「世界で最も安い」 電気自動車『ORA R1』のインド進出が世界で話題

新車価格100万円程度で航続距離200km以上を実現した中国『Great Wall Motor』(長城汽車)の『ORA R1』がインドで発売を計画していることが伝えられ、インドはもちろん、欧米メディアなどで「世界で最も安い電気自動車」として話題になっています。

「世界で最も安い」 電気自動車『ORA R1』のインド進出が世界で話題

※冒頭写真はORAブランドサイトから引用。

複数の英語メディアが伝えている「ORA R1 がインドで発売?」のニュースを確認すると、まだ『Great Wall』から正式な発表があったわけではないようです。とはいえかなり信頼度の高い情報のようで、たとえば電気自動車情報を伝えるアメリカの『Electric Vehicles』というYouTubeチャンネルでは「Cheapest Electric Car Launching in India 2020 – Ora R1」と題した動画を配信しています。

約100万円ちょっとで実質200km以上を実現

改めて、世界で最も安い電気自動車といわれる ORA R1 をチェックしておきましょう。Great Wall Motor のウェブサイトを確認しましたが、英語版では「ORA」の詳細は紹介されていませんでしたが、中国語サイトで大きくアピールされていました。もちろん「フラッグシップ」である『R1』の詳細情報も紹介されています。諸元などを表にまとめてみました。

【ORA R1 スペックなど】

バージョン悦楽バージョン親子バージョン女神バージョン301km バージョン
価格7.18万元
(約115万円)
7.38万元
(約118万円)
7.98万元
(約127万円)
6.98万元
(約111万円)
電池容量35kWh28.5kWh
航続距離(NEDC)351km301km
全長×全幅×全高3495×1660×1560(mm)
最高出力35kW(約47.6PS)
最大トルク125(N·m)
最高速度102km/h
0-50km/h 加速5.6秒

電池容量は35kWhと28.5kWhの2種類。主に装備の違いでバージョンが分かれています。35kWh版の「悦楽バージョン(Google先生頼みの日本語訳なのでやや適当です)」は7万1800元と、28.5kWh電池の「301kmバージョン」と日本円で4万円程度の違いしかないので、実質的にはこの「悦楽バージョン」や「親子バージョン」が主力モデルなのでしょう。

航続距離は35kWh電池のモデルで351km。ただし、NEDC基準なので実測値よりはかなり多めと思われます。EVsmartブログでアメリカのEPA基準で比較することをモットーにしていて、WLTPの場合は 1.121で割って参考値を算出しています。NEDCはさらにEPAとの差が多いので、ざっくり「1.4」で割った参考値としては「約250km」となります。28.5kWhの301kmバージョンは「約215km」ですね。

いずれにしても、高速道路を法定速度で巡航して、200kmくらいの算段は立つでしょう。あ、とはいえ、モーター出力の性能が控えめで最高速度が「102km/h」なので、新東名の120km/h区間で法定最高速度は出せません。

選択肢としての「買いやすい電気自動車」

ORA R1 については、昨年初頭、中国国内でローンチされた際にもEVsmartブログで『中国製電気自動車 ORA R1 を世界が絶賛! 100万円で200km以上を実現』と題した記事で紹介しました。

最高速度が100km/h程度、モーター出力が35kWしかない。あるいは、いかにも作りが安っぽいなど、この中国製の画期的な電気自動車をこきおろす視点はいくつもあるでしょう。

でも、新車価格100万円(程度)で一充電航続距離200km(程度は安心)を実現しているのが素晴らしいと思います。日本国内では、電池調達価格が高い電気自動車は儲からないといった論調が根強く、欧米で発表される電気自動車も大容量電池を搭載するかわりに1000万円近い価格となる高級車が中心です。でも、100万円で200kmだって「やればできる」ことを、この『ORA R1』が実証しているのです。

中国での発売から約1年、はたして ORA R1 がどのくらい売れているのかググってみると『carsalesbase.com』というサイトで中国国内での販売台数が紹介されていました。2019年の販売台数は、約2万8500台、月間およそ2400台程度です。

ちなみに、Great Wall が「ORA」ブランドで展開しているもう1車種のクロスオーバーSUV「iQ」の2019年販売台数は約1万台。「R1」がORA ブランドの文字通り「フラッグシップ」であるといえます。

ORAブランドサイトから引用。うむう、なんだか楽しそう。

carsalesbase.com のデータの信憑性は裏付けをとっていないし、台数としては「こんなものか」と感じるところもありますが、日産が2018年秋に中国市場に投入した「シルフィ EV」の2019年の販売台数は約8100台。2019年春に発売されたBYD『e1 EV』は9カ月で約7500台となっていたので、ORA R1 は中国市場でもかなり健闘しているといえるのではないでしょうか。

それにしても、電気バイクでもそうですが、ユーザーに優しい「買いやすい」商品が、中国ではバリバリ登場するのに日本メーカーが作れないのはどうしてなんでしょう。

今回、R1 の投入が予想されるインドは、日本の自動車メーカーにとっても重要な新興市場だと認識しています。ことに、軽自動車&4駆に強いスズキがインド市場に力を入れていることが知られています。クロカン4駆と電気自動車のニーズは別物、と知らないふりもできるでしょうが、実質的にはインド市場で真っ向勝負を強いられます。

ともあれ「買いやすい電気自動車」という選択肢の登場が、本格的な電気自動車普及には不可欠です。100万円で200km走れる ORA R1 と勝負できるくらい魅力的な電気自動車が日本メーカーから登場し、できるだけ早く日本でも発売されるのを待ち望みたいと思います。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)9件

  1. i-MiEV乗り電気屋(電工一種電験三種持ち)です。
    いくら低価格電気自動車が出てもチャデモ対応/馬力/トルクでi-MiEVに負けていては話になりませんね[チャデモ非対応ならi-MiEVのほうがマシ]。当然電池の素材も問題、チタン酸化物電池じゃないと劣化が早いからなかなか手が出ません。
    個人的には200万円200kmが次期EV購入候補の目安、中古リーフ30kWhが現在最適任と思ってますんで。

  2. 日本のメーカーが40万円から50万円クラスのEV車を出してくれると助かります。380万円とかムリです。中国のEV車はかなり安いのですが、日本で走れないんじゃないでしょうか?規格、安全基準などでほとんどが除外されてしまうんでしょうね。また寒冷地でも問題ないようにしてほしい、タイヤの規格が日本に合うようにしてほしい。充電のアダブターも合うのだろうか?

    1. くんチャカリン様、コメントありがとうございます。そうですね、今の中国の40-50万クラスの車は日本の軽自動車より安全基準が低く、恐らく日本を含め先進国では販売できないと思います。
      ただ一つ希望もあります。
      https://blog.evsmart.net/ev-news/kandi-ex3-nhtsa/
      こちらの会社は中国企業で唯一、米国内で認証を取得し、米国にて中国車EVとして販売を開始しています。
      https://www.kandiamerica.com/
      上の記事のSUVではなく、実際に市場投入したのはK23とK27という小型ハッチバックです。これは僅かな変更で日本にも輸入が可能と思われますので、チャンスはそのうちやってくると思います。ただ価格はやはり180万円くらいになっています。

    2. ミニカーでいいなら40~50万も不可能じゃないと思うけど、あんまり売れないと思う。

  3. >日本メーカーが作れないのはどうしてなんでしょう。

    そりゃ中国は物価と人件費が安いからでは??
    先進国が似た価格帯で出せてるなら別ですが

  4. 十分適切な価格になったはずのEVが中国市場で爆発的に売れない(微増程度)理由は何なのかを知りたいですね。
    あと日本のユーザーで、この割安EVの人柱になってレポートしてくれる人いないですかね。EVsmartさんレポート期待しています(笑)

    1. HA3W & ZE1様、中国市場におけるEVの販売にブレーキがかかった理由は、補助金が減額されたからです。具体的には、航続距離の短いEVに対する補助金が撤廃され、その結果販売台数そのものが大きく落ち込みました。ただ中国の成長が鈍化している面もあり、実際には化石燃料車よりも減少幅は少なくなっています。下の記事もよろしければご覧ください。
      https://blog.evsmart.net/ev-news/ev-market-share-in-china-2019/

    2. 補助金が削減されたのは知っています。
      ただこの価格なら補助金が無くてもガソリン車と同じくらい売れそうな感じもするのですが、売れていません。もっと航続距離が長くて高級なAion Sとかでも価格的にガソリン車と同じくらい売れてもよいと思います。
      売れない原因が中国製という理由なのか、それ以外の理由なのか、原因を探ることは今後のEVの動向を見極める重要なポイントかなと思います。
      人柱というのはもちろん冗談ですが、なぜ買うのか、買わないのか、買ってどうだったか、実際の中国ユーザーの生の声を聞いてみたいところです。

  5. いつも広い視点の記事をありがとうございます。
    インド市場といえば廉価なタタのナノが品質でスズキに破れたことがありましたね。
    カリスマ社長が健在なスズキなら中国メーカーを追い落とすEVが作れる気がします。頑張ってほしいですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

執筆した記事