電気自動車用バッテリー企業『ノースボルト』社CEOインタビュー【パート3】~低排出の優位性、プロダクトミックスと製品戦略~

スウェーデンのバッテリー・スタートアップ企業であり、強豪でもあるノースボルトのCEO、ピーター・カールソン氏への『CleanTechnica』インタビュー記事。シリーズ最後のパート3では、ノースボルトの低排出工業へのアプローチ、プロダクトミックスと戦略的ポジショニングについて聞いていきます。

電気自動車用バッテリー企業『ノースボルト』社CEOインタビュー【パート3】~低排出の優位性、プロダクトミックスと製品戦略~

なお、インタビューの内容は分かりやすいように少し編集してあります。

元記事:CleanTechnica Interview with Peter Carlsson, CEO of Northvolt: Part Three — Low-Carbon Advantage, Product Mix & Strategy by Dr. Maximilian Holland on 『CleanTehnica

【シリーズ記事】
欧州の電気自動車用バッテリー企業『ノースボルト』社ピーター・カールソンCEOインタビュー【パート1】(2020年7月24日)
電気自動車用バッテリー企業『ノースボルト』社CEOインタビュー【パート2】~EV市場の成長と水力発電~(2020年8月3日)
『CleanTechnica』によるインタビュー音声のアーカイブページ

ノースボルトCEOのピーター・カールソン氏

低排出なセルやバッテリー生産

CleanTechnicaおよびマックス・ホランド氏からの質問(※以下【Q】) さて、低排出の部分に関してですが。ノースボルトが本格稼働を始める際には、水力発電の供給と原料のリサイクル両方で、ノースボルトの製品に『低排出』のラベルを付けることになりますね。純電気自動車が内燃機関車よりも環境にプラスであることを私達は信じていますが、ノースボルトは『低排出』を実際のセルやバッテリー生産において上乗せするわけです。

また、私は2023年に車がライフサイクルの排出量で評価されるべきか決定する欧州委員会の観点でも考えています。今のところ規制は走行時の排出にしか適用されていません。

ノースボルトの低排出アプローチは、バッテリーをできる限りグリーンな方法で作ろうという、次に来る文化的な流れの先を行くものと考えていますか? 顧客と末端消費者が “今現在” 持っている価値観なのか、それとも “将来” 重要になるものなのでしょうか?

ピーター・クラークソン氏の回答(以下【A】) 私達に強く関係してくるトレンドが現在2つあると考えています。

1つ目に、自動車産業、特にディーゼルゲート事件と、そこから生まれた顧客の不信感に関わった企業がこの変化を先導しています。彼らはバッテリーが良いものか悪いものか、またバッテリーがどのように生産されるのか、という新たに生まれる疑念を持たれながら変化の中に飛び込みたくはないのです。また電気自動車が燃費の良い内燃機関車よりも環境に良いのか、という疑念もです。

よって、彼らは非常に強力なサステナビリティ戦略を行っています。過去2年でその動きがさらに強まったと私は見ていますが、これから全体戦略の中でもさらに重要な部分になっていきますし、消費者の間でもその意識が高まっていくと考えています。

他には、この地球温暖化と二酸化炭素削減の時代に、企業には今よりもっと透明性が求められると考えています。排出量の全体記録を見せられる透明性です。今、これが始まったばかりだと思います。変化を可能にし、自動車や他の産業の電動化を助け、最も持続可能な道だと思える設計図を使ってビジネスを始める…… 確実に良いスタートに立てていると思います。

それから使用可能な原料を作り出すための垂直統合には、追加投資が必要になります。工場の立ち上げには今までにない複雑さが加わります。しかし一度方法を確立すれば、他企業よりももっと良い方法でリサイクルができるようになります。コバルトやニッケルなどのリサイクルされた原料を前駆体の煆焼(かしょう=鉱物熱処理プロセスのひとつ)プロセスに入れ直し、完全循環型のフローにできるからです。

よって非常に良い設計図を作れたと考えています。そして特に巨大なエネルギーを必要とする産業にとって、サステナビリティの重要性に関する機運はどんどん高まるでしょう。

バッテリー・ソリューションと垂直統合

【Q】 まず始めに、セルの生産に集中する計画を立てていましたね。それから顧客や出資者のニーズをさらに聞いた結果、バッテリーパック全体のデザインやBMS(バッテリーマネージメントシステム)などの分野をノースボルトが取り扱うよう求められていることが分かりました。そしてあなたは今これらの製品がビジネスで大きな部分を占めるようになると考え、ポーランドのグダニスクにそのための工場を建てていますね。

ただ少なくともあなたの顧客は、利用法が違えばソリューションも変わってくるので、バッテリーパックのデザインをある程度自分達でコントロールしたがると思うんです。付加価値をどのように考えていますか?また、自分自身のフォーカスと、セルやパックなどの(顧客向け)サービスに関してどのようにバランスを取りますか?

【A】 この事業に取り組むにあたり、いくつかの産業を回ってみたのです。当然自動車、それから他のところにも行き、「このような提案があるのですが…… バッテリーを買いませんか?」と聞いてみたのです。基本的には全員が「もちろん、バッテリーが欲しいです!」と言ったのですが、”バッテリーを買う” の意味合いがそれぞれまったく違っていました。

電力会社が買いたいバッテリーは、電力網に組み込むことが可能な、プラグ・アンド・プレイのバッテリー・システム・ソリューションでした。

その一方、自動車会社の場合、そのほとんどで彼らが欲しいと想定しているのは「セル」でした。

よって特定の垂直統合に自分達が入り込みたければ、自然とバッテリー・マネージメント・システムや冷却等いくつかのコントロール機能を付け加えてソリューションを売る必要があったのです。垂直統合ができなければ、彼らは私達との交渉に興味はありませんでした。そういう訳で、産業サイド、蓄電サイドの道筋は非常に明確に見えました。パワー・ツールやe-バイクなどのポータブルビジネスを、企業は自らの統合体制でやりたがっているのです。

自動車産業内では現在、ベストなサプライ・チェーンを見極めようとする動きがあります。企業によってバッテリーのパッケージ全て、もしくはモジュール、セルだけなど欲しいものが違います。

さらにセルからパックレベルまでのコストをどのように下げられるのか、またパック、モジュール、セルという層を減らすことができるのかなど、構造分析も必用です。

中間業者になることが非常に難しいと私が考える自動車産業では特に、興味深い開発が進んでいます。セル開発をやってモジュールの組み立てもやるか、末端消費者になるか、電池パックをやってモジュールもやるか、の選択です。

時間が経つにつれ、垂直統合をするには非常に狭いスペースしかなくなると思います。個人的なスペースの感覚ですが。

【Q】 ちょっと遮って申し訳ないのですが、興味がありまして…… ヨーロッパの自動車メーカーについてもう少し話をしてもらえますか? 具体的な名前を挙げる必要はありませんが、バッテリーのセルや化学など、設計部分に彼らはどこまで踏み込みたいと考えていますか?

【A】 セルの設計周りの学習・構築については非常に興味を示しています。適切なスペックのセルを作るのを目的としているのがほとんどのケースです。ミュンヘンの自動車会社は強力な化学部門をもち、自社開発をしています。他にもヴォルフスブルクで大手自動車会社がプロトタイプ生産ラインを作り上げています。業界がバッテリーについて深く知りたがっているのが見えます。

また私達が見ていないのが、自動車会社によるセル生産単体へ多くのお金を費やすことです。これには2つの理由があると思われます。

1つ目にセル生産には巨額の投資が必要になります。自動車会社がこれから経験する変化には、いずれにせよ巨額の投資が必要になるのです。研究開発、新しいプラットフォーム、自動運転、新しいソフトウェアなどです。それに加えて自前のセル生産を始めるとなると…… それをやる会社はほんの少しです。

しかしバッテリー生産へのアプローチは、例えばフォルクスワーゲンが私達とジョイント・ベンチャーを立ち上げて開発をともにしようとしているレベルまでやるのか、または単に(独立を保ちながら)関係を強くするのかで違ってきます。

パートナーシップをどう築くのか、設計をどうするのか、どう開発するのか、サプライ・チェーンをどう構築するのかなどの戦略的アプローチをさらに見ていくことになります。そして “これはただの購入プロセスなのか?”、”これはより強固に統合されたパートナーシップなのか?” などの疑問、またはジョイント・ベンチャーの設立など、多様な哲学が出てくるのです。これに関してはそのうち多くの面白いグループができあがると考えています。

【Q】 インタビューの時間があと数分しか残っていません。手早く答えられる質問をいくつかしても良いでしょうか。

蓄電製品に関しては、ノースボルトが生産して、パートナーのVattenfallVestasABBなどが電力網に関する部分を手掛け、裁定取引をするのでしょうか? それともノースボルトが直接蓄電製品の電力網部分に関わるのでしょうか?

【A】 私達の目標は、電力会社や垂直統合をやる企業に良い製品の提案・開発をすることで、その理由は2つあります。電力網については既にサービスを担う巨大企業があること、またこれから数年で規模を拡大しようとしている私達には、工場を作るために巨額の資金が必要となるのです。蓄電製品の架設に資金を使うのはかなりアプローチの範囲を広げることになるので、現段階ではそこに手を付けないでいます。

【Q】 理にかなっていますね。私はノースボルトとScaniaの大型車両用パートナーシップに興味があるのですが。アメリカでは現在、ニコラ・モーターと社の水素燃料電池トラックに期待が高まっています。あなたも知っていますよね。Scaniaとのパートナーシップにおける、タイムラインとバッテリー供給についてどう考えていますか。

【A】 都市部では配達と交通に関して急激な需要の変化が起きると考えています。トラックとバスを作る、ある大手メーカーに属する人物が彼の考えを教えてくれたのですが、2年以内にヨーロッパで売られる50%のゴミ収集車が電気になると言うのです。

よって、市内デリバリー、市内交通、市内サービスは電動化に強く押されると思います。残念ですが、Scaniaを含め、ほとんど(の燃料電池企業)がこの大きな波を対処できる規模やインフラという意味で準備ができていないと思います。

それから、サイクル寿命、エネルギー密度、充電・放電など、セルのパフォーマンスがどんどん良くなりますので、多くのアプリケーションが出てくるでしょう。

燃料電池とバッテリーの競争からは今は距離を置いておきます。これから10年でバッテリー業界だけでも凄まじい需要が出現すると思いますが、例えば燃料電池などがこの需要を緩和できれば、それは有益なことだと考えています。

バッテリー化学

【Q】 ノースボルトのバッテリー化学について短く質問をさせてください。ノースボルトのCOOである Paolo Cerruti氏が、社は手始めにニッケル・コバルト・マンガン正極にフォーカスする計画をしていると発言していました。最近中国ではリン酸鉄リチウムが再評価されているようで、テスラもCATLのリン酸鉄リチウムを使っています。

あなたは採掘会社とかなり密接なサプライ・チェーン関係を築こうとしているようですが、バッテリー化学については中・長期で進化するので、柔軟な姿勢を保ちたいのではないかと推察します。強固な採掘会社との契約と、開発中の化学部門の2つを、どのようにバランスを取っていきますか?

【A】 とても良い質問ですね。現在私達は2つのことにフォーカスしています。1つ目に、大きく時間を割いているのが、製品に組み込む活性物質の第1、第2世代です。第1世代が2022~2023年、第2世代が2024~2025年になります。これらは高配合のニッケルをベースにしており、負極にはシリコンのドーピングが増えていきます。

もう少し長期の視点では、どうやって1,000Wh/L(※ Wh/Lは体積エネルギー密度の単位)まで持っていくか、というのが課題です(ちなみに現在、最先端のセルで600~700Wh/Lになります)。しかし化学(の定義)が変化する可能性が高いと考えています。

今やろうとしているのは、この変化に柔軟であることです。理由として、私達は長い歴史を持っていないので、パートナーシップを結んだり、独自開発をしたりと、多様な道を選ぶことができます。「リチウム硫黄なのか、固体なのか」等の話題は難しいものになります。

よって今はいつでも動けるように体制を取っているところです。調査・判断をしている最中です。はっきり分かっているのは、パイロット版の評価とパフォーマンスから大規模なアプリケーションに移行するのは、この業界が予想するよりも相当長くかかるということです。とても良い化学の実験結果を次数年で見出しても、製品に落とし込み、工業生産レベルに拡大するには何年もかかるのです。

しかしエキサイティングでもあります。この業界でここまで多額の資金が研究開発に割り当てられた前例はなく、参加するのに非常にエキサイティングな分野です。

【Q】 意見と情報をありがとうございました。これからも話をし続けなければなりませんね、もっと多くのことについて議論をしたいです。

【A】 ありがとうございました。

(翻訳・文/杉田 明子)

編集部注

3回のシリーズでお届けする、ウェブメディアとしては長大なインタビュー企画となりました。内容にかなり専門的な部分もあり、一般の自動車、電気自動車ユーザーにとっては理解しにくい点が多いかとも思います。

でも、これからの世界の電気自動車シフトや、そのために電池が果たす役割、脱炭素化への世界の潮流などについて、とても大切なことが語られています。

ことに、日本の自動車産業の関係者のみなさまに、ぜひご一読いただきたいインタビューでした。

【シリーズ記事】
欧州の電気自動車用バッテリー企業『ノースボルト』社ピーター・カールソンCEOインタビュー【パート1】(2020年7月24日)
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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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