電気自動車で競う「EV-GP」の第2戦が行われ、王者のKIMI選手が開幕2連勝を果たしました。EVレースデビュー戦となった織戸茉彩選手は好ラップを記録して2位表彰台。赤旗中断によって周回数が減るなどして明暗が分かれたドラマチックなレースをレポートします。
IONIQ 5 Nの加藤選手が規定ギリギリの軽量化で優勝を狙う

モデルS PlaidのKIMI選手が3年連続総合優勝を狙っています。
EV-GP(EVグランプリ)は日本電気自動車レース協会(JEVRA)が主催するシリーズ戦で、今季は全6戦の予定。2026年4月26日(日)にモビリティリゾートもてぎ(栃木県茂木町)で第2戦「もてぎ55kmレース」が開催されました。
最高峰EV-1クラス(モーター出力400kW以上)に出場するテスラ モデルS PlaidのKIMI選手が、3年連続の総合優勝を目指しています。これに対して今季、ヒョンデ IONIQ 5 N 勢が包囲網を形成。第1戦で優勝したKIMI選手にコンマ4秒差まで迫った小峰猛彦選手は休場でしたが、柴田知輝選手、加藤正将選手、冨田賢吾選手は第2戦にもエントリー。さらに「HMJ(ヒョンデモビリティジャパン)モータースポーツアンバサダー」に就任したレーシングドライバーの織戸茉彩選手が初参戦して、ヒョンデvsテスラの戦いはますます白熱しそうです。

ピットで異彩を放っていたのが加藤選手のIONIQ 5 Nでした。第1戦でKIMI選手とトップ争いを繰り広げ、バッテリー過熱で6位に終わったもののホットな走りで観客を魅了した加藤選手は、タイヤとホイールを換装、ブレーキもグレードアップした上に、カーボン製の特製ボンネットで軽量化してきました。事務局によると「車検証に記載した重量の50kg減まで」という規定ギリギリだったそうで、本気ぶりがうかがえます。
「どこまで攻略できるかは未知数ですが、前回色々試せたので今回は結果重視でいきます。ペース配分をしっかりやって、チャンスがあれば優勝を狙いたいですね」(加藤選手)

IONIQ 5 Nの応援に駆け付けたヒョンデ車オーナーのみなさんが、加藤選手のスターティンググリッドで記念撮影。
織戸茉彩選手はコースもEVレースも初体験

ゴール直後、筆者のインタビューに答える織戸選手。
ピットで注目を集めていたもう1人がEV-GP初参戦の織戸選手でした。加藤選手と織戸選手はこの日に備えて袖ヶ浦フォレストレースウェイで一緒に練習走行もしたそうで、ガチレーサー2人が共同戦線という雰囲気です。
織戸選手は「コース(もてぎ)も初めて、EVでレースをするのも初めてなので、まずは慣れることからです」と話していましたが、決勝ではその言葉が謙遜だったことが……という話はのちほど。
午前中の予選でポールポジションを獲得したのは、今回もKIMI選手(2分5秒754)でした。これに加藤選手(2分8秒689)が続きます。3番手に食い込んだのはテスラ モデル3 パフォーマンス(EV-2クラス)で出場のモンドスミオ選手。以下、柴田選手、織戸選手、冨田選手の順で、予選上位はモンド選手以外は順当にEV-1クラスのマシンが占めました。
各クラスの出場選手もEVレース下剋上を狙う

モデル3のモンド選手が加藤選手のIONIQ 5 Nを追う予選の走り。
予選7~10位には、3台のモデル3とフルカスタムのHonda eが入りましたが、出力に差があるEV-2、EV-3、EV-P(プロトタイプ車両)のクラスが入れ乱れる結果に。各選手に聞いてみると、初めてのコースで戸惑ったり、決勝に向けての駆け引きがあったりしたようです。
EV-2クラス(モーター出力250kW以上400kW未満)は、第1戦と同じく西島真選手とモンド選手の2台が対決。
EV-3クラス(モーター出力150kW以上250kW未満)には、SAWA選手(モデル 3 RWD)が3戦ぶりにエントリーしました。「ブレーキのキャリパーやローターを交換して、ブレーキングに不安がなくなりました」とSAWA選手。
EV-3には今季から「MKproject」チームが同じモデル 3 RWDで参戦しています。今回のドライバーはカートレーサーの岩沢理久選手で、EV-Rクラスでも優勝経験がある実力者です。
決勝では、EV-2、EV-3ともに競り合いが期待できますし、パワーに勝るEV-1にどこまで迫れるかにも注目です。バッテリーマネジメントが勝敗を左右するEVレースではクラスを超えた「下剋上」も珍しくありません。
フルカスタムのHonda eがさらなる進化

EV-Pクラスで唯一のエントリーは、ホンダアクセスの社員有志による部活動チームとして参戦を続けているモデューロレーシングHonda e。約300kg軽量化されているフルカスタム車で、冷却効率の改善やブレーキの改良などを重ねていて、今回もまた進化を遂げていました。
新たにステアリングコラムに装着されたオリジナルメーターです。バッテリー、モーター、ATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)、IGBT(パワーモジュール)のそれぞれの温度を表示できて、バッテリーの残容量もコンマ1%台までわかるように。他にもアクセル開度に対する出力量など、レース中に知りたいデータがリアルタイムで読み取れるようになっています。

予選を終えた黒石田利文監督によると、早速装着した効果があったのだとか。「バッテリー温度よりもモーター温度が先にリミットに達してパワーダウンすることがわかりました。なので次戦までにモーターを冷やすためのラジエーターを増設することにしました」

ドライバーを務める安井亮平選手は、2024年第3戦で総合3位に入って表彰台もゲットしています。ハイスピードコースの今回は高出力のマシン相手に苦戦が予想されますが、チャレンジはしっかり継続中。ホンダEVユーザーとしては、サーキットから市販車へのフィードバックも期待しています。
このほか、EV-R(レンジエクステンダー)クラスに日産e-Powerの4台がエントリーしました。
ところで、予選と決勝の間には出場車両の充電タイムが設けられていて、トラブルなどがない限り、のんびりとした時間を過ごすチームや選手が多いのですが、忙しかったのが加藤選手。EV-GP予選後に別のマシン(エンジン車)で「もてぎチャンピオンカップレース」にゲスト参戦していました。見事に2位でゴール。1日2回の表彰台ゲットも……と期待させてくれます。
決勝序盤はKIMI選手と加藤選手が白熱バトル

迎えた午後の決勝レース。ホールショットは順当にKIMI選手が奪いました。続いたのが加藤選手。2台が序盤から他を圧倒するスピードで周回を重ねます。トップを譲らないKIMI選手と、プレッシャーをかけ続ける加藤選手。テールトゥーノーズの争いは第1戦の再現のようで、後続との距離が広がっていきます(冒頭写真は決勝スタート直後の様子)。
コースサイドからは、かなり白熱していたように思えたのですが、あとで聞くとこの時、加藤選手は「めっちゃセーブしてました。バトルに見えたかもしれませんが、ペース配分はしっかりできていました」。KIMI選手も「相手に合わせてアジャスト(調整)していた感じですね」。つまり、速かったけれど無理はしていなかったというトップ2台でしたが……。

異変が起きたのは5周目。加藤選手のIONIQ 5 Nが突然失速します。過熱によるパワーダウンなどではなかったそうです。「駆動系のトラブルだと思います。急に動力が無くなってしまった。調べてみないと原因はわからないです」(加藤選手)。惰性でしばらく走行したもののピットにも戻れず、S字コーナーのコース脇でストップ。このため、赤旗が掲示されてレースが中断しました。
約20分の中断がレースの明暗を分ける

再スタート後、KIMI選手を追う織戸選手。
全車両がいったん停止して待機。加藤選手のマシンが回収されるのを待って、4周のレースとして再スタートすることになりました。リスタートのグリッド順(=中断直前の順位)は、KIMI選手、モンド選手、織戸選手、柴田選手の並びだったのですが、約20分にわたってレースがストップしたことが、明暗を分けました。
KIMI選手は、再びスタートダッシュを決めて、危なげない走りで優勝。結局、レースを通じて一度もトップを譲らずにポールトゥーフィニッシュ。これに続いたのがIONIQ 5 Nの2台でした。快走を見せたのが織戸選手。最終周で2分16秒177をマークするなどタイムを上げて、初出場で2位に入りました。

写真左から、織戸選手、KIMI選手、柴田選手。
「スタート直後は慣れるのに精一杯で、とにかくついていこうという気持ちでした。前半はマネジメントを意識しましたが、リスタート後の4周は全開でいけました。デビュー戦としては最高の結果です」とレースを振り返った織戸選手。次戦以降の活躍も期待できそうです。
3位に入ったのは柴田選手。総合で初の表彰台をゲットしました。「やっとクラス(EV-1)に見合った順位が取れました」と満面の笑み。「レース中断で色々変わりましたね」と解説してくれました。
IONIQ 5 Nはバッテリー温度が51℃になると出力制限が顕著になるそうです。赤旗の時点で45℃まで上昇していましたが、再開を待つ間に36℃まで下がったのだとか。そこで残り4周は出力制限のあるエンデュランスモードから、パワー全開のスプリントモードに切り替えたそうです。「フィニッシュ時でバッテリー温度が51℃、残量も20%で、まだ余裕がありました」(柴田選手)。
一方、モンド選手のテスラ モデル3 パフォーマンスはなかなかバッテリー温度が下がらなかったことに加えて、ハイペース走行による温度上昇が激しかったとのこと。「再開直後の1周で20℃近く上がってしまって、あきらめました。2周なら勝負できたかもしれませんが、4周は無理でしたね。IONIQ 5 Nとの特性の違いなので仕方ないです」。
赤旗なしで持久戦になっていれば、あるいは中断がもっと終盤だったら……勝負にタラレバは禁物とはいうものの、いろいろ想像させられました。こういう綾も含めてレースの面白さです。
幅広いEVオーナーの出場を応援したい

IONIQ 5 Nを購入したことをきっかけに参戦を決めた冨田選手。
最後に、冨田選手(予選6位、決勝9位)のことを記しておきます。昨季最終戦でデビューしてこれが3戦目。「HMCJ(ヒョンデモータークラブジャパン) IONIQ 5 N」という車名でエントリーしています。ヒョンデ車のオーナーズクラブを冠したのには、理由があります。
「EV-GPに出場したいというヒョンデオーナーを、HMCJとしてサポートできたらいいな、と思っています。金銭的な援助は難しくても、荷物を預かってもらえるだけでもありがたいんですよ。どんどん参加者が増えて、レースごとにオフ会のようになったら楽しいですよね」
冨田選手自身が、同じIONIQ 5 Nに乗る小峰選手の応援でサーキットに通ううちに出たくなってレースデビューしたという経緯もあって、言葉に実感がこもっています。

冨田選手(右から2番目)と、サポートに駆け付けたHMCJのみなさん。
この日のもてぎにも、HMCJのメンバーが駆けつけて、出場するヒョンデ車をみんなで応援。V2Lを活用してシュークリームパーティーも開いていました。テスラを駆るKIMI選手やSAWA選手、モンド選手のピットにも、いつものようにTOCJ(テスラオーナーズクラブジャパン)のメンバーが続々と顔を見せていました。EV-GPのパドックは、EV仲間の交流スポットです。
どんどん裾野が広がって、今季はまだエントリーのないEV-4クラス(モーター出力150kW未満)などにも、挑戦する人が増えることを期待しています。
第3戦は6月20日(土)に岡山国際サーキットで開催予定。詳細なリザルトや日程、競技規則、エントリー方法などは、日本電気自動車レース協会(JEVRA)の公式サイトに掲載されています。
取材・文/篠原 知存






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