BYDの乗用車EV『e6』を京都の都タクシーが2台採用〜法人向け限定で日本導入

中国のEV大手であるBYDが、ミドルクラスのクロスオーバーEV『e6』を自治体・法人向けに日本導入。京都の「都タクシー」が2台を採用しました。乗り心地などはどうなのか。中国車研究家、加藤ヒロト氏のレポートです。

BYDの乗用車EV『e6』を京都の都タクシーが2台採用〜法人向け限定で日本導入

BYDの電気バスは日本各地で活躍中

尾瀬を走るBYD製の電気バス。

先進的なバッテリー技術で世界から注目を集める自動車メーカーのBYD。元々は1995年に広東省深圳市で誕生したバッテリーメーカーで、2003年に自動車部門「BYD汽車」が設立されました。

日本での本格的なEV事業は2015年に京都市内を走る路線バス「プリンセスライン」へ電気バス『K9』5台を納入したことでスタートしました。その後も日本全国のバス事業者が続々とBYDの電気バス導入を決め、2022年4月現在、24の事業者へ約60台が納入されています。

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また、世界で初めてリン酸鉄(LFP)リチウムイオン電池を採用したEVフォークリフトの販売も2015年に日本で開始されています。BYDのフォークリフトは従来の鉛蓄電池使用のフォークリフトと違い、バッテリー液の補充が不要。充電時間が短く有毒ガスの発生もゼロ。バッテリー本体の寿命も約10年と非常に長く、メーカー保証も5年(または1万時間)という大きなアドバンテージを持っているのが特徴です。日本では物流倉庫業界や機械・製造業界、製紙業界、食品業界などの幅広い業界で導入されており、現在までに約400台を販売しています。

バスやフォークリフトだけではありません。2021年にはBYDのミニバンEVが初めて日本でタクシーとして採用されました。採用したのは京都府の「都タクシー」で、ミニバンの『M3e』を2台導入。M3eは実証実験の一環として導入されたので一般販売は行われていませんでしたが、EVクロスオーバー『e6』の方は2022年1月に法人・自治体向けとして日本国内で販売が始まりました。

『e6』は『宋 MAX』をベースにした商用モデル

都タクシーに導入された『e6』。

e6は中国で販売されている『宋 MAX』をベースに装備を簡素化させた商用モデルですが、デザインはとてもスタイリッシュで、日本向けのe6には17インチアルミホイールを標準装備しています。

全長4695 mm x 全幅1810 mm x 全高1670 mm、ホイールベースは宋 MAXから15 mm延長させた2800 mmで後部座席もゆったりしています。

ちなみに現行のe6は2代目で、初代e6は2009年に発売以来、BYDのお膝元である深圳を始め、香港やマカオ、シンガポール、カナダなど、世界各地でEVタクシーとして採用されています。現行モデルもすでに深圳や香港でタクシーとして採用されており、初代よりも大幅に改善された航続距離や乗り心地は、「お客さま」をいかに安全・快適に運ぶかが肝心なタクシー利用において大きな強みとなるでしょう。

中国車なので「もしかしたら装備は貧相なのかも」と疑う人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。電動パワーステアリング、アンチロックブレーキシステム、電動パーキングブレーキ、ブレーキオーバーライドシステム、トラクションコントロールシステム、ヒルスタートアシストなど、現代の一般的な乗用車では当たり前の装備が搭載されています。また、内装ではフロントの10.1 インチ手動回転型ディスプレイ、後部座席用USBポート、合皮シートなど快適装備も充実しています。

日本向けモデルは本国モデルと基本的に同一ですが、道路運送車両法で定められている「道路運送車両の保安基準」に適合するために改修された部分が1ヶ所だけ存在します。それが、内装側の左Aピラーにある2つのミラーです。これは「直前直左」という、直径30 cm、高さ1 mのポールを運転席から確認できるように定めている基準に適合するための装備でe6は車体構造上、このポールが運転席から確認できないため、専用のミラーを装着した上でこの基準に適合させました。

CEV補助金の対象車種で補助金額は85万円

2022年4月初旬、都タクシーに導入された個体を実際に見てきました。車体は事業用自動車であることを表す緑色のナンバープレートがすでに取り付けられており、公道も走行できる状態でした。また、日本のタクシーには必須の自動ドアを、e6は標準で装備していません。そのかわり、今回の導入に際して専門業者に特注した「電気式自動ドア」が装着済みでした。この点に関して少し補足すると、通常のセダン型タクシーは多くの場合が物理的なレバーを操作する「レバー式」の自動ドアですが、e6は内装の構造上レバー機構を設置するのが難しく、ボタン操作でドアの開閉が可能となる「電気式」を採用したとのことです。

あとは外装のデザイン、そして営業には欠かせないメーターの取り付けを待っている状態です。この二つが完成すれば、晴れて都タクシーのタクシーとして実際に運用されることとなります。なお、e6はタクシー乗務員にも人気で、すでに2名の乗務員も決まっているとのこと。

e6の航続距離はWLTCモード(市街地)で522 km、荷室容量 580 ℓ、そして5人が快適に乗れる実用的なEVです。なお、都タクシーによるとタクシーとして使用した際の実用的な航続距離は350km前後を見込んでいるとのこと。WLTC値の70%弱で、妥当な距離だと思われます。

都タクシーが最初に採用したM3eは7人乗れるミニバンではありますが、実航続距離は250km前後にとどまるため、単純に航続距離ではe6の方が優れています。

令和4年度のCEV補助金対象車種にもなっています。一般社団法人 次世代自動車振興センターの資料によると車両価格は385万円となっており、それに補助金が85万円(令和4年3月14日以降登録車、3月11日以前の登録車の補助金額は65万円)交付されます。タクシーで使用する場合は特注の自動ドアやメーターなどの架装が必要なので、補助金分は架装費用と考えてよいでしょう。

都タクシーは以前、EVタクシーとして日産リーフを採用していましたが、それに関連してとある事実を発見したそうです。それが、e6の充電にリーフの普通充電用ケーブルが使えるということ。もちろん、e6は普通充電ではSAE J1772ソケット、急速充電はCHAdeMoに対応しており、これはリーフと同じ組み合わせ。それに加えて差し込み口のロック機構もリーフと同じであると判明したそうです。日産リーフ用のケーブルがそのまま使えるというのは、現在リーフを採用している自治体・法人にとって、e6の導入も視野に入れる一つのポイントになるのではないでしょうか。

BYDの電気自動車が持つ特徴の一つが、自社開発の「ブレードバッテリー」です。「ブレード」の名の通り、一つ一つのセルが「刀」形状になっており、それを数枚並べた状態で一つのバッテリーパックを構成しています。コストパフォーマンスの高いリン酸鉄(LFP)バッテリーで、バッテリーに直接突起物を差し込む「クギ刺し試験」でも発煙や発火を起こすことなく、表面温度も30℃から60℃の間を保つなど、高い技術力によってその安全性を実証しました。このe6も容量71.7 kWhのブレードバッテリーを搭載しています。

都タクシーに導入された『e6』に試乗

今回は特別に後部座席に座らせてもらい、その走りを体験しました。まず驚いたのが、以前から採用されていたM3eとの違いです。ベースの違いはあるものの、内装の質感は大幅に向上、室内空間も広々としており、長距離・長時間の移動でも疲れを感じさせない品質の高さが期待できそうです。

サスペンションに関してはフロントがマクファーソンストラット、リアがマルチリンクとなっており、乗り心地もちょうど良く硬め、ミニバンのM3eでは感じていた高い重心から感じる不安定さもe6では無縁でした。以前のM3eももちろん普通によく完成されたEVでしたが、今回のe6はそれの上を行く、「ワンランク上のEV」という感想を抱きました。

BYD e6は「自治体・法人向け」と銘打っていることから、現時点では自治体と法人だけが購入できるスペシャルな電気自動車です。まずは都タクシーで実績を積み、タクシーとしてヘビーな使用を難なくこなせることが分かった暁には、ぜひとも一般オーナー向けに販売を開始していただきたいですね。

(取材・文/中国車研究家 加藤ヒロト)
※冒頭写真はBYDジャパン公式サイトから引用。

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 今やこの分野で後進国となってしまった日本、鉄鋼、船舶、電機、同じ道を辿らないようにするのは関連する皆さん(私も)の心構え、行動力なのかも知れません。

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					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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