メルセデスベンツ『EQV』が欧州で受注開始〜日本導入は「未定」

2020年5月25日、メルセデスベンツが新型電気自動車(EV)『EQV』の欧州市場での受注を開始しました。価格は約7万1388ユーロ(約852万円)から。はたして、日本導入はいつごろになるのでしょうか。

2020年5月25日、メルセデスベンツ『EQV』が欧州で受注開始〜日本導入は「未定」が新型電気自動車(EV)『EQV』の欧州市場での受注を開始しました。価格は約7万1388ユーロ(約852万円)から。はたして、日本導入はいつごろになるのでしょうか。

ついに高級ミニバンの電気自動車が登場

2019年3月のジュネーブモーターショーでコンセプトカーを世界初公開。純電気自動車として世界で初めてのプレミアムセグメントにおける「MPV=Multi Purpose Vehicle」とアピールされていたメルセデスベンツ(Mercedes-Benz)『EQV』の受注が欧州で始まりました。

車両価格は約7万1388ユーロ(約852万円)から。搭載するバッテリー容量は100kWh。ただし、実用容量(usable)は90kWhで、一充電航続距離は418kmとされています。この数値は「Directive 692/2008/EC」に基づいて算出されているとのこと。詳細な条件などは調べきれなかったのですが、仮にWLTPと同程度とすると、EPA基準換算推計値は約372kmとなります。(※週明け、MBJに確認します)

MPV、いわゆる「ミニバン」の電気自動車は、日産『e-NV200』のワゴンタイプがありました。欧米ではまだ販売されていると思いますが、すでに日本向け仕様は生産終了。また、ベンツのミニバンである『Vクラス』をベースとするEQVとは車格がまったく違います。「環境のためにも電気自動車には興味があるけど、我が家にぴったりのミニバンがないのよね」と電動車への買い替えを控えていた、アメリカでいうところの「サッカーマム(教育熱心なアッパーミドルのお母さんたち)」の女性たちが「これを待ってたのよ!」となるのかも知れません。

本国のプレスリリースで公表されたおもなスペックを紹介しておきます。

Specifications of the Mercedes-Benz EQV 300

EQV 300 スペック
実用電池容量(usable)90 kWh
搭載電池容量(installed)100 kWh
一充電航続距離417〜418 km
急速充電規格CCS
急速充電最大出力110 kW
駆動方式前輪駆動
最高出力150 kW (204 hp)
最大トルク362 Nm
最高速度140 km/h(オプションで 160 km/h)

【ダイムラー社プレスリリース】
Start of Sales for the Mercedes-Benz EQV〜(英語)

水冷式のAC充電器を車載

コンボ規格では110kWの急速充電に対応。11kW出力対応のAC水冷車載充電器(OBL)も装備するとのこと。

電池容量が100kWh搭載しているものの、実用容量が90kWhであることは前述した通り、公表されたスペック表にも明記されています。10kWh分の余裕(バッファ)を残して実用とするのは、正真正銘100%の満充電で放置したり、0%まで使い切ってしまうことが、リチウムイオン電池を劣化させる原因になるからです。先日公開した『バッテリーの劣化から考える電気自動車選び/リチウムイオン電池容量低下の原因は?』という記事などで、そのあたりのことを詳細に解説しています。

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テスラ車やBMW『i3』といったほかの市販電気自動車でも、こうしたバッテリーのバッファは確保されているのではないかといわれていますが、詳細は公表されていません。EQVはメルセデスベンツブランドでは『EQC』に次いで2番目のBEVモデルです。電池容量80kWhのEQCにも10%ほどのバッファがあるとされていますが、カタログのスペックにはバッファについての記載はありません。EQVのカタログに、搭載総容量と実用容量が記載されるのであれば、それもまたダイムラーからの電気自動車に関する新たな提案といえるかも知れないですね。つまり「ユーザーも電気自動車についてかなり理解を深めたでしょ?」という。

とはいえ、SUVの『GLC』をベースに電池と電動パワートレインを搭載したEQCに続き、このEQVもメルセデスベンツのミニバンとしておなじみの『Vシリーズ』をベースにした改造(コンバージョン)電気自動車です。フォルクスワーゲンが提唱している「MEB」などのように、電気自動車専用に開発されたプラットフォームを、メルセデスベンツがいつ発表し、市場に投入してくるのか、現段階では「楽しみに待つ」というところです。

ちなみに、欧州仕様の急速充電は当然、コンボ規格への対応で、最高で110kWの出力で急速充電できるようです。また、11kWに対応したAC水冷車載充電器(OBL)も装備するとのこと。日本に導入された際、チャデモ1.2規格に対応するのか。また、日本では3kW、もしくは高くても6kWの普通充電が一般的なので、車載充電器がどうなるかといった点は未知数です。

日本では買えない電気自動車が増えていく……

なにはさておき、日本のユーザーとして気になるのは、EQVがいつ日本に導入されるかです。メルセデスベンツ日本の広報に電話で取材してみたところ、残念ながら「まったく未定です」とのこと。

またひとつ、当面の日本では買えない魅力的な電気自動車の車種が増えました。

この『EVsmartブログ』では、ヨーロッパのおもな国でプラグイン車(電気自動車とプラグインハイブリッド車=外部から充電できる電動車)の販売台数やシェアが急増していることに注目して『ヨーロッパで電気自動車の売上とシェアが拡大中』という記事を、随時最新情報に更新しながら掲載しています。

2020年4月の新車販売におけるプラグイン車の国別シェアを見ると、ドイツが8.5%、イギリスが34%、ノルウェーでは69.6%など、EVとPHEVを合わせて1%になるかどうかという日本に比べて、プラグイン車のシェアが高まっていることがわかります。

理由として、この記事中でも触れているように、ヨーロッパの各国で2030年頃までにICE(内燃機関車)販売禁止や都市への乗り入れ禁止といった政策が打ち出されていることがあります。でも、なによりも日本と大きく違うのは、欧州メーカーの電動車シフトへの本気度アップや、韓国メーカーの電気自動車導入などによって、ヨーロッパでは「電気自動車の選択肢」がかなり拡がってきているのです。

個人的な見解ですが「電気自動車がいまひとつ普及しないのは車種の選択肢が少ないから」というのが私の持論(言うまでもないくらい当然のことですが)。ミニバンは日本国内でも売れ筋で、しかもトヨタ『アルファード』や『ヴェルファイア』など、それなりに高額なモデルがかなり売れているカテゴリーです。EQVも早く日本に導入されるよう、メルセデスベンツ日本に奮起してもらえると、いいですね。

ダイムラーは「EQ」に本気モード

せっかくメルセデスベンツ日本広報に電話したので「電動化について何か新しい情報はないですか?」と伺ってみたところ、5月25日に本国のメディアサイトで公開された新しいEクラスに関する動画があるとのこと。

さっそく調べてみると、ありました。『Meet Mercedes DIGITAL』というメディア向け動画のエピソード2の終盤で、メルセデスベンツ車の製品および技術に関するグローバルコミュニケーションの責任者である Koert Groeneveld氏が、「EQパワーはメルセデスベンツの主要な戦略であること」、そして「EQC、EQVに続いて、EQA、 EQB、そしてEQSなどの新しいモデルがまもなく登場する」と明言しています。

クリックすると、メルセデスベンツの動画にリンクします。

自分が購入するかもと考えると、EQSは価格的に手が出そうにありませんが、EQAなら! と期待してしまいます。

さらに「日本で買えない魅力的な電気自動車が増えるだけ」にならないことを願います。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. こんばんは。
    EQV、非常に魅力的です(買えませんが…)。
    国内勢がミニバン系のEVを導入したら結構な引き合いがあるかもしれません(それなりに買いやすいお値段で…)。

    及び腰なのか、日本国内におけるEVの販売は今のところ車種も限られるので余計に海外メーカーのEVが魅力的に映るのかも…。

    買えずとも是非試乗してみたい一台です。

    1. cakar1mさんへ:EVミニバンは個人的に大変そそられる選択肢です。
      日産が本気を出せばe-NV200もどきのセレナEVだって作れるはず。セレナe-POWERが売れていますが難点は価格が上がるのと100V/1500W電源が取り出せないこと、当然ピュアEVにでもなればe-NV200ワゴン以上の価格になり手が届かなくなるでしょう!(爆)
      仮に日産がセレナEVコンセプトを発表したら…注目は浴びても売れるかどうかは微妙だと思いませんか!?少なくとも600万いきそう先代エルグランドくらいの車格にしないと釣り合わない気がしませんか!?
      ※たぶんその絡みが及び腰に見える理由です。e-NV200ワゴン(40kWh)があまり売れなかったところを見ると猶更思うのですが。
      さらに重要なのは電池空調のないEV車両の劣化傾向と対策という運用側(人間)のソフトウェア(使いこなし術)充実。すでにYouTubeなど映像データは豊富にありますが、誰しもがそれを見ているわけではありません!どれだけ多くのユーザーが噂だけでなくデータの本質をしっかり見るか!?に係ると思いませんか!?
      今電気自動車乗りになるしは相当の科学リテラシーが必要になるといっても過言ではないでしょう。幸い僕は電気化学ともに明るく電池の劣化を最低限にする運用術をノートパソコンで実践しているから電池自動車乗りになれただけ(笑)それでも妻の反発を説得する勉強が必要でした…世間一般人にそこまで労力割くのも正直しんどいですが!!(爆)
      少なくとも電気自動車という”我が革命”は明日を乱す覚悟が必要です。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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