BYDが第二世代のブレードバッテリーを正式発表してから2カ月近くが経過し、それを搭載する新型モデルの導入とともに、リアルワールドにおける充電テストなど、さまざまな展開内容が明らかになってきています。さらに競合メーカーも続々と超急速充電テクノロジーを発表しています。中国でますます熾烈さを増す超急速充電の技術革新を前後編に分けてまとめます。
最大1.5MWの超高出力急速充電という衝撃的ニュース
BYDは2026年3月5日に第二世代のブレードバッテリーの発表会を開催しました。BYDジャパンがプレスリリースを発信するとともに、すでにEVsmartブログでは発表会概要の解説記事を公開済みですので、発表の概要を知りたい方は過去記事を参照してください。
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第二世代ブレードバッテリーのスゴさとは?
ここでは、その解説記事では触れられていないことや、その後判明した最新情報を含めて、いくつかの内容を追加して解説します。
① 電池の内部抵抗の低さ
第二世代ブレードバッテリーの安全性について、フラッシュ充電を500回繰り返した後に「釘刺しテスト」を行っても発火せず、大きな温度上昇が見られませんでしたが、さらに注目するべきは、実際にBYDが公開した、セル単体に対する釘刺しテスト直前の超急速充電時における電池温度上昇の挙動です。
SOCや電池温度などの変化を記録した連続写真

SOC27%付近から充電をスタートして、756Aという高い電流値を流しています。

SOC42.7%の段階でも756Aと、高い電流値を流し続けています。

SOC45.6%の段階で、電池セルの温度は約30℃です。

SOC96.7%と満充電状態に近い状況で、電池セル温度は約50℃程度です。
700A以上というフラッシュ充電においても、電池温度が20度程度しか上昇していません。ここで重要なポイントは、電池冷却などを一切行っていない「裸の」電池セルにおける充電の様子であり、第二世代ブレードバッテリーのセル単体における内部抵抗が極めて低い(≒超急速充電に対する耐性が高い)ことがわかります。
② 第二世代ブレードバッテリーの革新的テクノロジー
①で取り上げた内部抵抗の低さなどを実現するために、第二世代ブレードバッテリーにはいくつかの革新的テクノロジーが実装されています。すでに複数の専門家が独自の分解テストなどを行って、いくつかの最新技術が判明しているので紹介します。
※技術関連情報についての指摘は大歓迎です。何か見当違いの内容などあれば適宜指摘していただけるとありがたいです。

●正極材料のナノ化
正極側には第一世代と同様にリン酸鉄リチウム(LFP)を採用しています。一部情報でマンガンを加えたLMFPなのではないかと言われているものの、実際にはマンガンは添加されていません。マンガンを添加することでエネルギー密度を向上させることができますが、特に高温状態における耐久性に弱みを抱えるため、フラッシュ充電に対応させる第二世代とは相性が悪く採用を見送ったものと推察できます。
代わりに採用したのが材料をナノサイズにまで細かくして添加する方法です。材料の粒子を極限まで細かくすることで、電解液に触れる表面積を最大化。これにより導電率が向上(=超急速充電に対応可能)します。
●負極側にハードカーボンを添加
負極材も第一世代のグラファイトベースから基本的に変更はありません。一般的にエネルギー密度を向上させるためにはシリコンを添加する方法がありますが、これも超急速充電における耐久性が弱点なので採用を見送ったと推察できます。
その一方でBYDは新たにグラファイトにハードカーボンをブレンドしたようです。ハードカーボンはグラファイト比で電位が高いため、その分だけ電気の通り道が増えることを意味します(≒リチウムイオンを受容しやすく、超急速充電に対応可能)。
さらにグラファイトの形状を球体化することで、通常の鱗片状(薄い板状)と比較してもリチウムイオンの出入り口が大きくなり、導電率が向上します。また鱗片状の場合は、超急速充電時に入り口部分にリチウムイオンが殺到するため、デンドライト析出によるショートが起きやすいです。対する球体型は表面のどこからでもリチウムイオンが通り抜けられるため、特定の場所にリチウムイオンが集中することもありません。その安全性も球体型の強みです。
ただし球体型は天然の鱗片形状から丸める工程が必要となるため、製造コストが増加。またプレス時に割れる可能性があるなど、高度な製造技術が求められます。
●電解質が第二世代のコアテク部分?
材料をナノ化することでリチウムイオンの伝達速度は劇的に向上する一方で、電解質との反応も激しくなります。特に問題となるのが負極側との間にできるSEI被膜の存在です。SEI被膜は初期充電時にリチウムイオンの一部が電解質と反応して膜の一部となるため、リチウムイオンの本来の働きである「電気を運ぶ」ことができなくなります(≒これが電池の初期劣化)。
そして、材料のナノ化による表面積の増加は、SEI被膜の形成に必要なリチウムイオンの量が増えることを意味するため、初期劣化がより進んでしまうというジレンマをはらんでいるのです。
この点はまだ詳細なレポートが見つかっていないものの、おそらくこの初期劣化を抑制するために、電解液にも技術革新があると見込まれています。たとえば、BYDの過去の特許内容から、新たなリチウム塩「LiFSI」を高濃度で使用している可能性が考えられます。これは従来のリチウム塩と比較して導電率が高く、ナノ材料を使用しても安定的な薄いSEI被膜の形成につながります。また低粘度溶剤を採用することで、ナノ材料の隅々まで電解液を浸透させ、リチウムイオンの伝達速度の引き上げに貢献している可能性も指摘されています。
いずれにしても、この電解質こそ、第二世代の超急速充電と耐久性を両立させる核心部分である可能性が高く、今後の調査レポートが気になるところです。
●AIによる製造工程の革新

第二世代ではナノ材料を広く採用することなどによって超急速充電を可能にしていることがわかりましたが、ここで最大のボトルネックは、その製造過程にあります。
というのも、ナノ材料は文字通り非常に小さいため、静電気などでダマになりやすいです。これによって、正極部分の電極シートを製造する際に、均一な薄さに溶剤を塗布することができなくなり、電池のムラにつながります。この状態で超急速充電を繰り返すと、そのダマ部分に負荷が集中して発火など安全性への懸念につながるのです。
そこでBYDは、特に電極シート製造における溶剤塗布の瞬間を全てカメラで撮影しつつ、それをAIでリアルタイム解析することで、塗布工程が終了した段階で、AIがその電極シートの品質(耐久性や安全性)を確定させてしまうのです。よってこの溶剤塗布の段階で不良品に繋がりそうなものを弾くことが可能となり、電池セルとして完成した段階での不良品率を大幅に低減することができるのです。
③ バッテリーシステムの改善
電池セル部材それぞれの技術革新だけでなく、システムレベルでの技術革新もふんだんに盛り込まれています。
●パルス自己加熱システム
今回の第二世代ブレードバッテリーの強みの一つに、マイナス30℃などという超極寒環境下における充電性能の改善があります。その実現のために、BYDは2025年に導入したe-Platform 3.0 evoから採用するパルス自己加熱システムをさらに進化させました。
パルス自己加熱とは、モーターとバッテリーを繋ぐ回路を高速でスイッチングさせることで、バッテリー内部に往復の電流を流し、電池セル自身の抵抗によって熱を発生させる技術です。たとえばPTCヒーターなどで電池を温める場合、外側から電池を温めることになり、電池の中心部分まで素早く、何と言っても均一に温めるのに時間を要します。ところが内部抵抗による発熱の場合は、文字通り電池セル内部から発熱を促すため、それぞれの電池セルが均一に発熱。結果として超急速充電に十分な電池温度まで上昇する時間を短縮できるのです。
ただし、このパルス電流を一気に流そうとするとすぐに電圧が跳ね上がってしまい、これがデンドライト(樹枝状結晶)の生成などに繋がって耐久性や安全性が低下するものの、第二世代に採用されている正極側のナノ材料や負極側のハードカーボン材料のおかげで、パルス電流を一気に流せるだけの受け入れ性能が大幅に向上しています。これにより、これまでよりも高速な電池昇温を実現し、マイナス30℃という超極寒環境下においても最小限の昇温時間で超急速充電に対応できるようになったのです。
ちなみに、このパルス自己加熱はLFPと相性がいいという点も重要です。LFPは低温環境下の場合、正極側の導電率が低く内部抵抗が著しく増加します。裏を返すと、パルス電流を流すと抵抗が大幅に増加するため効率よく発熱を促すことができるのです。
ところが三元系の場合、そもそも正極側は低温環境でもLFPより反応性が高いため、LFPよりも多くのリチウムイオンが負極側に移動します。ところが負極側は低温のためリチウムイオンを全て受け入れることができず、余ったリチウムイオンが負極表面に析出(=リチウム析出)。これが枝状に拡大(=デンドライト生成)していくことで、最終的にセパレーターを突き破ってショートに繋がるのです。
それに対してLFPの場合は先ほど説明した通り、そもそも導電率が非常に低いため、負極側が受け入れられないほどのリチウムイオンが入って来ませんのでリチウム析出のリスクが低いというわけです。したがって、低温環境下におけるパルス自己加熱とLFPの相性がいいと言えるのです。

●1500V耐圧パワー半導体
BYDは昨年導入したSuper e-platformから1500V耐圧の次世代パワー半導体を採用しています。現在の主要サプライヤーは800Vシステムを採用するEVに対して、最大耐圧1200Vのパワー半導体を供給していますが、これでは1000Vプラットフォームには対応できません。よって現在1000Vプラットフォームを実装できているEVメーカーは、世界広しといえどもBYDくらいしか存在しないのです。
電圧を引き上げるということは、同じ充放電能力をより低い電流値でこなせるわけで、つまり内部抵抗を抑制して温度上昇抑制につながります。これは熱管理システムの簡素化やエネルギー消費量の改善にもつながります。
そしてBYDは傘下の半導体製造部門において、この次世代パワー半導体を内製しており、製造コストを低減するだけでなく、BYDが必要とする大量の需要に対しても迅速に製造能力を対応させることができます。この超高圧パワー半導体の内製化という観点も、BYDのフラッシュ充電対応EVを「大量に・安価に」製造することに寄与しているのです。

BYD内製のSiCモジュール。
④ 超急速充電器とBYDが目指すエネルギービジネスの可能性
BYDは新型ブレードバッテリーを搭載したフラッシュ充電に対応する新型モデルを発売するのと同時に、それに対応する超急速充電器も発表しましたが、ここで重要なポイントは、大型蓄電池を併設している点です。
これは系統への負担を緩和するバッファーとしての役割があり、既存の充電ステーションに追加の変圧器拡張工事を必要とせずにフラッシュ充電を可能にします。

充電ステーションの規模によって数値が異なる場合がありますが、1基(2ストール)のみ設置する場合、169kWhの蓄電ユニット(もちろん電池はBYD内製のLFP)を2つ併設します。キュービクルを含めて、これらは駐車スペース1マス分の設置スペースで済み、100kWhバッテリーを搭載するEVを連続で10台程度充電可能なため、蓄電ユニットの充電量による充電制限はそこまで気にする必要がありません。
ちなみに蓄電ユニットの冷却には自動車用のエアコンシステムが流用されており、コスト低減と汎用性が担保されています。さらに2026年に2万基設置するという目標の実現のための、製造期間の短縮という効果もあります。
そして、この大容量蓄電池はV2Gを介した系統の負荷分散に対応可能です。超急速充電ステーションを中国全土に配備するということは、同時に系統負荷軽減のための蓄電池を中国全土に配備していることと同義であり、これはEV充電器という枠を超えて、将来的な中国の電力インフラの安定化に寄与するポテンシャルを秘めているのです。BYDのエネルギー事業に対するポテンシャルの高さを感じます。
⑤ 充電器設置提案プログラムがプレミアムなユーザー体験に

Yangwang U7。EVモデルには150kWhバッテリーを搭載して1008kmの航続距離を実現。U7のオーナーになれば、日々の通勤ルートにフラッシュ充電器を設置することも可能に。
BYDはフラッシュ充電器設置場所について、4人のオーナーから設置提案があった場合に、最短一週間で充電器を設置することが可能としています。また、ハイエンドブランドYangwang(仰望)のオーナーのみ、1人のオーナーの設置提案だけで充電器を設置可能にしています。これまで高級車販売というのは、車両性能や装備内容、ブランド力が重要な指標でしたが、さらにBYDはフラッシュ充電器を設置できるという付加価値を提供することで、ブランドロイヤリティを高めようとしているのです。
このようにして、BYDの革新的テクノロジーである第二世代ブレードバッテリーが発表されてから2ヶ月近くが経過し、さまざまな最新情報が判明しています。もちろん電池セルの材料や製造工程の革新には目を見張るものがありますが、同時に超急速充電器も大規模に設置を進めているという点が、「BYDの本気」を感じる部分でしょう。
大容量蓄電池を独自に内製することで、この大規模な超急速充電ネットワークを安価に、そして素早く展開できます。その上で、BYDが見据えているのは将来的なエネルギービジネスの可能性です。中国全土に配備された大量の蓄電池を、その地域ごとに最適に制御することで系統の安定化、マイクログリッド化に貢献。更なる事業規模拡大のポテンシャルを秘めています。
日本のユーザーとしての期待感

日本に住むEVユーザーとしては、フラッシュ充電かどうかは別にして、やはり自動車メーカーが主体になって充電インフラを構築する姿勢は、EVシフトを本気で進める上で重要なのではないかと感じます。日本でもトヨタなどは独自に急速充電ネットワークの構築を進めています。さらに日産もV2Xに対応する双方向充放電器を家庭向けに販売し、電力取引事業に参入する計画だそうです。自動車メーカーにはただEVを売るだけではなく、充電インフラやエネルギービジネスなど、EV販売の先を見据えた動きにも期待したいところです。
取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)






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