日産自動車が「モビリティの知能化で、毎日を新たな体験に」とのテーマを掲げ、AIドライブ技術や電動化への長期ビジョン説明会を開催。さらに、AI ディファインドビークル、全固体電池、EVの電池をV2Xで活用するエコシステム構築などを説明する「Nissan Future Tech Session」を行いました。モータージャーナリスト、諸星陽一氏のレポートです。
二部構成で日産が取り組む次世代技術を説明

2026年4月14日、日産自動車は横浜市のグローバル本社および厚木市の日産テクニカルセンターで、「長期ビジョン、将来の商品および技術などに関する説明会」を開催した。筆者は当初、国内メディア向けの説明会だと思っていたのだが、会場に着いてみると海外メディアの姿も目立つ。そこで初めて、これがグローバル発表会なのだとわかった。
前半はグローバル本社でビジョンの全体像を示す説明会、厚木のテクニカルセンターに場所を移した後半の「Nissan Future Tech Session」が、前半に示されたビジョンを実現するための具体的な技術を解説する内容(撮影などは禁止)だった。

イヴァン・エスピノーサCEO。
まずは前半、冒頭に登壇したイヴァン・エスピノーサCEOは、「日産は、移動を単なる手段ではなく、日常を豊かにする体験へと進化させることを目指しています。特に電動化を軸に、クルマは移動だけでなく電力供給や地域とのつながりを担う存在へと変わります」と提示。
さらに「クルマは孤立した存在ではなく、社会インフラの一部として、暮らしを支える存在になる。電動化と知能化の融合によって、環境変化や多様化するニーズに応えながら、人々の生活に寄り添う実用的な技術を提供し、毎日の暮らしに新たな価値と体験をもたらしていきます」(エスピノーサ氏)と、EVのバッテリーを再生可能エネルギー推進を支える調整力とする「EVエコシステム」を構築するビジョンを強調した。
AIDVで一般道も含めた自動運転実現を目指す

チーフテクノロジーオフィサーの赤石永一氏。
続いて登壇したのは、チーフテクノロジーオフィサーの赤石永一氏。テーマは「AIデファインドビークル(AIDV)」だ。赤石氏は、「AIはソフトウェアデファインドビークルを基盤に、状況を学習しリアルタイムに適応することで、人の意図や環境に自然に応える運転を可能にします。従来のルールベースからエンドツーエンドAIへ進化することで、クルマは周囲を理解し、熟練ドライバーのように走行し、高速道路にとどまらず都市部でも安全かつ快適な自動運転を実現します」と説明した。
そのうえで、「日産はEVを中心に据えつつ、独自のe-POWERを軸に多様な電動パワートレインを展開し、顧客ニーズに応じた選択肢を提供します。AIドライブとAIパートナーが連携することで、移動時間そのものの価値を高め、ロボタクシーやカーシェアリングといった新たなサービスを通じて、すべての人に自由な移動を提供していきます」と付け加えた。
新型「ジューク」は個性的なEVに進化

新型ジューク
その後、エスピノーサCEOが再登壇。新型「ジューク」と新型「エクストレイル」をアンベールした。これまでICEが主力だったジュークは、今回のフルモデルチェンジでピュアEVへと生まれ変わった。
EVとなった新型ジュークを前に、エスピノーサ氏は「ジュークEVのように、個性やデザイン性を保ちながら電動化を実現するモデルも登場しています。全体として、電動化は走行性能の向上だけでなく、エネルギー活用や新たな体験価値の創出にも貢献しています」とコメント。あわせて、日産独自の電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」や「V2X」の重要性にも触れ、電動化がもたらす多面的なメリットを強調した。
続いて登場したのは、グローバルでの事業と収益性向上を担うチーフパフォーマンスオフィサー、ギョーム・カルティエ氏である。

チーフパフォーマンスオフィサーのギョーム・カルティエ氏。
カルティエ氏は、「EV市場の変動に対して、市況や政策の動向に応じて、規律ある投資を維持しながら柔軟に対応していきます。特に中国市場については、新エネルギー車のラインアップを強化し、高度なEV・HEV技術を活用したグローバルなイノベーションおよび輸出の拠点と位置づけ、中国で磨かれた手頃な価格の電動車を他地域へ展開することで、世界規模での電動化加速を狙う」と語った。
最後にエスピノーサCEOが三度目の登壇。「他社とのパートナーシップを活用しながら、ブランドの独自性を維持しつつ、電動化や次世代商品の開発を加速しています。協業によりプラグインハイブリッド車の展開も進めています」と前半を締めくくった。
エンジニアのキーパーソンが具体的な技術を解説
説明会の後半は、厚木の日産テクニカルセンターへと場を移した。ここでは、ソフトウェアデファインドビークル開発本部執行職の吉澤隆氏、パワートレイン技術開発本部執行職の生浪島俊一氏が、より踏み込んだ技術解説を行った。
AI ディファインドビークル
まず、吉澤氏が今回提示された「AI ディファインドビークル(AIDV)」について説明。AIDVでは、SDV(ソフトウェアデファインドビークル)のプラットフォーム上に「AI-Drive技術(自動運転技術)」と、「AI-Partner技術(個々に合わせた空間や体験の提供)」を搭載する「新境地」の実現を目指すことであると説明された。
AI-Drive技術では、従来のルールベース自動運転からEnd to End AI技術に進化。次世代ProPILOTでは、日々の移動から週末のロングドライブまで、すべての運転シーンで「Door to Door」の運転支援を実現することを目指すとした。
現在のProPILOT2.0では高速道路などでのハンズオフドライブを実現しているが、次世代ProPILOTになると、一般道でも道路状況に応じて自動運転を可能にし、スマホのスケジュール管理システムのような機能も追加されるという。自分の家の前までクルマを呼んで目的地まで移動するドアトゥドアの移動が楽に叶う。公共交通機関に採用されるようになれば、非常に便利になるだろう。
ただ、人が求めるのは楽な移動だけではないので、パーソナルカーについては、欲しい人と不要な人が混在してしまうだろう。一斉にすべてのクルマが自動にならないと、自動運転の効果を100%引き出しづらいのが難点だと筆者は考える。
日産の電動化
日産の電動化技術については、生浪島俊一氏が解説。日産のパワートレインのなかでも重要な位置を占める「e-POWER」については、2016年の登場から10年を経て第3世代へと進化したことを紹介し、「e-POWERとEV、2本柱で共に進化することにより、電動化を推進」するビジョンが示された。
EVの進化〜全固体電池

全固体電池の試作生産ライン。
その後、EVの進化を目指すポイントとして、全固体電池についての説明が行われた。生浪島氏は全固体電池について、「従来の電解液を固体の粉末に置き換えることで、燃えにくい高い安全性と優れた耐熱性、そして液体のような劣化が起きない高い耐久性を実現します」と、まず基本部分を説明。その後、「日産はすでに実車サイズのセル開発に成功しており、従来のリチウムイオン電池の20倍を超える長寿命を確認している」と明示した。
具体的なタイムラインとして、「2028年度にはこの技術を世に問い、実際の街を走らせることでさらなる実証を進めていく」と説明した。ただし、2028年度の実証実験ではラボレベルの全固体電池を使用するため、かなりコスト高になるという。生浪島氏によれば、全固体電池の素材自体は安価なものの、その素材を使える材料にする段階でのコストが大きいとのことだ。また、電池内で固体電解質の厚みを均一に配置する難しさにも触れた。求められる均一さは「日産スタジアムのフィールドにゴルフボールを敷き詰めるようなレベル」だという。
全固体電池については言葉を選びながらの説明だった生浪島氏。それだけに実現に近づいているのだと筆者は感じた。筆者は「自動車用以外のモバイルバッテリーについても技術の転用ができ、多く普及していくのではないか?」と質問したのだが、その質問には明確な回答は得られず、「だんだん危ない話になっていくからやめた方がいい」という不可解な回答であった。技術情報に踏み込むことが「危ない」ということだろうか? この回答が何を意味するのか、いまだに解せないのだが、全固体電池実現にはまだ知られざるリスクが潜んでいるのかもしれない。
V2X〜EVエコシステムによる新しい価値
生浪島氏は最後に、EVを活用したエネルギーマネジメントである「EVエコシステム」の重要性にも言及した。日産は巨大な「動く蓄電池」であるEVを社会のエネルギーマネジメントに活用する取り組みを進めており、家庭でのエネルギーコスト削減や、社会全体の電力を調整するV2Gビジネスを推進するという。2027年にパイロットサービスを開始し、2030年以降には電力調整ビジネスでの収益化を目指すとしている。
現在のイラン情勢などをみていると、エネルギー備蓄の重要性が見えてくる。従来エネルギーの備蓄は石油やガス、石炭がメインであったが、今後EVを利用した方法が現実化していけば、より高い効率でエネルギーの備蓄が可能になることは明確。EVはモビリティというだけでなく、社会インフラの一部になっていくのだろう。
【編集部あとがき】
AIDVや全固体電池実装へのタイムラインなど、今回の発表内容は興味深い。EVシフトはエネルギーシフトであり、再生可能エネルギーによる電力活用とともに広がることに意義があるので、EVエコシステム創造への挑戦といった内容は個人的にも賛同したい。とはいえこうしたビジョンは、多くの人に手が届くプロダクトに実装されなければ評価のしようがないし、社会を変える力になり得ない。
諸星氏のレポートを記事化するにあたり一読した率直な感想は「それで……?」という疑問だった。日産は初代リーフでバッテリー再利用のプロジェクトを立ち上げたものの、期待された成果を挙げているとは言いがたい。まして、地域のエネルギー供給を変革する「EVエコシステム」を実現するには、より大きく確固としたビジョンとともに、魅力的なプロダクトとアクションが不可欠に違いない。
EVの新たな価値創造に向けたアクションでは、テスラやBYDが一歩先を行く印象だ。新型ジュークから始まる、日産のダイナミックなアクションに期待したい。(寄本)
取材・文/諸星 陽一






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