BYDとトヨタが「電気自動車の合弁会社設立」で時代はどう動くのか?

2019年11月7日、比亜迪股份有限公司(BYD)とトヨタ自動車株式会社が、電気自動車の研究開発会社設立に向けた合弁契約を締結したことが発表されました。BYDは1995年に電池事業で創業した企業で、現在ではEVとPHEVの販売台数で世界のトップを走っています。この合弁が、日本での電気自動車普及にどんな意味をもつのか考察してみます。

BYDとトヨタが「電気自動車の合弁会社設立」で時代はどう動くのか?

※冒頭写真は6月7日の説明会でプレゼンテーションをする寺師茂樹副社長(YouTubeより)

BYDはEVにおける世界のトップカンパニー

トヨタ自動車は、11月7日にBYDとトヨタは電気自動車の研究開発会社設立に向けた合弁契約を締結。それぞれ50%ずつ出資して、電気自動車とそのプラットフォーム、関連部品の設計・開発などを加速させていくことを発表しました。

BYD高級副総裁の廉玉波氏は「BYDの“EV市場での競争力”“開発力”とトヨタの“品質”“安全”というそれぞれの会社が持つ強みを融合することで、市場のニーズに合致した、お客様に喜んでいただける電気自動車のなるべく早いタイミングでの提供を目指す」とコメント。トヨタ副社長の寺師茂樹氏は「電動化推進という共通の目標に対し、競合関係の枠を超えた“仲間”ができ、非常にうれしく思う。BYDとの新会社での事業を通じ、両社のさらなる発展・進化を目指したい」とコメントしています。

BYDは、1995年に電池事業で創業し、2008年には世界で初めてプラグインハイブリッド車(PHV)の販売を開始。2015年以降、EVとPHVを合わせた販売実績で4年連続で世界トップを走っています。日本国内でも乗用車は未導入ながら、BYD製の電気バスは各地で導入されており、2020年春には日本市場のニーズに応えて開発された『J6(ジェイシックス)』というモデルを発売することを発表しています。日本ではまだあまり馴染みがない会社ではありますが、BYDはEVにおいてすでに世界のトップ企業といえる地位を築いています。

BYD Delivering the Worlds Largest Electric Bus Fleet

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今回の発表では、両社による合弁会社を来年(2020年)中に設立を目指すとしています。具体的な新型車種発売の日程などについては今回の発表では言及されていませんが、トヨタとBYDの電気自動車共同開発合意については2019年7月に発表されており、その中でトヨタは「2020年代前半にトヨタブランドでの中国市場導入を目指して、セダンおよび低床SUVタイプのEVの開発とその車両などに搭載する電池の開発を進めて」いくとしています。

トヨタにはどんなメリットがあるのか

BYDが大手自動車メーカーと連携するのは、トヨタが初めてではありません。2010年にはドイツのダイムラーと技術提携を発表して合弁会社を設立。すでに電気SUVなどの車種を発売しています。BYDは世界トップ3の一画を占めるEV用リチウムイオン電池を供給するメーカーでもあります。トヨタとの合弁契約は、BYDにとって電池の大口顧客を固め、自動車開発のノウハウを拡げる手段のひとつでしかないという見方もできそうです。

2015 Daimler-BYD Denza EV electric car

はたして、BYDとの合弁でトヨタにはどんなメリットがあるのでしょうか。

中国国内の新エネルギー車規制への対応

そもそも、出遅れていた中国市場でのシェア拡大はトヨタの大きな課題でした。2018年には中国国内での販売台数を大きく伸ばしたものの、それまで4%台だったシェアが5%台になった程度です。さらに販売台数を増やしたいところですが、中国では自動車メーカーに対して一定の割合で新エネルギー車の販売台数を義務づけるいわゆるNEV規制が施行されています。クレジット獲得の対象となる車種はEV、PHEV、FCVなどで、トヨタが得意なHVは含まれておらず、中国市場への販売力の高いEVの投入を急がなければいけない事情があります。

トヨタではすでに上海のベンチャー企業である奇点(きてん)汽車に技術供与して、奇点汽車がEVの生産によって生み出したクレジットの余剰分を優先的に購入する提携を結んだりしていますが、中国市場での存在感を高めるためにも、より大きな規模でのビジネスが期待できるBYDとの連携に大きな価値があると考えられます。

電池供給元との関係強化

市販電気自動車開発で後手を踏んでいるトヨタにとって、いざ電気自動車を大量生産しようとする際の電池調達は大きな課題となります。すでにパナソニックと共同で車載電池の生産会社を2020年末までに設立することが発表されていますが、今年6月に開かれた『電気自動車(EV)の普及を目指して』というメディア向け説明会でも、BYDやCATLといった中国企業との連携を深めていくことが強調されていました。

7月にはそのCATLと、「電池の供給のみならず、(新エネルギー車=NEV)の発展進化に関して幅広い分野において両社の技術や強みを持ち寄り、魅力ある電動車開発と普及に取り組んでいく」ための包括的パートナーシップを締結したことが発表されています。

「EVの普及を目指して」メディア向け説明会 プレゼンテーション・Q&A①

つまり、今回のBYDとの合意はトヨタにとっても中国市場進出と電動化推進のための「ワン・オブ・ゼム」であり、6月に発表されたトヨタの電動化へ向けた動きの具体化のひとつといえます。この記事のタイトルでは「時代はどう動くのか?」と問題提起しましたが、残念ながら、この提携そのものに時代を動かすほどのインパクトはまだない、と言うしかありません。

どうしても気になる歩みの遅さ

さまざまな背景を冷静に考えてみると「BYDと合弁会社設立」という今回のニュース自体は、具体的な車種発売がアナウンスされたわけでもなく、まだ「期待を込めて注目しておこう」程度のトピックスであるともいえます。

それにしても「2020年代前半にトヨタブランドで(中国市場向けの)セダンおよび低床SUVタイプのEVを開発」というのは、なんとも歩みが遅すぎるのではないかと思わざるを得ません。世界では続々と新しいEVが発表されています。トヨタにとって最大のライバルでもあるフォルクスワーゲンからは大衆車といえるID.3が登場し、2022年には日本にも導入される予定です。

それとも、他メーカーが耕したEV市場に後出しじゃんけんで圧勝する秘策がトヨタには何かあるのでしょうか。ちまたでは「全固体電池」への期待が語られていますが、仮に競争力の高い全固体電池開発に誰かが成功するとして、そう都合よくトヨタが独占できるとは思えません。

日本の屋台骨を支える巨大企業だから軽々に動けない事情もあるのでしょうが、だからこそ、世界のモビリティ電動化の先頭を走って欲しい、と思うのですが……。一日も早くトヨタから、日本向けの魅力的な電気自動車が発売される日を待っています。

(寄本好則)

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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