中古EVは宝くじ? 「アビロー」のバッテリー診断システムによるSOH評価の大切さとは?

『ジャパンEVラリー白馬2024』では、電気自動車関連の企業や参加者によるブースにも関心が集まりました。今回、EVsmartブログが注目したのは、バッテリーの健全性(SOHを含む)を評価するサービスです。オーストリア発の「AVILOO」。日本では「オズモーターズ」が測定サービスを始めます。

中古EVは宝くじ? 「アビロー」のバッテリー診断システムによるSOH評価の真価とは?

わずか数分でバッテリーの健全性を評価

好天に恵まれた『ジャパンEVラリー白馬2024』では、ホンダの新しい燃料電池車(FCEV)の『CR-V e:FCEV』の展示や、BYDによる「東福寺社長と話そう!」コーナーなど、参加者にとって貴重なチャンスとなる出展が人気を集めました。

そんな中、EVsmartブログの著者陣のひとりとして「おぉ!」と思ったのが、バッテリーの健全性、健康状態を評価するサービスです。

評価技術を開発したのは、2017年に設立されたオーストリアのスタートアップ企業「AVILOO(アビロー)」です。日本では、リーフのバッテリー増量交換やEVへのコンバート事業などを手掛ける「OZ Motors (オズモーターズ)」が、いち早く「フラッシュテスト」というサービスを提供します。

※冒頭写真、出展ブースの右側に立っているのがオズモーターズの古川さん。左側の男性がアビローのサービスを日本で広げようとしている山崎岩男さん。

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フラッシュテストの方法は簡単です。片手に収まるサイズのアビローの測定器を、車のOBD2コネクターにつなぎます。数分(アビロー公式サイトの説明によればおよそ3分)、待ちます。

これで完了です。車を動かす必要も、電源を入れる必要もありません。

結果は100点を満点として数字で示されます。またバッテリーパックの総電圧や、バッテリーが本来持っていた満充電容量に対する現状(劣化時)の充電可能容量(SOH=States Of Health)なども確認できます。

白馬EVラリーの会場では、プジョー『e-208』で来場した参加者が実際に測定をしてもらっていたので、見学させていただきました。実はアビローのサービスは、この日が日本での初披露でした。

評価結果は94点。この数字であれば問題ないそうです。走行距離は約1万5000kmでした。

ちなみにSOHは92.94%でしたが、SOHは新車状態でも100%ではなかったり、あるいは100%を超えていたりすることもあるそうです。バッテリー電圧は使用状況や周辺環境によって上下しますが、メーカーが、どういう状態を基準にしているのかわからないからです。これでは数字単体での評価は困難です。

それでも、アビローのサービスを提供するオズモーターズの古川さんによると、数多くの日産リーフのバッテリーを見てきた経験から、「90%以上であれば、100と見ていいかなと思う」ということでした。

基準がないため比べようがないSOH

ところで、SOHを端的に説明すると「新品のバッテリーの満充電容量と比較して、現状の容量や充放電能力などがどうなっているかを示す」数値です。

例えばアップルのiPhoneで、「設定」→「バッテリー」→「バッテリーの状態と充電」→「最大容量」で確認できる数値は、SOHの指標のひとつです。リーフならセグ表示がSOHの目安と考えていいでしょう。

問題なのは、SOHの定義が「ない」ことです。

前述したように、バッテリーは周辺温度やバッテリー自体の温度、使用状況などで電圧が変動するため、見た目の満充電容量が変動します。そのためSOHを出すのであれば、本来は、なにをもってSOH100%とするのかという定義を定める必要があるのですが、今のところ汎用性のある市販EVの評価基準や定義は、ありません。

日本だけでなく、世界の自動車業界でも基準は定まっていません。もしかすると基準の作りようがないかもしれません。

これでは、どんな状態のバッテリーが良好と言えるのか、メーカーによって、あるいは測定者によって違ってしまうので、EV用バッテリーのSOHそのものが意味をなさない、とさえ言えそうです。

「カオス」の中古EV市場

こうした現状について、オズモーターズの古川さんは、「カオス」と表現しました。

「私はリーフのバッテリーアップグレードや中古車販売もしていますが、オークションでは、今はカオスです。業界標準がないんですから。もう(くじ引きのような)当たり外れしかない。我々のようにEVの知見がある人なら少しは選べますが、普通の業者さんが仕入れようとしても、まったくわからないまま選ぶしかない。例えば(オークション会場での)評価点が5点中4点とか、ABC評価でBだとしても、SOHは50%とかの車もあるんです。内装、外装の評価しかしていないから、バッテリーの状態や健全性は中古EVの評価にまったく影響がないんです」

EVの価値を決めるはずのバッテリー状態が、リセールバリューにまったく影響しない現状であるというのは驚きです。ガソリン車ならエンジンの状態を評価項目から外しているようなものです。無茶苦茶です。

EVはリセールバリューが低くなりがちで、だから新車市場も広がらないという話はよく聞きますが、これではリセールバリュー以前の問題です。宝くじのような商品が店頭に並ぶのは、まともな市場とは言えません。

そうした現状を踏まえ、古川さんは、「中古車の評価がわからなければEVの価値が出にくい。(現状を変えるためには)アビローのような第三者機関によるサービスを広げていくのが大事だと考えている」と強調しました。

第三者による評価が重要

ここで大事なポイントは、アビローのツールによるバッテリーの健全性評価が、個別の自動車メーカーによる内部的なものではなく、メーカーを横断する「第三者機関」による評価であることです。

業界標準が定まっていない中では、各メーカーがバラバラに健全性評価をしてもあまり意味がありません。一方でアビローは、どの国のどのメーカーのEVに対しても、一定の評価手法、アルゴリズムでデータを分析しています。

白馬EVラリーの会場に来場していた、アビローのフラッシュテストを日本で広げるためのアシストをしているという山崎岩男さんによれば、アビローは2019年に欧州でサービスの提供を開始し、正確な数字は公表されていませんが、これまでに数万台のEVを評価してきたそうです。

フラッシュテストなどアビローの評価では、OBD2から吸い上げたデータをクラウドに上げて、独自の手法で解析します。そうしたアビローのサービスの意義について、山崎さんはこう話しました。

「(アビローは)固定されたパラメーター、アルゴリズムで評価しているので、自動車メーカーが違っていても定量的に、横並びで評価ができます。SOHはメーカーによって表示がバラバラなので、(アビローの評価手法で)横串を刺して数字を出してあげるというのは非常にわかりやすいし、(EVユーザーの)皆さんにプラスになると思います」

メーカーごとに考え方が違うSOHではなく、集めたデータを一定の評価手法で解析し、その結果を集積して統計的に評価できれば、評価軸を確立することができます。ビッグデータは、数が集まるほど精度が高くなっていきます。

山崎さんは、「すでにそういう蓄積はできて、診断していくというフェーズになっている」と話しました。そして、「バッテリーの性能はEVの価格を大きく上下するので、数字で表現することで安心した取引が可能になるというのは大きなメリットだと思います」と付け加えました。

なおフラッシュテストでは、セル、モジュールおよびパッケージ単位の電圧や温度、電流、急速充電と普通充電の回数など、車のネットワーク上に流れている基本情報は全部といっていいほど取得しているそうです。

またセル単位で見ているので、どこかのセルに異常があればわかるそうです。その場合はチェック欄にビックリマークがついて、評価結果の点数が出なくなるそうです。

山崎さんは、「経時変化でバッテリーが劣化するのは当然のこと。評価点数で一喜一憂するのではなく、チェック欄にバツがついていないのは正常ということですよと。そのことがわかるのが重要だと思っています」という考え方を示してくれました。確かにセル異常の有無がわかるのは大きいです。

また山崎さんによれば、欧州ではアビローの評価結果に対する認識が広がっていて、スウェーデンの中古EVサイトなどではアビローのテストリポートを在庫車の写真と一緒に並べているところもあるそうです。走行距離や車体の状態とともに、バッテリー状態のリポートがあるのは心強いですね。

バッテリーのSOH特定の標準化をするのはものすごく大変かもしれません。でもアビローのような第三者機関がビッグデータを解析していけば、統計的な中心点が見つかるはずです。同様のサービスは、EVが広がる中で増えていきそうですし、数が増えることでデータの信頼性も高まります。

ということは、アビローのフラッシュテストを依頼するユーザーは、EV市場の確立に貢献しているのかもしれません。なにより、日本でも中古EV業界で「バッテリーの評価結果を確かめるのが当たり前」という認識が広がることが重要ではないかと感じます。

兎にも角にも、カオス状態の中古EV市場をなんとかしないと、新車も売れにくくなるのは間違いありません。EV普及に向けて、フラッシュテストは重要な役目を果たしそうです。

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取材・文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)1件

  1. こんにちは。九州福岡からです。

    「日本だけでなく、・・・もしかすると基準の作りようがないかもしれません。」
    →そうではないでしょうか。

    「確かにセル異常の有無がわかるのは大きいです。」
    →大切な事だと。

    市販BEVでは、ミニキャブミーブ(10.kWh)を利用しています。
    →2012(H24)年12月14日新規登録、今年で12年目の車両です。

    先日、バッテリー残容量測定の件で、ディラー(三菱自動車)に電話して聞いてみたのですが、今一、ぱっとしませんでした。
    →「ただ残量を測定するだけですので・・・」、と言われました。

    話を聞いて、ただ容量残だけを知るために、車両を預けるのもなぁ、と思いました。
    →それなら、自分でやれないかな、と。

    それで、「ハイブリッドモニター」という製品を取り寄せ、軽EV「Van」(10.5kWh)のSOH=バッテリー残容量の測定をしました(^_^)v
    →結果は、添付画像の通り、97%でした。(残、10.185kWh)

    免許自主返納迄、この車両と付き合っていくつもりです。

    もう遠出をする事もないので、大丈夫かな、と!(^^)!(あくまでも私見ですが。)

    それでは失礼します☆

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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