BYDの電気自動車『ATTO 3』試乗レポート〜新ブランド日本参入が、楽しみ!

電気自動車の乗用車で日本市場への本格参入を発表した中国のBYD。導入の第一弾となるe-SUV『ATTO 3』に、短時間ながら試乗してきました。はたして、走りや品質の実力はいかがなものか。中国製電気乗用車初体験のインプレッションレポートです。

BYDの電気自動車『ATTO 3』試乗レポート〜新ブランド日本参入が、楽しみ!

『ATTO 3』は500万円弱か?

BYD(比亜迪汽車)の日本法人、BYD JAPAN(BYDジャパン)は2022年7月21日に「BYD Auto Japan」を設立し、中国などで販売している電気自動車(EV)の『ATTO 3』(アットスリー)、『SEAL』、『DOLPHIN』を日本に導入することを発表しました。発表に合わせて、導入時期を来年1月に設定した『ATTO 3』 のメディア向け試乗会に、EVsmartブログも参加してきました。初めて乗った『ATTO 3』の感想をお伝えします。

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試乗車はオーストラリア仕様とのことでしたが、すでに充電口はチャデモ対応に換装されていました。ウインカーも右側。

BYDが日本で初めて販売する電気自動車(EV)のSUV『ATTO 3』は、中国本国では2022年初頭から販売している『元PLUS(Yuan Plus)』です。EVsmartブログでも以前、『元PLUS(Yuan Plus)』が中国とオーストラリアで発売されたことを紹介しました。

当時の価格は、中国で約15万元です。この記事を書いたときには日本円で約259万円だったのですが、今は円安が進んだので約307万円になります。

オーストラリアでは、いずれも税金や登録料などを含んだ乗り出し価格で、バッテリー容量が50.1kWhの「Standard」が4万7110ドル(約449万円)、バッテリー容量60.4kWhの「Extended」が5万248ドル(約480万円)です(2022年7月21日時点)。

これが日本に来ると「何万円になります」と紹介したいところなのですが、今はまだ車の機能や装備などを日本市場に適合する作業を行っている最中で、値段が決まっていないのでした。

ただ、日本で販売するグレードはバッテリー容量が大きな58.56kWhなので、オーストラリア価格から考えると500万円弱ではないかと思います。寄本編集長の期待を込めた予想よりちょっと高めに張ってみました。

これにCEV補助金(V2H対応など給電機能に対応しているので今年度の場合で最大85万円)を勘案すると400万円台前半というところでしょうか。それでも、バッテリー容量を考えると既存のEVに比べてかなり安いですね。

価格相応の高級感にちょっとびっくりする

リアハッチには「Build Your Dream」のエンブレム。このメッセージはSEALとDOLPHINにも記されていました。

なにはともあれ、乗ってみた感想です。筆者は、中国製の乗用車を自分で運転するのは初めてです。最後に中国へ取材に行ったのは十数年前なので、90年代のアメリカによくあった、走るとギコギコと音がする「これ、だいじょうぶかな」的なタクシーが上海の街中にたくさん走っていたのを思い出します。

最近は、上野公園の連絡用や福島県大熊町で走っているBYDの小型バスに乗り、十数年で車が様変わりしたと思いました。でも昨年5月に京都の都タクシーで乗った(後部座席に)BYDの『M3e』は、足回りや内装など、日本市場で売るにはちょっと厳しいなあという印象でした。

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そんな事前予想は、運転席のシートに座った瞬間に吹き飛んでしまいました。良い意味で裏切られました。シートから、すごくしっかりした感触が伝わってきたのです。

シート調節は電動、ハンドルやシフトレバーの質感や操作感、アクセルを踏み込んだ感じ、ブレーキを踏んだときの制動の感じなど、どれも違和感がなく、むしろ高級感すら漂っています。

すでに販売しているオーストラリアでは450万円ほどする車なのであたりまえと言えばあたりまえですが、価格相応の車に仕上がっているなあというのが第一印象でした。

ほんとに、普通の上級EVではないですか!

前置きが長くなりました。早速走ってみましょう。

ブレーキをリリースすると、少し強めのクリープで車が動き出します。そこからちょっと重めなアクセルをゆっくり踏み込んでいくと、EV特有の低速から高速へのリニアな加速を感じます。試しにアクセルをトンっと深く踏み込んでやると、ドンっと反応良く加速します。なにしろ最大トルクは310Nmです。EVらしいトルク感も申し分ありません。

走行モードは「NORMAL」「SPORT」「ECO」の3種類です。違いは踏み込んだときの出力の出方で、回生量にはあまり差がないように感じました。

アクセルを離すと、ごく軽く、回生ブレーキが効きます。アクセルオフで強い回生ブレーキが働くと、フットブレーキよりGが強くなり乗り心地が悪くなるのを避けるためだそうです。回生ブレーキの強さは2段階になっていますが、これも速度がそれほど速くなかったせいか、あまり違いを感じませんでした。

同乗して説明していただいた担当者によると、アクセルをもっと勢いよく踏み込むと少し強めに回生ブレーキが効くそうです。でも今回の試乗は、東京ビッグサイト周辺の公道で交通量もそこそこ多かったので、それほど速度を上げられる場所がなく、違いを実感することはできませんでした。次の正式な試乗機会には無念を晴らしたいです。

ブレーキを踏んだ感触は、回生量が少ないこともあってとても自然です。安価なEVの中には力を入れて踏み込まないと止まらない車がありますが、そんな心配は不要です。軽く踏むだけでしっかりと止まります。

足回りも、きちんとしているようでした。道の段差やマンホールを踏んでも、強く突き上げる感じはありません。タイヤは、乗り心地が硬いことで定評のあるコンチネンタルが付いていましたが、しっとりとした乗り心地に仕上がっていたように思います。

あたりまえのことですが、走る、止まる、曲がるがきちんとできるかどうかは、車の完成度そのものだと思います。まあ、10分程度の試乗では細かい点まで断言することはできませんが、乗り心地はとても良くて、もう一度きちんと乗ってみたいと思わせてくれたEVでした。

電動で回転するモニターに驚喜

さらに、ちょっと細かい点を見ていきましょう。

走り出してすぐ、「お!?」と思ったのは、ライトを付けるための注意喚起のアナウンスが英語だったことでした。日本で販売する時に日本語になるか英語のままにするかは、まだ検討中(※編集部注/まあ、日本語になるのでしょうが、英語のままにして「世界のEV」を実感するのも悪くない、と感じました)だそうです。

ワンタッチでセンターディスプレイが回転します。駐車時のカメラ映像は、縦表示が見やすかったです。

注目は、センターに付いている12.8インチの大型モニターが、電動で縦になったり、横になったりすることです。ナビを見るときには縦位置、止まっている時に動画などを見るなら横位置にするなど、使い分けが可能です。

なるほど、AmazonプライムとかNetflixとかの動画を見ることができれば、充電の待ち時間がもっと楽になるかもしれません。まあ、これだけ画面が大きければ、ナビ画面は横位置のままでもいいかもしれないとも思いますが、それは無粋というものです。

ちょっと笑ってしまった装備は、ドア内側の下部に付いている赤い3本のコードです。

試乗の途中にとつぜん、後席に座っている寄本編集長の方から、ボン、ボン、ボンというベースの弦をはじいているような音が出てきました。音を鳴らしながら寄本編集長が「この、琴みたいなのはなんですか?」と同乗担当者に聞きくと、「合間に音楽を奏でるというか、スポーツと文化的なものを融合したものです」と説明がありました。

「え?」と思いましたが、担当の方は「間違いなく、お子さんがずっと鳴らしていると思います」と、笑いながら話してくれました。はい、そこは間違いないと思います。

本数が3本なので沖縄の三線か三味線的な何かかもしれませんが、とくに音をチューニングしているわけでもないようです。遊び感覚で付けてみた、という感じです。せっかくなら4本にしてベースの音にチューニングすればいいのになあ、と思いました。

ちなみにこの3本の赤いコード、運転席にも付いています。ヒマなときに鳴らしてみてください。なんなら、作曲に挑戦してみましょう。

中国っぽいギミックと感じたのはほかに、ドアノブのデザインです。ドアから飛び出たスピーカーに、回転して操作するドアノブが付いているのです。やり過ぎかも、とも思いますが、とりあえず目を引きます。ネタになります。

余談ですが、BYDがATTO 3に続く e-コンパクトとして日本導入を発表した『DOLPHIN』のドアノブは、ドアから飛び出して上に向かうヒレ(ツノ?)のような形をしています。『DOLPHIN』だからイルカの背びれか胸びれなのかもしれませんが、謎です。

ドルフィンのドアノブ。

そして、『ATTO 3』の内装の特徴は筋肉モチーフのデザインだそうです。よく見ると、コンソール全体に波のような凹凸がついたラインが入っています。スポーツジムの筋肉をイメージしたとのことです。マッスルです。なのですが、すみません、3本の赤いコードと同様、ちょっと理解力が付いていきませんでした。

外観では、ボディーのサイドには全体に絞り込みが入っています。ボディーの金型は、BYDが2010年に買収、設立した金型製造メーカー「TATEBAYASHI MOULDING」が手がけていて、かなり精度を高めることができているとのこと。試乗の翌日に開催された記者発表では「日本の職人技、ものづくりの心が活かされている」ことが強調されていました。

バッテリーの冷却はエアコンの冷却剤と統合して制御

すでに関連記事でもお伝えしているように、『ATTO 3』の大きな特徴のひとつは、BYDのブレードバッテリーを搭載していることです。ブレードバッテリーは、リン酸鉄(LFP)で、セル・トゥ・パック構造になっています。一体構造とでも言えばいいのか、うまい日本語が見つかりません。

ブレードバッテリーを、『ATTO 3』では上部から冷却剤で冷やしています。冷却系はエアコンとも共有していて、エンジンルームを見るといくつかに枝分かれしている統合バルブを確認できます。テスラの『モデルY』『モデル3』が搭載している「オクトバルブ」のBYD版のようです。

写真中央の少し大きなパーツが統合バルブ。ボンネット内のスペースは割と余裕がありそうでしたが、フランクはありません。

パワートレインは、トランスミッションと電装系をひとまとめにした8in1です。モーター、モーターコントローラー、トランスミッション、車両コントローラー、バッテリーマネジメントシステム(BMS)、DC-DCコンバーター、充電器、高電圧配電モジュールを一体化したユニットです。

eアクスルをさらにすすめた電装系の一体化はHUAWEIなど各社が進めていて、統合化が止まらない様子です。ただし、故障したら一部のパーツを交換できるのか、それとも丸ごとの交換になるのか、少し見えにくいのが懸念されます。

パーツの統合が進めばコストダウンや軽量化になる一方で、修理はしにくくなります。アメリカでは、「修理する権利」が注目されていて、訴訟が提起された後に、連邦取引委員会(FCT)が関連法制を施行しています。こうした状況下でパーツの統合やバッテリーの一体構造化が極端に進むのは一長一短がありそうです。今後の動向が気になります。

というわけで、『ATTO 3』の実車を見て、触って、短い時間ですが試乗もした感想は、車としての競争力はありそうだということでした。あとは、実際に使った時の耐久性や、アフターサービスの充実度がどうかですが、ここは少し長期で見る必要があります。

はっきり言えるのは、日本市場に新しい自動車メーカーやブランドがEVで参入してくるのは、楽しみ以外の何物でもないということです。

ヒョンデやBYDのような、欧米でも実績のある自動車メーカーを日本市場がどう受けとめるのか。過去、欧米ブランドも苦労した日本市場の閉鎖性を打開できるのかどうか。しかもアジアの会社がどこまで伸びるのか。期待と不安が混じり合うというのは、まさにこのことかと思うのです。

(取材・文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 中国の方が40℃以上の高温下でのEVの比較をyoutubeにあげていました。https://m.youtube.com/watch?v=bNNV2UzBYW8&t=166s
    元PLUSはエアコン24℃設定、120km/h巡航で326km走行できたようです。
    ただ2時間炎天下で駐車した後にライト、ワイパー、スクリーンが故障したようなので、日本の夏に耐えれるのかが心配になります。

  2. BYDおもしろそうですね。理解が出来なくても、なんか面白そうと感じさせるのは今どきのマーケティングとして正解な気がします。最近の趣向はtiktokの短尺動画の様にパッと見て数秒で良し悪しか判断されます。そこから、「これは何?」と質問を引き出せればシメたものではないでしょうか。
    日本の技術との融合等、日本人に配慮したコメントをみてもBYDの本気が良くわかります。正直、値段次第でかなり興味があります。
    日本メーカーはかなりの危機感を持って対応して貰いたいものです。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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