東名300km電費検証【04】日産『アリア B6』〜スポーティな空飛ぶ絨毯

市販電気自動車の実用的な電費性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ企画の第4回は3月某日に、日産の2車種目の電気自動車である『アリア』で行った。日産のフラッグシップとされるクロスオーバーEVのアリアはどんな電費を記録したのだろうか。

東名300km電費検証【04】日産『アリア B6』〜スポーティな空飛ぶ絨毯

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
東名300km電費検証【INDEX】検証のルールと結果一覧

日産『アリア』の電費性能は?

日産は2024年3月8日に、3月下旬に『アリア』の5グレードを発売開始すると発表した。駆動方式は、FWD(前輪駆動)とe-4ORCEと呼ぶAWD(全輪駆動)があり、それぞれにバッテリー容量が66kWhのB6と91kWhのB9がある。さらにB9のe-4ORCEにはプロパイロット2.0や20インチホイールを標準装備したプレミアがあり全5グレードの構成とした。価格は以下の通りだ。

グレード駆動バッテリー一充電走行距離価格
B6FWD66kWh470km659万100円
B9FWD91kWh640km738万2100円
B6 e-4ORCEAWD66kWh460km719万5100円
B9 e-4ORCEAWD91kWh610km798万7100円
B9 e-4ORCE プレミアAWD91kWh560km860万3100円
※一充電走行距離はWLTCのカタログスペック

今回の広報車は、アリアの納車が始まった2022年3月に登録されたB6のFWD。主なスペックは、全長4595mm、全幅1850mm、全高1655mm、ホイールベース2775mm、車重1920kgモーターの出力は160kW(218PS)、トルクは300Nm、タイヤサイズは235/55R19だ。意外に短めの全長が印象的だが、ホイールベースが長いこともあり室内は広い。

前席は足元にコンソールなどがないため広大な空間が広がっている。シート間のアームレストは電動で前後に動かせる。運転席、助手席ともにシートも電動、ステアリングのチルトとテレスコピックの調整も電動だ。

B6 FWDの一充電走行距離(WLTC)である470kmを66kWhのバッテリー容量で割った電費(目標電費)は7.12km/kWhで、この数値を上回れば、一充電走行距離を実現できることになる。

今回の目標電費

一充電走行距離
km
電池容量
kWh
目標電費
km/kWh
470667.12

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。

【今回の計測結果】

目標電費を超えたのは316mの下り勾配であるD区間の往路、80km/hで下り勾配のBとC区間の復路の3区間だった。往復では80km/hが6km/kWh台、100km/hが5km/kWh台、120km/hが4km/kWh台と高速化に従い、段階的に電費は悪くなった。

冬の高速道路での航続距離は340kmほどか

各巡航速度の電費は下記の表の通り。「航続可能距離」は実測電費にバッテリー容量をかけたもので、「一充電走行距離との比率」は、470kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対して、どれほど良いのか、悪いかの目安となる。

【巡航速度別電費】
巡航速度別の電費計測結果を示す。80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って求めている。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続可能距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h6.81449.296%
100km/h5.18342.173%
120km/h4.30283.660%
総合5.25346.374%

検証時の外気温は0〜7℃と相当低かったが、同じような外気温での検証となったトヨタ『bZ4X』(関連記事)やヒョンデ『コナ(Lounge)』(関連記事)と比較すると、アリアは下記の表のように80km/h巡航の一充電走行距離との比率が96%と抜群に良く、100km/hと120km/h巡航の比率もこの2車よりも良かった。

競合車種との一充電走行距離との比率比較

アリアコナbZ4X
80km/h96%78%84%
100km/h73%66%64%
120km/h60%55%56%
総合74%65%66%

bZ4Xは唯一のAWD(全輪駆動)であるため不利なはずだが、FWD(前輪駆動)で240kg軽いコナと同等の数値だから健闘している。アリアはコナよりも190kg重いにもかかわらず、全ての速度域と総合でコナよりも良い結果を残した。2010年に『リーフ』を発売したEV先駆者たる日産の面目躍如だ。

各巡航速度の比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると26%電費が悪くなった。120km/hから80km/hに下げると約1.6倍(158%)の航続距離の伸長が期待できる。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h76%
120km/h63%
100km/h80km/h131%
120km/h83%
120km/h80km/h158%
100km/h121%

では長距離を走る場合は、速度を抑えた方がいいのだろうか。仮に80km/h巡航で走り切れる449.2kmを、途中で充電しながら100km/hや120km/hで巡航した場合、充電時間を含めて最も早く449.2kmを走破できる巡航速度はどれなのか試算してみた。

巡航速度走破時間
(A)
短縮距離(B)必要充電時間
(C)
A+Cの時間実質的な
時間差
80km/h5時間37分
100km/h4時間30分107.1km26分4時間56分41分
120km/h3時間45分165.5km40分4時間25分72分

Bは巡航速度を上げることによる電費悪化で減少する走行可能距離。Cの充電分数は、Bの距離を1分の充電で増加する航続距離で割って求めている。1分の充電で増加する航続距離は後述する充電結果をもとに、1分あたり4.18kmと算出できた。

その答えは120km/h巡航だった。40分の充電を行っても80km/hより1時間12分早く到着できる。400km以上も120km/hで走行できる高速道路はまだないが、100km/hの場合も26分の充電が必要になるとはいえ80km/h巡航よりも41分早く到着できる。この結果から途中の充電とその費用を厭わないのであれば、よりハイスピードの移動の方が目的地に早く到着できることが分かった。充電時間を食事やトイレ休憩にあてることもできるので、80km/h巡航よりも有意義な時間を過ごせる。

また、実際に400km以上を一気に走る機会は多くないだろう。120km/h巡航時の実質電費が4.3km/kWhであったことを踏まえると、「4.3km×66kWh=約284km」、余裕をもって250km程度までの距離であれば、電欠を気にすることなく流れに乗った速度で巡航する性能があるということだ。アリアとしてはベースグレードのB6とはいえ、66kWhのバッテリーは十分に大容量だからこその利便性であるともいえる。

制限速度+10km/hまで手放し運転可能なプロパイロット2.0

日産のプロパイロット2.0は、現在日本で入手可能な車の中で最も高度な先進運転支援システム(ADAS)だと思う。新東名の120km/h制限区間では、GPSで計測した120km/h(メーター表示は129km/h)で手放し運転が可能だった。

さらにナビでルート設定をしていれば、高速の出口に差し掛かった時にシステムが出口に向かうことを提案してくるので、そこで「車線変更支援スイッチ」を押せば、自動でウインカーを出してハンドルも切り出口に向かってくれる。

日産のプロパイロットは2種類あり、名称に「2.0」がつくか否かで判別できる。2.0のつかない「プロパイロット」は、先行車に合わせて車速をコントロールする「インテリジェントクルーズコントロール」と車線の中央を走行するように制御する「ハンドル支援」、車種によってはカーブの大きさに合わせた減速を支援する「ナビリンク機能」を有する。

「プロパイロット2.0」は上記に加えて、ハンズオフドライブ(手放し運転)、ジャンクションの分岐や出口への進行、先行車の追い越し、車線変更などを行なってくれる。自動車線変更はテスラ『モデル3』(関連記事)やヒョンデ「コナ」でも体験したが、アリアが一番滑らかな印象だった。

プロパイロット2.0の操作はステアリングホイール右スポークのスイッチで行う。右上のプロパイロットスイッチを押すと機能がスタンバイになり、上下に動くキャンセルスイッチを下(SET−)に動かすとその時の速度でプロパイロットを開始する。設定速度を上げたい時はキャンセルスイッチを上へ(SET+)、下げたい時は下に動かす。1回動かすごとに5km/hずつ変わっていく。

プロパイロットを開始するには、現状ではプロパイロットスイッチとSET−スイッチを押す2アクションが必要なので、プロパイロットスイッチだけで作動して欲しい。

キャンセルスイッチの右側が「車線変更支援スイッチ」で、プロパイロットから車線変更、出口や分岐への進行の提案があった時に、その提案を承認するボタンだ。その下は先行車との車間距離設定ボタンで、3段階から選択できる。

インテリジェントクルーズコントロールの速度制御には気になる点があった。渋滞で速度が落ちた先行車がいる場合に、手前から余裕をもって減速するのではなく、近づいてから強めの減速をしてしまうことが多かった。そして停止する際もブレーキを抜きながらではなく「かっくんブレーキ」で止まる。そんな強めの停止動作なので、止まった時にボディが前後に3回ほど動く「揺れ残り」が発生する。渋滞中は停止のたびにこの一連の動きが繰り返されるため、プロパイロットを切って自分で運転した場面もあった。

なお、プロパイロット2.0装着車か否かはルーフのシャークフィンアンテナの数でも判別できる。2個あれば2.0だ。アンテナの役割分担は、助手席側はラジオ受信用、運転席側は準天頂衛星「みちびき」からのGNSS(Global Navigation Satellite System)信号の受信用だ。

優れた機能を有するプロパイロット2.0であるが、価格が高いことは難点だ。今回の広報車と同じB6のFWDにメーカーオプションで選択する場合は、税込46万5300円が必要になる。

メーター上部が緑色の時はプロパイロット走行中、手放し運転も可能なプロパイロット2.0になると青に変わる。昼間には気づかなかったが、アンビエントライトも一緒に緑や青に変わる。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は下記表の通り大きめだった。実速度を100km/hにしたい場合は、メーター速度を108km/hに合わせる必要がある。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
87108129
ACC走行中の
室内の静粛性 db
656565

巡航時の車内の騒音(スマホアプリで測定)はどの巡航速度もでも65dBだった。コナの67から71dB、bZ4Xの68dBと比較してもアリアの静かさが秀でていることが分かる。

ロングドライブ重視の場合はB9がおすすめ

バッテリーの急速充電は3回行なった。バッテリーを充電に適した温度に温めるプレコンディショニング(日産の正式呼称はリチウムイオンバッテリーヒーター)は、B6のFWDには搭載されていない。さらに外気温が低かったこと、充電開始時のSOCが50%ほどだったこともあり、車両側の最大受入性能である130kWの半分にもいかない結果だった。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。

1回目(150kW器)よりも2回目(90kW器)の方が4kWhほど多く充電できたのは、120km/h巡航の直後だったためバッテリーが充電に適した温度に近づいていたためだと推測する。それにもかかわらず航続距離表示が7kmしか違わない理由も直前の120km/h走行で電費が悪くなったためだろう。

ボディカラーのカーマインレッドにシルバーのピラーがアクセントのサイドビュー。現状日産のHPでは赤いボディカラーはラインナップされていない。

なお、アリアは冷暖房の使用による航続可能距離表示の変化はなかった。オドメーターの増加分と航続可能距離表示の減少分はほぼ同じだったが、120km/h巡航区間だけは、96kmの実走行に対して、航続可能距離表示の減少は155kmと大きな開きが生じたので、新東名や東北道において120km/hで走行する場合は電欠に気をつけたい。

アリアの装着タイヤは19インチが基本

冒頭にアリアは5グレードのラインナップと紹介した、そのうちB9 e-4ORCE プレミアだけが20インチで、それ以外の4グレードは19インチが標準だ。

【装着タイヤ】
メーカー/DUNLOP
ブランド(商品名)/SP SPORT MAXX 050

サイズ空気圧製造週年
左側右側
フロント235/55R19 101V26047214721
リヤ235/55R19 101V26038213821

※製造週年は「4721」の場合、2021年の47週目に製造されたことを意味する。

「普通の空飛ぶ絨毯」に近づけるか?

今回アリアを走らせて最初に感じたのは滑空感の高さだった。一度加速してしまえば、あとは走行抵抗がなくなったかのようにすーっと走っていく。わずかでも下り坂に差し掛かればどんどん速度が上がっていく。今回の電費検証は最も標高が高くなる御殿場IC付近で外気温0℃を記録する悪条件だったが、ライバルに対して良い結果が残せた要因の一つがこの滑空感だったのではないかと思う。

そしてアリアのデビュー当時から言われている乗り心地の悪さについて。確かに段差はゴツゴツ感があるし、路面の細かな凹凸も拾うので、乗り心地は良いとは言い切れない。しかし試乗を通して思ったのは、このクルマをスポーツカーだと思えばいいということだ。

高速道路のジャンクションや出口に向かうカーブでは、1665mmの全高をもろともせずグイグイ旋回するハンドリングを披露するなど、運転していて楽しい車だった。先日はクローズドコースで『アリアNISMO』に試乗(関連記事)させてもらったが、まさにNISMO仕様のベース車両としてもってこいの特性を備えていると思った。

日産もこのクルマをフラッグシップと謳っているし、内外装のデザインからも上質感や高級感を感じるので、自然とそれに相応しい乗り心地を期待してしまうが、スポーツカーだと思えば合点がいく。このスポーティ感と滑空感を併せ持つので、アリアを一言で言うと「スポーティな空飛ぶ絨毯」に思い至った次第だ。

とは言え、日産関係者によると乗り心地に関しては、適宜改善を図っているとのこと。きっとNISMOモデルを公道で乗ると「レーシーな空飛ぶ絨毯」に感じるのではと想像する。改善を受けたスタンダードモデルがどれだけ「普通の空飛ぶ絨毯」になっているのか。今から試乗するのが楽しみだ。

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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