、過熱、浸水)し、動作しなくなった際に起こります。またこの状態から熱暴走が引き起こされることもあります。反応の激しさと長さは、バッテリーが損傷した際にどの位のエネルギーが残されていたかにより、大きく左右されます。
Diaz氏は、マウンテン・ビューの衝突事故が「早朝に起こったので、ほぼ100%充電されていたと考えています。一週間後も発火する量のエネルギーが残っていたと考えて差し支えないでしょう。電気自動車の火災において、バッテリーのエネルギーがすべて放出されたと確認できるまでは、100%消火できたと言えないのです」と話しました。大量のエネルギーがバッテリーに残されていたとすれば、事故の後に聞かれた音の大きさも説明がつきます。明らかな熱暴走のサインです。
現在、損傷したバッテリーにどの位のエネルギーが残っているのか消防隊員が知る方法はなく、脅威を少なくするためにエネルギーを放出する術もありません。バッテリーメーカーの試験や新しいアプリケーションのサポートをする会社、『Electric Applications Incorporated』の創業者であるDon Karner氏は、バッテリー業界が熱暴走や取り残されたエネルギーの問題を解決するため、セーフガードの改善に動いていると話しました。しかし最上のテクノロジーをもってしても、多くのアプリケーションでより厳しい環境で使われるバッテリーには、ある程度のリスクが常に存在するとしています。
特にEVに使われるバッテリーに関しては、「完璧なものなどないです。バッテリーパックを時速120kmで路上に投げつけて、反対側から来るこれまた時速120kmのものにぶつけているんです。エラーが起こらない確率なんて相当小さいですよ」。自動車工学協会の取り残されたエネルギー委員会会長も務めるKarner氏は言います。「すべてが完璧にいくかなど、絶対に分かりません。ですからバッテリーに火がつくという、不測の事態に備える必要があるのです」。
マウンテン・ビューの事故に加え、最近似たような事故が世界中で起こっています。ニューハンプシャーからモスクワまで、ビルトインされたバッテリー安全装置は期待された通りには動きませんでした。それぞれの事故で、対応した人員は取り残されたエネルギーを損傷したバッテリーから取り除く手段も無く、廃棄の方法も限られた状態で、時間がかかり困難な後始末に追われました。
一般的には「水をかける」のが効果的だが……
NFPAのEV及びバッテリー緊急対応コースでは、熱暴走の状態にある損傷したバッテリーは水で冷やすのが一般的な対策だと教えています。防火研究所(Fire Protection Research Foundation:FPRF)の要請により行われたテスト火災の結果から、NFPAは消防隊員に大量の水を直接バッテリーケースに放出し、バッテリー内の化学反応から出る熱の兆候が無いか、定期的にサーマルカメラで確認することを推奨しています。
しかしEVバッテリーは通常、車台と座席の間に設置されているため、消防隊員はバッテリーに水をかけるのが不可能ではないにしても難しいと言います。フリーモント消防局の指令長で、テスラ車両への緊急対応の訓練を長年指導してきたCory Wilson氏は、そのような場合、隊員は車両の床に穴を空けてバッテリーが見えるようにしがちだが、この方法は危険で逆効果だと言います。「テスラのバッテリーは15の区画に分かれているので、区画間に穴を空け始めると火をより速く、遠くに広げてさらにダメージを与え、より多くのセルで熱暴走を起こす可能性があるのです」と彼は話しました。また「高圧線を切断(によって感電)したら即座に死んでしまいます」とも。
テスラの10万平方メートルにも及ぶ生産工場のホームであるフリーモントの消防局ではEV火災用の特別なジャッキを使い始め、車両の片側を持ち上げて消防士がバッテリー近くの車台に水をかけられるようにしました。「車両の床そのものも水に浸し、バッテリーを上部から冷やせるようにもします。しかし必ずしも直接バッテリーに水をかけているわけではありません。周辺を冷やしているだけです」 とWilson氏は話しました。
FPRFの研究プロジェクト・マネージャーであるVictoria Hutchison氏によると、熱暴走を止める可能性がある他の方法としては化学反応を起こすエネルギーをバッテリーから放出することですが、言うのは簡単でも実行するのは難しいということです。多くのメーカーが放電するために行う一般的な方法は、損傷したバッテリーを気泡が出なくなるまで何日も塩水に漬け、バッテリー内部の化学反応が無くなるのを確認するというものです。この方法は技術的な専門知識に欠ける高速道路上の消防隊員にとって理想的ではない一方で、様々な対処法が試されていない中、彼らはクリエイティブになることを余儀なくされます。
オランダでは車ごと水に浸ける
オランダでは消防隊員がレッカー車を使って、バッテリーが損傷したEV事故現場に大きなコンテナを運びます。コンテナには水が貯められており、小さなクレーンで車両を持ち上げてその中に浸し、集積所まで安全に運ぶことができます。欧州では脱線した電車を処理するために多くの消防署ではしご車を小さなクレーン車に改造しており、この方法がよく見られるようになってきたと、Wilson氏はオランダのEV会議で最近発言しました。
「再発火するのを恐れながら長い間待つ必要はありません。コンテナをレッカー車に積んで、集積所に運べば良いんです。しかしアメリカの消防署にはクレーン車が無いので、私達には難しいですね。実現できるようには見えません」(Wilson氏)
Diaz氏は将来、移動可能なタンクに入れた水に車両を投げ入れなくても、プラグイン車両に繋いでバッテリーからエネルギーを取り除くことのできるツールを消防が備えると予測しています。危険物処理班が現在タンクからガソリンを取り除く訓練を受けているように、バッテリーからエネルギーを取り出せるEV専門チームが出てくると考えているのです。
Hutchison氏によると放電ツールは今も存在しているのですが、そのほとんどが各メーカー専用な上に、バッテリーに損傷がない場合のみ作動するそうで、高速道路上で裂けたバッテリーには使えません。独立系メーカーも、どのバッテリーにも使えるユニバーサル設計の放電ツールを開発しましたが、これもバッテリーに致命的な損傷がない場合でないと使えません。
Karner氏は、衝突事故現場で消防隊員が損傷したバッテリーに使える放電ツールが出てくることに懐疑的です。その技術は理論的には存在しますが、実現可能性に疑問の余地があるのです。
「放電は数秒では終わりません。数分でもないでしょう。1時間以上であり、数時間の話なんです。それに加えて、課題は次々に出てきます。放電が必要なレベルで損傷がひどいと、どうやって判定するのでしょう。バッテリーは破壊されますが、そうしたら保険会社が介入してきます。誰がその訓練を受けますか。行う場所は交差点、それとも私有地にある脇道ですか。個人的には、所定の方法で処理できる場所まで、用心しながら車両を動かすのが良いと思いますがね」(Karner氏)
Wilson氏は放電ができないとしても、どの位のエネルギーが損傷したバッテリーに取り残されているのか分かれば、消防員もどのようなリスクがあるのかや、安全に運ぶことができるのか分かるため、非常に役立つと言います。「しかし現場に行ってバッテリーパックにどのレベルの充電が残っているのか知るすべはありません」。
Hutchinson氏は、これでは取り扱う危険がどのようなものなのか、消防員、レッカー車のドライバー、集積所の所有者が分からないままになると指摘しました。彼女はこの状況を「リスク移動のカスケード効果」と呼び、誰もどの位のリスクがあるのか分からないまま、潜在的に致死性のあるエネルギーソースを手渡ししている状態だとしています。
「取り残されたエネルギー」を測定するのは困難
この問題の解決策も現れてはいないようです。Hutchinson氏によると、最上の設備を備えた研究室でも、損傷したバッテリーにどの位のエネルギーが残っているのか測定するのはいまだに困難だそうです。彼女はバッテリーがゴミくずのように見えるところまで完全に燃え落ちた数時間後、研究者がポールで残骸を触ったところ火花が出たことを話しています。「この人達は、バッテリーのテストを多くやったプロで、エネルギーが残っていないと自信を持っていました。でも間違ったのです」。
車が集積所に移送される際も困難が続きます。トリックキャンドルのようにリチウムイオン電池は兆候を見せずに再発火する傾向があるため、NFPAは損傷したバッテリーを積んだEVを、他の車両や建物から最低50フィート(15メートル)離して保管するよう推奨しています。空間に制限のある都市部では、これは「不可能ではないとしても難しい」とHutchinson氏は話しました。しかしこれが現状で唯一の安全な対策なのです。
Karner氏はEVが急増するに従って事故が増え、損傷したEV用バッテリーを収容して放電するための最新式サードパーティ施設が出てくると信じています。それまでは、消防署とスクラップ回収所の職員が各々の解決策を出してくることでしょう。マウンテン・ビューで起こったテスラの衝突事故と一連の再発火からすぐ、Diaz氏は署内の消防士向けに新しい戦略を細かく記したメモを出しました。レッカーして収容する場に着いたら、消防士は損傷したEVの周りにダムを作り、再発火を防ぐために車を水に浸して3日間はそのままにすること、というものです。「バッテリーは水に漬かってもなお熱暴走を起こし続けますが、誰も近づけさせずに水に浸しておけば、水の冷却効果により再発火は起こりません」とDiaz氏のメモには書かれてありました。
この先の道
世界で急激なEV数の増加が起ころうとしている今、激しいEV衝突事故に対処する実行可能な戦略はすぐに必要とされているのかもしれません。
国際エネルギー機関によると、2年前のEVの台数は、世界で310万台でした。2030年までに、その数は1億3,000万台になると予想されています。投資銀行のJPモルガンは2025年までに世界で売られる車両の3分の1はハイブリッドか電気自動車になると予測しており、自動車時代の幕開けから90%以上のシェアを占めてきた純内燃機関車両の割合は急激に減って、2025年までに70%、2030年までに40%になると見ています。
リチウムイオンバッテリーの生産量も、似たような軌道を辿ると見られます。LG経済研究院は2017年から2022年の間に充電可能なリチウムイオンバッテリーの数は8倍になり、設置率も55%増加すると予測しました。
しかし、取り残されるエネルギーの問題は今までにないもので、バッテリー業界の外では緊急対応に従事する人達を含め、どのような困難が待ち受けているのか知られていないのが現状です。また、取り残されるエネルギーの包括的な研究もほとんどないのですが、これはもうすぐ変わるかもしれません。このトピックに関する大きなプロジェクトが、少なくとも3つ完了しようとしています。
これらの研究が、新しいバッテリーや車両の開発基準に関する情報と、それに対応する人員への訓練プログラムを提供することになるでしょう。2012年から、NFPAはベストな実践法、ツール、事故を安全に処理するのに必要な知識をカバーする、代替燃料車両用の安全訓練をオンラインでファースト、セカンドレスポンダー用に提供しています。NFPAが現在の情報を元に出した試算によると、米国全土に110万人いる消防隊員のうち、約25万人がこの訓練を受けており、情報はさらにアップデートされていくようです。
緊急対応の報告書
昨春、ジョージア州コビントンにある空の駐車場で、NFPA、カリフォルニア州森林保護防火局、テスラ、そしてアドバンスト・エクストラクションという会社がテスラ車両を燃やすイベントに参加しました。この場は消防隊員の訓練と、研究者が新しい知見を得るのに良い機会となりました。NFPAのEV訓練プログラムのマネージャーによると、来年にはこの火災で得られた観察結果からアップデートされたプログラムが見られるようになるそうです。
新しいプログラムには、フリーモントで車両を横倒しにし、バッテリー下部を露わにして水をかけるという方法も有効だと、実際の訓練で確認されたという情報も含まれています。他の情報としては、ジョージアで燃やしたような新し目のEVのバッテリーを完全に消火するのに必要な水量は、従来推奨されていたよりも多くなる可能性があるともKlock氏は話しました。古い世代のテスラ車に搭載されたバッテリーの容量は最高で75kWhですが、市場に出ている新しい車両には100kWhのオプションもあり、その場合1度の充電で約580km走ることができます。
Klock氏は言います。「さらにエネルギーが増えたこれらのバッテリーでは、火を確実に消すために必要な水量が、前のテストよりも増えていることが分かりました」。現在の訓練内容、緊急フィールド・ガイド、緊急応答ガイド、浸水したEVへの対応など特定のシナリオ用の安全に関する報告書は、evsafetytraining.org で見られます。
EVメーカーはさらにパワーのあるバッテリーを作り上げるのに加え、ファーストレスポンダーを念頭に車両設計もアップデートしてきました。しかしこのエリアにはさらなる改良が必要です。今あるほとんどのEVモデルには、衝突が起こった時にメインのバッテリーから車両への出力を切ることができる、緊急カットループが付いています。
Wilson氏は「モデルによってカットループの位置が違っているが、標準化することで対応する人にとっては大いに助けになる」と話します。車両が電気もしくはハイブリッドであることを素早く認識されるよう、3面のバッジで表示するのもよく見られるようになってきましたが、これも標準化されていません。さらに、すべてのEV内にある高圧線はオレンジに塗られて触らないように警告されていますが、ほとんどのメーカーは緊急対応ガイドを出しており、その中にカットスイッチや高圧線の位置詳細、その他重要な情報を載せています。
少なくともあるEVメーカーは最近大きな設計変更をし、消防隊員がホースでバッテリーにアクセスできるようにしました。消防員とともに多くの試験を繰り返し、フランスの自動車メーカーであるルノーは、シャシー側とバッテリー側に相対する2つの熱感知パネルを取り付けた、「消防アクセス」を車に備えました。火災が起こるとパネルは溶け、下部に設置されたバッテリーへ直接アクセスできるようにしてくれます。
現代社会においてバッテリーを見る機会はますます増えていきます。ファーストレスポンダーや自動車セクターだけではなく、取り残されたエネルギーによる影響を受ける多くの産業も、現在行われている研究とそこから出てくるイノベーションやスタンダードから情報を得られるようになることを専門家は願っています。Karner氏はNFPAや自動車工学協会のような安全性専門機関 とメーカーが、この問題に取り組む準備ができていると確信しています。「問題の大きさは圧倒的に見えますが、各機関を巻き込みながら段階を踏んでいけば、良い技術的なソリューションに辿り着けることに疑いの余地はありません」。
Diaz氏にとって、電気自動車と蓄電システムは永遠に終わらない消防サービスサイクルの中で次に出てきただけのものです。技術革新が起これば新しい困難が生まれますが、最終的には対応されて克服できるものです。彼の署はこの難題を多く扱っており、他のどの消防署よりもよく理解しています。
彼は「消防サービスが現代に追いついている最中というだけです。1970年代と80年代にコンピューターと半導体産業がそうだったようにね」と言います。「私達はイノベーションの最中に生きています。私の住む市では今、自動運転車がそこら中を走っていますし、そのテクノロジーは受け入れられています。みな反対していませんし、この場所にいることをエキサイティングだと思っています。でも困難はあるものなんです」。
(翻訳・文/杉田 明子)
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【EVsmartブログの関連記事】
●電気自動車の事故や水没、感電するの?(2018年7月11日)※各社レスキューマニュアルへのリンクあり
●電気自動車はガソリン車に比べて火災を起こしやすいのか?(2018年12月21日)
●電気自動車火災はどれだけ危険?~トンネルでの実験レポート~(2020年10月10日)
いつも興味深く拝読させていただいています。
>1件のEV衝突事故のために7時間の業務に従事しましたが、内燃機関車で似たような事故が起きた場合、通常30~45分で終わらせることができるそうです。
>すべてのEV内にある高圧線はオレンジに塗られて触らないように警告されていますが、ほとんどのメーカーは緊急対応ガイドを出しており、その中にカットスイッチや高圧線の位置詳細、その他重要な情報を載せています。
欧州ではISOに準拠し、緊急対応ガイドの標準化が進んでいるようです。
一方、日本では今年2月に総務省消防庁から「令和2年度救助技術の高度化等検討会報告書」が発行されました。概要は、各消防本部への実態調査、次世代自動車による事故等に係るマニュアルの整備状況や訓練の実施状況等の現状、次世代自動車による事故等に対する活動上の注意点や体制等について整理、事象別の活動要領、安全対策等の検討です。
この検討会の中で座長さんが「メーカーとしては次世代自動車に対するリスクとして何を考えて、どんなことをしているのかを整理して教えてほしい。」と発言されています。非常にセンシティブな問題かもしれませんが、人命にかかわる問題ですので、メーカーさんには積極的な情報開示と、このような活動への参画をお願いしたいものです。
個人的印象ですが、この検討会/報告書から救助現場の方の苦悩が分かり、また、最大限の努力をして救助しようという決意がみられ感謝しかありません。
既に進んでいるかもしれませんが、自工会が音頭を取って、日本のみならず世界中の電動車にある懸念事項に対し、事故時の安全性を含めた標準化を進めて頂いて、事故の際の電動車であるハンディを無くして頂きたいと願います。
電動車の推進、それに伴うバッテリー供給、インフラの整備なども結構ですが、今回のような問題にも注目し、「やっぱり電気自動車は火災のリスクが高いのか」などの誤解(であってほしいのですが…)を解く必要があると思います。
これから多くの充電車両が発売されていく中、緊急時の対応についてメーカー横断した共通の規格が確立されると有り難いです。
その前段階としては
車両メーカーがその対応マニュアル等を警察消防に提供することが不可欠だと思います。
一刻を争う場面で、あちらこちらに対応を確認している余裕はないでしょうし、車である以上事故は避けられないので車両の安全性確保とともに駆動用バッテリー関連の二重三重の対策が必要だと思います。
cakar1m様、コメントありがとうございます。
レスキューマニュアルは、各社実は出していたりします。全部調べたことはないのですが、今度一覧にしてみたいと思います。
https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/in-case-of-accident/
※記事の中頃に表があります。
安川さま、レスキューマニュアルの件ありがとうございます。
先日ドイツのモーターショーに出展されたルノーのメガーヌ(発売は来年の予定)ですが、
車両にQRコードがあり、そこから対応方法を確認できるようになっているようです。
一刻を争う場合には現場ですぐ確認できる策が必要ですがこのようなものが他のメーカーにも採用されると事故後の対応がより迅速、確実なものになるのではないかと期待しています。
これ消防設備士として気になる記事ですがな。そもそも家庭用蓄電池の設置上限が17.76kWhに制限されてるんも消防法の4800Ahまで規定から。ただし舟車は除くとあるから日産リーフは24kWh載せても問題ない訳で。
個人的には蓄電池の不燃化が課題やないかー!?思いますー。既に東芝がSCiBで難燃性を成立させてますけど、その東芝が更に水系リチウムイオン電池を開発中とのこと。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E7%B3%BB%E3%83%AA%E3%83%81%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E9%9B%BB%E6%B1%A0
そもそもチタン酸リチウム自体、電気化学的に電位+1.5Vあり充電中に水の電気分解を起こさないことが知られてます。当然容量密度は低いですが(SCiBが典型例)そのおかげで有機溶媒を使わずとも電池が成立するメカニズム。水系リチウムイオン電池が進化し「燃えない電池」として不燃性の扱いを受ければ電池容量制限がなくなることも予想できます。
そういう火災防止の観点も消防設備士として把握してたから僕はi-MiEV(M)を選択したw電気と消防のエキスパートがEVを買うときは電池の素材が気になりますねぇ。
消防庁が規制を緩和しない限り日本ではチタン酸化物の電池が幅を利かせるんやないですか!?しらんけど。
リーフを生み出した日本でもあるけど、消防庁としては、記事と同様の検討、もしくは消化実験は実施しているんだろうか?
規制や事業者に求める設備検討はしているようだけど、実際の消化においての検討が気になる。