ベルリンでヨーロッパのEV事情を体感【01】IONITYなどの急速充電インフラは?

ドイツのベルリンへ取材に行くチャンスに恵まれて、フリーな1日ができたので市内を探訪、ヨーロッパのEV事情を見てきました。まずは、ベルリン近郊の急速充電スポットをUberで巡ってみたレポートです。高出力&複数台設置は当たり前の状況を実感できました。

ベルリンでヨーロッパのEV事情を体感【01】IONITYなどの急速充電インフラは?

3つの急速充電スポットをUberで巡回視察

ドイツのベルリン取材へ行ってきました。ベルリン郊外には、テスラのギガファクトリーがあります。丸一日フリーな時間ができたので、同行したEVネイティブさんと一緒にベルリン近郊の急速充電スポットを探訪しつつ、ギガファクトリーベルリンを訪ねてみました。

巡ったスポットはこんな感じです。ベルリン市街の宿泊したホテルから、テスラスーパーチャージャーとファストネッドというネットワークの充電スポットがあるヴァンデルヴァルクホテル駐車場まで約29km。そこからギガファクトリーへ向かう高速道路で5kmほど先の休憩所(日本のサービスエリアみたいな施設)内に、欧州最大のネットワークであるIONITY(アイオニティ)の充電スポットが設置されています。

市街からギガファクトリーへ直接向かえば高速道路で40kmほどですが、2カ所(3つのネットワーク)の急速充電スポットを経由することで、約60kmの行程です。EVのレンタカーを借りて実際に充電を試してみたいところではあったのですが、今回、ドイツ行きが決まったのがわりと突然&急なことで、私もEVネイティブさんも国際免許を取得しておらず。また、自分で運転して何かトラブルがあると面倒なのでUberを利用しました。

テスラスーパーチャージャーは20基がズラリ

最初に訪れたのは、ヴァンデルヴァルクホテル駐車場のテスラスーパーチャージャー(SC)です。設置されていたのは、なんと20基。私は見ただけでバージョンが判別できるほどのテスラ通ではないですが、手前の8基は最高出力120kWのV2、奥に新設中の12基はおそらく最高出力250kWのV3だと思います。

日本のSCはおおむね1カ所に4基程度で、一度モデル3で充電したことがある鳴門SCなどの8基が最高です。数十基のチャージャーが並んでいるアメリカなどの写真を見ることはありますが、実物はやはり圧巻です。手前の既設チャージャーには初期のモデルSなどに対応した「タイプ2」と、最近のモデルが採用している欧州統一規格の「CCS2」の充電ケーブルをダブルで装備していて、奥側の新設器はCCS2のみという仕様になっていました。

テスラが欧州でCCS2規格の充電口にしているのは「欧州で販売するEVはCCS2充電に対応するべし」というEU議会が定めた規則に対応したものです。テスラ車は日本でも輸入車としていち早くチャデモ対応のアダプターを導入しました。以前、関係者に聞いた話では、最初のモデルS日本発売に際して、イーロン・マスク氏本人がチャデモ協議会を訪ねて「チャデモ用のアダプター作るからよろしく」といった挨拶があったそうです。まだまだ発展途上でEV充電事情が変化する中、テスラの対応の早さと的確さを象徴するエピソードです。

テスラが他社EVへのスーパーチャージャー開放~』という記事でお伝えしたように、テスラは欧州(オランダ、ノルウェー、フランスなどエリアはまだ限定的)でCCS2で充電できる他社製EVもSCを開放する施策を試験的に始めています。また、アメリカでも先ほどバイデン政権が「充電規格を統一すべし」という方針を発表したのを受けて、自社のSCやデスティネーションチャージャーを開放する計画を示して(と書いてたら、昨日、マジックドックと名付けたCCS1用アダプターで他社EVが使えるSCが開放されました。動きが速い!)います。

欧州のテスラSCネットワーク。右よりの矢印で示したとこえろが今回利用したベルリン郊外のSC。

テスラSCは世界最大といえる急速充電ネットワークですから、北米のCCS1や欧州のCCS2のEVがテスラSCを利用できるようになる流れは、チャデモで孤立している日本の状況から見るとうらやましい限りです。「チャデモ→テスラ」のアダプターはあるのだから、「テスラ→チャデモ」のアダプターがあれば(&テスラがSCを開放してくれれば)ぜひ購入して利用したいと思いますが、今の日本でテスラがSCを他社EVに開放する必然性はないでしょう。

ファストネッドの複数口器でチャデモの危機を実感

20基のテスラSCが並んでいるのと同じホテルの駐車場には、FASTNED(ファストネッド)というネットワークの急速充電スポットもありました。設置されている2基の充電器は両方ともマルチケーブルで、それぞれ2台ずつ、合計4台のEVが同時充電ができるようになっていました。

左側の充電器には、チャデモ規格のケーブルもありました。とはいえ、CCS2対応の4本のケーブルはすべて最大300kWという超高出力対応であるのに対して、チャデモは最大50kWと非力です。

欧州でチャデモ規格の急速充電を使うのは、日産リーフや三菱アウトランダーPHEVなど、早い時期に発売された日本メーカーのプラグイン車だけなので、50kWで十分なのですが。『米国大手充電ネットワークが「CHAdeMO」を段階的に廃止~』という記事で紹介したように、欧米ではすでにチャデモは過去の規格になりつつあります。この記事中でも触れているように、日産アリアですら海外ではCCS規格対応になっているのですから、欧州やアメリカでのチャデモの衰退はやむを得ないことだと思います。

ファストネッドはオランダの会社なので、充電スポットの配置もオランダが中心です。今回訪れたスポットにあるのは柱だけでしたが、本来、太陽光発電パネルの屋根を設置して見た目もポリシーも魅力的な、そして150kW以上を中心とした高出力の充電スポットを展開しています。

ソーラー発電のキャノピーはこんな感じ(公式サイトより引用)。

アウトバーンの休憩所にはIONITYの急速充電器

テスラSCとファストネッドのQCは、アウトバーン(ドイツの高速道路)の南北と東西に延びる路線が交わるポイントにありました。そこから、ギガファクトリーを目指してアウトバーンを5kmほど東へ走ったサービスエリア(ドイツでは Raststätte = 休憩所 と呼ぶそうです)には、欧州の代表的な充電ネットワークであるIONITY(アイオニティ)の急速充電スポットがありました。

並んでいたのは4基の急速充電器。充電器本体や画面に最大出力は表示されていませんでしたが、アプリで確認すると4基とも最大350kWの「IONITY HPC」です。利用料金は「0.79ユーロ(約110円)/kWh」の従量制。少し高め? な印象ですが、2022年12月にアウディが発表したリリースを見ると、各メーカーの充電プランによって違いがあるようです。

「idle fees」として充電終了後放置へのペナルティ課金の仕組みもありますね。basic プランなら月額無料だけど350kWのHPC(High Power Charger の略だと思います)利用は定価の0.79ユーロ。月額14.99ユーロ(約2000円)の pro プランなら、0.35ユーロ(約50円)/kWhでHPCが使えるので、月に48kWh以上の急速充電を行う場合は basicプランよりもお得になる、と説明されています。

私たちが訪れた時に充電していたアウディe-tronがちょうど充電を切り上げるところだったようで、オーナーさんがクルマから降りてきてe-tron Charging カードを充電器にかざしているところにも遭遇しました。

アウディをはじめとするフォルクスワーゲングループのEVは、CCS充電のプラグ&チャージ(PnC=充電ケーブルを繋ぐだけでカードやアプリを使わずに充電できるシステム)が利用できるようになったはず(アウディのニュースリリース)ですが、遭遇したe-tronオーナーの方はカードを使っていました。英語力がリトルビットの私は理由を尋ねることができなかったので、欧州のQC事情に詳しい方がいらしたら、コメントで想定できる事情を教えていただけるとうれしいです。

IONITYのネットワークはこんな感じです。他社EVへの開放も進むテスラのSC、ファストネッドと合わせると、欧州全域に150kWは当然の高出力な急速充電ネットワークが分厚く網羅されていることが実感できます。

日本では、先日新東名浜松SAなどでの最大150kW新型充電器運用開始のニュースをお伝えしたように、e-Mobility Powerが高速道路SAPAに150kW器や90kW器の増設を進めていたり、新興のパワーエックスが高出力急速充電ネットワークの構築を表明してはいるものの……。90~150kW以上の高出力急速充電ネットワークが欧州並みに整うまでには、まだしばらく時間がかかりそうです。

ほんの1日、ベルリン近郊の3カ所を巡っただけで、日本の充電インフラ整備の未成熟さを実感できる取材となったのでした。

ギガファクトリーは、圧巻でした

ベルリンの郊外、忽然と姿を現したギガファクトリーの風景は圧巻でした。昨年3月に稼働を始めてちょうど1年ほどで、12月には週3000台の目標を達成したとの報道がありました。ゆくゆくは年間50万台の生産やバッテリーセルの工場も建設されるということで、現地はまだまだ「工事中」の気配満点。アポなしだし、工場内に入ることはできませんでしたが、社屋に描かれたアートなど、テスラのファクトリーという雰囲気を体感することができました。今後は、工場見学ツアーを実施する計画もあるそうで。私が再訪するのは難しいでしょうが、楽しみです。願わくば、日本にもギガファクトリー作ってくれないかなと夢見たりして。

従業員駐車場にテスラ車(を含めて電気自動車)は以外と少ない印象でした。でも、ベルリン市街へ戻るために最寄り駅までUberで送ってもらう途中、広大な駐車場の一角(最初に入ったところからは見えない位置)に普通充電器が並んだ区画があって、テスラ車はそっちにズラリと並んでました。

というわけで、ギガファクトリーからベルリン市街には鉄道で戻ろうと思っていたものの。Uberで辿り着いた最寄りの駅は無人駅。乗り方がわからず、私もEVネイティブさんも前夜遅くにホテルに到着したばかりでユーロのキャッシュをまったく所持していなかったので、予定を変更してそのままUberで市内まで(約40km)戻ることになったのでした。

結局、全行程で100kmほどのUber行脚。それなりにお金は掛かってしまいましたが、いろんなことを自分の目で見るのと見たことないでは大違い。有意義な取材をすることができたのでした。

せっかくのベルリン取材。次回は、市内を巡ったレポートをお届けする予定です。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 海外でCHAdeMOの充電器が増えないのは、CHAdeMO規格のEVが売れていない、ということに尽きるのではないでしょうか?
    欧州の一般ユーザーは、急速充電の規格などあまり気にしていないように感じます。
    魅力的な車が、もしCHAdeMOだったとしたら、普通に購入するはずです。
    車が増えれば、必然的に対応する充電器も増えます。
    多くの方の認識が間違っていると感じていますが、車の普及が先で充電器が後です。

  2. 本当に日本のチャデモはどうするつもりなんでしょうか。意地で続けられると迷惑するのはユーザーです。チャデモ車は特殊規格と言うことでCCS搭載車より最初から20万高いそうです。ATTO3が日本だけ高価格なのもそのせいです。リセールも輸出が出来ずに国内流通のみになってしまってどうしようもない。ニッサンの輸出EVはすでにチャデモは廃止しました。チャオジは進んでいないし、プラグイン認証に対応出来ないため、どうも中国もCCSに合流する気配があります。昔、日本の鉄道はガラパゴス連結器を一斉交換しました。1日で終わらせるために準備万端で済ませたそうです。まだBEVが少ないうちに世界規格に変更すべきです。ほんとに日本のガラパゴス規格は国家衰退の癌細胞になっています。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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